『婦人公論』2019年7月23日発売

知らないと損する!?

40年ぶりの民法改正による

相続のメリット・デメリット

昨年7月[綾子1] 、相続に関する民法(相続法)が改正されました。夫に先立たれた妻や、親族を介護した人に関する新しい制度など、気になるポイントについて専門家に解説してもらいます

構成◎山田真理 

イラスト◎花くまゆうさく

アドバイス 

一橋香織 相続診断士

ひとつばし かおり ファイナンシャル・プランナー。全国相続診断士会会長。「笑顔相続コンサルティング株式会社」代表取締役。著書に『家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい』『終活・相続の便利帳』などがある

「もめない相続」のために

知っておきたいこと

 今回のような大幅な民法改正は、1980年以来、約40年ぶりのことです。この間に、少子高齢化が進み、旧来の家族のあり方や、家族に対する考え方も変わってきました。このような社会情勢の変化に対応し、改正の項目は多岐にわたります。なかでも注目されているのが、配偶者が亡くなって残された妻(夫)の生活に配慮した制度が新たに設けられている点です。ほかにも、被相続人の介護を行った相続権のない親族(長男の妻など)が、[綾子2] 見返りを得られる制度や、亡くなった人の口座から葬儀代など使うためのまとまったお金を仮払いできる制度、自筆証書遺言が作りやすくなる制度などがこの7月から施行されます。

 改正によって不便が解消され、弱い立場の人が法的に守られるのは大きなメリットです。しかし、相続診断士として3000件以上の相続に関わってきた私から見ると、今回改正された制度は、使い方によってはデメリットも多いように思います。特に私は「もめない相続」をモットーに活動してきたため、「この制度を使ったら、かえって相続人同士がもめるケースが増えるのでは」と心配しているのです。 

 たとえば、あらたに創設された「配偶者居住権」[綾子3] [税理士法人 HOP4] は、被相続人の持ち家だった自宅に、配偶者が一定期間あるいは終身にわたって住み続ける権利です。しかしこの制度を利用しなくても、両親が住んでいた実家に「お母さんがそのまま住めばいい」と考える子どもは多いのではないでしょうか。むしろ制度を利用することで、子どもに負担がかかり[綾子5] 、親子関係がギスギスしてしまうかもしれません。そのほかの制度も使い方によっては深刻なトラブルを引き起こす恐れがあります。 

 司法統計によると、2017年に家庭裁判所に持ち込まれた「遺産分割調停事件」の数は1万4044件。これは調停が必要だったケースですから、調停にいたらない小さなトラブルの件数は、はるかに多いでしょう。私の経験では、相続について正しい知識がなく、準備をしていない家庭ほどトラブルを抱えやすいように感じます。

次ページから、今回の改正により相続にどのような変化があるか、また制度のメリットとデメリットについて解説します。

●夫と死別した妻の住まいは?

→「配偶者居住権」の相続、

「自宅の生前贈与」で備える

住み慣れた家で

死ぬまで暮らすには 

 夫が亡くなり、妻と子に相続が発生すると、妻は法定相続分として財産の2分の1を、子どもは残りの2分の1を人数に応じて受け継ぐことができます。しかし主な財産が妻の現在住んでいる自宅で、現金が少ない場合はやっかいです。「家を現金化して分けよう」と、子どもが母親に自宅の売却を迫ることが考えられます。あるいは、家は妻が相続したものの、手元に現金が残らずに生活が困窮してしまうというケースもありました。 

 こうした事態を是正しようと考えられたのが、「配偶者居住権」。これは、亡くなった被相続人(夫)の持ち家に住んでいた配偶者(妻)が、終身あるいは一定期間、その家に住むことができる権利です。持ち家についての権利を「配偶者居住権」と「(居住権のない)負担付き所有権」に分けて、遺産分割のときに妻が前者を、子どもなどほかの相続人が後者を取得できるようになります。(2020年4月1日に[綾子6] 施行予定)

なお、「配偶者居住権」を持てば自宅に住み続けられますが、自由に売却したり賃貸に出したりすることはできません。そのぶん評価額は低く抑えられ、妻は相続のときに預貯金などほかの財産をより多く取得できるという仕組みです。

 この制度ができた背景として、離婚や再婚が増えて「血縁関係のない親子」が関係する相続が今後増加するといった事情もあるでしょう。たとえば図1のように、亡くなった夫は再婚で、後妻と先妻の子どもたちとで財産を分ける場合。お互いの関係が良好ならばいいのですが、後妻が今後の生活に困る遺産分割になりそうな場合、配偶者居住権を取得するのは有効な手段になると思われます。

 このように妻の側にはメリットのある配偶者居住権ですが、子どもの側には負担が大きいというデメリットがあることもぜひ覚えておいてください。

 第一に、子どもが相続できる財産が少なくなってしまうこと[綾子7] 。母親に多く現金が渡ることで子どもの取り分は減りますし、所有権があるといっても母親が亡くなるまでは(配偶者居住権の期間を10年、20年などに定めることも可能ですが)売ったり貸したりして現金化することもできません。第二に、相続税だけでなく、毎年の固定資産税も所有権を持つ子どもの負担になります。

自宅を配偶者に残す

もう一つの方法

 さらに、残された配偶者の生活に配慮した改正として、今年7月以降、「結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に贈与された自宅は遺産分割協議の対象から外れる」ことになりました。

 これまでは、亡くなった被相続人から生前に贈与された場合でも、相続するはずの財産を先に受けとったとみなされて、遺産分割のときに財産の総額にその分を加えていました。そのため、自宅はあっても、手元に現金が残らず生活が不安定になる恐れがあったのです。

 今回の改正によって、自宅を夫から生前贈与された場合、妻は結果的により多くの相続財産を得て生活を安定させられるようになります。

 ただこの制度も、不動産の評価額が高くて現金が少ない場合には子どもの取り分が大きく減ったり、資産が大きい場合には子どもが払う相続税が増えてしまう可能性もあります。制度の利用を考える時は、夫婦だけでなく、子どもたちも交えて話し合う必要があるでしょう。

※図入る 別紙ご参照ください

夫の親を介護した妻の取り分は?

→「特別寄与料」の請求が可能に

妻の献身に報いる。

ただしもめるのは覚悟で

介護は、相続の時にもめる原因になります。故人と離れて住んでいたため、ほとんど連絡も取っていなかった人もいれば、同居して献身的に介護をした人もいるからです。

これまでも、報酬をえずに故人の介護や看病をした人は、寄与分として「相続財産を多く受け取りたい」と主張することができました。しかし、寄与分を請求できるのは法定相続人だけで、たとえば夫の親の介護をした妻にはその権利がなかった。相続人である夫が「妻が介護していたことを相続で考慮してほしい」とほかの相続人に主張しない限り、夫の相続分が増えることもなかったのです。

 それが今回の改正で、相続人ではない親族(息子の妻・孫・きょうだいの妻など)も、寄与料の請求ができるようになりました。

 とはいえ、妻本人が「私にも介護の見返りを」と主張するのは、難しいのではないでしょうか。寄与料が認められるには相続人全員の同意が必要ですし、金額も話し合って決めなければなりません。もし当事者同士でまとまらなければ、家庭裁判所で調停・審判を申し立てることになります。

 そうして苦労して請求したとしても、寄与分として受け取れるのは多くて200万円程度です。[綾子8] 話し合いの過程で、いままで仲の良かった親族や、もしかしたら夫との関係もぎくしゃくしてしまうかもしれません。「相続が終わったら離婚する」「こんな親族とは縁を切る」という覚悟があるなら、トライしてもいいのでは。

 それよりも、私がおすすめしているのが生命保険の活用です。自分が介護を受ける立場であれば、介護をしてくれる人を生命保険の受取人にすることで、まとまった金額を確実に残すことができます。また今回の改正でも、内縁や事実婚、同性婚など法的な婚姻関係のない人は寄与料の請求ができないため、そうした相手に財産の一部を残したい時も、生命保険が役に立つでしょう。

●親の葬儀代が用意できない

→預貯金の「仮払い制度」を利用

遺産分割の前でも

仮払いが受けられる

 遺産は、被相続人が亡くなった時点で相続人全員の共有となります。相続人の誰かが勝手に預貯金を引き出したり、口座の名義を変更したりするのを防ぐため、金融機関は原則的に、[税理士法人 HOP9] 預貯金の名義人の死亡を知った時点で「口座の凍結」を行います。

 しかし葬儀費用や入院費の支払いなど、人が亡くなると大金が動くもの。それを特定の人が立て替えたり分担したりすると、「自分は○万円出した。そのぶん遺産を多くして」「私も▲万円出した」などと、相続時にもめることにもなりかねません。

 今回の改正[綾子10] では、遺産分割が終わる前でも直接金融機関から預貯金のうち一定額を引き出すことができる「仮払い制度」が設けられました(19年7月1日に施行)[綾子11] 。

 葬儀費用など緊急にお金が必要な場合、金融機関の窓口に仮払いを申し出ることができます。各金融機関ごとに「預貯金残高」×1/3×「仮払いを申し出る人の法定相続分」で計算し、上限枠は150万円。たとえば「預貯金1200万円」で、「法定相続分が2分の1」の場合、計算上は、1200万円×1/3×1/2=200万円になりますが、実際に引き出せるのは150万円までです。

 この制度のデメリットは、「この子には遺産を残さない」と遺言書に示されていた相続人が、「葬儀代に必要だから」などといって複数の金融機関から勝手にお金を引き出す可能性があること。もし5つの金融機関に口座があれば、最大750万円も引き出せます。もちろん不正に仮払いされたなら返還要求ができますが、素直に返してくれるとは思えません。[税理士法人 HOP12] そうした事態を防ぐためにも、親が複数の銀行に口座を持っているなら、1つか2つにしぼり、通帳やカード、印鑑もしっかり保管しておくことです。

 今後、マイナンバーと金融資産の紐付けが進むと、死亡届けが提出された直後に口座が凍結されることも考えられます。いずれ役立つ制度として覚えておくといいと思います。

 

●自分の相続分が少なすぎる!

→「遺留分侵害額請求」で現金を 

遺留分の「侵害額」を

金銭で請求できるように

 配偶者や子どもなど一定範囲の相続人には、遺産のうち“最低限受け取れる分”として「遺留分」の割合が法律で決められています。もし相続人の誰かが遺言で遺産を多く受け取り、ほかの人の取得額が遺留分に満たない場合、不足分を多くもらった人に請求することができます。これを、遺留分侵害額請求といいます。  

 たとえば母親が亡くなり、評価額5000万円の自宅不動産と1000万円の預貯金が、長男と次男に遺されたとします。母親は「長年同居をしていた長男に自宅を、貯金は次男に」という遺言書を残しました。しかし次男が1000万円の相続に納得いかなければ、遺留分(この場合は1500万円)との差額500万円を「遺留分の侵害額を払ってくれ」と、長男に請求することができるわけです。

 これまでの民法の規定では、遺留分を現物(この場合は不動産)の返還でしか求めることができませんでした。相手方(長男)が、「自分の財産から500万円払う」と言わない限りは、不動産を兄弟の共有名義にするしかなく、自宅のリフォームや売却時には、長男はいちいち次男に了承を得る必要がありました。 

 今年7月から、「遺留分の請求はすべて現金で」と方針が転換されました。もし請求された側に現金がない場合は、猶予期間を設けるか、分割で払うことも可能です。[綾子13] もし主な財産が不動産しかない場合、相続の時どう分割すれば不公平にならないか、家族であらかじめ話し合っておくことをおすすめします。

●遺言書は面倒だから……

→自筆証書遺言がより簡単に!

財産目録のパソコン作成、

法務局での保管も可能に

 相続に関する意思を表明するには、遺言書の作成が一番の近道です。遺言書は、家族の未来を考えるうえで何よりの贈り物といえるでしょう。

 現在よく利用されている遺言書には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は、手書きの遺言書のこと。費用がかからないというメリットはありますが、書式に細かい規定があり、「やってはみたものの、面倒くさくて[税理士法人 HOP14] 諦めた」という人も多いでしょう。

 これまで自筆証書遺言は添付する目録も含めて、すべて手書きで作る必要がありました。一ヵ所でも間違えたら最初から書き直すか、これまた細かい規定のある訂正方法でいちいち[税理士法人 HOP15] 直さなければ法的に無効になってしまったのです。その負担を軽減すべく、今年1月に施行された改正法では、遺言書に添付する「相続財産の目録」については、本人の手書きでなく、パソコンで作成する、誰かに代筆してもらう、あるいは通帳のコピーや登録事項証明書等を添付してもよくなりました。

 また、自筆証書遺言は自宅で保管されることが多く、せっかく作成しても、紛失や破[綾子16] 、あるいは内容に不満のある人による改ざんの恐れもありました。こうした問題を防ぐため、自筆証書遺言の原本を法務局で保管する制度が来年7月から始まります。本人が所轄の法務局に申請すれば「遺言書保管事実証明書」が交付されますので、それを分かりやすい場所に保管しておくか、エンディングノートなどに「相続の前に法務局へ問い合わせて」と書き残すといいでしょう。

 ただし法務局への申請や訂正は、自筆証書遺言を作成した「本人」が行かなければなりません。病気や怪我で動けなくなったとき、「内容を書き換えたい」と思ってもできない可能性があるというデメリットもぜひ覚えておいてください。

 その点、公証役場で作る公正証書遺言は、費用(数万円から十数万円)はかかるものの、公証人に自宅まで来てもらうことが可能ですし、弁護士や司法書士に作成してもらうこともできるので安心というメリットがあると私は[税理士法人 HOP17] 思います。


 [綾子1]この7月から大部分が「施行」されるというところが注目ポイントなのに、改正法の成立した昨年7月にフォーカスしているのは違和感。

 [綾子2]相続するのではなく、相続人に金銭請求ができるということです。

 [綾子3]来年4月施行

 [税理士法人 HOP4]来年4月以降の相続からです。

 [綾子5]? 後の方を読めばわからなくはないけど・・

 [綾子6]昨年11月に法務省民事局が施行日を発表済み

 [綾子7]法定相続分は変わらないので子どもが取得する総額が変わるわけではありません。

 [綾子8]??上限や相場はないので削除がお勧めです。

 [税理士法人 HOP9]例外はないので、不要では?

 [綾子10]仮払いについては、①家裁の仮分割仮処分、②金融機関から直接引出の2点が改正され、①は従来の要件緩和、②は創設です。記事では②のみの紹介になっています。

 [綾子11]ここだけなぜか施行日が記載されている。書くなら全項目で書くべき?

 [税理士法人 HOP12]限りません。

 [綾子13]?? 改正とは関係ないです。調停や和解では一般的にこういうこともできますが、請求された側が権利として主張できるものではありません。

 [税理士法人 HOP14]面倒で

 [税理士法人 HOP15]削除

 [綾子16]「遺棄」は置き去りにすること

 [税理士法人 HOP17]削除

##カテゴリ

貯める・備える

##タグ(メイントピック)

遺言信託

文:阿部桃子 イラスト:前田はんきち

UPDATE:2020/12/01仮

<画像>01

————————————————以下本文テキスト————————————————

##導入

親が亡くなったらどうするか?というセンシティブな問題を先延ばしにしている人も多いかもしれません。しかし、家族が亡くなったときにするべきことは膨大にあり、ちゃんとした知識がないとかなりの損をしてしまうことも……。そこで、全国相続診断士会会長で上級相続診断士(※)の一橋香織さんに、家族が元気なうちに準備しておくべきことを聞いてみました。

※上級相続診断士…一般社団法人相続診断協会が認定する民間資格

##目次

1. 親に切り出す魔法の言葉とアイテム

2.家族が亡くなったらこんなに大変

3.遺言信託を利用するメリット

4. 知らないと損してしまうポイントは?

##登場人物

【教えてくれた人】

一橋香織さん/相続診断士()事務所・笑顔相続サロン代表

外資系金融機関を経て、ファイナンシャル・プランナーに転身。これまで3000件以上の相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。システムダイアリー社の「エンディングノート」監修。「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP研究所)、「終活・相続の便利帳」(枻出版)、共著「相続コンサルタントのためのはじめての遺言執行」(日本法令)他著書多数。

※相続診断士とは、相続に関する知識を持ち、お客様と一緒に相続と家族の問題に向き合っていく仕事。相続のトラブルが発生しそうな場合には、税理士、司法書士、行政書士・弁護士などの専門家と一緒に、 問題解決のサポートをします。生前から相続問題や思いを残す大切さを伝え、相続を円滑に進める水先案内人として社会的な役割を担います。

【話を聞く人】

松山さん:30代女性。夫と子どもと3人暮らしだが、離れて暮らす親は土地や家があり、いくらかの財産もあるよう。まだまだ元気だが、高齢者の年齢に差し掛かり、あっちこっち病院通いしている様子。そろそろ終活についてじっくり話し合いたいと思っている。

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親に切り出す魔法の言葉とアイテム

松山さん

先日、友だちがお母さんを亡くして、悲しいのはもちろんのこと、葬儀や相続のことなど、とても大変だったそうです。そういう話を聞くと、親が元気なうちに少しずつ先々のことを話さなきゃいけないタイミングなんだな、と思っているんですが、正直話しづらくて。

相続診断士・一橋さん

親御さんのいわゆる終活の話ですよね。終活の話となれば、お葬式の場所や金融資産がどこにあって、誰にどう分けるのかという話まで、詳細に決めなければいけないことが多くあります。

またご両親が元気だからこそ、終活の話はしづらいというのもわかります。ただ、元気なうちにご両親と時間をかけて準備することは決して悪いことではありません。逆に将来について相談したからこそ家族の時間を大事にしようという気持ちになってより家族の絆が深まることもあるようですよ。

松山さん:

ただ、わかっていても終活の話ってなかなかしにくいんですよね。まだまだ親は元気なのに、「亡くなるのを待っているのか?」 「財産を狙っているのか?」なんて思われたら嫌だなって。

相続診断士・一橋さん

日頃から親御さんとコミュニケーションをしっかりとっておくことが大切ですよね。そして帰省したときも、いきなり終活の話を切り出すのではなく、まずいろいろな会話をすることが大切だと思います。

松山さん:

どんな話から始めましょう……。

相続診断士・一橋さん

そうですね、例えば、しみじみと、「お父さんとお母さんのおかげで幸せな人生を送れている」と感謝の気持ちを伝える。次に、自分が生まれた日の話、名前の由来などについて話しながら、じわじわと核心に迫って行くのはどうでしょう。

松山さん:

うちの父なんか、照れてしまいそうですけどね。

相続診断士・一橋さん

エンディングノートを紹介するという手もあります。エンディングノートとは遺された家族への連絡帳のようなもの。銀行口座、通帳や印鑑の場所、延命措置、葬式についてなど本人の希望や家族への思いを記しておくものです。

松山さん:

こんなものがあるんですね。直接色々と踏み込んで聞くのは大変そうですが、会話の中でエンディングノートを紹介するぐらいならできるかもしれません。ちなみに、エンディングノートではなく、親に口頭で言われたことを実行するのではダメなのでしょうか?

相続診断士・一橋さん

「口で言ったからいい」という方もいるのですが、実際に遺族が故人に生前言われた通り自然葬にしようとして、親戚の方から、「墓参りしたくないから?お金がないから?」と責められたケースがありました。その点、遺言書やエンディングノートなどの直筆の書面があれば納得してもらいやすいですね。

松山さん:

そういったトラブルもあるんですね。両親にもエンディングノートを進めてみようと思います。

……それで、もし家族が亡くなったときにはどんな手続きをするのでしたっけ。死亡届を出してお葬式をして、あとは想像もつかないのですが……。

##大見出し(h2

家族が亡くなったらこんなに大変

相続診断士・一橋さん

まず親が亡くなったらすべきことは、儀式、届け出、相続の3種類に分けられます。

●儀式……葬式、四十九日等

●届け出……死亡届、世帯主変更届、健康保険の喪失届、公共料金の名義の書き換え、クレジットカードや身分証の返還、死亡保険金の請求等

●相続……遺言の確認、相続人の確定、相続財産の確定、相続の承認または放棄、遺産分割協議、財産の名義変更等

相続診断士・一橋さん儀式については参列されたご経験があると思いますので、大体想像がつくかもしれませんが、届け出を行ったご経験がある方は少ないのではないのでしょうか。届け出するタイミングにも、それぞれ期限があるんですよ。

<画像>死去後の手続き

<ALT>

松山さん:

こんなに大変なんですか(絶句)。しかも相続に関しては聞き慣れない言葉ばかり……。相続については何から始めれば良いのでしょうか?

相続診断士・一橋さん

相続人がやるべきことは、遺言書の有無で違ってきます。もし遺言書がない場合、基本的には法定相続分(※)を目安として全相続人で遺産分割協議をし、遺産分割が行われますので、まずは相続人の確定を行わなければなりません。その際、相続する人が亡くなった方が出生から亡くなるまでの連続した戸籍を取り寄せて、法定相続人(相続する人)を確定する必要があります。

※法定相続分…遺言書が残されていない場合には、民法で定められた相続順位と割合で遺産分割が行われる。例えば、「亡くなった人に配偶者と子どもが一人いる場合には、配偶者と子どもで遺産を1/2ずつわける」などと定められている。

松山さん:

そこからですね……。

相続診断士・一橋さん

戸籍を取って初めて、お母さんと前夫との間に子どもがいたことが判明したケースもありました。その場合、その子どもを探すことから始める必要があります。相続人が確定したら、相続財産の確定もしなければいけません。相続財産とは土地、家、株式などの金融資産、さらに借金などですね。それを洗い出して初めて、相続人の間で遺産分割協議を行います。

松山さん:

遺言書がない場合は、色々と調べることから始めないといけないんですね。遺言書がある場合はどうなりますか?

相続診断士・一橋さん

まず前提として、親御さんに生前に遺言書を作成いただく必要があります。遺言書といっても実は一般的な普通方式と言われるものでも3種類もあります。

自筆証書遺言…遺言者本人が自筆で作成して家などに保存したもの。作成費用がかからない分、相続が発生する際には家庭裁判所で検認の手続きが必要。ただし今年の7月から民法が改正されて、法務局に自筆証書遺言を預ければ(1件3900円)、相続発生時に家庭裁判所での検認が不要に。

公正証書遺言…公証役場で作成するもの。公証人が関与するので形式不備の恐れがなく、紛失や改ざんのリスクが減るメリットがある。こちらも相続発生時に家庭裁判所での検認が不要。ただし、立会人が2名必要。公証人に手数料を支払うなど、自筆証書遺言に比べて費用がかかるというデメリットも。

秘密証言遺言…自分で作成した遺言書に封印をして公証役場に保管を依頼するため、遺言内容は公証人に知られずに作成できるもの。亡くなるまでは内容を誰にも知られたくないという場合に利用されている。

松山さん:

遺言書の種類にも色々あるんですね…!

相続診断士・一橋さん

どの遺言書にも、どの資産をだれに相続するというような内容が含まれているので、その後はその遺言書を尊重して相続の手続きを進めていくことになります。

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キャプション

##大見出し(h2

遺言信託を利用するメリット

松山さん:

ここまでお話を伺ってきて、親が亡くなったあとの手続きがいかに大変か分かりました。遺言書を作成してもらうのも色々種類があって難しそうですね。苦労せずスムーズに、乗り切る方法はないでしょうか?

相続診断士・一橋さん

金融機関に依頼するのも一つの手です。「遺言信託(遺言執行引受予諾業務)」というサービスがあって、依頼者の考えに沿って遺言作成をサポートして、遺言書を保管。亡くなられたときには相続人への遺言書の内容説明、相続財産の調査相続手続きや財産の引き渡しまでサポートしてくれるんです。何かと対応すべきことが多いなかでもスムーズ進めることができますよ。

松山さん:へ―、いろいろやってくれるサービスなんですね。

相続診断士・一橋さん

はい、証券会社や銀行に複数の口座を持ち、複数の不動産を保有している方におすすめです。また、相続人が遠方に住んでいる場合、高齢でいろいろな手続きに対処できない、といった場合にも便利です。

松山さん:

私の親も株式投資しているみたいだし、遺言信託を利用するのも良いかもしれません。ほかに遺言信託を始めるメリットはありますか?

相続診断士・一橋さん

遺言の内容って結構変わるんです。例えば、財産が増えたり、孫が生まれたから相続人に入れたいとか。遺言信託を利用すると、サービスを申し込んだ金融機関が定期的に「財産の内容変更がないか」を聞いてくれたりして、遺言書を最新の状態に書き替えることができます。

松山さん:

それは助かります。親が何歳くらいになったらすすめたらいいでしょうか?

相続診断士・一橋さん

遺言信託はご両親が元気なうちにやってもらうことが大前提です。

日本の法律では15歳以上の人が遺言書を書き遺すことができる一方で、例えば若年性アルツハイマー、重度の脳疾患で判断能力がなくなった方は、30歳、40歳でも遺すことができないんです。

松山さん:

なるほど。そうなると、エンディングノートにしても遺言や遺言信託にしてもできるだけ早いほうが良さそうですね。

##大見出し(h2

知らないと損してしまうポイントは?

松山さん:

最後に先生がご相談を受けられた中で、知らないと損してしまうポイントはありますか?

相続診断士・一橋さん

まず相続税の申告は、相続を知った日の翌日から10カ月以内にしなければならなりません。10カ月以内に申告と納税をしないと、延滞税等がかかってしまいますし、いろいろな相続税の特例制度が使えなくなります。

松山さん:特例?

相続診断士・一橋さん

一定の要件を満たすと受けられる税制の優遇制度です。例えば配偶者の特例でいうと、配偶者の納税軽減といって、配偶者が相続する財産の評価額が1億6千万円までか法定相続分までは相続税がかからなくなります。それが、10カ月以内に申告をしないと特例が使えず税金がかかってしまいます。

松山さん:

それはもったいない!

相続診断士・一橋さん

あとは、小規模宅地等の特例。亡くなった人が住んでいた土地のうち330㎡までは一定の条件を満たす親族や配偶者がその宅地を相続した場合、その宅地の評価額を80%減額できるという制度です。

例えばご実家の相続税評価額が1億円の場合、小規模宅地等の特例を利用すれば80%減の2000万円で済ませられます。

もちろんこちらも10カ月以内の申告が条件。そうとわかっていても、相続人の遺産分割協議でもめて、納税申告が遅れ、特例が受けられなくなるケースもあるんですよ。

松山さん:

期限内に手続きを終えなければいけませんね。

相続診断士・一橋さん

その他として、相続の放棄をしたい場合、相続が始まったことを知った日から、3カ月以内にしないと放棄ができなくなるので要注意です。もし親に借金があった場合は、その借金を子どもが相続してしまうことになります。

松山さん:

なるほど、親に借金があった場合は注意が必要なんですね。

相続診断士・一橋さん

以前、両親が3歳のときに離婚して以来、長年会っていないお父さんが半年以上前に亡くなった。そして10日前に借金取りから借金を相続したという通知が来たが、自分が払わなければいけないのか?という相談に来た方がいました。

この領域は法律相談になるため専門家にきちんと確認しましたが、相談者さんが借金を相続したことを知ったのは10日前ですから、そこから3カ月以内に相続を放棄すればいいので、まだ間に合うことを伝えました。

松山さん:怖いですね。知らなかったら、慌ててしまいそう!

相続診断士・一橋さん

いざ大切な人が亡くなったら、気持ちも混乱しているし、複雑な手続きに忙殺されながらお葬式や相続のことも考えなければならず、本当に大変です。

とはいえ、死後の準備をしっかりしておいてもらえば、大事な人の死を受け止めて、しっかりと死を悼むこともできます。遺す人も、遺される人も、準備はしっかりとしておきたいですね。

松山さん:今日は色々と勉強になりました。次に親に会うときに勇気を出して話してみようと思います。

監修:高橋大祐さん/税理士・税理士法人HOP、木野綾子さん/弁護士・法律事務所キノール東京

はじめに 

皆さんがこの本を手に取ってくださっているということは、皆さん自身が相続・終活の専門家かこれから目指そうと思っていらっしゃるからだと思います。 

書店には、相続・終活の関連本は初級編から士業が読むような上級編まで並び、ありとあらゆる分野の知識が学べるようになってきました。 

ただ、残念ながら知識は学べても具体的にどうやってその仕事をしていくのかについての実践的な内容が書かれた実務書は筆者の知る限りほとんどないように思います。 

相続・終活の知識は書店に並んでいる数々の書籍にお任せするとして、この本では以下のようなお悩みを解決するための一助としていただければと思います。 

  1. 相続・終活の仕事に就きたいが、どうすればなれるのか。 
  1. 相続・終活の仕事に就きたいが、どんな資格が必要で、どのくらいの知識があれば安心できるのか。 
  1. 実際に受任した際にどうやって仕事を進めていけばよいのか。あるいは1人ですべての仕事を行えるのか。 
  1. 具体的なビジネスモデルを知りたい。 
  1. コンプライアンスではどういった点に気を付けるべきか。 

これらについて、相続及び終活の専門家と弁護士との3人の共著により事例やコラムなどを盛り込むことで、皆さんが終活・相続コンサルタントとしてしっかりと仕事をしていくために知りたかったことが多面的に書かれているのが本書です。 

第1章は、上記のような項目ごとの解説です。著者3名が日ごろから相続及び終活のプロ向けに教えている内容を、初心者にもわかりやすくまとめてみました。 

第2章は、相続及び終活の仕事への関わり方を事例形式で紹介したものです。 

セミナー等でも「実際の事例をもっと知りたい」という声が多いですし、「具体的にどう動けばよいかわからないので、一度同行させてください」という要請を受けることもあります。 

そこで、「実際に、いつどのような動きをすればよいのか」がわかるように、著者3名が出し惜しみすることなくそのノウハウを詰め込んだ事例を、初級・中級・上級のレベル別に8つ用意しました。ぜひ、お客様に選ばれ、お客様に寄り添える真の終活・相続コン サルタントとなるために、本書でしっかりと学び実践してください。本書を読み終えた先に、何かを掴んでいただければ、筆者らも嬉 

しく思います。 

2022(令和4)年8月 

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これが知りたかった!

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    一橋香織 木野綾子 武藤頼胡

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はじめに

皆さんがこの本を手に取ってくださっているということは、皆さん自身が相続・終活の専門家かこれから目指そうと思っていらっしゃるからだと思います。
書店には、相続・終活の関連本は初級編から士業が読むような上級編まで並び、ありとあらゆる分野の知識が学べるようになってきました。
ただ、残念ながら知識は学べても具体的にどうやってその仕事をしていくのかについての実践的な内容が書かれた実務書は筆者の知る限りほとんどないように思います。
相続・終活の知識は書店に並んでいる数々の書籍にお任せするとして、この本では以下のようなお悩みを解決するための一助としていただければと思います。

1 相続・終活の仕事に就きたいが、どうすればなれるのか。
2 相続・終活の仕事に就きたいが、どんな資格が必要で、どのくらいの知識があれば安心できるのか。
3 実際に受任した際にどうやって仕事を進めていけばよいのか。あるいは1人ですべての仕事を行えるのか。
4 具体的なビジネスモデルを知りたい。
5 コンプライアンスではどういった点に気を付けるべきか。

これらについて、相続及び終活の専門家と弁護士との3人の共著により事例やコラムなどを盛り込むことで、皆さんが終活・相続コンサルタントとしてしっかりと仕事をしていくために知りたかったことが多面的に書かれているのが本書です。

第1章は、上記のような項目ごとの解説です。著者3名が日ごろから相続及び終活のプロ向けに教えている内容を、初心者にもわかりやすくまとめてみました。
第2章は、相続及び終活の仕事への関わり方を事例形式で紹介したものです。
セミナー等でも「実際の事例をもっと知りたい」という声が多いですし、「具体的にどう動けばよいかわからないので、一度同行させてください」という要請を受けることもあります。
そこで、「実際に、いつどのような動きをすればよいのか」がわかるように、著者3名が出し惜しみすることなくそのノウハウを詰め込んだ事例を、初級・中級・上級のレベル別に8つ用意しました。ぜひ、お客様に選ばれ、お客様に寄り添える真の終活・相続コン サルタントとなるために、本書でしっかりと学び実践してください。本書を読み終えた先に、何かを掴んでいただければ、筆者らも嬉
しく思います。

2022(令和4)年8月

著者一同

⑬<⑮

1 「相続」「終活」とは・・..............................................•2
(1) 相続・終活を取り巻く社会的背景..............................··2
(2) 相続問題と終活問題は専門家1人で解決できるのか?......··6
(3) まとめ役としての相続コンサルタントの存在の重要性・・・・・・,•9

1コラムI相続対策は4 + 1 ·..·..·…… ····•· ·…….. ·…..·· .12
2 相続問題にはこのような分野がある
~それぞれに必要な専門家~・・・・・・・・・・・.......................·•••·14
(1) 主な相続問題の分野と必要な専門家・ 14
(2) 各専門家の特長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ,5
(3) 相続開始前・・・・・・・・·•·••••.•••••··••••….••·•••••••••·•·•·•·•••·•••·16
(4) 相続開始後…………………. 18
(s) 専門家を探す際の注意点・・・ 21
1コラムI母親の預金を兄が使い込んだ?・ 23
3 終活問題にはこのような分野がある
~それぞれに必要な専門家~・・・・・............................ 2. 5
(1) 主な終活問題の分野と必要な専門家・・・・・ 25
(2) 各専門家と業種の特長・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.........................2. 6
(3) 介護業界との関わり(介護X終活).................... 3. 0
(4) 保険業界との関わり(保険x終活).............. 30
(s) 公的保険との関わり(老後資金x終活).....................·•·31
iii
(6) 葬儀業界との関わリ(葬儀x終活)...........................•· ·31
(7) 供養業界との関わリ(お墓x終活)...........................••·32
(8) 専門家を探す際の注意点・・・・・・・・・..... 32
1コラムI終活を知る:① 介護医療・・.............................. 35
4 相続分野のコンサルタントとしての活動に求められること
·····························································37
(1) 主な活動内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37
(2) 相続分野のコンサルタントの営業形態及びどうしたら相続コンサ)レタント1こなれるのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.......... 39

(3) 相続分野のコンサルタントとして重要と思われる資質・・・・・·-42
(4) 集客の方法・見込み客のつくり方・・...........................·-47
(5) 学びの方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・………………………….-54
1コラムI知識は礼儀。そして知識は誰のために必要?.............5.8

5 終活分野のカウンセラーとしての活動に求められること
. 59
(1) 主な活動内容・・・・・・・・・・・・・・ 59
(2) 終活分野のカウンセラーの営業形態及びどうしたらカウンセラー1こなれるのか・・・・・・・・・・・・・ 65
(3) 終活分野のカウンセラーとして重要と思われる資質・・・・・ 73
(4) 集客の方法・顧客の傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・………………..-75
(5) 学びの方法・・・・・・・・・・・・・・・・ 7.7
1コラム1終活を知る·② 年金・・・・・・ 78
6 コンプライアンス・・・・・・・・・ 80
(1) 士業の独占業務との関係(業際問題).......................・・・80
(2) コンプライアンスに関するQ&A………. 83
(3) 守秘義務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.......... 87
IV

(4) 金品を預かる際の留意点........ 87
(s) 契約書の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・····················• 88
Iコラム1このフレーズが出たら注意すべき!?...................... 90
lコラムl3か月を過ぎてしまった相続放棄・・・・・.................... 92


第2章
終活・相続コンサルタントが活躍する事例
卜 /:

田初級編

●事例1●
遺言書コンサルと保険の活用による相続対策 94
1 事例の紹介・・・・・・・・・・・ 94
2 方針とチーム編成・・··•········· 96
3 解決までの手順・....... ·············• 97
(1) 初回相談・見積もり・・・・・·································• 97
(2) チーム編成・打合せ・・・・・ 97
(3) 相談者への紹介・................................. 97
(4) チーム内の取りまとめと相談者へのフオロー・・・・・・・......... 98
(5) 相続税試算レポートの完成と相談者への報告・・・・・・…...... •98
(6) 公正証書遺言の作成・・・・・・・・・.......................·······• 99
(7) 生命保険への加入・・.............................................. 99
4 解決のポイント・・・・・・・・・・・・・・・・・・.................................. 99
(1)遺言書コンサルティング業務・ 99
(2) 相続税の試算・・・・・・・・・・・························• ・・・ 102

(3) 生命保険の8つのメリット·..•••.••••••.•••••.•••••..•••••.•.•• 103
■ トーク&スタディ■「付言事項』・..•••.•••….••.•..•••…••••..•••105
1コラムI終活を知る:③ 生命保険......................... 1. 07
●事例2●
エンディングノートがなければ大変なことに 110
1 事例の紹介・・・・・・・・・ 110
2 方針とチーム編成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・•·••••••·••••·•·•••··•·•••112
3 初回の相談から母親の死までの経緯・・・.................. ..•113
(1) 初回相談・見積もリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...............•· 113
(2) 帰省後の面談・・・・・・・ 114
(3) 7月に相談者から緊急の電話が入る・・・・・・..................••114
(4) 帰省した相談者から面談の依頼・・・·••••..••••·•••••·..•••••.•••115
(5) 反省点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・.•.••·…•••·•·••••••.•••116
4 今後の関わり方のポイント・・...........….....….…...….•· 116
(1) 終活・相続コンサルティング業務・・・・・·•••••··•••••·••••••·•••116
(2) 定期連絡を入れてフォロー体制をとる・・・....................•117
■ トーク&スタディ■「エンディングノート』・・・・.................•118
1コラム1終活を知る:④ お葬式・................................••· 119

●事例3●
おひとりさまの相続・終活対策 122
1 事例の紹介・・・・・・・・・・・・...........................................•· 122
2 方針とチーム編成・・・・・・·····················・・···• 124
3 解決までの手順・・・・・・・・・....................................·• •• 125
(1) 初回相談・見積もり・….•••••.•••.•.••••..••••..•••.•.•••••.••• 125
(2) 甥への連絡............................................. ・・・・・・・・125
vi

(3) チーム編成・打合せ・・・・..... ….·…. 126
(4) 相談者への紹介・….••··••••.••• ••..•••••.••••••.•••···• •••••126
(5) チーム内の取りまとめと相談者へのフオロー・・・・・・・・・・・・・・·•127
(6) 相続人確定の報告..............................................•· 127
(7) 相続税試算レポートの報告...................................•· 128
(8) 委任契約・任意後見契約、公正証書遺言の作成.........・128
(9) 生前贈与の実行・・・...........·••••••.•• ••••••••••••••••••.•••••••129
4 解決のポイント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ …········…· 129
(1) 遺言書コンサルティング業務・・......... .. 129
(2) 相続税の試算・・・・.•.••••.••••..••••….••..•.•••…•.•…..• ••• 130
(3) 終活・相続コンサ)レ願問契約................................•· 131
■ トーク&スタディ■「報酬』..••••••••••••..•••••••••·•·•••••.•••.•••132
lコラムI相続人の範囲あれこれ・・・・・..••••··•••••..••••..••••. ••••••133

② 中級編

●事例4●
四十九日までに納骨しないといけない? 136

1 事例の紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・..•.•••..•••••.•••·•·•••••••136
2 この事例で考えられる解決方法・・・・・ •138
(1) 元夫婦両方に分骨して供養する・・・·•··· •••138
(2) 納骨時期を先に延ばす・......·••••••••.•······,,•••.•••••.•••••••139
(3) 少量の遺骨を手元供養にする・・………. .. ·…….. 140
3 解決までの手順・............··..••·..·……•.•·..•••.• · •••••••••141
(1) 手元供養の手続き・・・・・·•••••·••·••··••·••·••·••••••·••••··••·••••141
(2) この分野の専門家を選ぶ・ 141
(3) 手元供養の注意点・・・・・・・...................……….••••.•••••••143
(4) 終活・相続コンサルタント料について・・…•••••.••·• ••••••143

..
VII

■ トーク&スタディ■『終活を始めるタイミング』・・・・・・・・・・・ 144
1コラムI終活を知る:⑤ お墓・・........··················• 146
●事例5●
家族信託と委任及び任意後見契約 148
1 事例の紹介・・・・・・ ・・・・・•· 148
2 方針とチーム編成・・.... ……….··. 150
3 解決までの手順・·•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••151
(1) 初回電話相談................................................... 151
(2) チーム編成・打合せ........................................... 151
(3) 相談者親子への紹介・・・・・・・・・・・・................................•152
(4) 家族信託の具体的な契約内容の確認と委任及び任意後見契約の説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・•· ·••·••·••·•..•……….•……•..• 152
(5) 遺言書作成の先送リ・・・・・・・.................................... 153
(6) 公正証書の作成・登記・・・・・・ .. ·.. ·…..·.. 153
4 解決のポイント・・・・・.......................................•·• 154
(1) 相続コンサルタントの立ち位置の明確化・・..................•154
(2) 家族信託・・・.......................................................•154
(3) 委任及び任意後見契約・・.....................·•..•..•·•·••·..• •157
(4) 本件事例の解決・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・157
■ トーク&スタディ■『認知症対策と相続コンサルタント』 ・158
1コラムI親が亡くなった後は実家に住めない?..................•160
●事例6●
死後事務サポート 162
1 事例の紹介.......................................................•· 162
2 方針とチーム編成・・・・・.......................................... 164
...
VIII

3 解決までの手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・•· 165
(1) 相談者の先祖代々の募を管理する寺からの紹介・・・・・・・・・…•165
(2) チーム編成・打合せ・・・・・・・・ ....................・165
(3) 相談者への紹介及び業務内容の説明・・・・・・・ •••.••••166
(4) 依頼の連絡と姪への説明依頼・・・・・・・・ ………..·166
(5) 遺品整理業者と不動産業者の紹介...........................·•168
(6) 財産目録の作成及び相続人の確定作業・・・・・…•••···••• ••••168
(7) 遺品整理の完了・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ·..···…..·169
(8) 成年後見人の登記完了・・・・・・・・・・.......................·・・・・・・・・169
(9) 遺産分割協議書作成に向けての家族会議及び中間報告・・・ 169
(10) 遺産分割協議書作成及び相続税申告にあたっての説明 170
(11) 死後事務サポート・・……..•.•••••••••• ••••• •••••.•••••. ••••••170
(12) 相続税の申告書完成及び業務完了報告・・・・・・・・・・·•••••••••.•••170
4 解決のポイント・・・・・・·•••••••••••·•••••··••••••••••••••••••••••·•••171
(1) 相談者及び相続人すべてと信頼関係の構築・・・・・・..........•171
(2) 各種専門家への橋渡し・・・・.....................................•· 171
(3) デジタ)レ遺品 ・・・・・・・・・・・・・・・・...................................•· 171
(4) その後のフォロー・・・・・・・・・・・・・·..•••••••••.••••••.••••• •••••••172
■ トーク&スタディ■『デジタル遺品』…••••.••••••.•••••.•••••.•••173
IコラムIおひとりさまの定義・・・・・・...........………•.•••.•••• •175

固l 上級編

●事例7●
生前対策フルセットでのご提案 176

ix

(1) 初回HPからの問合せ・·•••.•.•••·•·••••…• ••·•·•••·•·••••.•.•• •179
(2) チーム編成・打合せ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・..•.•••.••••••.•••••179
(3) 相談者と祖母及び長男への紹介・.........·•••••.•••••••••••••••179
(4) 家族信託の具体的な契約内容の確認と委任及び任意後見契約の説明・・・・・·・···……···..····…..··….··…····•·····….··.. 180
(5) 税理士から簡易相続税の試算完成の知らせ................·•181
(6) 生命保険の説明・・・・.............................................•· 182
(7) 生命保険契約と公正証書遺言+遺言執行者、付言事項の説明及び遺留分の説明・・・・・・・·•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••183
(8) 公正証書の作成・登記・・・・・…••·•·•••·•··••.•..•••••.••••••.••••183
4 解決のポイント・・・・・・・・・・・·..••••.••••••••••.••••••.••••••••••.•••• 184
(1) 相続コンサルタントとして相談者との連携を強化・・・・・・・・・・184
(2) 家族信託と委任及び任意後見契約・・・・・......................·•184
(3) 生命保険の活用・・・..••••.••••••••••••••••…••••.•••••.••••••.•••• 185
(4) 笑顔相続のための付言事項...................................•· 185
(5) その他の懸案事項・・・・・・・·•••••··••••.••• •••.•••••.•••••.•• •••186
■ トーク&スタディ■「高齢者の面談で気を付けること』・・・・・・・・・186
1コラム1専門用語で説明していませんか?.... 188

●事例8●
事業承継を含む富裕層の「全部やっておく」型 190
1 事例の紹介・・・・・・・・・・・・・.......................................... 190
2 方針とチーム編成・・・・・・・·•••••.•••••.••••·•··••••.•••••.••••••.•••192
3 解決までの手順・・・・・・・・・・・・・・・ … 193
(1) 初回相談・・・・・・・・・・・・・・・・・・・...................................... 193
(2) 司法書士Cを交えた面談...................................... 194
(3) 弁護士Dの関与による遺留分対策・・・・・ ••••••••••••••••••• 195
(4) 生命保険業者Eとの面談・·••••••.••••••••.••.•••••.•••.••.•••••• 195

(s) Aによる取りまとめ・・・・・·..••••••••••••.••••.•.••••••.•••••.••••195
4 解決のポイント・・・·•••••••••••.••••••••••••.••••••••••••.•••••.•••• 196
(1) ファシリテーターとしての相続コンサルタントの重要性・・196
(2) 長男への事業承継・・・・・・・・・・・・・・・ ·..·…. 196
(3) 遺留分対策・・・・・・・・・・・・ ···•·….······….·..······…. 198
(4) 遺言書・・・・・・・・・ 199
(s) 生命保険信託・・・・・·•••••••••••••••••.••••••• •••••.•••••.•••••.••• 199
■ トーク&スタディ■『終活・相続コンサルタントの役割』・・ 200
1コラム1相続人が何十人もいる遺産分割の進め方・・・・・・・・・・・・・…•202
IコラムI誰とチームを組んで仕事をするかで仕事の質が変わる・・・・・
·············204

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1 「相続」「終活」とは

「相続」「終活」という言葉は、インターネットや雑誌、書籍などで本当によく目にするようになりました。
2つとも場面によって様々な意味を持つ言葉ですが、本書では、亡くなった後の財産の承継に伴う問題及びその対策を「相続」と呼び、それ以外の事柄で人生100歳まで生き甲斐を持って生きるための準備全般(エンディングノート、施設・病院選び、生前の所持品整理、生前葬を含む葬儀、お墓その他の供養など)を「終活」と呼ぶことにします。
(1) 相続・終活を取り巻く社会的背景

相続・終活の仕事をしている、もしくはしたいと思っている方が年々増えてきています。
「相続・終活の仕事で食べていきたいが、何をどこで学んだらよいのですか?」という質問も多くいただきます。士業やファイナンシャルプランナー・保険業・不動産業のホームページを見ると必ずといってよいほど、「相続に強い00」「相続対策の実績が県内トップクラスの00」「争う相続を笑顔相続に」など、「相続」という言葉が多用されていますし、「終活」についても同様です。
では、なぜ近年、相続・終活が注目されるようになってきたのでしょうか?
まず、少子高齢化の問題、認知症の問題、「おひとりさま」の増加やそれに付随する孤独死・孤立死の問題、空き家の問題、葬儀やお墓の問題など、一口に相続・終活といっても様々な問題があります。最近はデジタル遺品の問題もマスコミ等で目にするようにな

り、このように時代の変化に伴う新しい問題が加わってきています。では、詳しく中身を見ていきましょう。
まずは少子高齢化の問題ですが、我が国の高齢化率は令和2年 10月1日現在、65歳以上の人口は、3,619万人となり総人口に占める割合(高齢化率)も28.8%となり、人口も令和35年には 1億人を割って9,924万人となり、令和47年には8,808万人になると推計されています(内閣府『令和3年版高齢社会白書』)。
■ 高齢化の推移と将来推計

(万人)
14,000

12,000

10、000

8,000

2,000

実績値”’ 推計値
(%)
45

12お712脚312m12.B0612,709
•237臼9 F宅 1359’幽.^^C・ ’40

35

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25

20

15

0 “‘107止量1391`a….1891.J匹ヽ”- 匹 R4凰・氾凰・四凰 9颯。
取屹5 30 35 40 45 50 55 60 平成2 7 12 17 22 27 令柑2 7 12 17 22 27 32 37 42 47 (年)
I19501I19551I19601I19651I19701I19751I19801I19851I19901I19951!20001(20051(201OI (20151120201(20251(20301!20351120401120451!2050112055)120601!20651
[一75歳以上 亡コ65~74歳 15~64歳こヨ0~1直一不詳]
資料:棒グラフと爽線の店齢化率については、2015年までは総務省「国勢調査」、2020年は総務省「人口推計」(令和2年IO月1日現在
(平成27年国勢潤査を基準とする推計))、2025年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果。
出典:内閣府「令和3年版高齢社会白書J

■ 認知症高齢者の将来推計

065歳以上高齢者のうち、認知症高齢者が増加していくと推計されています。

(括弧内は65歳以上人口対比)

2012年 2025年

※「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業九州大学二宮教授)による速報値

出典:「認知症施策の動向について」厚生労慟省老健局総務課認知症施策推進室、令和元年9月6日。

それに加えて65歳以上高齢者のうち、認知症高齢者は2025年には700万人になると予想されており(「認知症施策の動向について」厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室、令和元年9月6日)、判断能力が低下することによる資産凍結問題や相続発生時の遺産分割協議が後見人を立てなくてはできなくなるなど、問題が年々大きくなってきています。
人口が少なくなっている原因には、生涯未婚率の増加や出生率の低下が挙げられますが、2015年度の国勢調査では生涯未婚率は男性23.4%、女性14.1%となり50歳の時点で、男性は約4人に1人、女性は7人に1人が未婚となっています。
また、合計特殊出生率は2021年1.30となり、6年連続で前の年を下回ったことが厚生労働省の調査(2021年人口動態統計)でわかりました。
未婚率と少子化の影響を受けて核家族化がさらに進むことで単独世帯(世帯主が1人の世帯)も増えています。単独世帯は2040年には約40%に達するという予測も出ており、このことが孤独死・

■ 50歳時の未婚割合の推移と将来推計
(%)
30.0

十男性 女性
25.0 (点線は推計値)

...28.9 29.5
• -.27.1 28.o
23.4 26.7

20.0

15.0

10.0

18.4 18.5 18.5 18.7

17.5

0.ol 1.7, 2.1
1970 1975 1980 1985 1990 1995碑2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040(年)
資料:1970年から2015年までは各年の国勢調査に基づく実績値(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」)、2020年以降の推計値は「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2018年推計)より、45~49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均値。
出典:内閣府「令和3年版 少子化社会対策白書J

孤立死の増加につながっていくことは容易に想像ができます。
厚生労働省の人口動態統計のデータによると50人に1人が孤独死あるいは孤立死をしているということです。
以上から、子のいない夫婦や生涯独身のおひとりさまが増加していることがわかると思いますが、それに伴い孤独死・孤立死問題、死後事務、親の実家や墓をどうするかなど問題も様々にあり、複雑化・深刻化していることがご理解いただけると思います。
これらの社会的背景を元に、相続や終活の相談も年々増加してきています。
興味深い数字があるのでご紹介しましょう。
令和2年の司法統計の遺産分割調停の新受事件数は全国総数で

1万2,760件でした。
裁判所の遺産分割調停・審判の金額別割合を見ると、遺産が5,000万円以下の割合は次のとおりです(最高裁判所司法統計より)。
平成28年 75.5%
平成29年 75.5%
平成30年 76.2%
令和元年 76.7%
令和2年 77.6%
この統計は、相続セミナーなどで「うちは遺産が少ないから揉めない」というのが思い込みであることを示すときによく使われるものですが、少しずつ右肩上がりになっているのがわかりますね。これは残念ながら揉めてしまった件数が母数になっているわけですが、その中で5,000万円以下の割合が増加しているということは、揉めているかどうかにかかわらず、水面下では財産が5,000万円以下の家庭の相続対策全体の相談も増加していると想像できます。筆者がこの仕事を始めた14年前にはまだ、終活や相続の仕事を 専門にされている方は士業含め非常に珍しく、相続専門のファイナンシャルプランナーとして事務所を開業することを周りに反対されたものですが、今や相続・終活に強くないと取り残されるのではな
いかといった雰囲気も漂っています。

(2) 相続問題と終活問題は専門家1人で解決できるのか?

上記のような社会的な背景に伴い、相続・終活を専門とする士業や相続・終活コンサルタントが相談にあたることが増えていると思われますが、では実際に相談に乗った後、そのコンサルタント1人でお客様の相続・終活の問題をすべて解決できるのでしょうか?
例えば、保険を専門とする相続コンサルタントが開催した相続セミナーの後に相談の予約が入ったとしましょう。
当然、相続セミナーを開催した後ですから「相続の相談」の予約

が入ると考えますよね。
しかし、実際には「子が嫁に行き、先祖代々の墓も地方にあるので墓じまいを考えています。どのようにすればよいでしょうか?お寺さんとの交渉や費用も含めて教えてください」という相談だったとしたら、皆さんならどうしますか?
あるいは、葬儀社を母体とする終活コンサルタントが「遺産分割できょうだいと揉めそうなので親に遺言を書いてもらいたいし、相続税も気になるので相続税の試算もお願いしたい。できれば、実家の不動産も査定してほしい」という相談を受けたらどうしますか?お客様は「どこまでが終活の問題で、どこからが相続の問題か」
をきちんと理解しているわけではありません。
そもそも終活と相続の問題は複雑に絡み合い、我々専門家でもはっきりと分けて説明できないことが多々あります。例えば、遺言書作成はエンディングノートの延長線上で考えることが多く、終活であり同時に相続対策でもあると言えます。
では、先ほどの問いに戻りましょう。
先ほどのような相続・終活の相談を受けた皆さんは、自分l人で相談に乗りお客様のすべての悩みを解決できるでしょうか?
筆者なら「NO」です。
筆者は相続を専門とする相続コンサルタントであり、士業ではありませんし、保険も不動産の取扱いもしていません。
前者のお墓の相談の場合は、業務提携をしている墓石屋さんか終活に強い仲間とチームを組んで相談にあたり問題解決をしていきます。後者の遺言書や相続税の相談の場合は、揉めそうということであ れば弁護士、相続税の試算については税理士、実家の査定では不動
産鑑定士や不動産業の方とチームを組みます。
その上で、受任後は相続コンサルタントが司令塔となり、お客様の問題をワンストップで解決できるよう努めます。

要は皆さん自身が専門外の相談を受けた際に、お断りしてしまうのか、頼れる専門家の仲間がいることでチームとしてお客様のお悩みを解決できるように仕組みを整えておくのか、どちらのコンサルタントになりたいかという問題です。当然、本書を手に取ってくださっている皆さんは後者ですよね。
以下は手前味噌ですが筆者の会社のホームページの一部をご紹介したいと思います。
ご挨拶
「昨今、相続問題についてはメディアなどでも多く取り上げられるようになり、それに伴って相続の問題は「誰に相談したらいいのかわからない」という声も多くなってきました。弊社はそんなお困りごとを、頼りになる相続専門の士業とチームを組み、生前から相続発生までワンストップでトータルにサポートしている、関東で初めての相続診断士事務所『笑顔相続サロン町を運営しています。全国に現在26カ所ある『笑顔相続サロン®』と共に皆さまの相続のお困りごとを“笑顔相続”に導くお手伝いをさせて頂ければ幸いです。」

生前対策 死後の整理

エンディング‘ノート・遺言
保険
家族信託
不動産活用
任意後見・成年後見
葬式・お墓の相談、紹介相続税試算
相続生前対策
死後事務

相続診断士
ファイナンシャルプランナー 弁謳士
司法書士
税理士 その他の士業

遺産分割協議
相続税申告
各種年金手続き
各種登記申請、手続き
海洋散骨・樹木葬
相続手続き
遺言執行
不動産の売却
死後事務サポート

https:/ / egao-souzoku. com/service/

いかがですか?
皆さんはどのようなイメージを持たれたでしょうか?
ぜひ、本書をきっかけに、相続・終活の問題は自分l人ではなくチームを組んで解決するものだという認識を新たにし、チームで連携して解決できる仕組みを作ってください。
それが、お客様にとっての最適解となるはずです。

(3) まとめ役としての相続コンサルタントの存在の重要性

上記(2)では、相続・終活の問題はチームで連携して解決することが大切であるというお話をしました。
そして、終活·相続コンサルタントがまとめ役や司令塔となるということにも触れましたが、ここではなぜそのような役割を果たす終活・相続コンサルタントが必要なのかについて説明します。
相続・終活の専門家チームを作った際に、最初にお客様の相談に
乗ったのが皆さん自身だとしましょう。
上記(2)の2例目の遺言書や相続税の相談事例で説明したいと思います。解決のために、弁護士・税理士·不動産業の方でチームを組むことになったとします。
さて、まずは何から取り掛かればよいでしょうか?お客様を次に誰と会わせるのが適切でしょうか?
とりあえず、きょうだいと揉めたら困るというお客様の言葉を手がかりに、弁護士を紹介し遺言書の相談から始めたとしましょう。まだ、親本人は何も知りません。
当然、弁護士は遺言書作成を勧めてきますが、親にはどうやって切り出すのでしょうか?
万が一、親もやる気になってくれたとして、遺言書の作成に取り
掛かってから相続税の相談をするために税理士の事務所を訪ねるのでしょうか?
そのときの皆さんの立ち位置は?

ただ、専門家を紹介するだけですか?
お客様と各専門家との相談時に同行するのでしょうか?これだとチームを組んだといえますか?
いえいえ、何もしなければ「専門家を紹介しただけ」で終わりですよね。お客様は結局、それぞれの専門家の事務所を回って歩くことにもなりかねません。
また、お客様のほうでも「弁護士や税理士の先生にこんなことを質問したら失礼にあたるかも?」などの遠慮があって、本当は疑問を抱いている点があっても気軽に質問できないかもしれません。
そこで、お客様は最初に相談に乗ってくれた皆さんに話を聞いてもらおうとしますが、進捗状況や内容を把握していなければ、皆さんのほうでは適切なアドバイスができません。
だからこそ、我々のような終活・相続コンサルタントが積極的に
「まとめ役」や「司令塔」の役目を果たすことの重要性があるのです。筆者が相続コンサルタントとして司令塔の役目を果たす場合、実
際には以下のような流れで行っています。

【相続コンサルタントとして司令塔の役目を果たす場合の基本的な流れ】

  1. 初回面談でヒアリングを十分に行う
    →必要と思われる専門家を洗い出す
  2. お客様に相談の内容を整理して伝え、相談の内容に必要な専門家を明示する
    →お客様の了解を得て専門家チームを組成する
  3. 専門家チームで情報を共有しお客様の問題を解決するための筋道を考える
  4. お客様と専門家チームで面談し、解決のための筋道を理解でき
    るように説明する
    その際に、士業の説明が専門用語が多く理解できていないよう

であれば、わかりやすく補足説明をする

  1. 問題を解決するスキームをお客様とともにチームで考えそれを実行する支援をする
    吟全体像や進捗を説明したり士業との橋渡し役をする。時に金融機関や役所などへの同行などのサポートをする
  2. 相続・終活対策の実行及び業務完了

何をするかによって多少の変更点もありますが、大まかにこのような流れで進めていきます。
なお、常に1つの場所(筆者の事務所か士業の事務所かお客様宅)
にチームの専門家が集まり、皆がそろっている中でお客様の相談に乗るように気を付けています。
これによって、お客様は色々な事務所を1人で回ることなくlか所でまさにワンストップの相談ができます。
つまり、そこにはチームの専門家がすべて集まっているので、専門家同士で交換しながら同時進行で相談に乗ることができるのです。
そして、終活・相続コンサルタントがまとめ役や司令塔の役割を果たすことですべての情報が終活・相続コンサルタントに集まるため、お客様からの質問を誰が受けても、チーム全員が把握しているので困ることなく速やかに担当の専門家が回答できます。
他の専門家も相続コンサルタントに進捗確認をしたり次にやることの整理ができたりもします。全体を把握することができるのです。お客様にしても、何か質問をした際に、たらい回しにされること なく速やかに的確な回答が得られますし、専門家に聞きにくいことや言いにくいことは、終活・相続コンサルタントを通じてやりとり
をすることも可能です。
また、わかりにくい専門用語も丁寧にかみ砕いて説明してもらえて助かります。

要はお客様と専門家の双方が終活・相続コンサルタントの存在によって、その問題の処理を進めやすくなるわけです。まとめ役や司令塔という言い方もできますし、ファシリテーター(会議などを円滑に進行する役割)という言い方をしてもよいでしょう。
このあたりのことは、第1章4「相続分野のコンサルタントとしての活動に求められること」(37頁)で改めて深掘りして説明したいと思います。
さて、終活・相続コンサルタントとしてどうあるべきかをなんとなく理解できましたか?
ここでは、終活・相続コンサルタントの存在の重要性をザックリと大まかに掴んでいただければ大丈夫です。
(一橋香織)

■■コラム■■
相続対策は4+1
よくセミナーなどで、「相続対策には何がありますか?」あるいは「どんな対策が必要ですか?」と質問をされます。
以前は、相続対策は、
1 相続税の対策
2 納税資金対策
3 遺産分割の対策
と説明をしていましたが、最近はそこに、
4 認知症の対策
を加えるようになりました。これは筆者の私見ではありますが、さらにプラス1として「想いを遺す」対策を加えていただ

ければ対策にほぼ漏れはないと考えています。
1 ~3はよくいわれている対策で、士業の方をはじめとして相続コンサルや保険業・不動産業の方もセミナーなどでお話しされているのでここでは割愛します。
4は、人生100年時代となり長生きすることがリスクといわれ始めている中で、最近、取り沙汰されている認知症のリスクについての対策です。
判断能力がなくなって財産が自由に動かせなくなった際にどうするのか? 誰に財産管理をお願いするのか? 認知症で施設に入所することになった際に今ある資産で最後まで費用を賄えるかなど、多岐にわたった対策が必要です。
この4つにプラス1としたのは筆者がこだわっている「揉め
ない相続」「笑顔相続®」を実現するうえで大切にしていることだからです。
せっか〈、一生懸命働いて財産を築き、相続税の対策も遺言も用意してこれで問題はないと思っていたのに、自分亡き後に家族が揉めてバラバラになってしまっては、何のために頑張ってきたのか、あの世から悲し〈思ってもどうにもできません。そうならないためにも想いを遺し、大切な家族が揉めないた
めの対策をぜひ付け加えてご提案いただきたいと思います。
(一橋香織)

2 相続問題にはこのような分野がある
~それぞれに必要な専門家~

(1) 主な相続問題の分野と必要な専門家

主な相続問題の分野と必要な専門家

相続開始前 <相続税の試算>
・税理士
<相続税の節税対策>
・税理士
・不動産業者
•生命保険業者
<遺言書作成>
・行政書士
・司法書士
・弁護士
<家族信託の組成>
・行政書士
・司法書士
・弁護士
相続開始後 <相続税の申告)) ・税理士 <相続放棄>
・司法書士
・弁護士

<遺産分割協議>
・弁護士
<遺産分割による遺産の分配・遺言執行>
・ケースバイケースで様々な専門家が関与する可
能性がある。
・遺言執行者への就任など、士業でなくてもできる行為もある。
<遺留分侵害額請求>
・弁護士
<死後事務の処理>
・ケースバイケースで様々な専門家が関与する可能性がある。
・遺品の片付けなど、士業でなくてもできる行為もある。

(2) 各専門家の特長

① 税理士
税理士は、納税に必要な書類の作成や、節税のアドバイスなどを行う専門家です。相続に関しては相続開始前の相続税対策や、相続開始後の税務申告を担っています。
② 行政書士
行政書士は、官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類の作成や提出手続をする専門家です。相続の場面では遺言書の作成、家族信託の組成、遺産分割協議書の作成などで活躍しています。
③ 司法書士
司法書士は、法人登記や不動産登記のほか、裁判所や法務局などに提出する書類の作成等を主な業務とする専門家です。相続の場面

では、不動産登記のほか、遺言書の作成、家族信託の組成、遺産分割協議書の作成などを得意としています。
④ 弁護士
弁護士は、示談交渉や裁判の代理業務を行うだけではなく、紛争の予防や企業法務など法律全般についての専門家です。遺言書作成などの相続開始前の対策も行いますが、相続開始後に遺産分割などの争いが起こった場合の代理人というイメージが強いといえます。
⑤ 不動産鑑定士
不動産鑑定士は、不動産の価値の鑑定・評価を主な業務とする専門家です。相続税対策のほか、相続開始後の争いの場面でも力になってくれます。
⑥ 土地家屋調査士
土地家屋調査士は、不動産の測量と表題登記に関する専門家です。相続税対策でアパートを建てたりする際や、相続した土地の分筆の場面などでお世話になります。
⑦ 不動産
不動産業者は、不動産売買やその活用法についての専門家です。相続税対策や遺産分割などには欠かせない存在です。
⑧ 保険・証券
保険・証券業者は、それぞれが取り扱っている金融商品の専門家です。相続税対策や遺留分対策などに役立ってくれます。

(3) 相続開始前

① 相続税の試算
被相続人が一定以上の財産を持っているというケースでは、「将来、相続税がかかるのかどうか(基礎控除の範囲内で済むのか)」「相続税がかかるとして、いくらくらいかかるのか」が気になるところです。実際、こうした疑問を専門家に相談に行くところから生前の相続対策を始める方も多いです。

相続税の試算は、税理士の専門分野ですので、税理士に依頼する必要があります。
② 相続税の節税対策
相続税の試算が終わると、それをもとに節税、つまり相続税をできるだけ少なくするための合法的な工夫をするにはどうしたらよいかという問題が出てきます。
例えば、財産の組替えをして評価額を低くすることによって相続税額を下げたり、小規模宅地等の特例など相続税法の定める様々な減税の特例の適用を受けられるようにするなどの方法があります。
「00を使えば節税できる」という一般的な知識を持っている人
は多いのですが、具体的なケースで「この被相続人の相続において、どのような方法が最も効果的な節税になるか」については、税理士の専門分野ですので、税理士に依頼しなければなりません。
税理士のアドバイスによる節税対策を実行する際には、不動産業者など様々な分野の専門家の関与も考えられるところです。
③ 遺言書作成
生前に遺言書を書いておくことによって、自分の財産のうち何を誰に渡すかを定めることができます。相続税対策とは違って財産が多いか少ないかとは無関係であり、より多くの人にニーズがあるといえるでしょう。
最もポピュラーなものとして公正証書遺言や自筆証書遺言があり、その他に秘密証書遺言、危急時遺言等があります。
遺言書の作成相談については、行政書士・司法書士・弁護士の専門分野となっていますので、それらの士業に依頼する必要があります。
④ 家族信託の組成
いわゆる「家族信託」というのは法律上の名称ではなく、信託法の定める信託契約で信託業法の適用を受けない民事信託のうち家族間で受委託をするケースの通称です。家族の中で委託者(一定の財

産の管理を託す人)・受託者(その財産の管理を引き受ける人)・受益者(その財産による利益を受け取る人)等を定めて生前の財産管理について役割分担をするという契約を結びます。
家族信託の組成相談については、行政書士・司法書士・弁護士の
専門分野となっていますので、それらの士業に依頼する必要があります。
⑤ その他
以上のほかにも、例えば次のようなものが相続開始前の問題として挙げられます。
・相続税の納税資金を死亡保険金として取り分けておく(生命保険業者)。
・遺留分侵害額相当の資金を「請求される側」の相続人を受取人とした死亡保険金として取り分けておく(生命保険業者)。
・遺留分を減らすためや相続税の節税のために養子縁組をする(行政書士・司法書士・弁護士)。
・非行をした相続人の相続権を失わせるために廃除審判の申立てを
する(弁護士)。
• 財産の劣化や流出を避けるために財産管理契約・任意後見契約・成年後見制度の利用等を行う(行政書士・司法書士・弁護士)。
(4) 相続開始後

① 相続税の申告
被相続人から遺産を受け取った人は、相続開始日から10か月以内に相続税を申告して納付しなければなりません。
ただし、すべてのケースで必要というわけではなく、遺産が相続税の基礎控除と非課税枠内に収まるようであれば、相続税申告の必要はありません。ちなみに、国税庁の発表によれば相続税の課税割合(死亡者数のうち相続税申告のあった被相続人数の割合)は平成 27年の相続税率の改正から毎年8%台で推移しており、令和2年

は8.8%でした(国税庁「令和2年分相続税の申告実績の概要」より)。
誤解されがちな点として「小規模宅地等の特例を適用することによって結果的に相続税を支払う必要がない」というケースであっても、その特例の適用を受けるためには相続税の申告を行う必要があることに注意しましょう。
また、相続税は、その人が受け取った遺産の額に応じて納付額が決まるのですが、一部の相続人が相続税を納付しない場合、他の相続人が連帯債務者としてその分を代わりに支払う義務が生じることもあります。
相続税の相談や申告業務は、税理士の専門分野ですので、税理士に依頼する必要があります。
② 相続放棄等
相続放棄は、被相続人の債務(借金)が多額であるなどの理由で、相続人としての一切の権利や義務を引き継がないことです。「欲しい財産だけ相続して、欲しくない財産は引き継がない」ということはできません。
また、相続放棄と比べると数は少ないですが、相続人が得た遺産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ「限定承認」という制度もあります(民法922条)。
相続放棄や限定承認をする場合には、被相続人が亡くなって自分が相続人になったことを知った日から原則として3か月以内に家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません(民法915条1項)。相続放棄の申述を代理人に任せてやってもらう場合の専門家は弁 護士であり、書類をそろえてもらって本人名義で申述の手続きをす
る場合の専門家は司法書士です。
③ 遺産分割
遺産分割とは、相続人が複数いる場合に、誰がどの遺産を取得するのかを決めることです。相続人が1人の場合はその人がすべての

遺産を取得することになるので遺産分割の必要はありませんが、相続人が複数いる場合には、遺産額が多いか少ないかにかかわらず遺産分割をする必要があります。
相続人全員で話し合って決めることを「遺産分割協議」といい、それでは話がつかない場合には、家庭裁判所の「遺産分割調停」や
「遺産分割審判」という手続きを利用して解決することができます。このような争いごとの相談や代理業務は弁護士の専門分野です。
④ 相続人調査・遺産調査・遺産分割による遺産の分配(不動産登
記や預貯金の解約払戻し等)・遺言執行等
相続の周辺分野として、相続人調査・遺産調査・遺産分割による遺産の分配・遺言執行などがあります。
これらの中には、税理士に相続税申告を依頼したり、弁護士に遺
産分割交渉を依頼したりするとセットでやってもらえるものも含まれています。
単発のスポット業務として専門家に関与してもらうこともできますが、その場合にどの専門家に依頼したらよいかは「何を」「どこまで」関与してもらうかによって変わってきます。
⑤ 遺留分侵害額請求
被相続人との身分関係に応じた相続人の最低限の相続割合を保障するのが遺留分です。
遺留分を請求する権利のことを、現在は「遺留分侵害額請求権」といいますが、被相続人が平成30年7月1日施行の民法改正以前に亡くなったケースでは旧法に従って「遺留分減殺請求権」といいます。
侵害されているからといって自動的に遺留分が戻ってくるわけではなく、この権利を行使するためには、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年以内に侵害者に対して請求の意思表示をしなければなりません。
遺産分割と同様に、当事者間で話し合って金額等を決めるのが基

本ですが、話がつかない場合には、家庭裁判所での「遺留分侵害額請求調停」や地方裁判所で「遺留分侵害額請求訴訟」をして解決することができます。
⑥ 死後事務の処理
亡くなった後の広い意味での後始末を意味する死後事務の処理は、相続と終活の両方の要素があるといえます。
ここでいう死後事務とは、例えば、医療費の支払い、家賃、地代等の支払いや賃借物件の明渡しに関する事務、高齢者施設の利用料の支払い、葬儀・埋葬に関する事務、行政官庁等への各種届出や返納事務などです。
このような事務処理をしてくれる家族がいる場合には特に対策をする必要はありませんが、そうでない場合には、生前に特定の第三者との間で死後事務委任契約を公正証書の形で締結しておくことが考えられ、ニーズの高まっている分野です。
⑦ その他
以上のほかにも、相続開始後の問題としては、次のようなものが挙げられます。
•ある相続人が被相続人の生前にそのお金を使い込んでいたなどの理由から、相続人間で不当利得返還の請求をする(弁護士)。
・相続によって共有となった不動産の売却(不動産業者・司法書士)や分筆(土地家屋調査士・司法書士)をする。
・祭祀財産(仏壇やお墓)を誰が承継するかを決める(弁護士)。

(5) 専門家を探す際の注意点

以上に見たように、相続の前後それぞれの場面に様々な分野があり、それによって関わるべき専門家も異なります。
そのため、依頼者にとっては、誰に何を頼んだらよいのか大変わかりにくいものです。
また、それぞれの専門家は、どうしても自分の専門分野以外のこ

とには疎いという傾向があります。
そこで、「依頼者に適切な専門家をつないでチームを作る役割」を担うのが相続コンサルタントです。
では、相続コンサルタントが相続の専門家を探す際にはどのよう
なことに注意したらよいでしょうか。
それは「得意分野の確認」です。同じ資格や肩書を持つ専門家であっても、それぞれに得意分野があり、例えば相続税に関する税務が得意な税理士は税理士全体からすると少数派ですし、行政書士であっても外国人労働者の入管手続を専門としており、相続は扱っていないという人もいます。
また、相続が得意という中でも「この司法書士は障がい者のお子さんがいるご家族の相続対策を多く手掛けている」「この保険営業マンは生命保険信託の説明が上手だ」「この弁護士は生前の使い込み事件が得意だが、遺言無効の争いを引き受けるのは消極的」など、さらに細かく分別することもできます。
そのため、専門家に相続の相談や依頼を持ちかける場合には、「その専門家が相続を得意分野としているか」「相続に関する知識・経験が豊富かどうか」を確認して選ぶようにしましょう。日頃から周囲の専門家の活動内容に興味を持ちアンテナを張っておくことが肝要です。
人的なコミュニケーションのコツについては、後述の第1章4「(3)相続分野のコンサルタントとして重要と思われる資質」(42頁)をご参照ください。
(木野綾子)

■■コラム■■
母親の預金を兄が使い込んだ?
Aさんから、こんな悩みを打ち明けられました。
「高齢の母親が兄一家と同居しています。預金通帳やカードは兄が管理しており、そこから母親の医療費や生活費を出しているのですが、最近、兄の金遣いが荒いので、もしや母親のお金を使い込んでいるのではないかと怪しんでいます。
もしそうだったら、これは相続の際にどのように扱われるの
でしょうか」。
Aさんだけではな〈、このような悩みを持つ方は年々増えています。相続の場面で兄による生前の使い込みが発覚した場合、母親に「無断」だったのか「承諾を得ていた(贈与)」のかによって、取扱いが異なります。
① 母親に無断で預金を使い込んだ場合
この場合には、母親の兄に対する不当利得返還請求権または損害賠償請求権という「債権」が相続財産に計上されることになります。
兄が「母の医療費に全額使った」などと弁解して使い込みを否定した場合には、上記のような意味での「債権」の存否、すなわち「遺産の範囲」に争いがあることになるため、地方裁判所の判断を仰ぐことになります。
② 母親の承諾を得て預金の贈与を受けた場合
この場合には、金額にもよりますが、特別受益として遺産に持ち戻すことになるでしょう。ただし、遺言書がある場合の遺留分算定にあたっては、原則として相続開始前10年以内の生前膳与(特別受益)しか遺産に計上されません(改正民法 1044条3項)。
このような争いにならないよう、Aさんには、母親の生存中

に家族で話し合って預金管理のルール(報告義務など)を取り決めることをお勧めしました。
母親の判断能力がある場合は、委任契約や家族信託契約を利用する(兄以外の者を受任者や受託者とする)ことも考えられますし、認知症などで母親の判断能力がな〈なっている場合は、成年後見制度(専門家後見人)を利用することが考えられます。
管理する兄の立場から見ると、他の兄弟姉妹に後々お金の流れを説明できるように領収書等をしっかり保管してお〈ことが必須です。
まさに「親しき仲にも帳簿あり」です。
(木野綾子)

3 終活問題にはこのような分野がある
~それぞれに必要な専門家~

(1) 主な終活問題の分野と必要な専門家

※死後は「2 相続問題にはこのような分野がある」を参照。
主な終活問題に必要な専門家と業種
生前 <終活全般>
・終活カウンセラー
<介護>
・ケアマネジャー
・ホームヘルパー
・介護福祉士
・社会福祉士
<保険>
•生命保険会社
•生命保険代理店・損害保険代理店
<老後資金>
・社会保険労務士
<ライフプランニング>
· FP
死亡時 <お葬式>
.葬儀社
.冠婚葬祭互助会
·JAや生協

.葬儀紹介サイト
<相続>
・相続診断士
・弁護士
・税理士
・司法書士
・行政書士
<お墓>
・僧侶
・霊園業
•石材業
<遺品整理>
・遺品整理や生前整理業

(2) 各専門家と業種の特長

① ケアマネジャー(介護支援専門員)
要支援または要介護と認定された人が、適切な介護サービスを受けられるようにするために、介護サービス計画(ケアプラン)を作成する専門職のことです。介護保険制度の仕組みは複雑なため、介護が必要になったら介護施設へ行くとすぐにサービスを受けられるわけではありません。このあたりが病院とは違うところです。介護施設で介護を受けるためには、ケアマネジャーに介護サービス計画
(ケアプラン)を作成してもらう必要があるのです。介護を要する
方の状況や、家族がどんなことに困っているのかを理解し、計画を立て、必要なサービスを受けられるようにサービス事業者へ手配するのがケアマネジャーの仕事です。介護の全般的な相談に乗ってもらえます。認知症かもしれないなどの相談も受けてもらえます。地

域包括支援センターに連絡してください。
② ホームヘルパー(訪問介護員)
自宅や専門施設において生活・家事援助を行う方のことをいいます。高年齢者や障害を持つ方の生活介助を行うことが主な目的とされています。1日に何回まで呼べるのかなどの制限はありません。昨今では最後まで自宅で過ごす方も増えてきたので、頼れる存在です。
③ 介護福祉士
身体的・精神的な障害により日常生活に支障のある方に対して介護支援を行う国家資格であり、名称独占資格に認定されています。高齢者・障害のある方の施設で介護をするスペシャリストで、食事・入浴・排泄・衣服の着脱など日常的な介助業務や、掃除・備品の管理・シーツ交換なども行い、高齢化社会において欠かすことができない職業です。
④ 社会福祉士
身体・精神的障害のある方や環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある方など、福祉を必要とする方に対し、助言や相談・援助・指導等を行う専門家のことをいいます。
⑤ 生命保険会社
生命保険商品のメーカー、その会社のプロフェッショナルなので商品についての知識は間違いありません。商品だけでなくライフプランを考えた上での提案が可能です。
⑥ 生命保険代理店・損害保険代理店
複数社の保険会社の取扱いをしているところが多く、保険の選択が広がります。
終活のカウンセリングを進める過程で、見直しの必要があると相談者と意見が一致したような場合には、速やかに募集人資格を有する保険会社や保険代理店の方に相談するよう伝えることが重要です。

⑦ 社会保険労務士
社会保険労務士は労働・社会保険の問題を専門とする国家資格です。勤務する会社に顧問社会保険労務士がいない場合、都道府県社会保険労務士会や、各金融機関にて無料年金相談会を開催していることがあります。年金については年金事務所に問合せするのが一般的ですが、セカンドオピニオンとして社会保険労務士に相談することも可能です。
⑧ 葬儀社(専門の葬儀業者)
いわゆる街の葬儀屋さんで、葬儀のプロデュースをして葬儀の施行をします。複数の業者との連携で葬儀は施行されますが、他業者
(花屋、仕出し屋、返礼品会社)などの窓口も一括で葬儀社が行います。葬儀に必要な行政手続も行っているところが大半です。葬儀会社の規模は7割が10人以下の会社で、すなわち同族企業が多いです。一方、上場している企業もあります。独自の会員制度を設けているところもありますが、後述の冠婚葬祭互助会の会員制度とは異なります。
⑨ 冠婚葬祭互助会
冠婚葬祭を目的とした互助会等は、割賦販売法上「前払式特定取引業」ということになります。つまり会員が毎月、掛け金を積み立てるシステムです。互助会といってもあくまでも民間の営利団体になります。互助会が倒産した場合、積立金の2分の1が保全されます。すべてが大きな組織ではなく、規模も様々です。
⑩ JAや生協の葬儀社
JAや生協は組合員だけでなく、組合員以外の葬儀も行っていま
す。葬儀の相談を受けた際は、事前にお付き合いがあるか確認するとスムーズです。中には専門の葬儀社と提携しているところや株式会社にして独立しているところもあります。JAも生協も事業者に
よって形態やサービスに違いがありますので、しっかりと確認しましょう。

⑪葬儀紹介サイト
インターネット上で行っている葬儀紹介です。葬儀の形、値段などをパッケージにして販売しているところもあれば、葬儀社のみを紹介しその後各葬儀社ごとのプランで行う形もあります。いずれにしても地元の葬儀社に引継ぎをするという葬儀の仲介だけを行っているサイトです。付加サービスで相続や遺品整理などを受けるサイトもあります。
⑫ 散骨業
一般に遺骨をパウダー状(粉骨)にした後、海(海洋散骨・海洋納骨)、空(宇宙葬)、山中(散骨と言いますが一般的には霊園など許可をとっているところ、唯一今のところ島根県の島で許可されているところがありますが他の土地は所有者がいるので難しい)にそのまま撒く葬送形式をいいます。費用の安さ、死後お墓の問題で迷惑をかけたくないという故人の希望などにより、近年増加している供養の形です。ただ、法律や条例、ガイドラインなどで規制があるのでそのあたりをしっかり守っている業者であることが重要です。安価すぎるところや散骨する場所の詳細がないなどは要注意です。
⑬ 納骨堂
言葉のとおり、焼骨を納めることができる施設です。私たちがお墓と聞いてイメージする石のお墓と異なり、屋内に設置され、ロッカーのような納骨棚形式や立体駐車場のような移動搬送式、間接礼拝式(サイネージ)など様々な形式があります。アクセスのよい立地に設けられるケースが多く、墓じまいや改葬先として一定の人気を博しています。運営は公営、民間、または寺院が担っているため、長く利用するからこそ、経営主体を確認することが重要です。
⑭ 手元供養
遺骨は自宅で保管することもできます。形も様々で骨壺のまま粉骨してコンパクトにしてミニ骨壺に入れる、身近で守れるようにアクセサリーにして身に着ける方法が手元供養で、様々な商品があり

ます。小さくても結局は次世代に守っている方が亡くなった際には継承問題が生じるので、そのあたりを決めた上の選択がよいでしょう。
(3) 介護業界との関わり(介護X終活)

高齢化が進む中で、介護業界との関わりは専門家でなくても欠かせない状況となっています。先に書いたとおり、多数の専門家が我々をサポートしてくれますが、家族や親戚の中で「いつ」「誰が」介護で助けが必要になるかわからないからこそ、元気なうちに家族で方針を決めておくことが大切です。「誰に」「どこで」面倒をみても
らいたいのかは、そのときになってからでは話しにくいことです。実際に介護の支援が必要になると判断された場合は、住民票をお いている市区町村の窓口や福祉事務所、または地域包括支援センターに相談しましょう。そのためカウンセリングを行う地域の地域包括支援センターの場所や連絡先を押さえておくことは重要です。ここですべての初動に関してサポートを受けることができ、必要と判断されれば介護サービスの利用のために重要な介護保険の利用申請が開始されます。そのあとで介護保険が認定されれば、介護サービスが最大1割負担で利用できるようになり、ケアマネジャーやホームヘルパーに連携され、介護保険法に基づいて日常のサポート
が行われます。

(4) 保険業界との関わり(保険x終活)
病気やケガ、事故や死亡による急激な財産の減少を防止するのが保険の役割です。いつ何が起こるかわからないからこそ、保険業の専門家は、様々な保険商品の中から顧客の将来を踏まえ、必要な備えを提案してくれます。
当然、保険は一度入ったら安心というわけではありません。医療の発達や結婚、出産、離婚、死亡などライフスタイルの変化によっ

て、必要な保険も変わってきます。顧客の「保険は入っているから大丈夫」という言葉を鵜呑みにせずに、保険に加入している目的が達成されるのかをポイントにカウンセリングを行い、必要であれば専門家につなぎましょう。
(5) 公的保険との関わり(老後資金x終活)
老後の主な収入源となるのが老齢年金ですが、私たちが毎月納めている年金の保険料は老齢年金のためだけではありません。
死亡が原因で給付される遺族年金や、病気やケガで障害を負ってしまった際の障害年金など、加齢、死亡、障害という3つの社会的なリスクに対応しています。しかしながら、この遺族年金や障害年金の存在を知らない方が4割以上もいるとの調査結果が出ているので、年金制度を正しく理解し、老後資産のプランニングに活かしましょう。
(6) 葬儀業界との関わり(葬備x終活)
ここまで様々な業界に触れてきましたが、誰しもが必ず行き着く先が「死」です。亡くなったときにサポートしてくれるのが、葬祭業の方々です。亡くなった際の遺体の引取りや搬送、葬儀や火葬の手配を一任できます。しかし、葬儀は少なからず費用が発生するものですので、最適なプランを選択することが必要です。
そのためにもお葬式の意味を理解した上で「葬儀をする・しない」の選択をすることを皮切りに、「誰を呼ぶか」「どこで行うか」
「どのような式にするか」など事前に整理しておくことも立派な終活コンサルだと思います。核家族化に伴い、家族が故人の交友関係まで把握しているケースはますます減っていきますので、エンディングノートを参考にしながら、希望を明確にしていきましょう。

(7) 供養業界との関わり(お墓X終活)

近年、お墓問題は多くの話題が挙がっています。それは人が生まれた場所で死ななくなったからです。産業が変わり生活様式が変わった、すなわち終の住処であるお墓の立ち位置も変わりご先祖さまと一緒に入るものから、家族単位の延長線上となり、1人で入る、夫婦のみ、家族などあの世での様式も変わったのです。
例えば、遠方の実家のお墓の墓守が体力や労力から難しくなるから移動させたい、近い将来承継者がいなくなる、という承継者問題。そして、散骨や手元供養など新しい供養形式の台頭で選択肢が増
えたことによる情報・知見不足の問題です。
相談者にとってどのような方法が最適なのかを見出すのも終活力ウンセラーの役割です。本人だけでなく承継者の意見も重要となりますので、様々な商品の知識を踏まえ、最適な供養方法をご案内していきましょう。
(8) 専門家を探す際の注意点

① しっかりと顧客に説明をしてくれる専門家を探しましょう
専門家は当然、その分野の知識やノウハウを有していますが、願客にきちんとした説明をせずに、事を進めていては安心できません。見積もりに計上されている項目が明確明瞭であるか、専門的な分野を一般人にも親身にわかりやすく説明してくれるかなど、信頼できる人材であるかがこれからも専門家に求められるスキルでしょう。
また終活カウンセラーとしては専門家にバトンタッチするのではなく、相談者の一生涯の終活のカウンセラーになるよう、自身と相談者の中に「入ってもらう」ということが大切です。たらい回しが一番不安になるからです。

② しっかりと話を聴いてくれる専門家を探しましょう
専門家においても、終活カウンセラーにおいても、まずは相談内容を深く聴くことが重要です。
例えば、「お葬式の費用って高いですか?」という相談に対して、
「専門家の葬儀社さんにつなぐので、そちらで聞いてください」では不十分です。
なぜその質問をしたのか、その相談者の真の目的や意図が重要です。そのため深掘りすると、実は親の介護中で介護資金に困っている場合もありますし、逆に子どもに負担をかけないように遺言を検討しているなどが出てくることも多いです。
このように終活という領域を扱う際には、各業界の話を理解はもちろん、相談者が本当は何に困っているのかを深掘りして明確にすることが大切になります。
相談者もどこに頼ればよいのかわからないのが現状です。
そのため、漠然とした困りごとを整理し、相談者の意図・要望を添えて、各専門家におつなぎする観点を忘れずに持ち続けてくださしo

■ 例■ 頼りになる葬儀社(専門家)探し
お葬式はもともと、遺族が共同体の助けを借りて行うつましい儀式でした。清めたご遺体を棺に納め、墓地まで野辺送りにする際に使用する提灯や燭台を提供した葬具屋さんが、今の葬儀社の前身です。00葬具店と名乗っているのを見かけます。
お葬式に関する知識が豊富で必要な道具ー式もある、葬儀社の意義はそこにあるといってもよいでしょう。喪主や遺族をサポートし、時にはさりげなくリードして遺された方々の心の安らぎをサポートします。地元で長い歴史を誇る葬儀社なら安心度は高いといわれています。喪の仕事は地域の信頼なしには営業できません。高めの金額設定をする葬儀社もありましたが、ネットで情報収集する

ことができる昨今は、そのような会社も見かけなくなりました。決まった葬儀社がいない場合は、ネットの葬儀社選びサイトも頼りになるでしょう。
そのあと、あたりが付いたら、複数社に見積もりを依頼してください。可能であれば直接担当者と会ってもらうことをお勧めします。大切な方を亡くし、ただでさえナーバスになっている遺族にとって、「合わない」スタッフが営む葬儀は苦痛しかありません。施主には負担となりますが、数社の担当者と面談して自分の希望への回答や見積もりを比較・検討しましょう。葬儀が実際に行われるのは残念ながら相談者が亡くなった後です。そこも任せられるところなのか、希望を聞いているのかなどの目線も重要です。
近年の葬儀においては簡素化が進み、人を招かない形式や火葬場でお別れの儀を行うだけの直葬も選択肢として選ばれています。しかし、どんな形式にせよ、葬儀社の手は必ず必要になります。彼らはご遺体を扱うプロであり、悲しみにくれる遺族に寄り添うすべを知っているからです。施主の負担はかかりますが、故人とご遺族のそれぞれの事情を料酌し、行き届いた配慮をしてくれる会社を選びましょう。
(武藤頼胡)

■■コラム■■
終活を知る:① 介護医療

終活の専門家として取材を受ける際には、ほぼ「終活でまず、知っておくべきことは何ですか?」という質問を受けます。実は解答に毎回すごく悩みます。それは、人生は人それぞれ、 終活も100人いれば100様だからです。また突然方向転換や後戻りなど気持ちだけでなく、自分や家族の形によって変わる
ものだからです。
本来取材では読者の層を予測して具体的に示していますが、今回は終活の入口となり得る5つの専門要素をお話ししたいと思います。

① 介護医療
■ 元気なうちに家族と方針を決めておく
終活の相談を受けていて、最も歯がゆいのがこの点です。今すでに介護者(家族などに要介護者がいて対応している
人)である人からは、「今さらエンディングノートや万が一の話なんてできない」といった声を聞きます。逆に要介護者(介護が必要な方)からは、「これ以上家族に迷惑をかけたくない」といった声を聞きます。互い同士が思い合っていても、病気やケガといった障害によって、ある日突然、コミュニケーションができなくなることも少なくありません。
「こうなる前に考えておけば……」という想いを目にするたびに、終活の普及を少しでも多くの人に広げていきたいと痛感します。
厚生労働省のデータ(「介護保険事業状況報告の概要」令和 3年10月暫定版)によると、現在日本の高齢者の5人に1人が介護や支援が必要と認定されています。介護はとても大きな

精神的、身体的、経済的な負担がかかります。そこで元気なうちに方針を決めるメリットがあります。
・多くの身内が集まりやすい
実際介護状態になってから身内に声をかけても、「介護」の事実がそこにあるので二の足を踏むこともあり、本当に手助けできる親しい身内のみしか集まらないという現状もあります。元気なうちなら「万が一に備えて話したい」という声かけな
ので甥や姪、いとこまでも参加するケースもあります。
・「介護の失敗」とならないように
以前、介護用品経営者に聞いた話です。「介護の成功」は、一人の人間は選択が一つしかできないのでわからないが、「介護の失敗」は、間違いなく家族が要介護になってから家族の方針が合わず揉めていることだそうです。その場になっての家族がうまくいっていない様子は要介護者にとっても悲しいことです。
・介護離職を防ぐ
社会問題になっている介護離職。「もし母が介護状態になったら」などを決めていなくて、突然介護状態になってしまった場合に起こりやすいケースです。実際に介護が始まったときに決めていたことと違う形になるかもしれませんが、何も話していない状態よりスムーズになります。
「もしも」を考え毎年家族で話し合う時間を持つことが何より大切です。
(武藤頼胡)

4 相続分野のコンサルタント
としての活動に求められること

(1) 主な活動内容

ここでは、相続コンサルタントの活動内容について紹介していきます。「1 「相続」「終活」とは」でも少し触れましたが、相続コンサルタントは士業である必要はありません。
始めようと思えば、主婦でも定年退職をされている方でも相続コンサルタントになることはできます。
相続コンサルタントと名刺に入れてしまえば、あなたも今日から相続コンサルタントです。
そうはいっても、具体的に何をするのか気になりますね。
主な活動内容としては相続セミナーを開催したり、HPやブログ、SNS等で相続の情報を発信したりしていきます。
実際には相続のセミナーを開催し、その後にセミナーの参加者から相続相談を受任するというケースが多いと思います。
受任の流れは以下のとおりです。

口相続相談を受ける

口相続相談についてアドバイスをする

口相続相談の解決策を専門家とチームを組んで提案する

口相続チームの中では司令塔の役目を果たし、リーダーシップをとり解決へと導く


口場合によっては相続コンサル顧問契約を結び、相続発生まで見守り、あるいは二次相続・三次相続を見据えた関わりをする

司令塔としての役割をイメージしたものは以下のとおりです。参考にしてください。

相饂んでいる方
( 一載の方 )

(弁■士)(II滋●士)(覗遭士)(行政●士)(不●●●竃士)
…ト9ブル0..鼈罰` ’'鶴0鰭●●(纏g …'口”‘●●’量1, ...馴’‘‘.. .`..“”|

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出典:一般社団法人相続診断協会
https://souzokushindan.com/inheritance_consultant.html

(2) 相続分野のコンサルタントの営業形態及びどうしたら相続コンサルタントになれるのか
まずは、営業形態にはどういったものがあるのかを紹介します。
① バックエンド商品を持たない相続コンサルタント事務所
保険や不動産などの商品を持たず、純粋に相続コンサルタント業務だけで売上をたてている事務所のことです。
独立型ファイナンシャルプランナー事務所などで兼任しているこ
ともあります。多くの場合、社員を持たず、個人事業形態やl人で会社を経営している形態が多いようです。
■ 長所:取扱い自社商品がないため、保険商品を販売する目的や不
動産を販売することが目的ではない公正・中立的な立場でアド
バイスが可能。
■ 短所:保険商品や不動産の知識不足とならないよう自己研鑽をき
ちんと行わないと顧客から信頼を得られず受任ができないことも。自分の事務所では不十分な分野は信頼できる専門家とチームを組み補完する必要がある。
また、社員を抱えていない個人事業形態やl人で経営している会社の場合は、担当であるコンサルタントが高齢や死亡した際に受任した顧客の後任を決めておかないと責任を負いきれなくなることもある。「先生が亡くなった後、遺言執行者はどうなりますか?」という質問に対してしっかり仕組みをつくっておきたい。(仕組みの1つとして後述する「※参照」の団体の利用も有効)
② 保険業と兼業の相続コンサルタント事務所
保険商品を取り扱っている代理店及び代理店の社員が相続コンサ
ルタント業を兼任している事務所のことです。社員全員が兼任する場合と一部の社員だけが兼任する場合があります。
■ 長所:相続対策で保険が必要な際に、コンサルタントの事務所が

対策の提案と同時に保険の提案もでき、長い付き合いの方からの相談も多く、すでに信頼関係ができているため対策が進みやすい。
また、法人を受任者にしておけば社員がいる場合は、遺言執行や死後事務を受任しても顧客に安心していただける。
個人事業形態や社員がいない場合は①と同じく仕組みづくりが
大切。
■ 短所:顧客にしっかり納得がいく提案ができないと保険を売るこ
とが目的ではないかと思われることもある。また、自社で扱っていない保険商品は他の代理店などと提携していない場合、保険契約に関しては契約に至らないこともある。
③ 不動産業と兼業の相続コンサルタント事務所
不動産業と相続コンサルタント業を兼任している事務所です。経営者がコンサルタントを兼任する場合もあれば、特定の社員だけの場合、社員全員がコンサルタントを兼任するなど会社の規模によっ
て様々です。
■ 長所:相続対策に不動産が絡むことは多く、不動産に強いコンサ
ルタントであれば、その点も安心できる。
士業とのパイプがすでにできているケースも多いため、ワンストップで問題を解決しやすい。
■ 短所:相続税対策においてどうしても不動産に誘導しがち。不動
産も相続対策の1つの手段に過ぎないとわきまえることが必要。不動産以外の知識が不足しがちなので、その点も学ぶ仕組みづくりは必須。
④ 士業事務所と兼任の相続コンサルタント事務所
行政書士事務所・税理士事務所などの士業事務所が相続コンサルタント業を兼任していることもあります。
実際、大手士業グループが相続コンサルタント事業部という形で業務を行うケースが増えてきました。

■ 長所:大手事務所の場合は複数の士業が在籍しているため、いわ
ゆるワンストップサービスがその事務所内で完結するので、大きな差別化といえる。
個人事務所の場合は、税理士で相続コンサルタントや、行政書士で相続コンサルタントというように、自身の専門分野に関しては他の事務所より優位になり信頼されやすいといえる。士業
の看板はやはり強い。
■ 短所:大手事務所の場合、担当が社内で毎回変わる場合や士業で
はないアシスタントが相談窓口のこともあり、伝言ゲームのように意思の疎通がとりにくいケースもある。
また、報酬が高くなる傾向にあり、相談する側からすればハードルは高くなる。
「大した財産がないので大手には相談しにくい」から、筆者のところに相談に来たという方も過去に何度かあった。
⑤ その他の業種
遺品整理業・探偵事務所・IFAなど、どんな業態でもなろうと思えば相続コンサルタントを兼業することは可能です。
遺品整理も相続・終活との親和性が高い業種ですし、探偵事務所は相続人の中に行方不明者がいる場合に依頼することもあります。証券が相続財産に含まれている場合はIFAなど証券の知識があるコンサルタントの力が必要になるケースもあります。
⑥ 銀行など大手金融機関も参入
最近は、大手金融機関も相続コンサルタント業に参入してきています。信託銀行・大手銀行や地方銀行だけでなく、某大手証券会社は全国の本支店に約160名の相続コンサルタントを配置し、「相続」や「贈与」のアドバイスをしているようです。

次に、相続コンサルタントにはどうしたらなれるのでしょうか?
「(1) 主な活動内容」のところでも少し触れましたが資格が必要

な仕事ではないため、名剌に「相続コンサルタント」と入れれば、今すぐなれます。
とはいえ、今まで相続の仕事に関係のない全く違う分野の仕事をしていた方、あるいは専業主婦で子どもの手が離れたので何か社会貢献につながる仕事をしてみたいという方の場合は、知識や実務経験に自信がなく一歩踏み出せないかもしれませんね。
士業である必要はありませんが、民法や税法も絡む分野の仕事ですから全く知識がなくてよいわけではありません。
まずは、相続診断士®などの民間資格を取得し、最低限の知識を身に付けてから活動を始めるとよいと思います。具体的な勉強方法などは事項で説明いたします。

※参照:一般社団法人全国遺言実務サポート協会
(https:/ /yuigon.org/)
遺言者が亡くなるのはいつになるかわかりません。
遺言執行者や死後事務を行う際に、受任した相続コンサルタントや士業が高齢や死亡が原因で実行できなくなった場合、新たに遺言執行者を選任しなおす必要があったり、死後事務に至っては実行する人が不在で放置されてしまうかもしれません。そのようなことが起こらないためこのような団体と共同受任をするか、第2順位に指定しておくと顧客の想いを確実に実行できるといえるでしょう。
「笑顔相続の実現を願う誠実な事業者である協会会員が安心して遺言執行・死後事務委任業務を遂行できるよう、正しい知識と遂行ノウハウを提供します。また、会員の遺言関連業務を協会が共同で受任することで、遺言執行業務が長きに亘って遂行される仕組みを整えます。」(全国遺言実務サポート協会のHPより抜粋)
(3) 相続分野のコンサルタントとして重要と思われる資質

相続コンサルタントには誰でもなれるとしても、顧客から選ばれ

受任して報酬につながらなくては事業として成立しません。そういう意味ではやはり向いている方、向いていない方がいるように感じます。
ではどんな資質があることが望ましいのでしょうか。
以下では、筆者が今まで実務で色々な相続コンサルタントと関わってきた中で感じたことを紹介します。
① 顧客対応力
願客対応力と一口にいっても色々な要素が含まれています。
特にヒアリングカが大切なことはいうまでもありませんが、具体的には、ヒアリングカとしてはまず2つ、「傾聴力」と「雑談力」、チームカとしては「リーダーカ」、最後に受任するための「クロー
ジングカ」、この4点は押さえておきたい願客対応力です。
■ 傾聴力:人は自分の話をしっかりと心から聞いてくれる人に心を
開くといわれています。
顧客の話をなおざりではなく、本当に自分の家族の相談を受けている心持ちで傾聴し、本音を引き出していく力をつけることが大切です。
気持ちのこもっていない相槌を打っていませんか?
今一度、自分の傾聴の仕方を振り返ってみてください。特に初回のヒアリングにはしっかりと時間をとり、心を開いていただけるよう顧客の想いと向き合ってください。筆者は、最低90
分は初回ヒアリングに時間を割いています。
■ 雑談力:ヒアリングのときはいきなり核心に触れるのではなく、
なるべく心を開いていただけるような工夫も大切です。信頼関係を結ぶためにもお互いの人となりを知る上でも、趣味のことや好きな食べ物や最近見たテレビの話など、大いに雑談をしましょう。
ただ、一部で雑談を嫌う方(経験上、男性に多い)もいますので、そのあたりはよぐ性格を見極めることも大切です。

■ リーダーカ:チームを率いて司令塔の役目を果たすのも相続コ
ンサルタントの役目の1つです。進捗状況を把握してチームでミッションが完了するように導く力も必要です。士業が兼任の場合は問題になりにくいのですが、士業ではない相続コンサルタントは士業に対して依頼する際に気が引けることがあります。ただ、すべては願客のためであることを忘れず、相手が士業だったとしても顧客のために正しいことであればしっかりと意見を述べることも時に必要です。ただし、相手が誰であったとしても敬意を失わず言い方は工夫しましょう。単刀直入に意見
を述べるだけがよいわけではありません。
■ クロージングカ:相続対策の提案は受任してこそです。
毎回、無料相談で終わっていてはただのボランティアですね。ボランティアとして相続コンサルタントをしたいのであれば話は別ですが、しっかりとした事業として考えているのであればクロージング(契約の締結)は避けて通れません。
顧客に、この人に任せよう、この人の提案を受けようと思ってもらうためには選ばれる必要があります。クロージングカを上げるには人間力も上げる必要があり、それらは傾聴力や雑談力にもつながる力だといえます。そして、何より実務をたくさん積み上げる中で磨かれていく力でもあるため、ー朝ータには身に付かないともいえます。諦めずに淡々と目の前の願客に真剣に向き合ってクロージングカを磨いていきましょう。
これらの力を磨くことが顧客対応力につながり、真の選ばれる相続コンサルタントとして活躍できるのではないでしょうか。
② 報告・連絡・相談
どんな仕事でもそうだと思いますが、いわゆる「ホウレンソウ」といわれている「報告」「連絡」「相談」、意外とできていない方もいます。今さらここでは「ホウレンソウ」の定義について詳しく説明はしませんが、チームで仕事をする相続コンサルの仕事は特に「ホ

ウレンソウ」が大切です。
司令塔である相続コンサルタントが進捗を知らされていなければ、願客の問合せに答えることができません。また、質問事項があった際にも話が見えません。不測の事態が起こることもありますし、納期が遅れることや仕事上でミスをすることもないとはいえません。そんなときにもしっかりと「報告」「連絡」「相談」を他のチームメンバーと行い、万が一にも顧客の信頼を損なったり迷惑をかけたりすることのないよう、プロとしての自覚を持ちましょう。
③ 人脈のつくり方
相続コンサルをするチームは、どのようにつくればよいでしょうか? 異業種交流会に出て名剌交換した方とチームを組んでもよいと思いますし、知り合いから紹介いただくのもよいと思います。
ただ、筆者はそのやり方であまりうまくいかなかったので今はやっていません。できれば、自身の理念と共通する団体に所属して、そこで信頼関係を構築して人脈をつくることをお勧めします。
民間資格である相続診断士は全国に4万4,000人の資格取得者がいますが、弁護士・税理士・司法書士・行政書士といった士業の方から不動産業・保険業・ファイナンシャルプランナー・遺品整理業など多種多様な方が在籍しています。
■ 相続診断士の業種
(2022.81現在)
出典:一般社団法人相続診断協会
https:/ /souzokushindan.com/inheritance_consultant.html

筆者が会長を務める相続診断士会は全国の都道府県に34か所あり、毎月どこかの県で相続診断士会が開催されています。
共通理念は「笑顔相続の普及」です。争う相続を1件でも減らし
笑顔の相続を広めていくことをミッションとしていますので、共通理念として仲間を探すにはうってつけの場といえるでしょう。
相続診断士以外にも、こういった理念を掲げている民間資格や団体があると思います。皆さんにとって価値があると思える団体に所属するのも、人脈を広げる上で役に立つでしょう。
④ チーム編成のコッ
チームを編成する上でも、コツというか気を付けたほうがよいことがあります。
① 顧客の性別
② 顧客の性格
③ 顧客の生い立ち
筆者はこれらを考慮してチームを編成するようにしています。 例えば、高齢の女性でご主人に先立たれた方の場合は、全員が女
性のチームを組むことがあります。
それは、あるお客様からこんなことを言われたことがきっかけです。
「先生、私、あの男の先生の話し方が威圧的で怖いんです。なんだか委縮してしまって……。それに、もうおばあちゃんですけど家に男の方をあげることに抵抗があります。毎回、必ず先生がご一緒してくださるならいいのですが……」。
また、ある元教師をされていた男性の方からは、
「できれば、男性で寡黙なタイプの先生だと嬉しい。女性は雑談が多くて面倒だから!」
と、雑談を繰り広げている最中に釘を刺されてしまったこともあります。
いずれも目からうろこでした。お客様から教えられることは多々

ありますが、駆け出しの頃の筆者はその視点を持っておらず、とても学ばせていただきました。
それ以来、①②③を考えてチームを組むようにしています。 ここでも、前述した「傾聴力」や「雑談力」が役に立ちます。
初回ヒアリングでその点をしっかり見極めて、どういう性別のどういう専門家でチームを組むのかは大切だと考えています。
チーム編成を間違えると、顧客から突然「相続対策はよく考えましたが今はまだやらないことにしました」と言われることもありますから。
皆さんも色々な専門家とつながって、願客にとって最適なチームを編成するようにしてください。
(4) 集客の方法・見込み客のつくり方

集客の方法や見込み客のつくり方は相続コンサルをする上で、気になる項目ではないでしょうか?
まずは、筆者が行ってきた集客の仕方を紹介します。
① チラシの配布
高齢の方はPCを使わないもしくは持っていないことが多く、新聞の折込チラシやポスティングのほうがまだ見ていただけることが多いため、この方法を使いました。
夕刊の配られる手前を狙うと夕刊と一緒に取り出してもらえるため、捨てられてしまう確率を減らすことができました。
ただ、1,000件配っても問合せは1件か2件であまり効率的とは
いえませんでした。
② ミニコミ誌へ広告を出す
地域新聞などに広告を出して集客を試みたこともあります。
こちらは、相続セミナーなどは反響もよかったのですが、同じ内容のセミナーを何度も載せると飽きられて急に集客率が落ちました。また、そんなに高くはないとはいえ宣伝広告費がかかるため、

開業当初の予算が少ない時期は厳しいといえます。
③ 月ーはがき
開業してから14年間欠かさず月に1回はがきを出してきました。その中でセミナーの告知をしたりちょっとした情報を提供したりして、次にセミナーを開催するときには知人や友人を連れての参加や親子・夫婦で参加していただいたこともあります。
継続は力なりで、何年も続けていると自ずと紹介もいただけるので現在も継続して行っています。
④ HP作成・ブログやTwitter· FacebookなどのSNSの活用
高齢の方でもPCを使う方もいますし、お子さん世代はPCから情報を得ているためHPやブログ、SNSでの集客も有効です。特にブログで情報を発信し続けていると時間はかかりますが、ブログを見た方からの問合せが増えるようになります。ただ、HPを作成するだけではなくブログと連動させることで信用力も高まっていきますので、ブログやSNSで情報発信することをお勧めします。

これらが主に筆者が行ってきた集客方法の紹介です。
次に見込み客のつくり方です。こちらも筆者が行ってきたことのご紹介です。
⑤ 相続セミナーの定期開催
筆者の場合はお寺でエンディングノートの書き方セミナーを定期開催することから始めました。
6回lセットで少人数制にし、当時は手作りのエンディングノー
トに「縁ディング(縁が続く)ノート」と名称を付けて配布し、一人ひとりにしっかり向き合い、6回が終わる頃には人間関係や信頼関係もできていたため、参加者がそのまま見込み客となっていました。・
要は、セミナー参加者が見込み客になるようなセミナーを開催す
る必要があるということです。

役に立つ学びがあることはもちろんとして、この人に真剣に相談したいと思ってもらえるような内容となるよう工夫してください。少人数のセミナーは一人ひとりに目が行き届き、信頼関係を築き
やすいのでお勧めです。
⑥ ご紹介
ご紹介をいただけるようになると一人前といえると思います。 顧客が顧客を紹介してくれるのは、仕事に大満足をしてもらえた
証拠です。
「この人なら自分の大切な人を紹介してもいい!」と思ってもらえる仕事ができたときに、紹介の話が出てくるでしょう。
筆者は紹介してもらうためのーエ夫もしていました。それは家系図作成です。
相続対策や遺言作成の手伝いの際には、戸籍を集めることが多々あります。その際に委任状をもらい、直系だけになりますが遡れるところまで遡り、家系図にして額装してプレゼントするのです。お渡しするときに一族の思い出話を質問していると、必ずといってよいほど「そういえば、いとこも子がいないので、誰に財産を渡したらいいか悩んでいたなあ」「嫁の親も対策しないと困るはずだ」などと先方からどんどん話を振ってきてくれるので、それに対し簡単なアドバイスをすると、「紹介するので、ぜひ力になってやってほしい」と言われました。
家系図をサービスすることで一族の深掘りができ、それが紹介につながるのです。興味のある方は試してみてはいかがでしょうか。
(次頁の図は筆者が作成し使っている家系図)
(注)家系図作成は行政書士の力を借りて作成する場合もあります。利用目的によってはコンプライアンス違反となるため注意しましょう。

ェ ロ
よ 姪
。し 甥 一
す ま

〗三
誌 〗 〗 芦
るれく ぼつの




二三ロ

ここ〗〗

瀕 濶 翠謡

⑦ 相続診断チェックシートの活用
相続診断士であれば相続診断協会のHPより相続診断チェックシートを活用することができます。
筆者はこれを知人やそのご家族・今までセミナーに参加してくれた方などに返信用封筒を付けて送付しました。
このシートに書かれている質問に該当する箇所にチェックを付けると簡易相続診断ができます。危険度・緊急度が書かれており、さらに簡単なアドバイスもついているので、それを見た方は、我が家の問題を可視化することで対策したくなるというわけです。
誰しも健康診断で要精密検査や要治療と診断結果が出たらほうっておくことができず、病院を受診すると思います。
要は、この結果を送付することでニード喚起ができ相続相談が受任できるということになります。

見込み客のつくり方はほかにも色々とあるでしょうが、筆者のやり方を紹介しました。参考になれば幸いです。

■ 相続診断チェックシート

下記項目で当てはまるものにVを入れてくださいI記入日 年 月 日
口 1 相続人に長い間連絡が取れない人がいる
口 2相続人の仲が悪い
口 3親の面倒を「見ている子ども」と「見ていない子ども」がいる
口 4 上場していない会社の株式を持っている口 5分けることが難しい不動産や株式がある口 6財産は何があるのかよく分からない
口 7一部の子どもや孫にだけお金をあげている
口 8会社を継ぐ人が決まっていない
口 9先祖名義のままになっている土地がある
口 10家族名義で貯めているお金がある
口 11特定の相続人に多く財産を相続させたい
口 12再婚している
口 13配偶者や子ども以外の人に財産を渡したい
口 14連帯保証人になっている
口 15相続する人に「障がい」や「未成年」「認知」等の人がいる
口 16「借りている土地」や「貸している土地」がある
□ 17相続人が「海外」や「遠い場所」にいる
口 18財産に不動産が多い
口 19借金が多い
口 20友人や知人にお金を貸している
口 21誰にも相談しないで作った遺言書がある
□ 22相続税がかかるのかまったく分からない
口 23誰も使っていない不動産がある
口 24大きな保険金をもらう子どもや孫がいる
口 25子どもがいない
口 26なかなか入居者が決まらない古いアパートがある
口 27誰にも相続について相談したことがない
口 28子どもは皆自宅を持っている
口 29古い書画や骨董を集めるのが好きだ
口 30子どもが相続対策の相談に乗ってくれない
● ご記入いただいた鬱人懺●はご本人の霞・がCし囀り夏三●1こは麗倶いたしません· •艶紀●●●●●ず
一般社団法人相続診断協会 取扱相続移断士

■ 相続診断結果シート

]様作成日:2021年10月21日
> 取扱相続診断士: 123456笑顔太郎

チェックシート内容
□ 1相続人に畏い間運絡が取れない人がいる
□ 2相続人の伸が懇い
□ 3籟の面倒を「見ている子どもJと[見ていない子どもjがいる
n 4 日頃l,ていない令叶の控寸苓培っている
..

あなた様の相続診断結果は
財産璽皿三巴
I•

9三国璽

がある

□ 7一郎の子どもや孫1こだけお金をあげている
□ 8会社を継ぐ人が決まっていない
□ 9先祖名轄のままになっている土地がある
)()10家族名蓑で貯めているお金がある
□11特定の相続人に多く”l!i!を相続させたい

相 \バ

□12両婚している
XI 13配偶者や子ども以外の人に財産を濃したい
□14連帯保証人になっている
XI I5相騒する人に償汎9」やI未成年)I認則疇の人がいる
口16[fl!りている土地lや「貸している土地」がある口17相続人が[渇外Jや「還い場所Jにいる
□18財産に不動l!i!が多い
□19fll金が多い
□20友人や知人にお金を貸している
□21難にも相談しないで作った遺言●がある
□ 22相既税がかかるのかまったく分からない
□23難も伎つていない不動産がある
XI 24大きな保険金をもらう子どもや孫がいる
□25子どもがいない
□26なかなか入居者が決まらない古いアパートがある
l() 27難にも相続について相談したことがない
□28子どもは皆自宅を持っている
□29古い●画や骨重を集めるのが好きだ

••.•...· •. .•L I.•·. .· /
. · •../.•·........

相続対策 その他

危険度ランクが99’の:

得I •危険度ランク 99* 点
C)

産分割

□30子どもが相続対策の相談に乗ってくれない

点I •緊急度ランク心し

こ」二しE

9相続手続きが遺まない可能性があります。大至急専門家に相談して下さい。

3生前贈与、遭言作成をこ検討下さい。

4相続手続きのため、後見人・特別代理人等の選任が必璽になる可能性があります。

5.不公平が争族を生む可能性がありますのでこ注憲下さい。

6相続対策は、相続人(家族)と情輯を共有しておくことが重璽です。

(5) 学びの方法

学びの方法も色々とあります。
筆者は常日頃から、「知識は礼儀」と自身が主宰する相続コンサルタント向けの講座やオンラインセミナー等で話をしています。
相続の分野は幅広く、生命保険の知識・不動産の知識・相続税法や民法・終活の知識など挙げればきりがありません。
その上、毎年のように税制改正や民法の改正があります。
配偶者居住権や自筆証書遺言の保管制度などは最近の改正でしたが、今後の改正といえば令和3年4月21日「民法等の一部を改正する法律」(民法等一部改正法、令和3年法律第24号)及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法、令和3年法律第25号)が可決成立し、令和5年及び6年から施行される件でしょう。この件について知らないという方は勉強不足と言わざるを得ないと思います。
知識は誰のために必要ですか? それは皆さんを頼って相談に来られるお客様のためです。
ただ、範囲も広く覚えることも膨大なため、そのすべてを網羅す
ることは難しいですし、必要ないと思います。
知識ばかりを蓄えることに一生懸命になり、いつまでたっても実務をされない方をたまに見かけます。自分はまだ知識が浅いので自信がない、とおっしゃるのですが、それでは本末転倒です。士業と同じ知識までは必要ないと思います。安心して任せられる専門家とチームを組んでいれば足らない部分は補完してもらえますから。
前置きが長くなりましたが、本題に入りましょう。筆者自身がやってきたことを中心に紹介します。
① 専門書などの書籍で学ぶ
筆者が開業した14年前は学ぼうとしても書店のどこにも相続コンサルタント向けの書籍は置いていませんでした。あるとしても士

業向けの専門書だけ。
しかし、今は書店にはありとあらゆる相続本が並んでいます。 初心者向けのもの、一般の方向けのものから始まり専門性の高い
ものまで自由に皆さんのレベルに合わせて選ぶことができます。 書店であれば、自分に合うテキストをその場で選べますね。慣れ
てくればAmazonなどネットを利用して手軽に入手することも可能です。
② ネットサーフィン
ネットでわからないことを検索すると今は色々な情報が出てきます。先ほどの「配偶者居住権」と検索すると、50万件以上がヒットします。ただ、ネット検索の怖いところは情報の信ぴょう性です。たまに間違った解説をしているページもあり、間違った情報を覚えてしまう危険性があるため、情報の出どころはしっかりと精査しましょう。公共の機関から出ている情報は信用できます。
筆者も国税庁や法務局のHPからデータを取得しています。
③ 相続の資格団体で資格を取得して学ぶ
相続の資格は数多くあります。筆者が調べたところによると以下のとおりです。
相続診断士、相続アドバイザー、相続士、相続鑑定士、相続カウンセラー、相続法務指導員、相続知識検定、相続実務検定、相続マイスター、相続支援コンサルタント、相続ファシリテーター、相続管理士、相続対策プランナー、相続実務コンサルタント、相続コーディネート実務士
その他にもあるかもしれませんが、主なものだけでも15件。ど
れを取得するのがよいか悩みますね。
それぞれHPがあり資格の詳細が紹介されているので、自身にとってよいと思うものを選んでもよいですし、歴史も長く取得者数も多く、継続して学べる勉強会などが充実しているという点では、相続診断士が一番ではないでしょうか。

まずは、自分で調べてみて選んでください。
④ 士業や相続の専門家が主宰する研修で学ぶ
税理士・弁護士・司法書士や筆者のような相続コンサルタントが主宰する研修が多くあります。
学ぶ期間も一度きりのものから半年・一年かけて学ぶもの、通学スタイルやオンラインスタイルのものなどがあります。研修費も安価なものから高額なものまで様々です。
高額だから内容が濃く安価だから内容が薄いということはないですし、一年かけて学ぶことが向いている人、短期で学ぶほうが向いている人もいて、一概にどのパターンがよいかはわかりません。
自分の生活スタイルや何を学びたいか、その結果どうなりたいの
かをしっかりと考えて選ぶとよいでしょう。
選択の責任は皆さんにありますし、お金をかけてもかけなくても、知識がつき相続コンサルタントとして成功するかどうかは、皆さん次第だと思います。
(一橋香織)

■ 筆者使用のヒアリングシートの例
業務受付表

フリガナご依頼人 ご職業
生年月日 □大正 □昭和 □平成 年 月 日 ( )歳
住所 都道
府県 〒
(世帯主:


本籍 都道府県

(筆頭者:


連絡先 自宅 (
携帯 (
FAX (
メールアドレス

連絡可能時間: □いつでも )


口指定(


依頼内容 口相続対策コンサルティング口遺言書作成
□エンディングノート作成
口生前整理・遺品整理
口死後事務委任契約 日
口終活相談
□その他
[備考]
※依頼に係る報酬は、別紙報酬規程を参照
本人確認書類 口運転免許証 口健康保険証 □年金手帳 □その他( )
笑顔相続コンサルティング株式会社東京都足立区千住東2-1-6 TEL: 03-6679-6276

■■コラム■■
知識は礼儀。そして知識は誰のために必要?

皆さんは終活・相続コンサルタントになるにあたってどういう勉強をしていますか? 第1章4の中の「(5) 学びの方法」でも触れていますが、学び方は人それぞれ、自分に合うやり方を探してもらえればと思います。
では、知識は必要なのでしょうか?
この本を手に取っていただいている皆さんには愚問だと思いますが、改めて問いたいと思います。どうでしょうか?
「少しは必要」「すご〈学ぶ必要がある」、これも人それぞれ色々な答えがあると思います。ただ、筆者は【知識は礼儀】だと考えていますので、「必要」だと即答します。
お客様は私たち終活・相続コンサルタントにはそれなりの知識があると考えて相談に来ます。もちろん、第1章4にも書いたとおり、士業並みの知識までは必要ないと思いますが、何を聞かれても「わかりません」「調べておきます」「士業に確認します」という回答ばかりが返ってきたらどうでしょうか? 皆さんだったらそんなコンサルタントに仕事を依頼しますか?
やはり、知識はある程度必要ですし、学び続ける姿勢は大切です。それは、誰のためでもなく自分を守るため、そしてお客様の信頼を得るため、お客様にきちんとした提案をするため、ではないでしょうか?
人は自分に甘く他者に厳しいものですが、一流とはやはり努力を続ける先にしかないと筆者は思います。
皆さんはどんなコンサルタントを目指しますか?
一流の選ばれるコンサルタントを目指すのなら、答えはおのずと出ると思います。
(一橋香織)

5 終活分野のカウンセラーとしての活動に求められること

(1) 主な活動内容

終活カウンセラーの活動は終活支援です。
今まで「縁起でもない」とされたこの分野、いきなり専門家を訪ねるなどとても終活者はできません。そこで敷居を低くして「なんでも聴きます」という姿勢で「その方の終活を一緒に考える」ことが最も重要です。
そして何よりの強みはこれからの人生の流れに合わせた相談が一元して対応可能なことです。通常であれば一歩目の相談であっても、老後の資金はFPや年金機構へ、介護の相談は地域包括支援センターや介護施設へ、葬儀は葬儀社、お墓は菩提寺や霊園、相続は士業へと本人や家族が渡り歩く必要がありますが、終活カウンセラーがいれば、上記を包括して対応できます。
① 相談業務
相談業務の開始点となるのがこちらです。相談者は今までの日本社会から、この分野に触れていないことは先に話しました。まずは不安の矛先を一緒に考えることが必要不可欠です。相談者によってどんな分野や相談内容が飛び出してくるかわからないので、広く様々な「入口の知識」が必要なのです。後に述べていますが、その点からも相続診断士との協業など他業種、業種だけでなく色々な知恵が集まり、 1人の相談者を支援していきます。
なかなか専門職でないと相談業務に踏み出せない方もいるようですが、実際に、終活相談は予測がつきません。遺言に関心があり相続の話かなと思って聞いていると家族関係の話であったり、お葬式

の相談かと思うと似て非なるお墓のことであったり。筆者自身も、これは終活相談というより人生相談なのでは? と思うこともしばしばあります。
その点から「聴く」ということを大切にしているため、いかに人に対して興味を持つか、わかりやすく言うと昔はよくいた「入口の知識のある近所のお節介おばちゃん」になれるかだと思います。そして終活カウンセラーに思うがままに話をしたことで悩みが明確になり、そのあと家族に話をして終活の実行となり、こちらの支援業務がスタートする、ということも珍しくありません。
要は、核家族化に歯止めがきかない昨今、身近に漠然とした話であるが誰に相談してよいかわからない問題を解決できるのが、入口の知識を持つ終活カウンセラーだということです。
さて、利用者の相談体系の話として、筆者が開設している終活相談支援センターを例に出して紹介します。

【相談メニュー】 ※内容によって多少増減することもあります。

初回相談 無料
2回目以降 1回00円(2時間)
初回(事務所対面) 無料
交通費 実費

終活カウンセラー協会運営の終活相談センターでは、初回相談無料として、終活カウンセリングの時間をたっぷりととっています。内容は悩みごとの把握と信頼関係構築が主です。終活相談はセンシティブな情報を扱うため、まずは相談者自身に相談してよい人間かどうかを判断していただく時間としています。並行してある程度時間をとれば、その方の不安のありかを把握できますので、初回で次回の希望をいただければ、用意しておいてほしい書類や考えを宿題としてお持ち帰りいただき、2回目に移行します。

相談のはじめに相談費用の話も忘れずにお伝えしますが、2回目までのちょっとした質問や確認の連絡は、電話やメール等のやりとりが軽いものでしたら料金をもらわずに進行します。
金額は皆さんの自由でよいと思います。無料、有料だけでなく、金額帯(500円~数万円)など、自分が納得いくレベルで掲示すればよいです。相談者も金額と人柄や対応を比較検討し、2回目以降の有無を相談者自身で判断するでしょう。
ちなみに終活相談センターにおける1案件クローズまでの相談回数はまちまちで、 1回で終わる方もいれば家族などの相談に移行し、一生涯となることも多々あります。長いお付き合いになりますので、互いに相談内容をしっかりと共有することを忘れないようにすべきです。
② エンディングノート
具体的に終活をしたいけど何をすればよいかわからないという方には、エンディングノートを使って考えを整理することもあります。トークでまとめることもできますが、エンディングノートのように情報を視覚化することは想像以上に有力です。
筆者が代表を務める一般社団法人終活カウンセラー協会では、エンディングノート(終活ノート)はすべて書き上げることが目的ではないので、白紙があってもよいです。また最初のページから書く必要もなく、書きたい(書きやすい)項目から着手でも構いません。自由です。エンディングノートは、終活をするための単なる「道具」であり、人生と同じようにノートも人それぞれなのです。
協会が発行するエンディングノートは30頁程度ですが、関心のあるページから参照し、なぜこの設問があるのかをともに考えたり、ご自身のそれについての考えはどうかを自由に話していただき進めていきます。また実際に実行しないと書けないものがあるので仕上がりまでに時間を要します。
書くためのノートではなく、終活について考えるためのノートな

のです。
前述したように1項目書くだけでも時間がかかるので、ある程度ヒントやコツを伝えたら持ち帰ってもらい、決めた期日(次回面談日)までにその項目に取り組んでもらいます。わからない項目は適宜、メールや電話をいただければ回答しますが、その場で回答を得るよりも次回に方向性を整えてサポートをしながら、ある程度自分の足で歩いてもらうことも重要です。

【エンディングノートの作成メニュー】
※内容によって多少増減することもあります。

オンライン初回 00円/(2時間)
オンライン2回目以降 ▼▼円(2時間)
対面初回 ◇◇円(2時間)+交通費
対面2回目以降 xx円/ 1時間
ご家族一緒に 古女円

③ 終活支援
ここは非常に幅広いのでどこまでお伝えしようかと悩むところですが、意外なところから紹介しようと思います。
0携帯電話の契約
死後事務委任契約でも扱われることが多いので、死後に携帯電話を解約するなどといった案件は想像しやすいと思いますが、そんな要望を聴いていると、途中で疑問に思うことも起こります。例えば月に1時間ほどしか使用しない電話の契約に6,000円以上の固定費をかけてしまっている場合などです。
現在は各携帯会社において個人の通話だけの契約プランが減少
傾向にあり、なかなか話が難しいのですが、少し調整すれば3,000円代に下げられることもあります。携帯契約プランの見直しをしたから報酬がもらえるという話ではないのですが、相談者の人生の

ちょっとした支援につながり、ますます広い相談を受け、人生のコンシェルジュとして並走する関係性が築ける場合もあります。
0葬儀・納骨執行人
死後事務にも盛り込まれる葬儀執行人ですが、自分が亡くなった後に喪主や施主を頼める人がいない方からは、要望されることがあります。サービスの提供先によって内容が異なることもありますが、基本的には下記の内容がベースです。
・依頼者の死亡を受けて、葬儀社に連絡を行う
.葬儀、火葬の立ち会い
・遺骨の引き受け
・納骨
.葬儀代金の支払い
さらに、ここに至るまでの過程で葬儀の事前相談に同席、もしくは代行し、葬儀の見積もりを第三者目線でチェックして相談者に説明することもあります。葬儀に参列したことはあっても、見積もりを考えたことがある方は少ないと思いますので、セカンドオピニオン的視点も必要となります。
自分の死後の話だからこそ穴のないように整えなくてはならないのですが、そうはいっても難しいのが現状です。葬儀社が事前契約を日ごろから行っていればまだよいのですが、取り扱っていない場合は特に注意が必要です。
例えば、葬儀を行わない直葬というスタイルで希望を出し、次頁
ような見積もりが出てきたらどうでしょう。
今、葬儀の7割は亡くなってからの手配となっています。車l台買える費用のかかる可能性もある「お葬式」が、ともすればたった 1時間で決めなければならないという現状です。死んだ後と捉えず、自分の人生の延長線上のことという認識に、相談者がなってもらうようなカウンセリングが肝要です。

00様葬儀生前契約内容

・寝台車搬送料2回分(30km以内/1回)
• お棺代
・ご安置料金(1日)
・ドライアイス
.墓本セット(白木位牌、火葬料金、骨壺、引取り搬送料金)

計240,000円

価格を見れば、市場価格としても比較的安価ではないかと思いますが、細かくチェックしていきましょう。
・寝台車搬送料2回分 (30km以内/1回)
亡くなった知らせを受けてから、葬儀社が遺体を引き取り、火葬場や安置所に搬送してくれるというものです。大事なのは、もし搬送距離が見積もりを超えてしまったら費用はどうなるのかということです。入院中で余命宣告されている場合などでない限り、亡くなるタイミングや場所などがわかることはないですし、万が一、入院先が現在の居住地から離れた場所になってしまったら大きな問題となります。
・ご安置料金、ドライアイス
亡くなったら火葬をします。すなわち荼毘に付すということです。通常亡くなってから24時間を過ぎないと火葬はできません。現状としては火葬場が混んでいる地域や葬儀場が空いていないなどで、亡くなった翌日通夜、その翌日葬儀という流れにならないことも多く、安置の時間が長引く場合、その料金も変わってきます。
そのため生前葬儀契約の場合、相談者の許可をもらいながら多少多めの金額を預かるか、待ち時間で料金の変わらない設定にすることも必要です。多めに預かった場合の返金をどうするのかも契約書

に記載が必要になります。終活カウンセラーとしては細かいところですが、このあたりの把握も必要です。
そのほかに想定外の出費等がかかる場合もあるので、相談者の同意の上で内金として1万円ほど上乗せで準備してもらうのもよいと思います。使わなかったらどうするのかも双方の契約書にはあわせて記載をしておきましょう。
(2) 終活分野のカウンセラーの営業形態及びどうしたらカウンセラーになれるのか
終活相談業務(各士業法や保険業法に触れない範囲)において特定の資格は必要ありませんが、先述のとおり幅広い知識が求められる職種です。営業形態としては、士業や葬祭業をはじめとした企業・団体が兼業で終活相談に対応しているケースが多いですが、近年は終活相談を専門とする独立した窓口も増えています。
相談者の利益を最優先に考えることを前提に、相談時間や回数、コンサルで対価を獲得したり、場合によっては専門業への紹介で報酬を得ます。企業・団体では本業の流入拡大や顧客の回遊を高める目的が基本です。顧客がどの分野がきっかけで終活領域に入ってくるかはわかりません。

① 兼業の特徴
[介護事業との兼業の特徴】
例えば利用者に向けた終活サービスを提供している事業所などです。事業所は本人と家族両方に接点があるので、介護の先の知見とともに意思をどう実現するかを考えてくれるメリットがあります。
【保険業との兼業の特徴】
将来に向けた備えとして、保険を主軸に老後資金(介護保険や養老保険)や死後の備え(生命保険:葬儀や遺品整理、相続税対策)に関して、プランニングを行ってくれます。終活との親和性も高

く、事前にしっかり目に見えない大事なものを考える点では同じです。
【葬儀社との兼業の特徴】
残念ながら、大切な方が亡くなってはじめて色々と困る方が多いのが現状です。そんな際に真っ先に接点を持つのが葬儀社だと思います。日本で亡くなる方の75%が病院で亡くなるといわれていますが、まず葬儀社がご遺体の引取りに来て、手続きに関して教えてくれます。そうすると、相続やお墓のことなどを聞くとしたら葬儀社の場合が多いので、今は顧客対応のために、社員教育として、簡単な相続関係の基礎知識を備えている会社も増えています。
【寺院、霊園との兼業の特徴】
亡くなった後に末永くお付き合いをしていくのが、寺院や霊園です。寺院は本来、地域の福祉や教育の拠点の役割を担っていました。しかし、現代では関係性が薄れ、法事でしかお世話にならないこともあります。終活としては、近年はお墓参りを通じて、家族のことや自分の未来を相談する場として大切な場ともなっています。
[相続診断士との兼業の特徴】
ここは最も重要です。葬儀と同じく、(財産の大小に限らず)亡くなった方の全員に相続は発生します。相続診断士は、相続が発生したときだけでなく、事前に家族の思いや笑顔相続を目指すことをモットーに行っている点でも、終活カウンセラーとの兼業は必要です。

② 保険分野においての留意点
保険募集人資格を有していない終活カウンセラーができることは、相談者が加入中の保険の整理・把握をするためにエンディングノートを作成することを補助することですが、それだけでも相談者の終活には役立ちます。
保険募集人資格を有する終活カウンセラーが、保険ならびに各種

金融商品の整理・把握をする場合は、以下の観点で相談にあたることが重要です。
0加入(購入・預入)の目的を把握し、問題点を予測する
終活において保険は、相談者の希望を実現したり、相続において円滑に資産の分配や納税を行ったりするのに非常に役に立ちます。大切なことは、現在加入中の保険が相談者自身のそうした希望に沿う内容であるかどうかを、ファイナンシャルプランナーや税理士などの専門家と一緒に相談者と考えることです。
その際に、可能であれば以下のような情報が入手できると、専門家との連携もよりスムーズにできる可能性が高くなります。
・家族を含めて、相談者がどのような終活を希望しているか
・保険の加入状況ならびに金融資産の状況について相談者がしっかり把握をしているか
・現在の保険、金融資産または保有する不動産等の資産や家族構成で、相続における資産の分配等で問題となり得る懸念事項はないか
・保険の加入経路は何か。保険会社所属の外交員、代理店の募集人、これらの人との関係(身内、友人等)、通販など、見直しが必要になるケースが生じた場合に、スムーズにいくかどうか
現在はインターネットなどで気軽に保険に加入できるようになっています。非常に便利になった反面、加入に際して思慮を欠き、将来後悔することのないようにしたいものです。毎月支払う保険料が安いということだけに捉われると、必要な保障が得られない可能性がありますので、注意が必要となります。
0関連法令を遵守、消費者保護を図る
保険募集人資格を有しているケースでは、募集人の登録金融機関で、以下の関連法令の遵守についてすでに教育を受けていると思いますが、改めて法令遵守を徹底します。
保険募集人資格のないカウンセラーが注意を要することは、以下

の3点となります。
・保険の募集活動とみなされないよう注意する(募集人の資格がないと募集活動は行えない)
・相談者の個人情報管理を徹底する
・保険募集人をはじめ、ファイナンシャルプランナー、税理士等の専門家と連携して相談にあたる

関連法令の規定も俯暇してみましょう。

■ 保険業法300条(保険契約の締結等に関する禁止行為)
保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関して、次に掲げる行為(自らが締結した又は保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関しては第1号に掲げる行為(被保険者に対するものに限る。)に限り、次条に規定する特定保険契約の締結又はその代理若しくは媒介に関しては同号に規定する保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為及び第9号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。ただし、第294条第1項ただし書に規定する保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場合における第1号に規定する保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為については、この限りでない。
ー 保険契約者又は被保険者に対して、虚偽のことを告げ、

又は保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為 二 保険契約者又は被保険者が保険会社等又は外国保険会社等に対して重要な事項につき虚偽のことを告げることを勧
める行為
三 保険契約者又は被保険者が保険会社等又は外国保険会社等に対して重要な事実を告げるのを妨げ、又は告げないことを勧める行為
四 保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為
五 保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻
しその他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為
六 保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、ーの保険契約の契約内容につき他の保険契約の契約内容と比較した事項であって誤解させるおそれのあるものを告げ、又は表示する行為
七 保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、
将来における契約者配当又は社員に対する剰余金の分配その他将来における金額が不確実な事項として内閣府令で定めるものについて、断定的判断を示し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げ、若しくは表示する行為
八 保険契約者又は被保険者に対して、当該保険契約者又は被保険者に当該保険会社等又は外国保険会社等の特定関係者(第100条の3 (第272条の13第2項において準用する場合を含む。第301条において同じ。)に規定する特定関係者及び第194条に規定する特殊関係者のうち、当

該保険会社等又は外国保険会社等を子会社とする保険持株会社及び少額短期保険持株会社(以下この条及び第301条の2において「保険持株会社等」という。)、当該保険持株会社等の子会社(保険会社等及び外国保険会社等を除く。)並びに保険業を行う者以外の者をいう。)が特別の利益の供与を約し、又は提供していることを知りながら、当該保険契約の申込みをさせる行為
九 前各号に定めるもののほか、保険契約者等の保護に欠け
るおそれがあるものとして内閣府令で定める行為
2 (省略)

【罰則規定】:300条1項l号~3号の罰則
保険業法317条の2第7号により、1年以下の懲役もしくは
100万円以下の罰金、またはこれらの併科となる。
【罰則規定】:300条1項4号~9号の罰則
保険業法306条、307条により登録取り消しや業務停止命令または業務改善命令等の行政処分の対象となる。

■ 関係法令
終活カウンセラーの活動においては、エンディングノートの作成指導や相談の過程で、保険に限らず各種金融資産、金融商品の整理・把握という話題に発展する可能性があります。そこでやはり、消費者保護や情報管理に関する法令の存在を知って活動にあたることが重要です。
■ 消費者契約法1条(目的)
この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾

の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
■ 金融サービスの提供に関する法律1条(目的)
この法律は、金融商品販売業者等が金融商品の販売等に際し顧客に対して説明をすべき事項、金融商品販売業者等が顧客に対して当該事項について説明をしなかったこと等により当該顧客に損害が生じた場合における金融商品販売業者等の損害賠償の責任その他の金融商品の販売等に関する事項を定めるとともに、金融サービス仲介業を行う者について登録制度を実施し、その業務の健全かつ適切な運営を確保することにより、金融サービスの提供を受ける顧客の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

金融商品の販売、勧誘をめぐるトラブルに対して顧客保護のために作られた法律です。令和3年より多様化する金融サービスに対応するべき点が改正されました。

■ 犯罪による収益の移転防止に関する法律1条(目的)
この法律は、犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用されるとともに、これが移転して事業活動に用いられることにより健全な経済活動に重大な悪影響を与えるものであること、及び犯罪による収益の移転が没収、追徴その他の手続によりこれを剥奪し、又は犯罪による被害の回復に充てることを

困難にするものであることから、犯罪による収益の移転を防止すること(以下「犯罪による収益の移転防止」という。)が極めて重要であることに鑑み、特定事業者による顧客等の本人特定事項(第4条第1項第1号に規定する本人特定事項をいう。第3条第1項において同じ。)等の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を講ずることにより、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成11年法律第136号。以下「組織的犯罪処罰法」という。)及び国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
(平成3年法律第94号。以下「麻薬特例法」という。)による措置と相まって、犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保し、もって国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与することを目的とする。

マネーロンダリングやテロ資金供与防止を目的として特定の事業者が取引する際の本人確認等について定められている法律です。特定の事業者は金融機関や宝石貴金属取扱事業者、電話受付代行業者、弁護士など多岐にわたります。平成30年に改正があり、オンライン完結の本人確認方法が追加されました。

■ 個人情報の保護に関する法律1条(目的)
この法律は、デジタル社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにし、個人情報を取り扱う事業者及び行政機関等についてこれらの特性に応じて遵守すべき義務等を定

めるとともに、個人情報保護委員会を設置することにより、行政機関等の事務及び事業の適正かつ円滑な運営を図り、並びに個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。

個人情報保護法について知らない方は少ないと思いますが、3年ごとに改正があり、時代に合わせた変化が伴いますので終活カウンセラーには押さえておいてほしい法律です。
■ 保険における保険募集人資格を有していない終活カウンセラーの
禁止事項
保険募集人資格を有していない終活カウンセラーは保険募集(保険販売)をしてはいけません。また保険を勧めたり、説明やアドバイスをしたりすることもできません。これらは「募集行為」といい、保険業法に定める「保険募集人資格」がなければできない行為です
(無資格募集は処罰の対象となります。保険業法317条の2第4号)。
保険業法300条は保険募集人にとって非常に大切な法律です。他社の誹謗中傷をしたり、不確定な商品をあたかも確定のように
説明をする、健康確認の告知を適当に実施する、などの行為を行う保険募集人には十分注意が必要です。保険商品は長く加入するケースが多いので、信頼できる保険募集人から契約をするようにしましょう。

(3) 終活分野のカウンセラーとして重要と思われる資質

相談者の話を聴く傾聴力と、意思を実現する対応力が求められます。終活相談は必ずしも「1 + 1 = 2」のような決まった型が存在するわけではなく、相談者の家族構成や財政状況、性格や意図目的

を把握したうえで、最適解に導く必要があるからです。
お墓の相談でよくある「夫と同じお墓に入りたくない」という相談ケースで考えてみましょう。そのまま捉えると「夫婦別のお墓は可能」「単身であれば永代供養がおすすめ」などと回答できますが、深くカウンセリングを行うと、「姑と一緒の墓は嫌だ」「子どもが遠方で墓参りに来てくれない」などといった悩みの本質にたどり着く場合があります。こうなると話は全く変わり、「姑のお墓を永代供養にして夫婦に最適な供養を広く検討する」段階になり菩提寺や霊園とのやりとりや、散骨や手元供養も選択肢に挙がるのです。
このように必ずしも言葉どおりでない場面があるからこそ、終活カウンセラーには傾聴力と対応力が必要となります。
■ 終活カウンセラーについて
「カウンセラー」という言葉を辞書で引くと「学校・職場・医療施設・社会福祉施設などで、一身上の悩みや問題を持つ人に面接して相談相手になる人。助言者。相談員」(大辞泉より)となり、簡単にいうと「相談相手」ということになります。それでは自分のことに置き換えると、皆さんの相談相手はどのような方でしょうか。実際、50代以上の方100名にアンケートを取ってみました。

質問1 :普段から相談できる相手はいますか?はい:79% いいえ:21%
質問2 :その相手とは誰でしょうか?
・娘(子ども) ・配偶者・友人・近所の方・弁護士

以上のような結果となりました。
質問lで「いいえ」と答えた方の20名は男性でした。これは男性のほうが悩みを話さないという結果なのでしょうか。また今回は対面アンケートということもあり、ある程度「プライド」というも

のも生まれてくると考えられます。「いいえ」と思っていても「はい」という回答をされた方もいらっしゃるかもしれません。
そして、注目したいのは「その相手」です。おそらく回答した方の大半が「専門知識」を求めて相談しているのではなく「自分をわかってくれる人」を相談相手にするのではないかと思います。
つまり、カウンセラーというものはその相談者のよき理解者であることが大切であるといえます。そして相手を理解するには、まず
「聴く」ということが重要です。

(4) 集客の方法・顧客の傾向

① 集客
新規の顧客創出のために終活を新しい流入元としてスタートする方が多いですが、兼業であれば既存顧客に対する視点も大切です。終活分野のカウンセラーは人生に寄り添うパートナーとしても重
宝されるため、顧客の深掘や関係性の再構築にも活用できます。 ある大手金融企業の例ですが、顧客と接点を持つ部署の主力の社
員が終活カウンセラー資格を取得し、エンディングノートを資料として既存顕客の再ヒアリングを実施しました。ここではさらに商品を売るのではなく、顧客の人生を聴き、これからの目標に向けて自分に何ができるかをテーマに会話をしていきました。それ以外にも金融知識以外の介護や供養関係の情報を学んでいたこともあり、専門外の分野でも関係性を築くことができ、新たな接点が増えました。結果的にこの取組は担当者が商品を売ることにつながり、新規契約や家族・親族・友人への紹介等で部門売上が3年で5倍に膨れ上がったそうです。
このように終活カウンセラーののれんを掲げることで新規顧客の拡大・創出に関してもつながっていく傾向が高いです。終活というワードは関心を持たれますので、名剌やwebサイト等に記載しておくだけでも顧客から注目されることもあるでしょう。いつかは自

分の終活をという層はもちろんのこと、多死社会による死亡数の増加に伴い、相続や葬儀、お墓問題が生じる可能性も高く、ビジネスの機会が増えることは想像に難くないでしょう。
ネット社会において忘れがちですが、紙媒体での集客も無下にはできません。ポスティングや折込チラシといった方法も、新聞の購
読者層であるso代以降をターゲットにするのであれば必須でしょ
う。集めたい願客が何を見ているのかを想像することも必要ですね。少し話が変わりますが、以前は行政や個人開催のセミナーでエン ディングノート等を活用したセミナーから集客をすることが一般的でしたが、近年では外注という形で介護事業所や葬祭業の終活相談窓口を請け負うケースも増えてきました。筆者が始動した終活支援センターは、介護施設の利用者と在宅診療の患者のみと限定したサービスとして展開しています。医療の現場では意思の実現が施設の方だけでは難しい点もあります。そこに、本人とご家族が利用できる支援センターとしてお話をいただいたのですが、企業や病院の利用者であれば、同じ看板の下で運営されているセンターであると安心感があり、少しハードルが下がる面もあると思います。パンフ
レットのみの送付1回で、何件か案件実行まで至りました。
② 顧客の傾向
終活への関心は持っている一方で、「何から行えばよいか」または「どこまで行えばよいか」を不安に感じている傾向があります。また、体力や労力の面で行動をしきれない場合もあり、財産関係だけでなく自分のパーソナリティを知っている終活カウンセラーに終活のすべてにおいて「任せる」という方もいます。また、これらのやりとりから信頼関係を築くことで、全く異なる分野の案件につながる場合もあります。ここまで昇華すると相談者の人生の並走者として、コンシェルジュのような役割になるため、終活カウンセラーの役割は非常に大きいといえるでしょう。
また、近年話題に上っているのが「おひとりさま問題」です。

身近に家族がいるならまだよいのですが、同居している人間がいない、または親しい親族もいない場合に、万がー自分に何かあったらどうすればよいのかを不安に思っている方が多くいます。
令和2年の国勢調査によると、総世帯数5,583万世帯のうち、 671.7万世帯は高齢者(65歳以上)の単身世帯で、割合で示すと約12%に上ります。ちなみに高齢者と同居している世帯で見ると、「おひとりさま予備軍」と呼ばれる夫婦世帯で684.8万世帯、ひとり親と子どもからなる世帯で259.7万世帯です。さらに高齢者に限らず一般世帯だと、2,115.1万世帯は単身世帯(全体の 38.1%)のため、いつ亡くなるかわからない問題を考えれば非常に大きな社会問題となっています。
こうなると自分の死後、誰かに迷惑をかけてしまうかもしれないという観点から、死後事務委任契約や、終の住処(老人ホームなど)への関心も高まります。死後事務委任契約は一般的には特別な資格が必要ないので安易であると関心を持つ方がいますが、非常に責任の重い契約です。任された自分にも何があるかわかりませんので、チームで取り組むことも重要ですね。
(5) 学びの方法

近年は各専門業界やオンライン上でセミナーを聴講できる機会が増えていますが、終活カウンセラーとして普遍的に知識を身に付けるのであれば、終活資格の講座を受講することが簡捷です。死亡によって開始する相続の専門家とお墓がつながるように、多様な分野同士のつながりが見え、学びの効率が上がります。加えて推奨したいのが、学んだあとは「自分自身の終活を行う」ことです。終活をしたことがない終活カウンセラーなどいないとは思いますが、非常に大切なことです。専門外の分野で終活に取り組む利点や難しさを実際に感じ、終活カウンセラーに望まれる理想的な対応イメージができます。

また幅広い分野を扱うと生じるのが、情報のアップグレードにどこまで対応できるかということです。保険やお墓で多い最新の商品情報や条例や制度の変更など常にアンテナを張り続けることが必要でしょう。
定期的に情報配信をしている媒体や、交流会を開催している団体に参加するのも一案です。
(武藤頼胡)

■■コラム■■
終活を知る:② 年金
■ 安心安全な暮らしのために制度を理解する
厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2019年)によると、
65歳以上の公的年金等を受給している高齢者世帯のうち、
「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」が 48.4%、「80%~ 100%の世帯」も入れると60.9%となっています。
公的年金だけで生活する世帯が約半数で、収入のほとんどを公的年金に頼っている世帯が約6割です。この数字をまずは私たちが知り、公的年金の理解が必要になります。年金制度は老後のお金だけでなく、3つの社会的なリスクに対応しています。具体的には老後の主な収入源となる老齢年金、働き手を失っ た家庭を守る遺族年金、障害を負った際に支給される障害年金
などがあります。
〇 老齢年金
原則65歳から受け取れる年金です。国民年金と呼ばれる
20歳から60歳までに収めた年金の保険料の実績や会社員や

公務員として在籍した期間や収入によって変動する厚生年金といったものがベースとなります。現状でいくらくらいもらえるのかを把握し、iDeCoや貯金などの自助努力を考慮しながら算段をつけていくことが重要です。
〇 遺族年金
子どもの成長とともに変わるのが遺族年金の特徴です。遺族基礎年金を受け取れる方は、
・満18歳以下の子どもがいる
.亡くなった方に生計を維持されていた配偶者、子どもとなります。
遺族厚生年金を受け取れる方は、
・亡くなった方が厚生年金に入っていた
・子ども、妻、夫(55歳以上)などであるか
となりますが、皆さんが毎月納めている年金の保険料で、亡くなった際の保障が出るため、ーロで「いくらもらえる」とは言い難いです。また要件も詳細に設定されていますので要確認です。
〇 障害年金
病気やケガなどで障害を負ってしまった場合に受け取れる年金で、障害等級によって金額が変動します。

以上説明してきたこれらのどの年金も、受け取るには「自ら申告」をしなければ1円もおりてきません。すなわち知らねば損をしてしまう話でもあるのです。この自ら申請を知らない人は結構多いです。
終活カウンセラーとしては、「申請」を伝えるだけでも生涯における生活も変わるので非常に大切です。
(武藤頼胡)

6 コンプライアンス

「コンプライアンス」という言葉については、誰しも仕事をする上で何度か耳にしたことがあるでしょう。
「関係法令や内部規程の遵守」のことを指すと説明されることも多いのですが、そうした明文化されたルールを守ることはもちろんのこと、「マナー」「常識」「事業者としての理念」まで視野に入れ、
「それらに照らして自分は誠実であるか」を常に自ら問いただすことが求められていると考えてください。
色々な業種の事業者が次々と相続業界に参入してきている昨今においては、相続コンサルタントにも、こうしたコンプライアンス意識が欠かせないものとなってきています。
(1) 士業の独占業務との関係(業際問題)

コンプライアンスに関する相続コンサルタントの迷いや質問の中で筆者らに寄せられることが多いものの1つに、いわゆる「業際問題」があります。
相続の専門家の中でも、各士業にはそれぞれ独占業務があり、資格を持たない者がその領域に踏み込んだサービスをすることは法律で禁じられています。
相続コンサルタントとしては、コンプライアンス上、特にこの点に気を付ける必要があります。
それでは、主な士業の独占業務を見ていきましょう。

① 弁護士
|
弁護士法72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
難しい言葉が並んでいますが、要するに「法律事件」性(紛争性)のある「法律事務」については、弁護士や弁護士法人でなければ原則として取り扱うことはできないと理解しておきましょう。
たとえ今は争いが表面化していなくても、「交渉において解決し
なければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避である案件に関するもの」は、ここでいう「法律事務」に含まれるとされています(最高裁平成22年7月20日判決参照)。
相続コンサルタントとしては、法的な争いが生じる可能性の高い事項については取り扱わないことが無難でしょう。

② 税理士
■ 税理士法52条
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。
※ 税理士法2条1項各号の税理士業務の要旨
l 税務代理(税務官公署への申告等の代理行為)
2 税務書類の作成
3 税務相談

税理士や税理士法人でない限り、相続税申告や準確定申告等の税

務書類の作成や税務申告はできません。
税務相談については、一般的な税法の解説や仮定の事例に基づいた話はしてもかまわないのですが、個別のお客様の具体的な税額計算はできませんので、注意してください。

③ 司法書士
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司法書士法73条1項
司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行ってはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
※ 司法書士法3条1項1号から5号までの業務の要旨
l 登記又は供託に関する手続の代理行為
2 法務局に提出する書類やデータの作成
3 登記又は供託に関する審査請求の手続の代理行為
4 裁判所、検察庁又は筆界特定手続のために法務局に提出する書類やデータの作成
5 上記各号の事務について相談に応じる行為

司法書士や司法書士法人でない限り、登記手続の代理をすることゃ、その相談に乗ることは原則としてできません。有償の場合はもちろん、無償の場合にも同様ですので注意が必要です。

④ 行政書士
I ■行政書士法19条
行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は

能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
※ 行政書士法1条の2第1項の業務の要旨
l 官公署に提出する書類やデータの作成
2 権利義務又は事実証明に関する書類や図面の作成

行政書士や行政書士法人でない限り、契約書や各種申請書などの作成代行を有償で行うことは原則としてできません。
(2) コンプライアンスに関するQ&A

では、コンプライアンスに関するよくある疑問をQ&A方式でいくつか見ていきましょう。

虞相続コンサルタントによる遺言コンサルティング
私は行政書士などの資格を持っていない相続コンサルタントです。遺言コンサルティングとしてできる具体的な業務の範囲を教えてください。

豆口:遺言書については、相続コンサルタントに相談が持ち込
まれることが多い事項の1つといえます。
遺言書(本文)案の作成はできませんが、士業の紹介やチームリーダーとしての取りまとめ、家族関係・財産の内容・遺言者の課題(要望)のヒアリング、不動産登記簿や戸籍等の資料の取寄せ方法のアドバイス、遺言書の末尾に付ける付言事項の作成、公正証書遺言の証人立ち会い、遺言執行者等が考えられます。

区書類の記入サポートは行政書士法に違反する?
私はファイナンシャルプランナーをしており、生命保険業のほかに相続や終活のコンサルティング業もしています。

先日、長年関わっている高齢のお客様から行政機関に提出する「00還付金請求書」の記入のサポートを頼まれました。
コンプライアンス違反になってしまう可能性はありますか?

豆: このケースで問題とされている「00還付金請求書」は、00還付金請求権という権利を行使する意思表示を行うための
書類ですので、行政書士法l条の2第1項2号の「権利義務に関する書類」に当たるため、質問者がこの書類に記入し作成することを業務として行うことは、同法19条に違反する可能性があります。
ただ、親しいお客様から「手が震えてうまく書けないから、あなたが代わりにここに銀行名や口座番号を書いてくれない?」などと頼まれて、厚意として無償で1回限り代筆をする行為はどうかと問われると、同条違反となるかどうかは微妙なところです。
業際問題は必ずしも違法と適法の境目が一義的ではなく、人によって見解が異なることも少なくありません。普段から弁護士等に気軽に相談できる体制を作っておき、最終的には自分で責任を持って判断し行動するものと心得ておきましょう。

露遺産分割協議書にサインしない相続人が発生私は税理士法人に勤務している行政書士です。
相続人同士が話し合って決まったとおりの遺産分割協議書を作成し、いざ相続人全員の署名押印をもらおうとしたら、相続人のAさんが突然「やっぱり嫌だ」と言い出しました。
相続税申告の期限が迫っているので、私からAさんを説得してみようと思うのですが、弁護士法違反になりますか?
他の相続人のBさんがAさんを説得しに行く際に、私が同行
して2人の話し合いに助言することはどうでしょうか?

]恒□: このケースでは、相続人間の意見の違いが表面化してお

り、弁護士法72条にいう「法律事件」性(紛争性)があるといえます。行政書士である質問者がAさんを説得したり、相続人同士の話し合いの場に同行して助言したりすることは同条に違反すると考えられますので、避けたほうがよいでしょう。
業際問題の中でも弁護士法違反の行為(「非弁行為」と呼ばれることもあります)には、特に注意が必要です。
この質問のように「争いが起こらない」という前提で進めていたにもかかわらず、突然争いに発展してしまうケースが多々あるからです。
責任感の強い人ほど、その時点で関与をやめることに後ろめたさを感じて、何とか自分で争いを収めようとそのまま関与を続けてしまい、結果的に相手方ばかりでなくお客様からもクレームが生じてしまうことがあり得ます。
裁判例では、将来法的紛議が発生することが予測される状況において、行政書士が書類作成、助言指導、交渉をしたことが弁護士法 72条違反に当たり委任契約自体が「無効」だと判断されて、受け取った報酬金の返還や損害賠償が命じられたものがいくつか見られます(東京地裁平成27年7月30日判決、東京地裁平成29年11月29日判決等)。

区応む士業との提携と紹介料の関係
私は不動産会社で働いていますが、最近お客様から相続の相談が増えています。
相談内容によっては、弁護士や司法書士につなぎたいという案件も多いのですが、法律上の制約があるため弁護士や司法書士からは紹介料をもらえないと聞きました。
そこで考えたのですが、「私の会社のホームページに提携士業の広告を載せる対価」という名目で「新規紹介案件1件当たり0万円」をもらうのは、何か問題があるでしょうか?

立: 結論から言うと、大いに問題があるといえます。
弁護士や司法書士(それぞれの法人を含む)が、他者に案件紹介料を支払うことは法律等(弁護士法72条、弁護士職務基本規程 13条、司法書士法23条、司法書士法施行規則26条、司法書士倫理13条)で禁じられています。
この質問のように「紹介料」という名目ではなくても、実質的に見て紹介料と解される金銭のやりとり全般が含まれますので、注意しましょう。
なお、弁護士法では、弁護士から紹介料を受け取った人にも罰則が科せられると定められています(弁護士法77条、72条)。
他士業との業務提携によって相続のワンストップ・サービスを行う際には、「甘い誘惑」「安易な考え」には十分注意しましょう。

区家族信託コンサルティングと説明義務
私は、これから家族信託の組成業務に力を入れていこうと考えている行政書士です。
家族信託全般について、コンプライアンスの観点から何か特に注意すべきことがあれば教えてください。

ロ瓦: 家族信託契約は細かい点に気を配って作ろうとすればするほど、長文で複雑な内容になりがちです。契約当事者となる委託者・受託者その他の家族に十分かみ砕いて説明し、家族信託契約の内容をしっかり理解してもらうことが大事な点です。
近時の裁判例として、家族信託の組成に関与した司法書士に依頼者への情報提供義務及びリスク説明義務違反があるとの理由で不法行為責任が認められ、報酬金全額を含む170万円近くの損害賠償の支払いを命じたもの(東京地裁令和3年9月17日判決)があります。
家族信託の組成業務を扱うすべての士業は、同じ轍を踏まないよ

うに十分注意する必要があるといえます。

(3) 守秘義務

守秘義務とは、一定の職業に関する法律や個別の契約に基づいて、その職業や契約の遂行にともなって知り得だ情報を他に漏洩してはならないという義務のことです。
特に相続問題は、通常なら誰もが他人に知られたくないと思うような、財産に関する話、戸籍上の情報、家族間の人間関係といったデリケートな情報を取り扱います。お客様の大切な情報を、関係者とのやりとりの中でうっかり漏らさないということはもちろん、セミナー等での事例発表、打合せの場所、メールのCCなどにも配慮しましょう。守秘義務を守らないと、仕事をする上での信用を失ってしまいますので、細心の注意が必要です。
今のところ相続コンサルタントの守秘義務に関する法律はありませんが、個人情報保護法では、個人情報(個人を特定できる事項)を扱うすべての事業者に、本人の同意や法令の根拠なく個人情報を漏洩することを禁じています。
また、契約上は明確に守秘義務が定められていなくても、プライバシー(個人情報よりも広い概念です)の侵害が不法行為に当たり、損害賠償を求められる可能性もあります。
(4) 金品を預かる際の留意点

相続コンサルタントとしての各種業務の中で、お客様からお金や高価な品物や重要書類を預かる場面は多いものです。「預けた」「預かっていない」といったトラブルにならないよう、十分な注意が必要です。
① お金を預かる場合
相続業務の場合は預かる金額が大きくなるケースも多いので、窓口に行きやすい最寄りの金融機関に預り金専用口座を開設しておく

とよいでしょう。
その口座からは自分(自社)の経費の引落しなどをせずに、お金の流れが常に明瞭になるよう心がけましょう。
ほんの一時的な流用のつもりでも、業務上横領罪(刑法253条、
10年以下の懲役刑)に問われることがあり得ます。
② 物や書類を預かる場合
お客様から物品や書類を預かる場合や、お客様から預かったものをさらに他の専門家に預けたりする場合には、必ずその物品や書類の項目を列挙した「預り証」を渡したり(自分が預かる場合)、「受領証」をもらったり(他人に預ける場合)して、客観的な資料を作成しておきましょう。返却する場合や返却してもらう場合も同様です。書類は、1通しかない原本、特に自筆証書遺言、有価証券の現物、
登記済権利証(登記識別情報)などば慎重な取扱いが必要です。

(s) 契約書の作成

① 契約書の重要性
相続コンサルティング契約や他業種との業務提携契約など、何か取決めをする場合には必ず契約書を交わしておくべきです。いざ不明点や問題点が出てきたときに解決の指針となるのは、何と言っても契約書です。
特に相続・終活業務は、取決めをしてから終了するまでに、時には何年も何十年もの長い月日がかかるケースもあり得ます。一度、自分の業務に合わせたひな型を何パターンか作っておき、あとはケースバイケースで修正を加えていくとよいでしょう。
また、相続・終活業務のお客様は、高齢であったり、専業主婦であったり、仕事を引退されていたりして、普段は契約書など見たことがないような方々も多いため、お客様の理解度に合わせて十分な説明をすることも大切です。
② 業務範囲の明確化

契約書の中でも必須なのは、業務範囲を明確に定めることです。つい親切心から業務範囲外のことまで引き受けてしまいがちな人もいると思いますが、限られたマンパワーを適正に配分するためにも
「それは業務に含まれるけれど、これは含まれないから別料金を取る」など、線引きを明確に定めておきましょう。
③ 報酬の取決め
報酬に関するトラブルを防ぐためにも、誰が見ても一義的に具体的な金額が導けるよう、契約書に固定金額や算定式を明確に定めておきましょう。
④ その他の取決め
上記以外にも、例えば次のような事項を契約書に書いておくことが考えられます。
・実費の負担者と支払時期
・途中解約することができる事由
・途中解約した場合の精算方法
•他人への再委託の可否
・出張が生じた場合の日当
なお、契約書に明記されていない事項については民法などの法律が適用されることになります。
⑤ 業務途中で変更が生じた場合
業務の途中で何らかの変更が生じた場合、そのつど「覚書」や「確認書」などを取り交わしておくことがお勧めです。
メールやチャットのやりとりも、追加変更やクレームなど重要な話題のときには印刷したりデータで保存しておきましょう。
(木野綾子)

■■コラム■■
このフレーズが出たら注意すべき!?

先日、ある相続コンサルタントからこんな質問がありました。
「相続や終活のコンサルティングの場面で、「『このフレーズが出たら注意!』というものがありますか?」
難しい質問ですが、誤解を恐れずに答えるとすれば、次のようなものが考えられます。
① 「こうすれば、絶対に~ですね?」例えば、次のような文脈で使われます。
「こうすれば、絶対に相続税はこれ以上かからないということですね?」
「こうすれば、絶対に遺留分は払わなくて済むのですね?」相続税の金額も遺留分侵害額の請求も、将来のことであり不
確定要素が含まれていますから「絶対こうなります」とは断言
できません。
うっかりうなずいてしまうと、言質をとられたことになり、後で思わぬクレームにつながることもありますから、「そのお気持ちはよくわかりますが……」と一言添えて、お客様にきちんと説明を尽くして理解してもらいましょう。
② 「これは聞かなかったことにしてください」
これに類する言葉として、次のようなものがあります。
「ここだけの話ですが」
「00さんには黙っていてくださいね」
「00先生と私だけの秘密ですよ」
要するに、お客様と相続コンサルタントとの間で個人的な秘密を作るのは避けましょうということです。
後になってハシゴを外されて「00先生は本当は知っていた
はずだ」などと暴露され、気まずい思いをするばかりか、ケー

スによっては民事上または刑事上の法的責任に発展することにもなりかねません。
「はたして自分は誠実であるか?」を常に自問する姿勢を忘れないようにしましょう。
(木野綾子)

■■コラム■■
3か月を過ぎてしまった相続放棄
相続放棄ができる期間は、原則としてその相続開始があったことを知ったときから3か月以内(民法915条1項)と定められています。
でも、その例外として、「その3か月以内に相続放棄をしなかったことが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信じるについて相当な理由がある場合には起算点を後ろにずらすことができる」という趣旨の有名な裁判例(最高裁昭和59年4月27日)があり、この考え方に沿って3か月を過ぎた相続放棄が認められるというケースは案外多いものです。
例えば、ある裁判例(東京高裁令和元年11月25日決定)では、次のような点が考慮されて3か月を過ぎた相続放棄が認められました。
・相続放棄の当事者2名がいずれも高齢(70代前半と80代半
ば)である。
• 他の兄弟が代わりに相続放棄の手続きをしたと信じていた。
・被相続人とは数十年間会ったことがなく、その財産についての情報が不足していた。
その結果、3か月の起算点について、特別に「相続放棄手続や遺産に関する具体的な説明を受けたときから」と解釈されたのです。
法律ではきちんと要件が定められていても、実務的な当てはめの場面では柔軟な解決をしてもらえることもありますので、最初からダメと決めつけず、「すべての扉を叩いてみる」という気持ちで一緒にトライして〈れる専門家を探してみるとよいでしょう。
(木野綾子)

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●事例1●
遺言書コンサルと保険の活用による相続対策

1 事例の紹介
I相談者I村上史郎(75歳):無職
I対応したコンサルタントI A:生命保険の代理店
I相談内容I
私は、前妻と離婚した後に再婚をしており、現在の妻との間に子どもが1人います。
離婚した前妻との間にも子どもが2人いますが、長年にわたり没交渉です。
私を介護して看取ってくれるのは現在の妻とその子どもですから、この2人に財産をすべて渡したいと思うのですが、こういう家族構成の場合、相続人同士で揉めごとになることがよくあると聞きました。揉めないようにするには、どうしたらよいでしょうか。
相続税についても、どれくらいかかるものなのか見当がつきませんので、教えてください。
安心して老後の生活を送るために、よいアドバイスをお願いします。

I財産内容I
・自宅土地建物:固定資産評価額4,500万円
• 投資用マンション(区分所有建物):固定資産評価額1,500万円
.預貯金:8,000万円
•財産合計: 1億4,000万円

I家族関係図I
【村上家】

前妻:みな子
(70歳)

c c

次男:琢郎
(23歳)

長女:奈々
(48歳)

長男:俊郎
(50歳)


法定相続人 法定相続分 遺留分
後妻:真由子 2分の1 4分の1
前妻の子(長男):俊郎 6分の1 12分の1
前妻の子(長女):奈々 6分の1 12分の1
後妻の子(次男):琢郎 6分の1 12分の1

2 方針とチーム編成

このケースでは、相談者が遺産を特定の相続人に渡したいと言っているうえ、相続人同士が前妻の子2人と後妻親子との二手に分かれて遺産分割で揉める可能性があります。
また、相談者は相続税の具体的な金額を知りたがっています。 そこで、このケースの基本方針としては次のようなものが考えら
れるでしょう。
① 公正証書遺言の作成
② 相続税の試算
また、コンサルタントAとしては、次のような提案をすることも考えられます。
③ 生命保険の活用による遺留分減らし

Iチーム編成I
■ コンサルタントA
チームの取りまとめと相談者へのフォローを主に行います。
付随的に期待される業務として、遺留分減らしを目的とする生命保険契約の締結、遺言書の付言事項の案文作成、証人、遺言執行者への指定などがあります。
■ 行政書士B
公正証書遺言の作成を行います。
具体的には、案文作成、公証役場の手配、証人、遺言執行者への指定などの業務を分担することになります。
■ 税理士c
相続税の試算を行います。
具体的には、相談者から資料の提出を受けて、相続税試算レポートの作成業務を分担することになります。

3 解決までの手順

(1) 初回相談・見積もり

このケースは、相談者の後妻である真由子さんの友人からAが紹介を受けたことから始まりました。
初回の相談は、Aが相談者の自宅に訪問して、相談者夫妻との間
で1時間程度かけて行われ、その際に基本的な家族関係、およその財産、相談者の希望と懸念事項をヒアリングしました。
Aがその場で大まかな基本方針として、①遺言書作成、②相続税試算、③遺留分減らしのための生命保険の活用を提案し、相談者夫妻も興味を示したので、専門家の紹介と見積書の作成を約束して終了しました。
今後の連絡方法はLINEを使うことに決まりました。

(2) チーム編成・打合せ

Aは、遺言書作成のために行政書士B、相続税試算のために税理士Cに本件への協力と見積書の作成を依頼しました。
行政書士Bと税理土Cから見積書が提出されたので、Aは自らの
相続コンサル料の見積書とともに相談者夫妻にそれらを送り、承諾を得ました。
その後、Aと行政書士B及び税理士Cは、メールやオンライン会
議で情報共有を行い、相談者宅の訪問日を調整しました。

(3) 相談者への紹介

Aは行政書士Bと税理士Cを同行して再び相談者宅に行き、チーム全体の顔合せを行いました。この際、Aからそれぞれの専門家の経歴、実績、人柄や仕事ぶりなどを紹介し、相談者夫妻もそれを聞いて安心した様子でした。

行政書士Bと税理士Cは、遺言書と相続税試算レポートの作成に必要な資料の準備を相談者夫妻にお願いし、その場ですぐに確認できる事項のヒアリングを行いました。
行政書士Bは、遺言書作成時の証人、遺言執行者、付言事項の作成をどうするかを相談者に尋ね、後日回答をもらうことにしました。相談者夫妻が前妻の子ども2人からの遺留分侵害額請求をおそれ ていたので、Aから遺留分減らしの対策として生命保険の活用が考
えられることを説明しました。
そのほか、今後の大まかなスケジュールを確認したり、相談者夫妻からの質問に答えるなどして、およそ90分程度でその日の打合せは終了しました。

(4) チーム内の取りまとめと相談者へのフォロー

Aは上記の打合せ議事録を作り、相談者夫妻の準備する資料と期限、今後のスケジュール等をまとめて、出席者全員に共有しました。
まもなく、相談者夫妻から、
「遺言書作成時の証人及び遺言執行者はAと行政書士Bにお願いしたい」
「付言事項はAに案文を書いてもらいたい」
「生命保険の活用については、Aから別途詳しい話が聞きたい」という回答がありました。
Aは、相談者夫妻がどうやって準備したらよいかわからない書類についてアドバイスをしたり、疑問点に答えたりしながら、必要に応じて行政書士Bと税理士Cにも連絡して対応を頼みました。
(5) 相続税試算レポートの完成と相談者への報告

税理士Cによる相続税試算レポートが完成し、まずAと行政書士
Bに共有してチーム内でその内容を確認しました。
レポートには、遺産を妻の真由子さんと次男の琢郎さんに相続さ

せるとして、2人の割合をどのように配分するか、また、相続税と遺留分侵害額がおよそいくらぐらいになるかなどについてのシミュレーションが書かれています。
その後、Aと税理士Cは、相談者宅を訪問し、相談者夫妻に相続税試算レポートを提出して内容の説明を行いました。
(6) 公正証書遺言の作成

相続税試算レポートを踏まえて、相談者が遺産の配分を決め、行政書士Bが遺言書の案文を作って公証役場の手配を始めました。一方で、Aは付言事項案を作成して相談者と内容をすり合わせます。遺言書作成当日には、Aと行政書士Bが証人として立ち会いまし た。Aは、緊張している相談者と待合室で待っている真由子さんを雑談などでリラックスさせ、その間に行政書士Bは公証人や公証役場の書記と書類確認のやりとりをするなど準備を整えていきます。公証人が文章を読み上げている最中、Aは相談者の隣に座って遺 言書の文字を指で追ったりページをめくったりして補助をしました。
(7) 生命保険への加入

相続対策の仕上げとして、Aと相談者夫妻で改めて打合せを行ぃ、相談者を契約者兼被保険者とする生命保険契約を結びました。

4 解決のポイント

(1) 遺言書コンサルティング業務

① 専門家の選び方
遺言書の作成は、行政書士・司法書士・弁護士のいずれかの資格を持つ専門家に頼む必要があります。
法的な専門業務の中では、遺言書作成はそれほど高度なスキルが

必要というわけではないので、経験よりも、相談者や自分との相性
(年齢・性別・接客態度・自宅訪問の可否等)を重視するとよいでしょう。
② コンサルタントの主な役割
遺言書コンサルティング業務におけるコンサルタントの役割を一言で言うと「案文作成者である専門家と、遺言者やその家族をつないで、スムーズな遺言書作成を実現する」というファシリテーターとしての役割です。
「普通のおじいちゃん・おばあちゃん」である遺言者が、真面目で堅苦しいイメージを持つ士業の専門家に初対面で家族や財産の悩みを打ち明け、共同で遺言書作成という作業を行うのですから、遺言者にとってはそれだけでもストレスでいっぱいなはずです。そのストレスをできるだけ軽減してさしあげるのが、まさにコンサルタントの主な役割だといえます。
③ 付言事項の案文作成
付言事項は、遺言書の本文に書かれる法定遺言事項とは異なり、法的な効力を持たないメッセージに当たる部分です。
付言事項を何も書かなくても問題はありませんが、これを書くことによって、遺言者が遺言書の本文に込めた想いが読み手により伝わりやすくなるといえるでしょう。
内容として一般的なものは、以下のとおりです。
・遺言書の本文に書いた遺産の分け方についての説明
・家族への感謝や愛情
・自分の一生を振り返ったミニ自伝
・子孫に伝えたい教訓や代々の言い伝え
・遺品の整理方法や葬儀などの実務的な指示
遺言の作成や執行に携わる多数の第三者(公証役場、金融機関、法務局等の関係者)の目に触れることにも注意したほうがよいですし、あまりに長文になりそうなら、エンディング・ノートと併用することがお勧めです。

ただ、よほど文章を書くことに慣れていない限り、高齢者にとっては付言事項を書くのは簡単なことではありません。
付言事項の作成は特別な資格がなくてもできるので、本事例のAのように、これをオプションとして業務メニューに掲げるコンサルタントも多く見られるところです。
④ 証人としての立ち会い
公正証書遺言の作成には証人2名以上の立ち会いが不可欠です
(民法969条1号)が、「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」などの一定の要件に当てはまる場合は証人になれません(民法974条)。
そうかといって、赤の他人に家族や財産の内容を知られるのは誰しも抵抗があるでしょうから、遺言書作成に携わった専門家とコンサルタントが証人を務めるのが最適です。
本事例のAのように、遺言者の隣に座って案文を読みやすい環境を作ったり、印鑑や身分証の出し入れを手伝ったりするなど、些細なことに見えますが大変喜ばれるものです。
⑤ 遺言執行者の指定
遺言執行者は、遺言の内容を実現する役割を担っており(民法
1012条1項)、遺言者自身が遺言書で指定することもできますし
(民法1006条1項)、相続開始後に家庭裁判所に選任してもらうこともできます(民法1010条)。
これも誤解があることですが、遺言執行者を務めるには、特に資格は必要ありませんので、士業以外のコンサルタントでも務めることができます。法人でもよいですし、本事例のように複数名でも可能です。複数名の場合には共同で務めることも、優先順位を付けることもできます。後者の場合には、例えば第1順位に指定されたコンサルタントが遺言者より先に亡くなった場合には、第2順位の者が業務を行うことができますので、遺言者にとってもより安心といえるでしょう。

⑥ 気を付けること
遺言書の作成は定型的なパターンや言い回しが多く、文例集なども出回っていますので、優秀なコンサルタントほど、つい自分で案文を作成したいという誘惑に駆られがちです。
コンプライアンスに留意し、専門家とコンサルタントの役割分担をしっかり行って臨みましょう。
(2) 相続税の試算

① 税理士の選び方
身体に不調をきたした際、頭痛がすれば内科か脳外科に、蒜麻疹が出れば皮膚科にというように医者も専門分野が違いますが、税理士も同じように専門があります。
相続税に関しては、「年間1 ~ 2件しか受任したことがない」と
いう税理士よりは月に4~5件受任している経験豊富な税理士に依頼したほうが効果的なアドバイスを得られるでしょう。
同時に、「忙しすぎる税理士」より「ほどほどに忙しい税理士」を選ぶのもポイントです。忙しすぎる税理士はレスポンスが悪かったり、担当の補助者に任せきりにしたりして税理士自身が面倒をみてくれないというケースもあります。
② コンサルタントの主な役割
コンサルタントは前項の遺言の箇所でも触れたとおり、やはりファシリテーターとしての役割が重要です。
法律用語も然りですが、税務に関しても「相続時精算課税制度」
「小規模宅地等の特例」など難しい用語が多く、それらをかみ砕いて相談者にとって理解しやすく説明する「通訳としての役割」も大切になります。
③ 気を付けること
相続税の計算については様々なアプリが出回っており、ある程度の基礎知識があれば、これらのアプリを使ってコンサルタントがお

よその計算をすることも不可能ではないかもしれません。
しかし、「一般的な税務知識」を述べることは問題ないとしても、
「あなたの場合、相続税は00円になります」などの具体的な計算結果を相談者に伝えてアドバイスすることは税理士法に違反することになりますので、十分気を付けてください。
(3) 生命保険の8つのメリット

生命保険と相続というのは、とてもなじみのある事柄です。
このことは、生命保険業界にいる人でも案外知らないことが多いので、生命保険が相続に効く8つのポイントを以下にまとめてみました。
① あげたい人に確実に財産をあげられる
生命保険金は、原則として受取人固有の財産であるため、財産を渡したい特定の相続人に死亡保険金という形で財産を確実に渡すことができます。
② スピーディに換金することができる
被保険者が亡くなり、必要書類が不備なく保険会社に受理された後、4~5営業日で受取人に保険金が振り込まれることが通常です。なお、保険会社によっては即日支払い可能な会社もあるようで す。受取人にとっては、葬儀費用などの一時的な緊急予備資金とし
て活用しやすいというメリットがあります。
③ 代償分割に活用できる
不動産など分けにくい財産が主な遺産となっている場合、遺産分割における代償金として生命保険金を活用することができます。
気を付けるべき点は、「代償金をもらう人」を保険金の受取人に
指定するのではなく、「代償金を払う人」を受取人に指定しておくことです。
④ 遺留分対策
保険金が遺産ではなく受取人固有の財産であるという点を活用し

て、被相続人の財産(現金)を一部保険金にかえることで、その分が遺産から外れることになる結果、遺留分を減らすことができます。ただし、現金をすべて保険金にかえるなど行き過ぎた対策は争族のもととなるばかりでなく、特別受益として持ち戻しの対象となる場合もあるため、専門家にしっかり相談する必要があります。
⑤ 生前贈与に活用
現金を生前贈与し、贈与された人が生命保険の契約者となってその現金を保険料の支払いに充てるということがよく見られます。
被相続人にとっては「あげたお金が浪費されてしまうのではないか」という心配があるわけですが、保険その他の資産運用に回るとわかれば、安心してスムーズに贈与を行うことができます。
⑥ 納税資金として活用
地主など「不動産を手放したくないが、相続人が現金不足になり納税資金をつくるために不動産を売却してしまうかもしれない」というおそれがある場合、相続人を生命保険の受取人にしてあらかじめ一定の金銭を確保しておくことによって、先祖代々の不動産を売却しなくても死亡保険金を相続税の支払いに充てることができます。
⑦ 相続放棄の対象外
生命保険金は受取人固有の財産であり民法上の遺産には当たらないため、借金があるなどの事情で相続放棄をした相続人であっても、生命保険の受取人になっていれば死亡保険金を受け取ることができます。
⑧ 非課税枠の活用による節税
相続税の算定において、生命保険金は相続人l人当たり500万円まで非課税とされています。
例えば法定相続人が3名であれば500万円X3人=1,500万円が非課税となるので、相続税の節税に役立ちます。
(木野綾子・一橋香織)

■ トーク&スタディ■「付言事項j
[登場人物紹介】
「麻衣」C9は、駆け出しの終活・相続コンサルタント
「一橋」e)は、相続コンサルタント
「木野」〇は、弁護士
「武藤」0は、終活カウンセラー

遺言書のコンサルティングは、相続に携わるコンサルタントの仕事として最もポピュラーで取リ組みやすいと思います。私はお客様の想いを文字で表現することが得意なので、←←では付言事項について掘り下げてみましょう。

だからこそ、相続コンサルタントの腕の見せ所ですし、他の相続コンサルタントとの差別化にもなり、遺言者に選ばれ頼られる存在となれると思います。
私の門下生にも一見意外な人がこの付言事項を得意にされていたL します。
せっかくですので、過去に私が主催した付言事項コンテストで優勝した田中寿夫さんにコツを聞いてみましょう。

麻衣さん、確かにその人にピソタリの言葉を残すのは難しいのですが、まずは、遺言者の方に「相続人の方をいつも何て呼んでいますか」と聞いてみてください。
それから、遺言者を麻衣さんご本人、相続人を麻衣さんの身

近で大切な人と重ね合わせ、想像をふくらませてみてください。
そして、いつもの呼び名で付言事項を書き始めると、自然に感謝の想いがあふれ出て、その後に託したい想いや願い、 して祈りを綴ることができると思います。

そうですね、想いの代弁をするわけですから、なリきることは大事だと思います。ただ、これはそんな簡単なことではな
<想いを付言事項で文章にするよリも実は難しいことかもし
れません。
「想いに寄リ添う」と一言で言うと簡単そうですが、遺言者が本音を語ってくださるまでには時間がかかります。
そんな簡単に信用してはもらえないですしね。
時間をかけて遺言者が本音を語ってくれるまで信頼関係を紡いでいくことが、遺言コンサルとして大切なことだと思います。信頼関係がきちんと構築できれば遺言者の想いを代弁できるまでになれるのではないでしょうか。
その先に、その方になリきるということができるまでになると考えています。

注意すべきことや大切なことは、遺言者ご本人への事前インタビューや修正点の確認は念を入れて行うということです。家族の呼び名や普段の言葉遣いなど、遺言者の個性ができるだけそのまま出るように心がけましょう。
後で相続人から、「親父はこんな言葉は使わない。本当に親父

がこんなことを言っていたのか? 相続コンサルタントの作文だ」などと言われて、遺言書全体に不信感を持たれたりしたら本末転倒ですからね。

■■コラム■■
終活を知る:③ 生命保険
■ 何のために加入をしているのか。理由を明確に
生命保険は自分や家族を「万が一」の際にお金で補てんする制度です。そのため何を目的として加入するかがとても重要です。
我が国の保険世帯加入率は9割を超えていることもあり、なじみのある分野かもしれません。「目的を見据えて契約内容を見直す」ことが、万が一の際に思わぬ落とし穴があったということも防げるのです。
主な落とし穴5つのポイントは以下です。
① 契約期間
「私は保険に入っているから大丈夫!」と言っていた方が、亡くなった後、保険を確認したら保険の契約期間が切れていた、ということがないように要確認。
② 契約者・被保険者・受取人の関係性
この関係性によって保険金を受け取るときの課税対象が変わります。一般的にあまり意識しないで加入する方が多いので要チェックです。
③ 高度障害保険金とは
被保険者が、契約日以降、病気やケガを原因として、両眼の

視力や言語機能を永久に失ったときなど障害状態に該当した場合、死亡保険金と同額の高度障害保険金が受け取れます。
高度障害状態とは何かを頭に入れておき、何かの際は保険会社に確認してください。また、国の定める身体障害等級1級に該当しても約款に定める状態に該当しない場合は高度障害保険金を受け取れません。
④ 受取人は重要
生命保険は受取人と指定された方に保険金が支払われます。そのため受取人の指定は非常に大切です。受取人が亡くなり変更せずにその後被保険者が亡〈なった場合、その保険金は受取人の法定相続人に受け継がれるというルールになっています(保険会社によって多少ルールが違うので要注意)。生命保険の受取人に指定した時点で受取人の固有の財産になるからです。そのため、離婚したとき、子どもが結婚したときなどは受取人の見直しが必要になります。他にも受取人を指定していない、法定相続人としている場合、結局その時点で相続人同士の話し合いが増えるのでしっかり名前で指定してください。
⑤ 保険の種類
信じられないかもしれませんが、生命保険かと思いきや火災保険だったこともあります。

ほかにも、亡〈なった後のために十分な備えをして、今が苦しくなっている方も珍しくありません。
保険を考える上で大事なことは、何のために加入しているのか、その目的を明確にすることです。
家族が困らないように、相続税の負担を減らすために、老後に備えるためになど、目的によって最適な商品も変わってきます。もっと言えば結婚、出産、離婚、死別、子どもの独立など、ライフスタイルの変化によっても変わります。

終活カウンセラーという肩書だけでは保険商品の紹介や販売は禁じられていますが、この視点を持ち、何が原因で、誰に、いくらお金が渡るのか、確認とともに保険の見直しが必要か判断する力を身に付けましょう。
(武藤頼胡)

[j]初級編
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●事例2●
エンディングノートがなければ
大変なことに

1 事例の紹介
I相談者I大田美穂(53歳):主婦
I対応したコンサルタントI A:終活・相続コンサルタント I相談内容I
遠方に住む母のことで相談があります。母は関西に住んでいて私
は埼玉です。
父と母は私が大学の頃に離婚をし、私が家を出てからかれこれ 30年近く母は1人暮らしをしています。もう82歳で高齢なので色々と心配です。
特に最近、物忘れが激しいようで鍵をかけ忘れて家を出たり、キャッシュカードの暗証番号を思い出せずに困ったりした話などを聞くと、認知症を発症しているのではないかと心配ですが、今のところ判断能力がないというわけではありません。
母の財産も自宅以外は全くわからない状況です。海外に姉がいま
すが、姉も母の財産などについてはまるでわからないと言っています。私と姉とは仲良しですが、海外に住んでいるためなかなか意思の疎通がとりにくいので、いざというときには私が動くしかないと考えています。
今のうちにエンディングノートに書いておいてほしいのですが、母に勧めても「縁起でもない」と言って取り合ってくれません。どうすれば、母にエンディングノートを書いてもらえるでしょうか?

i財産内容I
・自宅土地建物:固定資産評価額1,000万円
・有価証券:不明
.預貯金:不明
•生命保険:不明

I家族関係図I
【大田家】


(82歳)

長女
(27歳)


法定相続人

相談者

法定相続分
2分の1
2分の1

長男
(30歳)

遺留分
4分の1
4分の1

2 方針とチーム編成

このケースは、遠方に住む母にエンディングノートを書いてほしいという相談だったため、まずはAだけで相談に乗ることにしました。
相談者から母親の性格やl人暮らしをしてからの様子、どれくらいの頻度で里帰りをしているか、その際にはどんな話をするかなど事細かく親子関係についてもヒアリングをすることにしました。
その上で、もし母親が何も知らせず、また対策をせずに亡くなると、海外にいる姉との間で遺産分割がスムーズに進まない可能性についても説明し対策をする必要があると考えました。
そこで、このケースの基本方針としては、次のようなものが考えられるでしょう。
① エンディングノートの作成
② 自筆証書もしくは公正証書遺言の作成
③ 財産状況によっては相続税の試算
認知症に備えて、可能であれば、委任契約・任意後見契約を母親と相談者とで結べることが理想です。

lチーム編成I
■ コンサルタントA
まずは、ヒアリングを中心にエンディングノートから先に進めるよう相談者を通じて母親にも働きかけをすることにしました。
ここは、コンサルタントAの腕の見せ所です。
エンディングノートを母親に書いてもらうことができればさらに先の対策に進める可能性が出てきます。
■ 行政書士B
もし、エンディングノートをきっかけに先に進むことができれば

委任契約・任意後見契約及び公正証書遺言(もしくは自筆証書遺言
のアドバイス)の作成を行います。
■ 税理士c
エンディングノートに書かれた財産状況によっては相続税の試算を行います。

3 初回の相談から母親の死までの経緯

(1) 初回相談・見積もり

今回のケースは、すでにAのお客様だった方からの紹介でした。紹介者自身がエンディングノートを親に書いてもらって助かった という話を相談者にしたところ、ぜひAを紹介してほしいというこ
とでAの事務所に相談にみえました。
初回の相談は約90分程度、母親の性格に始まり子どもの頃のことや父親のこと、姉のこと、母親と父親の離婚の経緯、結婚して家を離れてからどの程度里帰りしどんな会話をしてきたかなど事細かにヒアリングしました。
その結果、母親は父親が不倫をしたことで離婚をしてから人間不信気味で、あまり世間と関わりを持たなくなり、趣味の書道を習うこともやめて、買い物に行く以外は家で1人、書道を嗜むようになったそうです。実家に帰ると写経などをしていて、いつも筆と硯が机の上に置いてあり、母親に聞くと毎日写経していると言っているそうです。
実家には年に2回里帰りをし、そのときには母親を連れだして外食をすることもあるようで、代金は出すといっても母親が出してくれていて、父がいた頃は母も共働きで働いていたので、そこそこ貯えがあるのではないかと思うとのことです。
その日は、次回帰省する際に母親にプレゼントしてくださいとA

が監修したエンディングノートを手渡し、コンサル料として当面は
1時間当たりの相談料をいただくことで合意しました。
母親に渡す際には、「書いてくれないと困るから」ではなく、「よかったら一緒に書かない? 私のことも離れているからお母さんに知っておいてほしいし。こんな世の中だからもしかしたら私のほうが先なんてこともないとは言えないでしょう。名前の由来なんかも教えてほしいわ」と話してみるようにアドバイスしました。
相談者とは、主にメールやLINEでやりとりをすることになり、
また帰省後にお会いする約束もしました。

(2) 帰省後の面談

3月のお彼岸に実家に帰省した後の母親の反応を伺うため、Aの事務所で面談をしました。思いのほか母親の反応は悪く効果がなかったと力を落とした相談者を前に、Aも自分の力不足を痛感しました。
しかし、これで諦めていては先に進めないので、相談者には引き続き一度で諦めずに帰省のたびに声かけをして少しずつ母親の気持ちを懐柔していきましょう、と話し合い、 1時間ほどで面談は終了しました。
(3) 7月に相談者から緊急の電話が入る

7月に入ってすぐの頃、相談者から取り乱した様子の電話が入りました。それによると、警察から母親が孤立死したと連絡が来たそうで、緊急に帰省することになったので、また色々と相談させてほしいという内容でした。
帰省先からも電話があり、死後1週間くらいで暑かったこともあり腐乱していて悲惨な状態であったこと、玄関にハエが大量にたかっていたので不審に思った近所の人がインターフォンを押しても出てこないため、警察に通報してくれたので発見されたことなどの

報告を受けました。電話口で泣きながら話をする相談者にAもやりきれない気持ちでいっぱいになりました。
(4) 帰省した相談者から面談の依頼

その後、しばらく相談者からの連絡が途絶えたため心配していたところ、9月の初旬に相談者から報告とお礼で面談をしたいと連絡がありました。お礼を言われるようなことはできなかったはずと思いながら面談日となりました。
面談によるとあの後、警察の検死や葬儀があり、海外から急逮帰国した姉とも今後のことを話し合っていて、8月のお盆過ぎまで実家にいたということでした。
その報告の後、相談者がおもむろにAがプレゼントしたエンディングノートを取り出し、話してくれました。
「先生、母がエンディングノートを書いてくれていました。あん如こ憎まれ口をたたいて書かないと言っていたのに、実家の部屋を片付けていたら新聞紙と一緒にちゃぶ台に置いてあって、どうせ書いていないだろうと思いながらページをペラペラっとめくったんです。そうしたら何やら書き込んでいるので驚いて最初から目を通しました」。
相談者の話によると、そこには習字を習っていた人の美しい筆跡で、葬儀のことや棺に入れてほしいもの、墓のこと、家の処分や遺品についてまできちんと希望が書いてあり、それで困ることなく後の始末ができたというのです。
最後の大切な人に遺したい言葉のページには「あんたが、先に亡くなるかもしれないとか縁起でもないことを言い出すから、仕方なく書き始めたら思いのほか言い残しておきたいことがたくさんあったので、きちんと書くことにしました」ということが書いてあり、相談者と姉への色々な想いも書き残されていたそうです。
まさかの展開にAも驚きましたが、本当によかったと思える結果

になりました。
財産はエンディングノートによると現金が2,000万円ほどと生命保険が郵貯に500万円だったそうで、相続税もかからずに済みそうなので、相談はこれで終了となりました。
今後、事故物件となった実家の売却と墓をどうするかについて、落ち着いたら改めて相談したいということでした。
(5) 反省点

このケースでは、ゆっくり母親の気持ちを懐柔していきましょうとアドバイスをし、急ぐことを勧めませんでした。
結果オーライでたまたま、母親がエンディングノートを書いてく
れていたのでうまくいったように思いますが、もし書いてくれていなかったら色々と困ることになりました。
相談者と姉は仲が良く、遺産分割も母親がエンディングノートに書いておいた希望どおりに進められましたが、もし書かれていなかったらいくら仲が良くても難航したかもしれません。
葬儀や墓、遺品についても2人でどうしたらよいかと悩んでいたことと思います。
1人暮らしの高齢者はいつなんどき、どういうことになるかわからないということを常に頭に置いて、適切なアドバイスを心がけるようにしなくてはいけないと強く感じた相談事例でした。

4 今後の関わり方のポイント

(1) 終活・相続コンサルティング業務
① お塞の問題について
姉が海外、相談者が遠方ということもあり、今後墓を維持していくのには無理があり、母親も散骨か納骨堂に入れてほしいと書いて

ありました。
今後、適切なアドバイスができるよう、情報を収集し、墓に詳しい終活コンサルタントとチームを組んでアドバイスできるように体制を整えておく必要があります。
② 実家の売却について
残念ながら事故物件となった実家の売却は困難になる可能性があります。
こちらについては、事故物件でも誠意をもって売却に力を貸してくれる不動産業者の力を借りる必要があるでしょう。
売却にあたっては家の中の遺品や家財も処分する必要があるため、相談者だけでそれが実行できない場合は遺品整理業者を紹介する必要もあります。
いずれにしても、相談者の気持ちに寄り添い誠意をもって対応する業者選びが大切になってきます。
(2) 定期連絡を入れてフォロ一体制をとる

相談者からの連絡が立ち消えにならないよう、線香をお送りしたり情報をお届けするレターを送付したりしましょう。
いつも寄り添っていますよ、という働きかけを続けることで、何かの際にはまた必ず相談されるコンサルタントとしての地位を確立しましょう。
(一橋香織)

■ トーク&スタディ■『エンディングノート』

エンディングノートっていつから書くのがいいんでしょうか? 私はまだ30代後半なので書くのは早いですよね?

いえ、30代後半は決して早くはないと思いますよ。20代の方や小学生でも書いていいと私は考えています。

エンディングノートは決して死ぬための準備のノートではないからです。このあたリの話は武藤先生が専門なので、武藤
一橋 I先生のご意見も伺ってみましょうか。

なるほど、そういう意味もエンディングノートには込められているんですね! 私も書いてみようと思いますし、やはリ両親にも勧めたいと思いました。
ただ、エンディングノートは法的には有効なんでしょうか?

的なケースであって、多くの場合は法的な効力はあリません。それでもエンディングノートには遺言書とは違い、武藤さんのおっしゃるような独自の役割があるので、私も遺言書とは別にエンディングノートを書いておくことに賛成です。

木野先生がおっしゃるとおり、法的には有効ではあリませんが、このノートがあるおかげで親の想いがわかり、遺言だけでは伝えきれなかったことを伝えることができますね。遺すものは財産だけではなく想いこそ遺してほしいと私は考えています。

本当にそうですよね。そういう意味でも駆け出しの私は、エンディングノートの普及からセミナーなどを開催してやっていきたいと強く思えました。

■■コラム■■
終活を知る:④ お葬式
■ お葬式の意義と意味を理解する
時代の変化や新型コロナウイルス感染症の影響もあり、お葬式を行わないという選択が増えています。
私たちが大切にしていることは、お葬式を行うにしても、行わないにしても、お葬式の意味と意義を把握した上で、決定していくことが重要だということです。
お葬式という言葉の意味は「葬儀(葬送儀礼)と告別式」で、その頭とお尻を取って「お葬式」です。費用面で気になる方は

この告別式の部分を家族だけにする家族葬や、ごくわずかな身内だけで執り行う直葬にするなどの手段があります。
しかし、ご〈親しい身内が亡くなった方は感じていると思いますが、お葬式は値段の良し悪しではなく「何のために行ったのか」という一番の目的があるのです。世の中大事なものは
「目に見えないもの」がほとんどです。命、愛情、優しさなど
……。お葬式も「式」の形ではなく、故人を偲び、身近な人の死をもって何かを学ぶ場です。意義は与えられるものではなく自身で見出すものです。お葬式の意味や意義、価値や甲斐を考えた上で高いお葬式ではなく「良いお葬式」をすること自体が、結局は相続やその後の家族にも影響するのではないでしょうか。その目線で「手段」を理解してください。
■ お葬式の事前見積もりを葬儀社でする
なかなか、この行為に及ぶまでに勇気は必要ですが、今葬儀社はとても努力をしていて、全く葬式と縁遠そうな元気な方でも気持ちよ〈見積もりをして〈れます(逆にして〈れないところはこの時点でアウトです)。よくわからない葬儀費用の構造を勉強するのはよいことですが、2か所以上から見積もりをすれば比較できるので、手っ取り早く理解できます。その見積もりで気を付けるべき点は以下です。
① 見積書と実際の費用に差が出ることを記載、もしくは説明があるか
お葬式は結婚式と違って、何人来るのかは実際に行わないと不明確です。そのため「変動する」項目があるのです。例えば飲食や返礼品、細かいところだと会葬令状(来てくださった方への令状)です。お葬式後の不満の1つに見積書と金額が随分違うということがあります。それはここの部分の説明がしっかりされていないことから起こります。

② 素人でもわかりやすい言葉で記載されているの力‘
お葬式のことは、縁起でもないと言われたりして、あまり知られてこなかったと思います。このことは葬儀社も理解しているはずです。そこで、私たちが見ても理解できる言葉で見積書が作成されているか、これは葬儀社のスタンスを見るためにも大事なことです。
③ 葬儀費用は名前に関連して安くなるわけではない
家族葬と聞くと「安い」というイメージがあると思います。実はいわゆる普通のお葬式でも直葬(「ちょくそう」や「じきそう」と読み、儀式をせず火葬するお葬式です)でも、葬式は
「何をどのくらい使った」ということで値段が決まります。単に足し算なのです。例えばこんな感じです。以下はほんの一例です。
.どの斎場で行うのか
→広さや場所、設備で変わります。
・祭壇はどうするのか
→元々設置しているものがありそこに飾りをつけるのか、生花祭壇にするのか、白木祭壇にするのかなど。
・死装束や棺を選ぶ
→ここも値段や種類は多々あります。
他も多々ありますが、人件費や食事代もあります。つまり、家族葬という名前がついていても、いくらでも高くすることはできるということです。以上を踏まえ、名前にこだわるのではなく、内容をみて、数か所との比較が大事です。
(武藤頼胡)

●事例3●

[Il初級編
...............

おひとりさまの相続・終活対策

1 事例の紹介
I相談者I藤岡洋子(81歳):無職
I対応したコンサルタントI A:終活・相続コンサルタント
I相談内容I
私は、一度も結婚したことがなく生涯独身のおひとりさまです。私には兄が1人いましたが7年前に亡くなっており、兄の妻も5
年前に死亡しています。
父には不倫した相手との間に子が1人いますが、会ったこともないですし私には関係のない人だと考えていますが、私が死んだ場合、何か関係してきますか? 認知はしていたようです。
兄には息子が1人いて、この甥夫婦が何かと世話を焼いてくれていますし、私亡き後、すべての財産は甥に相続させる代わりにある程度の面倒はみてもらう予定で、甥夫婦も納得しています。
ただ県外に住んでいるためすぐに飛んで来られるわけではなく、今は要支援2程度で身の回りのことは基本的に自分でやっていますが、本格的に介護状態になったら特養に入って、甥にはなるべく迷惑をかけないようにと思っています。
気になるのは、今私が守っている甥の親である兄夫婦が入っている先祖代々の墓をどうしたらいいかということです。
また、私は現役時代は小学校の教員をしていたこともありそれなりに財産もあるので、甥が相続した際の相続税も気になります。
それと、親から相続した今住んでいる家が空き家になってしまうため、この家の処分についても、甥はこの家は必要ないでしょうか

ら悩んでいます。
なるべく甥に迷惑をかけず、甥がスムーズに手続きができるように準備しておきたいのですが、どうすればよいでしょうか?

I財産内容I 目

・自宅土地建物:固定者資⑤ 産評価額1,500万円
・有価証券:2,000万円:記

.預貯金:5,000万円
• 生命保険:1,000万円
• 財産合計:9,500万円

〗関係図l 已
【藤岡家】 C[

妻 長男·義男
(62歳) (62歳)

I備考I

法定相続人 法定相続分 遺留分
半血の姉 3分の1 なし
甥:義男 3分の2 なし

2 方針とチーム編成

このケースでは、相談者が半血(腹違い)のきょうだいは自分の相続人ではないと誤認していて、遺言を書かなくても甥に自分の財産はすべていくと考えていました。
また、相続税とお墓の問題、自宅が空き家になる可能性や甥がスムーズに相続手続及び死後事務ができることを望んでいました。
そこで、このケースの基本方針としては、次のようなものが考えられるでしょう。
① 公正証書遺言の作成
② 委任契約(財産管理契約) +任意後見契約
③ 相続税の試算
④ 相続人の確定
また、コンサルタントAは、空き家となる予定の相談者の自宅と墓について、甥夫婦がどのように考えているかをヒアリングする必要があると考えています。

lチーム編成l
■ コンサルタントA
チームの取りまとめと相談者へのフォローを主に行います。
また、甥にヒアリングし、甥がどう考えているかも対策に反映させる必要があります。その上で、墓と相談者の自宅について改めて専門家を紹介する予定です。
その他に遺言書の付言事項を必要とされた場合は、案文作成、証
人、遺言執行者への指定などがあります。
■ 弁護士B
委任契約・任意後見契約及び公正証書遺言の作成を行います。 また、半血きょうだいの調査及び相続人の確定業務も行います。

具体的には、戸籍の収集、案文作成、公証役場の手配、証人、遺言
執行者の指定などの業務を分担することになります。
■ 税理士c
相続税の試算を行います。
具体的には、相談者から資料の提出を受けて、相続税試算レポートの作成業務を分担することになります。

3 解決までの手順

(1) 初回相談・見積もり

このケースは、相談者の居住地域の地方自治体が主催するAが講師の相続セミナーに、相談者と甥が参加したことから始まりました。初回の相談は、Aの事務所に相談者が1人で来所し、約2時間程 度かけて行われました。その際に、基本的な家族関係や相談者の想ぃ、これまでの人生についてやおよその財産と相談者の希望と懸念
事項をヒアリングしました。
Aはおおまかな基本方針として、①遺言書作成、②委任契約(財産管理契約)+任意後見契約、③相続税の試算、を提案し、④として、半血きょうだいも認知されていれば相続人になることを説明しました。相談者は非常に驚き、早急に対策をしたいということで、その場で受任が決まりました。
Aは甥にも意向を確認したいので、相談者から甥に話をしてもらい、問題なければ専門家の紹介と見積書の提示をするまでに甥と話をさせてもらうことになりました。
また、今後の連絡は主に電話で行うことに決まりました。

(2) 甥への連絡

相談者から、甥に連絡して情報をすべて共有して説明してほしい

と電話があり、甥に相談者の相談内容と半血きょうだいの問題などを説明したところ、すぐに相続人確定だけでも行ってほしいと依頼されました。
また、今後はできる限り甥も同席をするので、今後の連絡は甥にメールを送るよう相談者からも依頼されたため、甥と連絡を取り合うことに決まりました。
(3) チーム編成・打合せ

Aは、まずは相続人の確定の戸籍収集と委任契約・任意後見契約・遺言書作成のために女性の弁護士B、相続税試算のためにやはり女性の税理士Cに本件への協力と見積書の作成を依頼しました。
弁護士Bと税理士Cから見積書が提出されたので、Aは自らの相続コンサル料の見積書とともに相談者と甥にそれらを送り、承諾を得ました。
その後、Aと弁護士B及び税理士Cは、メールやオンライン会議
で情報共有を行い、相談者宅の訪問日を調整しました。

(4) 相談者への紹介

Aは弁護士Bと税理士Cを同行して相談者宅に行き、チーム全体の顔合せを行いました。この際、Aからそれぞれの専門家の経歴、実績、人柄や仕事ぶりなどを紹介し、相談者は士業が全員女性であることに安心し、甥夫妻もその様子を見て安心した様子でした。
弁護士Bと税理士Cは、委任契約・任意後見契約及び遺言書と相続税試算レポートの作成に必要な資料の準備を相談者と甥夫妻にお願いし、その場ですぐに確認できる事項のヒアリングを行いました。弁護士Bは、委任契約・任意後見契約の受任者、遺言書作成時の 証人、遺言執行者、付言事項の作成をどうするかを相談者に尋ね、
後日回答をもらうことにしました。
また、相続人の確定のため早急に戸籍の収集に取りかかることと

なりました。
次いで、甥夫婦が相談者の養子になれば、相続人は甥夫婦だけとなるため半血きょうだいは相続人ではなくなり、相続後の手続きも楽になることを説明しました。
税理士Cからも、子のいない者は2人まで養子をとることで相続税額が軽減する旨の補足説明がありました。
相談者はその提案に対して前向きでしたが甥夫婦は気が進まないようであったため、とりあえず持ち帰って話し合ってもらうことになりました。
そのほか、今後の大まかなスケジュールを確認したり、相談者と甥からの質問に答えるなどして、およそ90分程度でその日の打合せは終了しました。
(5) チーム内の取りまとめと相談者へのフォロー

Aは上記の打合せ議事録を作り、相談者の準備する資料と期限、今後のスケジュール等をまとめて、出席者全員に共有しました。
まもなく、相談者と甥から
「委任契約・任意後見契約の受任者は甥夫婦にしたい」
「遺言書作成時の証人及び遺言執行者はAと弁護士Bにお願いした
し)」
「付言事項は今回必要ない」
「養子縁組は今回は見送る」という回答がありました。
Aは、相談者と甥がどうやって準備したらよいかわからない書類についてアドバイスをしたり、疑問点に答えたりしながら、必要に応じて弁護士Bと税理士Cにも連絡して対応を依頼しました。

(6) 相続人確定の報告

弁護士Bから相続人が確定したとの連絡を受け、弁護士Bの事務

所で相談者からの依頼で甥に報告をしました。
弁護士Bの調査によると、半血きょうだいはまだ存命であることがわかりました。戸籍の付表から隣の県に住んでいることも弁護士 Bより説明がありました。
それを受けて、半血きょうだいには遺留分がないため、養子縁組をしないというのであればなおのこと公正証書遺言は必須だということになりました。
(7) 相続税試算レポートの報告

相続人の確定の説明の数日後には、税理士Cによる相続税試算レポートが完成し、まずAと弁護士Bに共有してチーム内でその内容を確認しました。
レポートには、相談者の希望どおり遺産を甥にすべて相続させるとして、相続税がおよそいくらくらいになるかなどについてのシミュレーションが書かれています。
その後、Aと税理士Cは、相談者宅を訪問し、相談者と甥に相続税試算レポートを提出して内容の説明を行いました。
税理士Cからは、代襲であっても甥は相続税が2割加算となる説明や生前贈与による税額軽減の提案もありました。
(8) 委任契約・任意後見契約、公正証書遺言の作成

相続税試算レポートを踏まえて、相談者が遺産の配分を決め、弁護士Bが委任契約・任意後見契約、遺言書の案文を作って公証役場の手配を始めました。
一方で、Aは墓や相談者の自宅をどうしたいと考えているか、甥と話をしました。
甥夫婦の考えとしては、自分たちにも子がいないためいずれは墓
じまいを考えるとして、当面、墓は相談者が亡くなった後、甥夫婦が守っていくことや相談者の自宅は売却する方向で考えており、相

談者には甥から伝えるということになりました。
委任契約・任意後見契約、遺言書作成当日には、Aと弁護士Bが証人として立ち会いました。甥夫婦には委任契約・任意後見契約受任者として出席してもらいました。
Aは、緊張している相談者と待合室で待っている甥夫婦を雑談などでリラックスさせ、その間に弁護士Bは公証人や公証役場の書記と書類確認のやりとりをするなど、準備を整えていきます。
委任契約・任意後見契約は相談者・甥夫婦・弁護士Bで進めてもらい、公正証書遺言の証人としては、公証人が文章を読み上げている最中、Aは相談者の隣に座って遺言書の文字を指で追ったりページをめくったりして補助をしました。

(9) 生前贈与の実行

相続対策の仕上げとして、Aと税理士C、相談者及び甥夫婦で改めて打合せを行い、相談者から甥夫婦に生前贈与を毎年行うことが決まり、贈与契約書を双方でかわしてもらいました。税理士Cからは生前贈与がいつ法改正で終了となるかわからないという説明もあり、贈与税がかかっても少し多めに税理士Cの指示した金額で贈与を行うことになりました。毎年、贈与の際にはAが終活・相続コンサルタント顧問契約を結び、税理士Cが用意した贈与契約書を毎年持参して立ち会うことになりました。

4 解決のポイント

(1) 遺言書コンサルティング業務

① 専門家の選び方
委任契約・任意後見契約、遺言書の作成は、行政書士・司法書士・弁護士のいずれかの資格を持つ専門家に頼む必要があります。

法的な専門業務の中では、委任契約・任意後見契約、遺言書作成はそれほど高度なスキルが必要というわけではないので、経験よりも、相談者や自分との相性(年齢・性別・接客態度・自宅訪問の可否等)を重視するとよいでしょう。
今回は、半血きょうだいのことがあり何か交渉事が生じたときのためと、相談者が高齢の女性であったこともあり女性の弁護士を選びました。
② コンサルタントの主な役割
相続コンサルティング業務におけるコンサルタントの役割については【事例1】で述べているとおりです。
また、今回は相談者が連絡窓口や相談時の同席に甥を指名したこともあり、甥とのやりとりの中で相談者が置き去りにならないよう配慮も必要でした。常に甥とのやりとりはAもしくは甥から相談者に報告をし、やりとりの履歴も書面で残すようにしました。
③ 証人としての立ち会い
これに関しても【事例1】の④を参考にしてください。
今回は証人としての立ち会いのほかに、委任契約・任意後見契約で甥夫婦が来ていたため、雑談などで3人の緊張を解いたり、公正証書遺言作成時、甥夫婦は同席できないことを説明し、Aがしっかりサポートするので安心するよう伝えたりしました。
④ 遺言執行者の指定、気を付けること
これについても【事例1 ]⑤⑥を参考にしてください。

(2) 相続税の試算

① 税理士の選び方
主に[事例1 ]で紹介したとおりですが、その他にも以下の点に気を付けて選ぶとよいでしょう。
今回は相談者が高齢の女性であったため、女性の税理士を選びました。高齢の女性は、男性の士業を怖がる傾向にあり、少しでも高

圧的だったりすると委縮して何も話せなくなる方が少なくありません。もちろん、男性でもソフトな税理士もいますが、女性が喜ばれることが多いため、【事例1】に加えて相談者の性別や性格も配慮して選ぶとよいでしょう。
② コンサルタントの主な役割
コンサルタントは前項の遺言の箇所や【事例1】でも触れたとおり、やはりファシリテーターとしての役割や専門用語の通訳としての役割が重要です。
加えて、話し合った内容をきちんと文書にまとめて報告するなどの事務能力も求められます。ホウレンソウはできているようでできていないコンサルタントも多いように思います。
③ 気を付けること
【事例1】で述べたとおり、コンプライアンスには十分気を付けて業務を行うようにしてください。コンプライアンスについては第 1章6で詳しく説明しています。
(3) 終活・相続コンサル顧問契約

相続は発生する時期がいつになるかわかりません。
数年後かもしれませんし、10年20年先ということもあるでしょう。それまでの間に相談者の想いが変化したり、財産状況が変わったり相続人の数が増減することもあります。
今回は生前贈与を毎年行うことや、甥夫婦もまた、子のいない夫婦であることなど、色々と今後も関わりを持ち続けることでサポートできることがあると判断し、終活・相続コンサル顧問契約を結びました。
これにより、相談者と甥夫婦からは今後の自分たちの相続対策や墓の問題・不動産の売却を含めてなんでも相談できると安心いただけました。
(一橋香織)

■ トーク&スタディ■「報酬』

報酪を切リ出すタイミングをいつも悩むのですが、先生方はどうされていますか? どうしても、まだ経験が浅いので切り出せず、無料にしてしまうことが多くて悩んでいます。

木野先生は弁護士さんなので、報醸を切リ出すタイミングで困ったことはないですよね?

紛争案件の場合はケースバイケースの個別見積もリなので、その場ではなく後日見積書を送っています。
弁護士に限らず専門家のもとに相談に来ているお客様ですから、まさかなんでも無料で済むとは思っていないでしょう。
変に遠慮するより堂々と明確にお伝えするべきだと思います。サービスと報酬の合意内容を契約書として残しておくことも重要ですね。

プロとしてお客様にしっかりとしたサービスを提供する以上、経験にかかわらず報酬はいただくべきです。
慣れないうちはなかなか言い出せないと思いますが、初回にその話を切り出すと決めてしまえば、意外とスムーズに説明できるものですよ。

そのためにも業務内容と報酬表はきちんと作成してくださいね。

はい! 今後はきちんと報酬をいただくように頑張ります。報酬表! そうですね、まずはそれを作らないと話になリませんね! 頑張リます。

■■コラム■■
相続人の範囲あれこれ

相続税申告や遺産分割協議など、亡〈なった後の手続きについて話し合うためには、まず「誰が相続人か」を明らかにしなくてはなりません。
誰が亡くなった方の相続人になるかについては、民法で様々なルールが決められています。
基本として押さえておくべきポイントは、次の3つです。
① 配偶者は、必ず相続人になる。
② 子どもがいれば子ども、子どもがいなければ親、親がいなければ兄弟姉妹という順序で相続人になる。
③ 子どもが先に亡くなっている場合はその子孫が代わりに相
続人になり、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合はその子
(孫以降は含まれない)が代わりに相続人になる。

【例】※口で囲んだ者が相続人

亡父 亡母

I

●(被相続人)=困酋i面l

亡兄

亡甥
|
甥の子

(法定相続分)
配偶者:4分の3
弟:4分の1 X 2分の1 = 8分の1
甥:4分の1 X 2分の1 X 2分の1 = 16分の1
姪: 4分の1 X 2分の1 X 2分の1 = 16分の1

さて、最後に相続人の範囲で誤解の多いポイントをクイズにしてみました。まずは直感で答えて、次頁の正答と照らし合わせてみてください。

Q1 養子(普通養子縁組)に出した子は、相続人になる?はい・いいえ
Q2 離婚して元配偶者に親権を取られた子は、相続人になる?
はい・いいえ
Q3 異母兄弟が亡くなったとき、自分は相続人になる?はい・いいえ

真 A 1 :はい A2:はい A3:はい
(木野綾子)

●事例4●
四十九日までに
納骨しないといけない?

1 事例の紹介

② 中級編
...............

I相談者I平井佐和子(61歳):離別独身1人暮らし
I対応したコンサルタントI A:終活・相続コンサルタント
I相談内容I
離れて暮らしていた息子を1か月くらい前に亡くしました。きちんと供養してあげたいので、曹洞宗のできれば都内の僧侶を紹介してほしいです。

1相談内容の疑問I
.亡くなって1か月経つのに僧侶を紹介してほしいというのはつじつまが合わない。
・なぜ供養をしてあげたいと思ったのか。
1コンサルタントからの質問I
• お葬式は終わっていると思いますが、なぜ今から僧侶が必要なのでしょうか。
・離れて暮らしているとのことですが、ご子息は別の家庭があるの
ではないでしょうか。

I聞き取りからの背景と経緯I
若いとき(30年くらい前)に離婚して息子は夫が引き取りました。息子が大人になってから連絡を取るようになり、息子がまだ独身であることから40歳の誕生日を過ぎたら私と同居する話になっ

ていました。やっと自分の願いが叶う寸前で息子が病死しました。元夫は20歳年上で考えが古く、その親戚も同じ考えです。息子の納骨は四十九日までにしなければいけないと言われましたが、できれば息子の遺骨と離れたくないのです。どうすればよいでしょうか。

I家族関係図I
【平井家】

亡長男
(享年39歳)

I聞き取りポイントI
死に関しての相談、葬儀や墓、供養などのことは、日本の過去の風潮から「縁起でもない」ということで、年齢に関係なく知らない方が多いため、開ロー番の話から時間をかけて聞いていくことが肝要です。

2 この事例で考えられる解決方法

(1) 元夫婦両方に分骨して供養する

分骨はしても大丈夫です。遺骨は誰に権利があるかということになりますが、遺骨は民法上では祭祀財産※とは定義されていません。しかし最高裁の判例で、遺骨は祭祀財産であり、祭祀承継者に帰属するという判決が出ており、今回の事例でいうと祭祀承継者は故人(息子)の父親のため、相談者から元夫にそのようにできないかという要望を伝え、許可が必要になります。
※祭祀財産とは:系譜と祭具そして墳墓のことをいいます。系譜とは先祖
代々の家系図みたいなもので、祭具は仏壇や位牌、墳墓は埋葬する施設ですが、墓地も一体なのでこれにあたります。
■ 分骨する際に必要なこと
分骨するタイミングはいくつかあると思います。
① 火葬した際
② 納骨する前
③ 納骨後
①の場合は葬儀社(葬儀社が火葬場に伝えてくれるだけです)や火葬場に伝えれば、埋葬許可証とお骨を分骨した数の分骨証明書がもらえます。骨壺は本人が用意することなのであらかじめ葬儀社で必要な数を購入しておいてください。
②の場合は、火葬したときには決まっていなかったが納骨前に分骨するとなった場合です。火葬した火葬場もしくは市区町村へ分骨証明書の申請をしてください。
③の場合は、納骨後に両親のお骨を自分も守りたいとなった際などがあげられます。そのときは墓の管理者にその旨相談し、分骨証明書の発行を依頼します。

このように分骨するときは勝手にするのではなく、証明書が必要です。そのまますると死体遺棄罪に問われる可能性もあります。
前述のとおり通常、故人おひとりに対して埋葬許可証が発行され、 1か所に納骨する場合はこれのみでよいのですが、分骨する場合には分骨するお骨ひとつに対して分骨証明書が必要になります。また、海洋散骨は埋葬ではないので許可証は不要という見方をし ますが、業者に依頼する際に埋葬許可証の確認はするところが多いので用意してください。手元供養の場合も許可証は不要とされていますが、後にお墓に入るということもあり得ますので用意してくだ
さい。

(2) 納骨時期を先に延ばす
えこう
仏教の慣習で法要は回向といい、本来七日ごとに行います。

逝去日を含めて35日目

※地方によっては、女性の場合は35日目を忌明けとすることがあります。

中級編 事例4 四十九日までに納骨しないといけない? 139

この七七日が四十九日で忌明けということもあり、日本の慣習としてはここまでに納骨となっています。しかし慣習であるだけで絶対ではなく、最近ではお墓のない方は1周忌で納骨の方が多くいます。またお彼岸に納骨という方もたくさんいます。ただこれらの提案も祭祀承継者の判断になるので、相談者の場合、元夫にお願いが必要になります。

(3) 少量の遺骨を手元供養にする

遺骨を粉骨し(小さな骨ならそのままの方もいます)、自宅などで供養する方法です。こちらも祭祀承継者の許可が必要ですが、実際には相手の気持ちを掻き立てない程度の小さな骨や、骨壺の底にある砕けている骨を耳かき一杯くらいいただ<程度なのでお願いしやすいかと思います。
骨を粉骨するのは違法ではないか? と思われますが、散骨するときにも同じことをします。刑法190条の遺骨の損壊に該当するかということになりますが、家族が供養の手段の一つとして、故人の尊厳を損なうことなく他の方の宗教的感情を害さないものとされる限り、処罰の対象とはなり得ないとされています。

(1)~(3)の3点を相談者に提案したところ、一緒に住むはずだった息子と一緒にいたいということで、(3)の方法を選択されました。
元夫に話をするのは相談者の役割なので、そこはできますかとお尋ねすると、「話してみます」とのことでお願いしました。まれに終活・相続コンサルタントにそのあたりの間に入って話してほしいという要望もありますが、なるべくご本人にやっていただきます。それは解決したときに「自分でやった」という自信につながってほしいからです。

3 解決までの手順

(1) 手元供養の手続き

手元供養とは字のごとく自宅などでお骨をご自身で所持して供養することです。この場合は「手元供養品」に入れることが多いです
(骨壺のままでも問題はありません)。今回の場合は元夫から3センチ程度のお骨ならよいと許可をもらえましたので、火葬場で分骨証明書の発行手続をして手元供養品を選ぶことにしました。
(2) この分野の専門家を選ぶ

手元供養品の取扱いは様々なところがあります。今はインターネットでも購入は可能ですが大事な家族のお骨なので、直接目で見て一緒に選べる場所がよいでしょう。取扱いのあるところは主に以下です。
•仏壇店 ・葬儀社 ・霊園
・手元供養専門業者 ・一部の石材店
上記のところでもあらかじめ「手元供養品」の取扱いがあるか、またあったとしても実際のものを見ることができるかの確認をしてください。
手元供養品は種類も豊富です。
次頁の写真のように様々な形のミニ骨壺から、ペンダントやお骨そのものをダイヤモンドにするものなど多種多様です。
今回は相談者の住居近くで手元供養品の扱いをしている葬儀社へ一緒に行きました。手のひらサイズのミニ骨壺が中心に10種類ほど並んでおりペンダントもありましたが、息子の好きだった青色のミニ骨壺を選ばれました。
3センチのお骨はそのままでは入りません。この場合粉骨する必要があります。海洋散骨や樹木葬では機械で粉骨しますが、今回の

■ 手元供養品

※「おくりびと®のお葬式」より

場合は手で行うことになります。葬儀社担当者が「平井様、お骨を少し小さくする必要がありますが、ご自身でされますか。それとも私どもでさせていただきましょうか」と尋ねてきました。相談者は
「私でします」という返答でした。
ここでこの葬儀社を選んでよかったと思った点は、粉骨という言葉を使わなかったこと、そしてどうされるのかご本人に尋ねたところです。お骨はもちろん物ですが、そこに込められた想い、そこを汲み取ることが非常に大切だからです。
相談者に白い手袋をしてもらい、綺麗な白い布で小さなお骨を包
み、その上からステンレス製のめん棒でゴリゴリと砕くのですが、ここで相談者は30分かかりました。作業だったら1分もかからず終わりますが、大切な息子が居なくなってしまった実感、生前のお気持ち、色々なことと向き合うこの時間は大切です。葬儀社担当者とコンサルタントで黙って一緒にそのときを過ごしました。
その後、ご自宅にお骨とともに帰り、お線香をあげその日は終了です。相談者へ「お疲れ様でした、この後ご子息さんとゆっくりお 2人でお過ごしください」とお声がけしました。

(3) 手元供養の注意点

手元供養も小さいですが、結局は残ります。そのため自分で守っている間はよいですが、最終的にどうするか、ここまで決めておかなければなりません。相談者の場合は、コンサルタントのアドバイスで、自分が死んだとき棺に入れてほしいとエンディングノートに書き、口頭で一緒にお住まいのパートナーに伝えていただきました。
(4) 終活・相続コンサルタント料について

相談料は、あらかじめ1時間〇〇など明記している金額と今回の場合は手元供養品の紹介料です。わずかな料金ですが、この後、相談者本人の終活相談となり、エンディングノートサポート、相続相談、お墓購入までとなりました。
(武藤頼胡)

■ トーク&スタディ■『終活を始めるタイミング』

今さら、こんな質問を私がするのはお恥ずかしいのですが、終活はいつから始めたらよいか聞かれることが多くて……。どのように回答したらよいでしょうか?

この質問はよく聞かれます。なんとなく年取ってからというイメージですが、まだ早いと思ったときが終活適齢期なのです。病気っていつなると思いますか? 私は亡き母がお医者さんに「あなた癌ですよ」と宣告されたとき、病気になったと思いました。その瞬間から会話が変わリました。持っていた貯蓄のこともましてやお葬式どうするの? なんて口が裂けても言えませんでした。そのことから元気な今から始めるのが正解なのです。

なるほど、そうですよね。私もよく相続対策はいつからすればよいか質問されますが、いつでもやろうと思ったときにやるのがよいですよ、とアドバイスしてきました。
もしくは、相続対策の場合は判断能力がなくなるとできない
ことが多いので元気で頭がしっかりしているうちに! と付け加えたりしています。

木野先生は弁護士さんですが、そういう質問はお受けになることあリますか?

私は他のクライアントの例を出して「40代で遺言書を書いている方もいます」とか「再婚を機にお子さんたちと相続の話を始めた方もいます」などとご案内することが多いですね。武藤さんの「まだ早いと思ったときが終活適齢期」というフ

レーズは本質を言い当てていてお見事です。今度使わせてもらいますね!

ありがとうございます。とても参考になりました! 私も次回からは皆さんからのアドバイスを元にお客様に回答してみょうと思います。

■■コラム■■
終活を知る:⑤ お墓
■ 承継者とともに決める
お葬式もそうですが、実際にお墓に入るときは残念ながらこの世にいません。そしてお葬式はいわば1泊2日ですが、お墓は弔い上げ三十三年、五十年という方もいて「これがいい!」と簡単に決められません。ですので、守ってくれる人と相談して決めることが肝です。まずはそこを押さえておいてください。
お墓は様々な供養方法があります。最近では、納骨堂、樹木葬、海洋散骨、手元供養など、見たり聞いたりしたことはあるのではないでしょうか。ここでいう承継者とはお墓を守っていく人を指します。本人の意思も大切ですが、実際に守っていく方の意見も同じくらい重要です。近年は、様々な理由で墓じまいが年間に約12万件生じていることもあり、相談者にとって最適な方法を、多くの選択肢を踏まえた中で案内してい〈力が求められます。
そもそも「墓じまい」とは何でしょうか。この言葉どおりに受け取ればお墓をなくすことですが、ほとんどの方が「改葬」のことを意味し、その場所から移転したいという意味で使っており、要はお墓の引っ越しを称して言われています。
墓じまいしてほしいと言う人は、寺との別れを意味するのか、田舎にあるお墓に行くのが大変だからという理由で墓石との別れをしたいのかで対応が変わります。
前者であれば、寺との関係性が問われるので、まずはお世話になっている寺に改葬、墓じまいに関しての了承を得ることが必要です。その際は数十年数百年とお墓を守ってくれているので、感謝の気持ちをお忘れな〈。お墓をしまう際は、墓石を撤

去し、更地に戻す工事が必要になるので改葬料が数十万円かかります。離檀料は今までお世話になった寺への感謝の気持ちとして出すお金なので、具体的な金額は寺にお尋ね〈ださい。
後者であれば、今自分が守れるところに移す、また本当にお
墓をやめて海洋散骨などにするという選択肢があります。希望も加味しながら、その方の状況下に応じて良し悪しをアドバイスしなければなりません。そのためには、まずはその物自体の知識は必須です。
昨今の折込チラシを見ると「永代供養付き」などという言葉を目にします。確かに相談者の多くは「永代供養にしたいです」と言います。ではその永代供養の定義は何でしようか。実は定義はありません。永代なので永久ではなく有期なのです。またその内容は寺院ごと、霊園ごとに形もルールも違います。その点から、終活カウンセラーとしてサポートする地域の寺 院や霊園の情報やルールを把握することは相談者の安心につながるのです。相続と違い詳細な法律のない分野だからこそコン
サルタントの手腕が試されます。
(武藤頼胡)

●事例5●

② 中級編
...............

家族信託と委任及び任意後見契約

1 事例の紹介
I相談者I長野和代(80歳):不動産貨貸業 I対応したコンサルタントI A:不動産会社 I相談内容I
私は、夫を早くに亡くし、その遺産を活用して全10戸のアパート1棟を建て、その賃貸収入と年金で暮らしています。
年を取って気カ・体力ともに自信がなくなってきたので、今後は同居している長女にアパート経営を任せたいと考えています。
長女はシングルマザーで、フルタイムで働いてはいますが、なか
なか正社員になれず、よく転職しているようです。高校生の孫娘にはこれからお金がかかりますし、ゆくゆくはこのアパートを長女に渡して生計の柱にしてもらえたらと思っています。
気になるのは長男一家のことです。嫁がお金にうるさい人なの
で、長女に私の財産管理を任せるにあたっては、法的にきちんとしたお墨付きを与えて、どこからも文句を言われないようにしたいのです。
Aさんにはアパート管理のことでいつもお世話になっています
が、先日Aさんからのニュースレターに家族信託のことが書いてあったので、詳しく知りたいと思って相談に来ました。
難しいことはわかりませんが、わが家にふさわしい方策について、アドバイスをお願いします。

I財産内容I
・自宅土地建物(土地は借地):Aによる時価評価1,700万円
・賃貸アパートとその敷地: Aによる時価評価3,300万円
.預貯金:5,000万円
• 投資信託:2,000万円
•財産合計: 1億2,000万円

I家族関係図I
【長野家】

相談者:和代
(80歳)

長男:忠仁
(48歳)

/〉

長女:昌代
(49歳)


法定相続人 法定相続分 遺留分
長女:昌代 2分の1 4分の1
長男:忠仁 2分の1 4分の1

2 方針とチーム編成

このケースでは、高齢の相談者が、賃貸物件であるアパート1棟の管理を同居の長女に任せたいと希望しています。
また、将来的にはその賃料収入で長女親子に生計を立ててもらいたいという気持ちもあるようです。
コンサルタントAが初回の相談を受けた時点においては、この
ケースの基本方針として、次のような選択肢が考えられるでしょう。
① 財産管理契約
② 家族信託
③ 遺言書の作成

Iチーム編成1
■ コンサルタントA
士業の紹介と相談者へのフォローを主に行います。
また、これは不動産会社としての本業の範疇になりますが、賃貸アパートの管理が相談者から長女に任された後に、これまで相談者との間で結んでいたアパートの管理委託契約を長女との間で結び直
すことになります。
■ 司法書士B
相談者と打ち合わせて、どのような方策を採るかをアドバイスし、その結果に応じた内容の公正証書の作成(案文作成、公証役場の手配)を行い、家族信託を組成する場合には不動産登記手続業務
も分担することになります。
■ その他
遺言書の作成にまで話が及ぶようであれば、相続税の試算や相続税対策(納税資金の確保や節税)の依頼が派生することも考えられ、その場合には税理士が必要になります。

もっとも、相談者は個人事業主なので日頃から税理士と付き合いがあるはずです。その税理士に頼めるかどうかをまずは相談者に確認した上で、なお必要があれば相続に詳しい税理士を紹介するとよいでしょう。

3 解決までの手順

(1) 初回電話相談

このケースは、日頃から賃貸アパートの管理を委託しているコンサルタントAのもとに相談者が電話相談を持ちかけてきたことから始まりました。
しかも、Aが過去に送ったニュースレターの家族信託の記事を見て興味を持ったというのですから、すでに相談者とAとの間には一定の信頼関係ができています。
次回はAの店舗で、A、司法書士B、相談者、相談者の長女の4人で面談をすることになりました。
(2) チーム編成・打合せ

Aは、家族信託の案件を多く手がけている知り合いの司法書士Bに連絡して協力を求め、相談者の所有不動産の登記情報や公図の写し等の資料を添えて、本件の概要を説明しました。
Aとしては、自分が何らかの作業を分担するわけではなく、本業である不動産業の顧客サービスとして司法書士を紹介するという立場なので、コンサル料等は発生しません。
司法書士Bを相談者に紹介した後は、Aは打合せには同席するも
のの、必要書類等の詳細は司法書士Bと相談者で直接連絡を取り合って進めてもらうことになりました。

(3) 相談者親子への紹介

その後、Aの店舗で、A、司法書士B、相談者、相談者の長女の
4人で面談が行われました。
アパートの管理については、長女との間で財産管理契約や任意後見契約を結ぶか、あるいは家族信託を組成するかのいずれかが考えられましたが、アパートが築35年と古く、相談者が存命のうちに大修繕や建替え等の可能性があるため、財産の処分について柔軟性がより高い家族信託をメインに考えることになりました。
具体的には、預貯金の一部とアパートを対象財産とし、委託者兼受益者を相談者、受託者兼帰属権利者を長女とする家族信託を組成する方針です。

(4) 家族信託の具体的な契約内容の確認と委任及び任意後見契約
の説明

司法書士Bは、最初の打合せ後に相談者の長女と必要書類のやりとりをしたり調査をしたりする中で、相談者と長女がいつも利用している近所の銀行では受託者名義の信託口口座が開設できないことがわかりました。何駅も離れた銀行では開設できそうですが、それには相談者と長女が難色を示しました。
そのため、家族信託の対象財産はアパートのみにして、その他の財産の管理については別途財産管理契約を結び、また、相談者が認知症等で意思能力を失ってしまった場合に備えて任意後見契約も同時に結んでおくことを提案しました。
そして、その説明のためにAも交えて再び4人での打合せが行われました。司法書士Bから家族信託契約の案文と委任及び任意後見契約(財産管理契約と任意後見契約を合体させた契約)の案文が示され、一つひとつ説明と確認がなされました。
司法書士Bと相談者は、次回は遺言書について打ち合わせること

を約束して別れました。

(5) 遺言書作成の先送り

しばらくして、Aのところに相談者の長女から電話がありました。
「B先生は、次回は遺言書について話し合いましょうということ
でしたが、私も母も先日の2つの契約書を理解するだけで頭がパンクしそうなんです。アパート以外の財産をどうしたいか、まだ母もはっきりとは決められない状態なので、遺言書のことは来年あたりまで待ってもらえませんか。実は、弟の長男が今度結婚することになり、母も孫のために何か残してやりたいと、気持ちが揺れているようです」とのこと。
このことを長女から司法書士Bには直接伝えにくいということなので、Aが代わりに相談者と長女の思いを司法書士Bに伝え、その結果、今回は遺言書の作成は見送って今後の継続課題とすることにしました。

(6) 公正証書の作成・登記

その後、司法書士Bが見積書を出して相談者も了承したので、公証役場の手配を行い、相談者と長女が出席して家族信託契約書と委任及び任意後見契約書の作成が行われました。
家族信託契約に基づく不動産の信託登記は司法書士Bが行い、任意後見契約の登記は公証役場が行うことになります。
相談者は当面の悩みを解決することができて安心し、次は遺言書の作成に向けて考え始めています。

4 解決のポイント

(1) 相続コンサルタントの立ち位置の明確化

本件では、相続コンサルタントAは有償のコンサルティング業務としてではなく、本業のサービスの一環として無償で士業の紹介や打合せへの同席をしています。本書では、このようなケースも含めて相続コンサルタントと呼んでいます。無理に自分の役割分担を作って報酬をもらうのではなく、「相続に関するお客様の悩みを解決に導く手伝いをすることで、本業がスムーズになり、社会貢献にもなる」という関わり方もあるのです。
(2) 家族信託

① 家族信託の基本
「家族信託」というのは、よく「家族を信じて財産管理を託す制度」などと説明されることが多いのですが、法律上の名称ではなく、信託法の定める信託契約で信託業法の適用を受けない民事信託のうち家族間で受委託をするケースの通称です。家族の中で委託者(一定の財産の管理を託す人)・受託者(その財産の管理・運用・処分等を引き受ける人)・受益者(その財産による利益を受け取る人)等を定めて生前の財産管理について役割分担をするという契約を結びます。
このように書くと、最低でも3人の人数が必要であるようにも思えますが、実際には委託者が受益者を兼ねることも多く、その場合は登場人物が2人になることもあります。
契約書に署名押印をするのは委託者と受託者の2人です。
② 家族信託が適している例~財産管理~
家族信託が適している典型例は、本件の相談者のように、管理・運用・処分をしなければならない財産(収益不動産や有価証券など)

■ 家族信託とは .,

委託者A
(財産を託す人)

家族信託の契約

受益者A
(財産の利益を得る人)

• if;釈F,●

を持っている高齢者です。
そのような方が加齢や病気によって判断能力がなくなった場合、他者への委任自体ができないので財産は凍結された状態になってしまいます。通常はその時点で成年後見制度や任意後見契約を利用するのですが、これらには以下のようなデメリットがあります。
〈成年後見制度〉
① 誰が後見人に選任されるかわからない。
② 専門家が後見人に選任された場合、被後見人が亡くなるまで毎月報酬金が発生する。
③ 財産の処分をする場合に家庭裁判所の許可を得る必要がある。
〈任意後見契約〉
① 専門家が後見監督人に選任された場合、被後見人が亡くなるまで毎月報酬金が発生する。
② 財産の処分をする場合に家庭裁判所の許可を得る必要がある。

一方、家族信託は、委託者が自由に受託者を選ぶことができますし、特に定めない限り報酬も発生しません。また、財産の換価処分や投機的な運用も可能ですので、受託者の財産管理の柔軟性や自由度が高いというメリットがあります。
一方、家族信託のデメリットとしては、最初の組成時にかかる費用が高額になる傾向があることや、対象財産に関する権利が委託者から受託者に移ってしまい委託者が支配できなくなってしまうことが挙げられます。
③ 家族信託が適している例~次の次の承継者の指定~
もうlつの典型例は、財産の承継者として、自分の次の者だけでなく(例えば子ども)、その次の者(例えば孫)も指定しておきたいケースです。
遺言書では自分の次の者までしか定められないので、この点は家族信託の大きな特徴といえるでしょう。このような家族信託のことを特に「後継ぎ遺贈型受益者連続型信託Jと呼ぶこともあります。
④ 他の家族に知らせておく必要があるか
家族信託を組成する際に、当事者以外の他の家族にもその内容を知らせておいたほうがよいかどうかというのは、 1つの考えどころです。
少なくとも、受益者が委託者のほかに定められている場合や、当初の受託者が病気等になったときに備えて予備的な受託者が定められている場合などには、その本人には知らせておくべきです。
そうでなくても、受託者が委託者の財産について大きな管理処分権限を持ったり、帰属権利者としてその財産を承継したりすることについて、他の家族が不満を持ち相続の際の争いに発展することもあり得ます。
そうしたトラブル防止という観点からも、家族信託を組成する前後に家族で話し合いの場を持って十分説明しておくことが望ましいでしょう。その際には当事者が直接説明するのではなく、その組成

を依頼した専門家に代わりに説明してもらうとスムーズです。
もっとも、すでにかなり関係が悪化しており剌激したくない家族がいるなど、家族信託の存在や内容を知らせないほうがよいと考えられる場合もありますので、お客様とよく話し合って決めるようにしましょう。

(3) 委任及び任意後見契約

① 財産管理契約(委任契約)
財産管理契約(委任契約)とは、判断能力に問題はないけれど、加齢や病気によって身体的な不自由が生じて他者の援助が必要になった場合に、他者に財産管理を任せることです。
この契約を結んだからといって委任者本人が自ら財産管理を行えなくなるわけではありません。
② 任意後見契約
任意後見契約とは、今は判断能力に問題ないものの、将来において判断能力が不十分になったときに備えて、元気なうちに自分の財産管理や身上監護(生活・医療・介護等に関する法律行為)をしてくれる人を契約によって定めておく契約です。実際に判断能力が不十分になった場合には、一定の関係にある人が家庭裁判所に任意後見監督人選任の請求をし、その選任がなされたときから、任意後見契約の効力が発生することになります。
③ 委任及び任意後見契約
上記①及び②の2つの契約を合体させたものが委任及び任意後見契約であり、移行型契約と呼ばれることもあります。
遺言書と合わせて「3点セット」などと呼ばれることもあります。

(4) 本件事例の解決

本件事例では、上記のような特徴のある家族信託と委任及び任意後見契約を相談者のニーズに合わせて組み合わせています。すなわ

ち、アパートは将来の大修繕や建替えの可能性を見込んで、家庭裁判所の許可の要らない家族信託を組成することにし、その他の財産
(自宅不動産と金融資産)については委任及び任意後見契約を結んでおくというものです。
また、司法書士Bの調査によって、近所の銀行では信託口口座を作れないということが事前にわかっており、相談者らの希望もあって信託の対象財産に組み込みませんでした。
もちろん、答えは常に1つだけではなく、違う専門家が担当したら別の方策を採ることになったかもしれませんが、相談者や長女が理解して納得していることが一番重要なことです。これらの方策をお客様やその家族が今後うまく使いこなしていけるかをサポートするのも、不動産管理会社であり相続コンサルタントであるAの役割かもしれません。
遺言書作成については積み残しとなりましたが、お客様ごとにふさわしいタイミングがあるので、無理に今作ろうとせずに見送ってよかったように思われます。この点についても、今後、折に触れて Aのほうで相談者に遺言書作成に向けた声かけをしていくとよいでしょう。
(木野綾子)

■ トーク&スタディ■『認知症対策と相続コンサルタント』

認知症対策というのは、終活でも相続でも共通する悩みですよね。

高齢者は、認知症が思いがけず早く進行してしまうことがあります。現在のようなコロナ禍においては、しばらく親と会

うことができない状況が続いている方もいらっしゃると思います。私のご相談者も2年前にはお元気だったのにコロナで面会できず半年ぶりにお会いしたら認知症が進行していて遺言作成を断念したケースがあリました。
武藤さんは、どうですか?

家族信託は認知症対策として有効な方法の1つだと思いますが、法律家から見て気を付けるべき点などはありますか。

確かに家族信託は人気のある制度です。
組成にかかる報酬を高く設定している専門家も多いのですが、「まず家族信託ありき」で話を進めるのではなく、あくまで色々ある対策の中の1つとして、本当に必要なケースにだけ必要な限度で組成するべきだと思います。
家族信託といえば、令和3年9月に東京地裁の判決で、司法
書士が家族信託におけるリスク説明義務等に違反(家族信託
契約を結んでも、信託内融資や信託□口座の開設を受けられないというリスクがあるということを十分説明しなかった)したということでお客様への損害賠償を命じられました。今
後、家族信託の組成例が増えていくにつれ、このようなトラブルも増えるかもしれません。

怖い判決ですね。司法書士に限らず、相続コンサルタントは皆お客様から見れば専門家ですので、しっかリ勉強して、お客様への説明が十分できるようにしたいものです。

いきなり会議をするのは難しいですが…••。「お母さん、いつ
も家事大変ね、手伝うね」などのコミュニケーションから始めてください。

私のお客様でも家族会議ができる方と現状ではとうてい無理な方がいます。もともと仲の悪い家族が家族会議を開くのはハードルが高いですね。やはり、日ごろから家族で法事や墓参りを行うようにし、家族間で話し合える素地を作っておくことが大切ではないでしょうか?

のために家事や介護を担ってきました。そろそろ遺産分割をしなければと思うのですが、最近、弟から『実家に住み続けるなら家賃をもらいたい』と言われて不安になりました。親が死んだら実家に無償で住めなくなるのでしょうか?」
被相続人が亡くなる前からその所有不動産に無償で住んでい
た場合、原則として、遺産分割協議が成立するまではそのまま無償で住み続けることができます(最高裁平成8年12月17日判決)。
逆に、以下のような事情がある場合には、他の相続人に家賃相当額を支払わなければならない可能性が出てきますので、注意しましよう。
① 所有者である親が亡くなった後、空き家になった実家に
引っ越して住み始めた。
② 遺産分割協議が成立して、実家を他の相続人が取得することになったにもかかわらず、住み続けた。
③ 遺言書によって、実家を他の相続人が相続したにもかかわ
らず、住み続けた。
④ 所有者である親との間で「親が生きているうちは、その介護をすることを条件として、無償で実家に住んでもよい」という覚書を交わしていた。
実家暮らしというのは、他の兄弟姉妹から見ると「うらやま
しい」と映ることも多いものです。
実家暮らしの子どもがいる場合には、所有者である親が亡くなった後にその子どもの住居をどうするのか、生前にきちんと考えて親の思いを形に残しておきましょう。
(木野綾子)

●事例6●
死後事務サポート

② 中級編
...............

1 事例の紹介
i相談者I足立智(72歳):アルバイト
l対応したコンサルタントI A:相続コンサルタント
l相談内容l
私の独身の兄が先月孤独死したことで相談に来ました。
兄は長年、上場企業で働いてきましたが、退職後は主に家庭菜園を楽しむ毎日を送っていました。昨年末がんが見つかり余命宣告をされてからはふさぎ込むようになり、春には緩和病棟に入院も決まった矢先の突然死でした。警察から連絡が入り、姉は認知症の上に体調も良くないらしく、姉の子である姪と一緒に変わり果てた兄と対面しました。
生前に兄からは、お墓のことをはじめ、自分が亡くなったらよろしく頼むと言われていて、どこに何があるか兄の財産はだいたい把握していますし通帳の場所なども聞いていました。ただ、姉が認知症なので遺産分割をどのように進めたらよいかわからず、また私が遠方に住んでいて、アルバイトとはいえ仕事もありなかなか休みも取れないので、手続きをすべて1人で行うことが困難です。私には子が1人いますが、子が未成年のときに離婚したことで疎遠な状態です。姪は独身ですが姉の世話をしながらパートの仕事もあるため手伝ってもらうことは難しいと思います。
今後どのように兄の死後の整理をしていけばいいのか教えてくだ
さい。兄は倹約家だったので、現金もまあまあ貯めていて相続税もかかるのではないかと思います。死後、3日ほどで運良く発見され

遺体の状態も冬だったこともありよかったのですが、孤独死しているので兄の自宅も売れるのか心配です。

I財産内容I
・自宅土地建物:不動産業者による時価評価1,500万円
・預貯金:6,000万円
・ネット銀行口座:500万円
・上場株:500万円
• 生命保険:700万円(受取人:相談者)
• 財産合計:9,200万円

I家族関係図I
【足立家】

姪:鈴木彩(54歳) 長男:健(46歳)

法定相続人長女:鈴木由紀
三男:足立智

法定相続分
2分の1
2分の1

遺留分
4分の1
4分の1

2 方針とチーム編成

このケースは不幸にも孤独死した兄の死後事務をどのようにすればよいかと、認知症の姉との遺産分割についての相談及び孤独死した兄の自宅の売却についての相談でした。
まず、姉の認知症の程度がどの程度なのかを確認する必要があります。本当に判断能力がなければ成年後見の申立てが必要になります。
認知症の程度を確認後、遺産分割協議を進めるとして、相続財産の確定も行いながらコンサルタントAが初回の相談を受けた時点においては、このケースの基本方針として次のような選択肢が考えられるでしょう。
① 財産目録の作成及び相続税の申告
② 遺産分割協議(姉の判断能力がない場合は成年後見人の選任後)
③ 死後事務サポート
④ 不動産の売却

Iチーム編成I
■ コンサルタントA
不動産業及び士業の紹介と相談者へのフォローを中心に財産目録の作成と死後事務サポートを行います。同時に遺産分割協議の際の家族会議のサポートを行います。
また、不動産売却のために必要であれば遺品整理業者の紹介も行
います。
■ 司法書士B
相談者と打ち合わせて、姉の判断能力がなければ、まずは成年後見人の申立てのサポートを行い、その後、後見人が選任されたのち遺産分割協議を行い遺産分割協議書の作成を行います。その後、不

動産の相続登記手続業務も司法書士Bの役目となります。
■ 税理士c
相続税が基礎控除を超えそうだということで、相続税の申告業務を担当します。まずは、相続コンサルタントAとともに財産目録作成のサポートを行います。

3 解決までの手順

(1) 相談者の先祖代々の墓を管理する寺からの紹介

今回は、相談者の親や先祖が埋葬されている墓を管理する寺と相続コンサルタントAが懇意にしていたことがきっかけで、檀家が困っているからと紹介を受けました。
1時間強、電話でかなり細かくヒアリングし、見積もり等に必要
になる不動産情報や財産情報をわかる範囲で教えてもらい、次回は相続コンサルタントAの事務所で、A、司法書士B、税理士C、相談者の4人で面談をすることにしました。同時に姪に連絡をして姉の認知症の程度の確認もお願いしました。
(2) チーム編成・打合せ

Aは、先日、お客様を紹介された司法書士Bが相談者の自宅に近いことからBに連絡して協力を求め、相談者の兄の所有不動産の登記情報・家族関係図等の資料と現時点でわかっている金融資産額などを伝えて、本件の概要を説明し見積依頼をしました。また、電話でのヒアリングで相続税がかかりそうだと判断したため、相続税申告の依頼で税理士Cに本件への協力と見積書の作成を依頼しました。
司法書士Bと税理士Cから初回面談時に概算の見積書を持参すると返事があり、その旨を相談者に伝え承諾を得ました。

(3) 相談者への紹介及び業務内容の説明

初回の電話から1週間後、相続コンサルタントAの事務所で、司法書士B、税理士Cと相談者の4人で面談が行われました。
まずは、相談者の姉の判断能力について何かわかったか質問したところ、葬式には体調が悪いので参列できないと聞いていたし認知症といっても年齢的にも程度は軽いと考えていたが、姪の話によると自分の名前もわからなくなっていて重度の認知症だと聞かされショックを受けたということでした。
司法書士Bはあらかじめ、相談者の姉の判断能力がなく成年後見の申立てになった場合の見積書も持参していたので、成年後見の申立てのサポート及び遺産分割協議書の作成と不動産の相続登記の見積もりを提示し、税理土Cも概算での相続税の申告の見積もりを提示しました。
相続コンサルタントAも今回は死後事務サポートにはどういった業務があるかを説明し、財産目録の作成補助と銀行の残高証明、5年以内の取引履歴取得、遺産分割協議後に財産の移転及び口座の解約や家族会議に同席し会議の議事進行などを行うにあたっての見積もりを提示しました。
この日は姪にも相談するからといったん見積書を持ち帰り、後日返事をもらうことになり面談は90分ほどで終了しました。
(4) 依頼の連絡と姪への説明依頼

翌日、相談者から電話があり、基本的に依頼したいと考えているが姪が成年後見についての説明を聞きたいと言っているということで、相続コンサルタントAと司法書士Bとで姪の住む駅近くの貸会議室で説明をすることが決まりました。相談者と姪に姪の父である姉の夫も同席し、司法書士Bから、なぜ成年後見人の申立てが必要なのかの説明と今後の流れについて説明がありました(図参照)。


—-ニ—―:

相談者の姪からは成年後見人には自分がなることはできないのかと質問があり、裁判所が認めれば可能であることも説明したところ安心したようで、成年後見の申立てサポートについても司法書士Bが受任することになりました。この件は相談者の姪家族と司法書士 Bとで進めることになり、報酬も姪が負担することが決まりました。申立てから選任されるまで4か月から半年ほどかかるため、その間に財産の確定作業のための財産目録の作成や相続人の確定作業と大まかな遺産分割の骨子を決め、それに基づいた相続税の申告や死後事務の準備を進めることを確認し、正式受任となりました。
また、兄の家の売却についても早々に遺品整理業者と不動産業者
を紹介してほしいという依頼も受け、各々の役割分担を確認し、今後の連絡は相談者とAとがメールと電話で行うことを決め、約2時間の面談を終えました。

中級編 事例6 死後事務サポート 167

(s) 遺品整理業者と不動産業者の紹介

不動産を売却するにあたり、遺品が残されたままでは売却できないものの遺族で整理する時間はないということで、遺品整理業者をまずは紹介しました。その業者は、通帳や金品が出てくるようなことがないかも含めて、かなり丁寧に遺品の整理をしてくれることで定評のある業者で、紹介したところ即依頼が決まりました。
同時に事故物件の不動産買取りを専門としている不動産業者と一般の不動産会社と2件紹介したところ、事故物件を取り扱う業者のほうが親切に対応してくれたという連絡を受け、その業者に売却に向けて動いてもらうことになりました。
(6) 財産目録の作成及び相続人の確定作業

相談者が兄の自宅から生前に兄から聞いていた場所にしまってあった通帳・生命保険の契約書・証券会社から送付されている取引履歴や家の権利書・納税通知書等を持っていたため、まずはそれに基づいて大まかな財産目録の作成を行いました。
その後、通帳など必要書類を税理士Cに送ったところ、税理士Cからネット銀行にも口座があるのではないかと指摘がありました。通帳の記録にネット銀行への振込みが数回あるというのです。相談者にその話をして、ネット銀行に問合せをしてもらい口座があるという確認が取れました。残高証明などの情報は成年後見人の選任後となるため、口座の有無だけの作業となりましたが、ネット銀行やネット証券は見落としがちなので注意が必要だと改めて感じました。
同時に司法書士Bによる戸籍の取り寄せが行われ、長女と相談者の間に3歳のときに亡くなっている次男がいることもわかりました。今回は3歳時に死亡ということで相続人とはなりませんでしたが、ヒアリング時に出てこない相続人がいることもあり、戸籍の収

取をして相続人の確定をすることは手続きの上で重要です。

(7) 遺品整理の完了

ほどなく、遺品整理が完了したと連絡を受け、相談者と相続コンサルタントAで兄の自宅に行きました。
すべての部屋は綺麗に片付き、処分をどうするか業者で判断できなかったものと切手シート数十枚が業者から渡されました。そのほか、家族のアルバムが10冊ほどと足立家の家系図などもあり、それらは相談者が持ち帰ることになりました。
(8) 成年後見人の登記完了

初回面談から4か月半経ち、司法書士Bから姪を後見人とする成年後見も登記が完了し登記番号が通知された旨の報告を受けました。

(9) 遺産分割協議書作成に向けての家族会議及び中間報告

成年後見人が選任されたことで、遺産分割協議書を作成するための家族会議と中間報告を行うため、相続コンサルタントAの事務所に相談者・姪・司法書士Bの4人が集まり話し合いをしました。
基本的に不動産はいったん相談者名で登記したのち売却し、換価して金融資産を含めて法定相続分で分けることや、生命保険は受取人固有の財産であるため相談者が受け取る代わりに葬儀費用は喪主を務めた相談者が負担することとして、その他、相続コンサルタントAや司法書士Bへの成年後見申立てサポート以外の報酬・税理士報酬や遺品整理業者への支払い・売却にかかる諸費用などの経費一切は相続人が2分の1ずつ負担することで合意し、後日その旨を記した遺産分割協議書を作成の上、押印することになりました。
相続コンサルタントAは遺産分割協議書が完成したのちに銀行などから取引履歴や残高証明を取得後、口座を解約して資産を移転す

る流れや不動産売却の流れなどを説明し、相続税の申告も含めて年内にはすべてが完了する見込みであることを説明しました。
(10) 遺産分割協議書作成及び相続税申告にあたっての説明

全員が集まるのは、仕事の都合上難しいと相談者からの連絡を受け、遺産分割協議書の押印はレターパックでやりとりすることになり、税理士Cからの説明は相談者だけが受けて、それを姪と共有することになりました。

(11) 死後事務サポート

相続コンサルタントAはすべての書類がそろったため、事前にゆうちょ銀行・地方銀行・ネット銀行と証券会社にそれぞれ必要書類の確認を行っていたので、残高証明・取引履歴や財産の移転後にロ座解約などを約1か月半かけて完了させました。また、相続登記もほどなく完了したため、不動産業者に不動産を買取りしてもらい、売却代金も遺産分割協議書どおりに、いったん相談者の口座に振り込まれたものを姉の口座に振り込んでもらいました。すべての死後事務サポートが完了したのは初回相談から半年後でした。

(12) 相続税の申告書完成及び業務完了報告

死後事務サポート完了から1か月経って、相続税の申告書も完成したと税理士Cから報告を受け、税理士事務所にAと相談者及びその姪が集まりました。申告書の中身とそれぞれの相続税額の説明を税理士Cから受けたのち、それぞれ申告書に押印し、これですべての業務が完了した報告をAより行いました。相続発生から8か月、初回相談から7か月ですべて完了となりました。

4 解決のポイント

(1) 相談者及び相続人すべてと信頼関係の構築

本件では、相続コンサルタントAは、相談者とは寺からの紹介ということで信頼関係ができていたわけではなく、まして、相談者の姪や姉の夫にしてみれば、相談者が連れてきた知らない専門家であるため、まずは、全員としっかりコミュニケーションをとり、専門家との間に入って補足説明やタイムスケジュールの管理・進捗報告を徹底し、信頼を得られるようにきめ細かく対応することに徹しました。
その甲斐があり、すべての業務を受任するにあたり相続人全員から信頼を得、また、税理士Cが相談者も知らなかったデジタル遺品であるネット銀行を探し当てたことには非常に感謝されました。

(2) 各種専門家への橋渡し

今回は、事故物件とまではいかないまでも孤独死した家の売却や遺品整理の依頼もあり、それ専門の不動産業者や万が一にも大切な遺品が廃棄されないようにきめ細かく対応してくれる業者を紹介する必要がありました。
相続コンサルタントAは、日ごろから相続診断士が集まる定例会などで人脈を作っていたため、今回の件でも紹介が可能となりました。相続コンサルタントの仕事は多岐に渡り、1人でできるわけではないためアンテナを立て色々な信頼できる専門家とつながり、仕事を受任できる体制を整えておくことが大切です。
(3) デジタル遺品

本件では、税理士Cの機転でデジタル遺品を見つけることができました。エンディングノートなどに書かれている場合は別として、

今回のように相続人の1人である相談者が兄から聞いていた情報がすべてだと判断していれば見つけられなかったかもしれません。振込金額や頻度から推測し、問合せをしたことで発見できたのは本当によかったと思いますが、発見できない場合もあるためデジタル遺品問題は今後も気を付けていきたい事項といえるでしょう。
(4) その後のフォロー

本件はこれで終了しましたが、相談者の姪がやはり独身であることから、今回と同じようなことが起こらないとも限りません。提案方法などは姪の自尊心を傷つけないような配慮をしながら、遺言作成やエンディングノートの作成のアドバイスをしていくことも大切です。
(一橋香織)

■ トーク&スタディ■『デジタル遺品』

デジタル遺品って最近よく耳にしますが、どういうものをデジタル遺品というのでしょうか? また、デジタル遺品について気を付ける点などあれば教えてください。

SNS、ブログ、メール、電子マネー、暗号資産(仮想通貨)を含む電子口座など、ネットワークを介した無形のメディアの中に保存されたデータやパソコンやスマートフォンなど有形なメディア内に保存されたデータ、例えば写真などをデジタル遺品と言っています。デジタル遺品で困るのは、エンディングノートに書かれているか事前に家族に伝えていないと、何があるのかわからない点ですね。スマートフォンやパソコンの暗証番号がわからず開けられないという相談が増えていると聞きます。

デジタル遺品とーロにいっても色々な種類のものがあリますね。それに確かにスマートフォンの暗証番号は私も家族に伝えていませんが、大事な画像なんかも保管しているし万が一のときには取り出してほしいですね。
もし、デジタル遺品がどこに何があるかわからないときは誰に依頼して調べてもらえばよいのでしょうか?

スマートフォンならたとえ専門業者でも開けないことがあります。またパソコンなどはシステム会社やパソコン修理業などで対応していますが、開いても中のデータやクラウドシステムにパスワードがかかっていたら手詰まりになり得るので、一橋先生のおっしゃるとおり、あらかじめ伝えておくことが大切です。

なるほど。では遺産分割が終わった後にネット銀行が見つかった場合は、その遺産に関してはどのようにすればよいのでしょうか?

原則として、新たに見つかった遺産についてだけ、また遺産分割をすることになリます。ただ、先にした遺産分割協議の中で「今後新たに見つかった遺産についてはこういうふうにしましょう」という取決めをしている場合には、それに従うことになります。遺言書があるケースでは「その他一切の財産は00に」などの指定に従うことになりますね。

そうなんですね! 遺言の書き方で違ってくるとは知りませんでした。これからますますデジタル遺品の問題は増えてくるんじゃないかと思います。私もさっそくスマートフォンの暗証番号をエンディングノートに書いておきます。

デジタル遺品は遺族がその存在を知らないと色々と困ることがあるので、ぜひエンディングノートに書くなどして遺族が困らないようにしておいてほしいですね。

■■コラム■■
おひとりさまの定義

筆者は「おひとりさま」の相続対策に力を入れているからでしょうか、「おひとりさま」の定義についてよく聞かれます。
セミナー等で話をする際には以下のように説明をしていますが、皆さんはどのように捉えていましたか?
◇ 生涯未婚でかつ親もきょうだいもいない人
◇ 離婚した人
◇ 子のいない夫婦で配偶者のいずれかが亡くなった人
◇ 家族はいるが遠方に住んでいる、あるいは疎遠な人
◇ 1人暮らしの人(家族はいるかもしれないが不明)
セミナーを盛り上げるために、現在彼氏・彼女がいない人や 1人で居酒屋によく飲みに来る人、などを付け加えることもあります。
いずれにしても「おひとりさま」は今後、ますます増えると想定され問題も複雑化していくと思われます。
皆さんのまわりでも上記に該当する方がいるのではないでしょうか?
生涯未婚でかつ親もきょうだいもいない人が自宅で突然死したら誰が死亡届を出し、家の遺品整理をするでしょうか?
「おひとりさま」の相続対策も今後は大切になってきます。
(一橋香織)

●事例7●

固上級編
...............

生前対策フルセットでのご提案

1 事例の紹介
l相談者I渋谷健太(26歳):派遣社員
I対応したコンサルタントI A:保険代理店経営の相続コンサルタント
I相談内容I
今日は祖母が車いすであまり外出をしたがらないため、祖母の代理で相談に来ました。我が家は代々続く地主で今は先祖代々相続してきた土地にアパートを建て、人に貸したりしています。祖父は 15年くらい前に亡くなり、そのときはすべての財産を祖母が相続しました。父には嫁に行った姉妹が3人いますが、男子は父だけです。祖母は先祖代々の土地と上場株は父に相続させたいと考えています。祖母と父母、そして私の4人は同居していて父は会社員ですが、祖母の世話を母と交代で行っています。
祖母は本音では家督相続でいいと考えていたようで、全財産を父にと言っていましたが、それでは揉めて面倒なことになると父が言い出したため現金はきょうだい4人で均等にと考えを変えました。ただ、不動産のすべてと株式に現金の4分の1を父が相続すると なるとどうしても伯母たちへの相続分が少なくなるため、なるべく揉めずに祖母の希望どおりに父が相続するにはどうしたらいいかというのが祖母からの質問です。あと、賃貸不動産があるので祖母が認知症になった場合も心配ですし、相続税もザクっといくらかかるか気になります。顧問税理士もいるのですが、祖父の代からの付き合いでかなり高齢のため相続税の試算は依頼していませんが、結構
高いようなことは言われたことがあるそうです。

I財産内容I
・自宅土地建物:不動産業者による時価評価1億3,000万円
・賃貸アパートとその敷地:不動産業者による時価評価1億1,800万円
.預貯金:2億円
・上場株:1,000万円
•財産合計: 4億5,800万円

I家族関係図I
【渋谷家】

相談者:健太
(26歳)


法定相続人 法定相続分 遺留分
長女:みどり 4分の1 8分の1
次女:さつき 4分の1 8分の1
三女:ゆきの 4分の1 8分の1
長男:武 4分の1 8分の1

2 方針とチーム編成

このケースは孫が祖母の代理で相談に来るという珍しいパターンでした。先祖代々の不動産と株式に現預金の4分の1を長男にという意向で、他の娘たちへは遺留分に満たない金額だけでなんとか揉めずに納得させられないかという家督相続的な考えを持った方でした。
また、賃貸不動産もあるので将来的に祖母が認知症になった際の財産の凍結を、相談者である孫は気にしています。
祖母の意向は改めてきちんと確認する必要がありますが、コンサ
ルタントAが初回の相談を受けた時点においては、このケースの基本方針として次のような選択肢が考えられるでしょう。
① 委任契約(財産管理契約) +任意後見契約
② 家族信託
③ 遺言書の作成+遺言執行者の指定及び付言事項
④ 遺留分対策としての生命保険の活用

Iチーム編成I
■ コンサルタントA
士業の紹介と相談者(祖母)へのフォローを中心に遺言書の付言事項の案文作成、証人、遺言執行者への指定などがあります。また、
遺留分対策としての生命保険の活用の提案などを行います。
■ 司法書士B
相談者と打ち合わせて、どのような対策を採るかをアドバイスし、その結果に応じた内容の公正証書の作成(案文作成、公証役場の手配)を行い、家族信託を組成する場合には不動産登記手続業務
も分担することになります。
■ 税理士c

相続税も気にされているので試算や相続税対策(節税)の依頼が派生することも考えられるため、税理士Cにも担当してもらうことにしました。

3 解決までの手順

(1) 初回HPからの問合せ

今回は、AのHPを見て問い合わせてきたケースです。
「笑顔相続」や「円満に」「専門家とチームを組んでワンストップで解決」という文字が決め手となって、色々なHPを見た中でAに問い合わせることにしたということでした。
問合せに対して電話で簡単なヒアリングをし、次回は相談者宅で、A、司法書士B、相談者、相談者の祖母と相談者の父である長男の5人で面談をすることになりました。
(2) チーム編成・打合せ

Aは、いつも一緒に仕事をしている家族信託の案件を多く手がけている司法書士Bに連絡して協力を求め、相談者の所有不動産の登記情報や公図の写し・家族関係図等の資料とザクっとした金融資産額などを伝えて、本件の概要を説明しました。また、相続税の簡易試算を希望のため、税理士Cに本件への協力と見積書の作成を依頼しました。
司法書士Bと税理士Cから見積書が提出されたので、Aは自らの相続コンサル料の見積書とともに相談者にそれらをメールで送り、相談者と祖母の承諾を得ました。
(3) 相談者と祖母及び長男への紹介

その後、相談者宅(祖母宅)で、A、司法書士B、相談者、相談

者の祖母と祖母の長男の5人で面談が行われました。
アパートの管理については、長男との間で財産管理契約や任意後見契約を結ぶか、あるいは家族信託を組成するかのいずれかが考えられるという説明が司法書士Bよりありました。アパートは築10年とまだ築浅ではありますが、祖母の年齢を考えるといつ判断能力がなくなってもおかしくありません。やはり、不動産に関しては柔軟性がより高い家族信託をメインとし、具体的には、預貯金の一部とアパートを対象財産とし、委託者兼受益者を祖母、受託者兼帰属権利者を長男とする家族信託を組成する方針であることを説明しました。
その後、相談者から聞かされていたとおり、祖母はすべての財産を長男に相続させたいが、今の法律では難しいのかと質問があり、その件に関しては司法書士Bから法定相続割合と遺留分に関しての説明と争族に発展する可能性とリスクについても話がありました。 Aはそれを回避するために色々と対策を考えて後日提案すると約束しました。
また、今後の打合せは基本的に相談者が窓口となり、すべて祖母や長男とは相談者を通じてメールか電話でやりとりをすることが決まりました。長男ではなく孫が窓口になる理由は、長男が会社員でかなり多忙な上にアパートの管理や祖母の病院の送迎や身の回りの世話を妻とともにしていて、これ以上は余裕がないからという説明も受けました。
(4) 家族信託の具体的な契約内容の確認と委任及び任意後見契約
の説明

司法書士Bは、最初の打合せ後に相談者と必要書類のやりとりをしました。長男が多忙であるということなので、受託者は相談者の父である長男より相談者のほうがよいのではないかという提案もしましたが、それでは伯母たちが、相談者一族がすべての財産を自分

たちのものにしようと企んでいるのではないかと勘繰られそうなので、自分は受任したくないが父のサポートは行うつもりであるということでした。また、いずれ父が不動産を相続した暁には、不動産管理会社を設立したいので、その件も改めてAに相談したいという話も出ました。
家族信託は一度の説明ではなかなか理解ができないということで Aも交えて再び5人での説明と打合せを行い、司法書士Bから家族信託契約の案文と委任及び任意後見契約(財産管理契約と任意後見契約を合体させた契約)の案文が示され、一つひとつ説明と確認を約2時間近く行いました。専門用語に関してはAがなるべくやさしくかみ砕いて説明したり図に書いて説明したりと補助を行いました。
高齢者に説明をする際は一度に何もかも説明すると理解が及ばないことがあるため、一つひとつ丁寧に進めていく必要があります。今回もまずは財産管理について、次は遺言書というように区切って面談することにしました。
そのため、Aと司法書士Bは、次回は遺言書と付言事項について打合せをしましょうと提案し日時を決めました。
(s) 税理士から簡易相続税の試算完成の知らせ

しばらくして、Aのところに税理士Cから相続税の簡易試算ができたと連絡がありました。
相談者にそのことを連絡するとさっそく金額が知りたいということでしたので、Aと相談者で税理士Cの事務所に行き、Cから説明を受けました。
それによると、相続税の総額は約3,380万円。自宅の評価を時価の8割、アパートは時価の5割として、そこから小規模宅地等の特例をフルで適用した場合の長男の相続税額は祖母が希望したとおりに不動産をすべてと株・現金を4分の1とした場合、約1,433

万円ということでした。
そこで、Aは祖母が生命保険は未加入であるため基礎控除の500万円x法定相続人数(この場合は4人)=2,000万円の枠があり、それを使わないのはもったいないことと、生命保険は受取人固有の
財産のため原則遺留分対象外で、相続財産から生命保険金は除外できることを税理士Cの助けを受けながら説明しました。また、相続税の総額も保険を活用することで3,380万円から2,920万円に節税できることも税理士Cから説明してもらいました。相談者は祖母と父にそのことを伝えると言って、その日の面談は約1時間で終了となりました。
(6) 生命保険の説明

相談者から、次のようなメールがありました。
「基本的に生命保険を活用することで祖母も納得をしましたが、自分の年齢(83歳)で契約できるのか、また過去に子宮がんで子宮を全摘出しているので、がんに罹ったことがあっても入れるのか、入れるとしたらどういう商品なのか説明が聞きたいと、祖母が言っています」。
後日、相談者宅にAだけで訪問をし、相談者と祖母の2人に90歳まで契約できる一時払い終身保険という商品であれば、過去にがんに罹るなどの病歴があっても、現在入院中ではなく判断能力がある方なら何社か加入できるものがあるという説明をし、取扱いのある数社の説明をパンフレットや設計書を用いて説明をしました。
非常に理解力のある方で、高齢にもかかわらずその場で加入の意
思を示されたため、日を改めて非課税枠の2,000万円を一時払い終身保険で契約することが決まりました。
遺留分についても説明を求められたので、今回は概略の説明だけ
をし、詳しくは次回、司法書士Bより説明することで了解を得ました。

契約時には公正証書遺言等の説明も聞きたいということで、司法書士Bにその場で連絡をして日時を決め、その日は約1時間で面談を終えました。

(7) 生命保険契約と公正証書遺言+遺言執行者、付言事項の説明及び遺留分の説明
相談者がしっかりと理解をし、補足説明もしてくれていたことで生命保険の契約そのものは、相談者と長男にも在席してもらい1時間ほどで完了しました。公正証書遺言等の説明は休憩を挟んで行うことを提案しましたが、休憩はなしで問題ないということで、続いて司法書士Bから、公正証書遺言及び遺言執行者を指定することのメリットや、遺言だけでは争族に発展する可能性があるため付言事項で祖母の気持ちを書き残せば揉める確率が減るということを説明してもらいました。
遺言執行者には相談者の孫も入れてほしいという要望があり、Aと相談者の孫の共同受任となりました。
ここでもAが付言事項についての補足説明をし、おおむねこれで OKとなりましたが自分で文章を書いたりまとめたりは難しいということで、Aが祖母の気持ちを数回に分けてヒアリングし、付言事項をまとめることに決まりました。その後、司法書士Bより遺留分の詳しい説明もあり、この日は契約もあったため約3時間を要し、さすがに相談者も祖母も長男も疲れた様子でした。
(8) 公正証書の作成・登記

その後、祖母が車いすということもあり、公証人に自宅まで出張をお願いし、相談者と祖母に長男が出席して家族信託契約書と委任及び任意後見契約書の作成に、公正証書遺言の証人は相続コンサルタントAと司法書士Bがなり、無事作成されました。
家族信託契約に基づく不動産の信託登記は司法書士Bが行い、任

意後見契約の登記は公証役場が行うことになります。
付言事項も祖母と2回ほど面談をして想いをしっかりと形にして公正証書遺言に載せたことで、相談者の一家は当面の悩みを解決することができたと安心し、感謝してもらえました。この日は、公証人を最寄り駅まで送った後、相談者宅に戻り司法書士Bも入れて、お寿司を出前でとっていただきご馳走になって帰りました。

4 解決のポイント

(1) 相続コンサルタントとして相談者との連携を強化

本件では、相続コンサルタントAは、相談者である孫と何度もメールや電話でやりとりをし、祖母がきちんと理解できるように事前打合せをしっかりと行いました。
今回、家族信託などの高齢者にとっては一見ハードルの高い提案
も、相談者としっかり意思の疎通を行い、祖母に対して補足説明を何度も行ってもらえたことが大きなポイントになりました。また、 Aも司法書士や税理士の説明を法律用語はなるべく使わず、かみ砕いて丁寧に行い、祖母が疲れないように配慮して、何度かに分けて面談したことも功を奏しました。初回の面談から終了まで実に半年を有しましたが、結果として提案をすべて受け入れていただき感謝される結果となりました。
(2) 家族信託と委任及び任意後見契約

家族信託と委任及び任意後見契約については中級編の事例5
(148頁)を参照してください。
財産管理契約(委任契約)とは、判断能力に問題はないけれど、加齢や病気によって身体的な不自由が生じて他者の援助が必要になった場合に、他者に財産管理を任せることです。

この契約を結んだからといって委任者本人が自ら財産管理を行えなくなるわけではありません。

(3) 生命保険の活用

今回は、相続税を圧縮するための非課税枠の活用と遺留分を減らして、祖母の本来の願いであるすべての財産を長男に相続させたいという希望を少しでも達成するために生命保険を活用しました。
■ 生命保険の活用

生命保険による死亡保険金は、民法上の相続財産を原則構成しない
ミニジ
I現預金の一部を生命保険化廿:叶相続財産の圧縮且 叶遺留分の圧縮

(4) 笑顔相続のための付言事項

遺言の内容はやや遺留分を侵害する結果となっているため、付言事項で先祖代々家督相続を行い、土地を何代にも渡り守ってきたことや、介護や身の回りの世話は祖父のときから長男夫婦が身を粉に

して行ってきたこと、娘たちの孫へは教育費の援助も行ってきたことなどを考慮し、渋谷家を守っていくためにこのような分割方法にしたことを納得してほしい旨や、娘たちのことを愛していることには変わりなくきょうだい仲良く暮らすことが父母の願いであることなどを付言という形で残しました。
(s) その他の懸案事項

その他、いずれ不動産管理会社を設立したいという相談に関しては改めて、祖母の相続発生後となりました。遺言執行者には孫とAとで共同受任したため、引き続き定期的にコンタクトをとっていく予定です。
また、万が一、付言事項があるにもかかわらず、争族に発展した場合には相続に強い弁護士を紹介することを約束しました。
(一橋香織)

■ トーク&スタディ■「高齢者の面談で気を付けること』

高齢者の方は理解力の低下や耳が聞こえづらいなど色々と大変な気がしますが、どんな点に気を付けて面談すればよいのでしょうか?

そうですね、どうしても人は高齢になると身体能力や理解力が落ちてきますからね。私が気を付けていることは事例にもあるとおり、専門用語はなるべく使わずかみ砕いて説明するということは最低限度の気配りで、声の大きさや高さ、話す速度、目線や字の大きさにも気を付けています。マーカーを引く際には使わない色とかもありますね。

そんなに色々と配慮されているんですね! ちなみにもう少し詳しく教えてほしいのですが、声の大きさや高さですか?あと、使わない色というのは?

高齢になると高い音が聞きにくくなります。なので、声が高い女性は特にやや低めの声で話す必要があると思います。また、大きさも怒鳴るのではなく口の形がわかるようにはっきりゆっくりでしょうか。
色は高齢になると眼球の水晶体が黄色く濁るため、黄色いマーカーは使いません。
ピンクがいいように思いますね。

私は一橋先生に加えて休憩を取る時間を決めています。相談が2時間の約束の場合、途中で10分休憩するなどです。またシチュエーションが許されれば対面ではなく斜向かいで話し、文字と声でお伝えするようにしています。

最近は相続の相談に来られる60代から80代の方々も変わってきており、メールやLINEを使いこなし、ネットで調べて一定の知識を持っている方が多いです。一方でそういう時流から取り残されたような方もいます。
ご相談者のタイプや理解度を見極めながら、①できるだけシンプルにわかりやすい説明をする、②場合によってはお子さんなど若い世代の同席をお願いする、ということを心がけています。

その他にも私が気を付けているのは、思い出話などできるだけ聞くようにして、何度も同じ話をされても初めて聞いたように頷きながら信頼関係を築くよう心がけています。人は自分の話をしっかりと聞いてくれる人に心を開きますからね。

本当に高齢の方の面談には普段以上に気を付ける点がたくさんあることがわかリました。私もしっかリと対応できるように心がけていきたいと思います。

■■コラム■■
専門用語で説明していませんか?
お客様に相続対策の説明をするときや相続対策のセミナーでよく使われる「特別受益・遺言執行者」という言葉。皆さんは専門家なのでこれらの意味はきちんと理解して使用していると思います。
ただ、この専門用語をお客様はきちんと理解しているでしょ
うか?
ついつい、使ってしまうこれらの専門用語がお客様を置き去りにしているかもしれません。
せっかく、素晴らしい提案やセミナーをしても理解されなけ
れば受任に至らないかも?
筆者は、できるだけ専門用語は用いずにわかりやすい言葉に変換して説明するように心がけています。
ちなみに先ほどの専門用語「特別受益・遺言執行者」を皆さんはなんと説明しますか。

筆者は、
0特別受益→エコひいきしている子や孫はいませんか?〇遺言執行者→あなたの遺言をきちんと実行してくれる人
そうそう、「遺書と遺言、一字違いで大違い」なんていう話もよくしています。
遺書は亡くなることを前提として書くもので、ルールはなく自由に書ける代わりに法律で守られていないため、遺された家族が遺書に書かれている内容を実行しなくてもOK。
遺言は15歳以上の判断能力のある人が書くことができ、法律で書き方がキチンと決められているので、書かれている内容はしっかりと実行される可能性が高い。
という具合です。
いかがですか? 皆さんは専門用語を使いすぎていないでしょうか?
(一橋香織)

●事例8●
事業承継を含む富裕層の
「全部やっておく」型

③上級編
...............

1 事例の紹介
I相談者I正木貞雄(77歳):会社役員
I対応したコンサルタントI A: FP会社経営
I相談内容I
私は、樹脂加工業の会社を経営しています。
家族は、病気で入院している妻と、長女、次女、長男のほか、数年前に養子縁組をした長男の息子(孫)がいます。この養子縁組は、相続税の節税と遺留分減らしのためにしたものですが、それがきっかけで長女と次女は長男一家と仲が悪くなってしまったようで、少し後悔しています。
持病もありますし、年齢的にもそろそろ引退して長男に経営を任せたほうがよいことはわかっているのですが、なかなか踏ん切りがつかずにいます。
また、財産はなるべく分散させたくないものの、長男と養子に財産の大半を取得させた場合、長女と次女が何というか心配です。なぉ、会社の顧問税理士等には相談しにくい状況です。
漠然とした相談で申し訳ありませんが、何をどのように進めていけばよいのか、アドバイスをお願いします。

I財産内容I
・自宅土地建物:固定資産評価額2,000万円
・自社株式:評価額2億4,000万円

.預貯金:9,000万円
• 生命保険:3,500万円
•財産合計: 3億8,500万円

I家族関係図I
【正木家】

相談者:貞雄 妻:明江
(77歳) (80歳)

;養:'
組:

I備考I

長男:高雄 次女:勝子 長女:直子
(52歳) (54歳) (55歳)
I

長男:和樹
(25歳)

法定相続人 法定相続分 遺留分
妻:明江 2分の1 4分の1
長女:直子 8分の1 16分の1
次女:勝子 8分の1 16分の1
長男:高雄 8分の1 16分の1
養子(長男の子):和樹 8分の1 16分の1

2 方針とチーム編成

このケースの場合、相続コンサルタントAが相談者から相談を受けた段階では、相談者が解決したい課題(要望)が次の2点であることはわかるものの、解決方法までは思い浮かびません。
く解決したい課題(要望)>
① 自分は引退して長男に会社経営を任せたい(が、踏ん切りがつかない)。
② 長男や養子(孫)が、長女や次女から文句を言われない(遺留分を請求されない)ようにしたい。
方針やチーム編成が最初からクリアになっているわけではないため、相続コンサルタントとしては難しい事案といえるでしょう。
このような場合には、「絶対に必要となる専門家」にまず声をかけてから、少しずつ解きほぐして次のステップに進んでいくのが定石です。
本件では、最初に相談者の財産の客観的状況を把握する必要があるため、上記の「絶対に必要となる専門家」としては税理士が適しています。

Iチーム編成I
■ コンサルタントA
チームの取りまとめと相談者へのフォローを主に行います。
遺言書作成の場合には、付随的に期待される業務として、遺言書の付言事項の案文作成、証人、遺言執行者の指定などがあります。
■ 税理士B
自社株式の評価、相続税等の税額試算、事業承継税制等の情報提
供やアドバイスを行います。
■ 司法書士c

家族信託や遺言書等、自社株や財産の移転を法務面からアドバイスし、契約書案の作成、公証役場の手配、株式譲渡に関する会社関
係の書類の作成などを担当します。
■ 弁護士D
遺留分の放棄や遺留分に関する民法の特例(除外合意)を使った
遺留分対策について、長女や次女との交渉や裁判所への申立てを担当します。
■ 生命保険業者E
養子を受取人とする生命保険信託契約を担当します。

3 解決までの手順

(1) 初回相談

相続コンサルタントAは、以前生命保険会社に勤務していたときのお客様である相談者から、事業承継に関する相談があるというメールを受け取りました。
Aは相談者の会社の状況をある程度知っていたので、初回から知人の税理士Bの事務所において相談者との面談を行いました。
相談者にはあらかじめ必要資料を伝えておき持参してもらったので、その場で税理士Bが自社株式の評価や相続税の試算を受任することが決まりました。同時に、Aも相談者との間で相続コンサルティング契約を結ぶことになりました。
税理士Bが「本件では、遺言書とか家族信託とかそのあたりのことが方策として考えられる」と言うので、次回はAと税理士Bの共通の知人である司法書士Cを入れて4人で面談をすることにしました。

(2) 司法書士Cを交えた面談

司法書士Cは、Aから提供されていた事前資料を検討して面談に臨み、A同席のもとで相談者と3回(うち2回は相談者の長男も同席)打合せを行いました。
この間に税理士Bによる自社株式の評価や相続税の試算や税務面でのアドバイスも出そろっています。
その結果、相談者は次のような方策を採ることを決め、司法書士
Cに必要な手配を依頼しました。
・相談者の保有する自社株式90%(残り10%は相談者の妻名義)につき家族信託を組成し、委託者兼受益者を相談者、受託者兼帰属権利者を長男とする。
・ただし、相談者が満80歳になるまでは相談者が議決権行使についての指図人となる。
・組成後すみやかに臨時株主総会を開いて長男を代表取締役社長とし、相談者は満80歳になるまでは取締役会長、それ以降は取締役を退任して顧問という肩書で長男の会社経営に協力する。
• その他の遺産については、遺言書を残し、自宅不動産は長男に全部、金融資産は長女と次女に8分の1ずつ、その他の財産は長男に全部相続させる(遺言執行者は司法書士CとAの経営するFP会社)。
・遺言書の付言事項として長男に会社を任せるにあたっての思いや、長男に病気の母親(相談者の妻)の世話を頼むことなどを書く。
・養子(孫)はまだ若いので、長男の次の世代の後継者としてふさわしいかどうか今は判断できない。そのため家族信託で決めておくことはしない。遺産としては何も残さないが、死亡保険金を生命保険信託の形にして、少額ずつ養子が受け取れるようにする。
・遺留分対策については、司法書士Cの知り合いで、最近「除外合

意(後述の4(3 )参照)」の審判申立てをした経験があるという弁護士を紹介する。
(3) 弁護士Dの関与による遺留分対策
司法書士Cの紹介で弁護士Dを交えて面談を行うことになりました。参加者は、A、司法書士C、弁護士D、相談者、相談者の長男の5人です。
その結果、弁護士Dから長女と次女に遺留分放棄許可審判についての打診をしてみることになりました。もしそれが叶わなければ、自社株式だけを遺留分の算定基礎から除くという内容の「除外合意」についての打診もするという二段構えです。
しばらくして、弁護士Dから報告があり、長女と次女が「遺留分放棄は拒否したが、除外合意であれば承諾する」という回答をしてきたとのことです。そのまま弁護士Dには除外合意の手続きを進めてもらうことにしました。

(4) 生命保険業者Eとの面談

Aは、前職の同僚で今は外資系生命保険会社に勤務しているEに連絡を取り、相談者とAと3人での面談を行い、死亡保険金の受取人を養子にして、当初10年間は毎月10万円ずつ、その後に残金を一括で受けるという内容の生命保険信託契約を結ぶことにしました。
(s) Aによる取りまとめ

その後、司法書士Cによる家族信託と遺言書作成、弁護士Dによる除外合意の手続き、生命保険業者Eによる生命保険信託契約の締結が並行して進んでいきました。Aも遺言書の付言事項を作成したり証人として立ち会ったりという固有の役割を果たします。
それぞれの作業はAを通じて相談者に報告がいく形となり、すべてが終わったところでAが相談者に終了報告を行い解決となりました。

4 解決のポイント

(1) ファシリテーターとしての相続コンサルタントの重要性

本件のように複数の士業が関与して同時並行的に作業が進んだりしていくケースでは、いつの間にか相談者が取り残されて「話についていけない」と不安を抱きがちです。相談者が高齢だったり多忙だったりしたらなおさらでしょう。
相続コンサルタントには、相談者の疑問や要望の窓口となって各専門家に伝え、適切な対応を促すファシリテーターという重要な役割が求められています。
(2) 長男への事業承継

本件の1つめの課題である長男への事業承継について、どのような選択肢があるか見てみましょう。
① 生前贈与
生前贈与というと税金が高いというイメージがありますが、自社株式の場合には一定の要件を満たせば事業承継税制が適用され、贈与税の猶予または免除を受けることができます。贈与者(相談者)の株主としての権利が贈与時に受贈者(長男)に移転することになります。
② 遺言書・死因贈与
遺言書・死因贈与は、ともに本人(遺言者・贈与者=相談者)の死亡とともに株主としての権利の移転という効力が生じます。遺言書の場合は、遺言者の一方的な行為ですのでいつでも書き換えることが可能ですが、死因贈与の場合は契約ですので受贈者(長男)が同意しなければ解約や変更はできません。
③ 家族信託
家族信託の仕組みについては、中級編の事例5 (148頁)を参

照してください。
自社株式の家族信託の場合も、不動産等の家族信託の場合と同じで、受託者(長男)に株式の管理権限が移ることになりますから、受託者は株主総会での議決権行使により会社の実権を握ることができます。また、受益権者も相談者が兼ねるように設定すれば、相談者は株式の配当を受けることもできます。
この際、議決権行使の指図人を委託者に指定しておくことによって、受託者が議決権を行使するにあたって指図人の指示に従わなければならないように設定することもできますが、そうすると家族信託の目的(委託者が引退して受託者に経営を任せること)自体が達成できないおそれがありますので、本件のように期間を区切るなどして工夫するとよいでしょう。
それから、本件では見送られましたが、次のまた次の後継者(例えば養子である長男の子)を家族信託によって決めておくこともできます。
④ その他
その他として、長男が相談者の株主権を「委任及び任意後見契約」
(中級編事例5の148頁参照)に基づき行使できるようにしておくという方法も考えられます。
ただし、例えば委任者(相談者)を代表取締役から解任して受任者(長男)自らがその地位に就くようなドラスティックな権利行使が許されるのかについては、受任者の委任者に対する善管注意義務等に照らして疑問がないわけではありません。
また、「属人的株式」(ヒーロー株)を活用して、相談者の認知症など一定の事由が生じたときに長男固有の1株が100株相当の譲決権を有することなどを定款で定めておくことも考えられます。
もっとも、上記「一定の事由」につき「認知症」「判断能力が低下」など必ずしも客観的に明確ではない定め方をすると、いざというときにその判定の是非をめぐるトラブルが起こりかねないため工夫が

必要です。
いずれにせよ、「あ、これ使えそう!」とむやみに飛びつかず、専門家(できれば弁護士)に相談して慎重に検討するようにしましょう。

(3) 遺留分対策

本件の2つめの課題である遺留分対策については、どのような方策が考えられるでしょうか。
① 遺留分放棄
遺留分のある相続人は、被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得てあらかじめ遺留分を放棄することができます。申立人は被相続人
(相談者)ではなく放棄をする遺留分権者(長女・次女)ですので、その遺留分権者が納得して申立てをすることが必要です。
実務では、被相続人が弁護士に依頼し、その弁護士が遺留分権者に個別に説明して同意を得た上で(遺言書等の存在や内容を知らせる必要なし)、遺留分放棄許可審判申立ての委任状を書いてもらって手続きを行うという流れが一般的です。
この手続きにより遺留分権者は相続開始後に遺留分侵害額請求ができなくなります。
② 除外合意
除外合意というのは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の中の「遺留分に関する民法の特例」に基づいて、後継者(長男)が現経営者(相談者)からの贈与により取得した株式について、遺留分算定の基礎となる財産から除外する旨を合意することです。
この手続きを利用するためには、現経営者の推定相続人(兄弟姉妹及び甥姪を除く)及び後継者の全員で合意書面を作成し、その日から1か月以内に後継者が経済産業大臣に対して確認申請を行い、さらにまたその日から1か月以内に家庭裁判所に申立てをして許可

を得る必要があります。
除外合意による株式以外の遺産については遺留分の算定基礎とすることができますので、遺留分侵害額請求権全部が失われるわけではありませんが、当事者以外の推定相続人も含めた全員で合意をしなければならないという意味ではハードルが高いといえます。
(4) 遺言書

遺言書は、他の色々な方策を採った後の「抜け・漏れ」を最終的に補完しカバーしてくれる便利な方策です。
逆に、遺言書によって「その他一切の財産を00に相続させる」
と定めていなかったばかりに、思わぬ遺産(例えば非課税の私道の共有持分権や第三者への債権等)が出てきて困ったというケースもよくあります。
(5) 生命保険信託

生命保険信託は、受託者となった信託会社等が委託者の亡くなった後に受益者(家族)に死亡保険金を定期的に交付することができるため、近年注目されています。
こちらは生命保険会社の商品の一種ですので、そうした商品を扱っている生命保険業者に相談するのが適切です。
(木野綾子)

■ トーク&スタディ■『終活・相続コンサルタントの役割』

さすがに上級編はたくさんの士業の先生が登場しますね。内容も難しく感じます。このような事案では、相続コンサルタントには何が求められているのでしょうか。

まず、相続コンサルタントはチームの司令塔として相談の内容を整理し、必要な専門家を選ぶ必要があリます。その後、チームを編成し、お客様と専門家との橋渡し役としても必ず面談の場には同席して、時に専門家の話をかみ砕いて説明したリ、また全体像を常に把握しておくことも大切です。

なるほど! 参考になリます。
それから、この事案では遺言書を作るという話が出てきますが、チーム内に司法書士と弁護士がいる場合、どちらにお願いしたらよいか迷ってしまいそうです。

まさにケース・バイ・ケースですね。誰に頼むのがより自然でスムーズに運ぶか、すべてはお客様のためになるかどうかを基準に考えれば間違いないでしょう。
弁護士の立場からはいかがですか?

はい、本件では司法書士Cが家族信託組成のために先にお客様と関わって相続までのスキームを考えており、これに対して弁護士Dは遺留分に関する交渉をスポットで引き受けただけなので、遺言書作成は司法書士Cに頼むほうがお客様にとっても違和感はないでしょう。

さて、本書も終わりに近づいてきました。色々な相続・終活の事例を見てきましたが、最後に著者の皆さんから、終活・相
麻衣 続コンサルタントの心構えなどを一言ずつお願いします。

我々、相続・終活に関わる専門家はつい、正論や正解をお客
様に提案しがちです。ただ、正解は一つではなく、我々にとっての正解がお客様にとっての正解とはならない場合もあるこ
とを理解してください。お客様の中にあるその家の正解を導
一橋
き出すお手伝いができる真の終活・相続コンサルタントとし
ての在り方を持ち続けてほしいと思います。
0 「この人の話を聞きたいと思われる人に」をモットーにコン
]サルタントを行っています。知誠はもちろんのこと何でも話
せる信頼関係が最も重要です。机上のみならず普段から無意
武藤 識を意識して学びに変え、相談時に活かせる体制を整えてこれからも取り組んで参ります。

相続·終活を取り巻く問題については法改正も多く、様々な業種が参入してきておリ、サービス内容もお客様の意識も向
,上していますから、今日うまくいった方法が1年後も適用するとは限リません。
木野 相続・終活の専門家としての看板を掲げるからには、日々の勉強や情報交換を怠らず、地に足をつけて精進していくしか
ないと思います。

〇<ぁリがとうございました! 〕
麻衣

■■コラム■■
相続人が何十人もいる遺産分割の進め方

「亡くなった曽祖父の遺産分割をしないまま何十年も放置していたら、おじやおばが亡くなってその子どもたちが代襲相続し、気がついたら相続人が35人……」ということも、実は珍しくありません。
全員に連絡がついて話し合いがまとまるまでには、かなり時間がかかるでしよう。そうするうちに、また相続人の誰かが亡
〈なって代襲相続が起こらないとも限りません。
このような場合には、次のような対処法があります。
① 相続分が少ない相続人や、遠縁で関心のなさそうな相続人と交渉して、その人に「相続分の放棄」(全相続人が法定相続分に従ってその相続分を取得する)または「相続分の譲渡」
(譲渡を受けた者がその相続分を取得する)をしてもらう。
→これによって、相続人の数が減って話し合いがやりやすくなるというメリットがある。
② 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる。反応のない相続人に裁判所から意向確認をしてくれたり、欠席者がいても明確な意見対立さえなければ、家庭裁判所が「調停に代わる審判(家事事件手続法284条)」により適正な解決案を示してくれるケースもある。意見対立があり話し合いがまとまらなければ、調停から審判手続に移行して審判(判決のような強制力のある判断)を得る。
→当事者間の話し合いと異なり、必ず決着することができるというメリットがある。
実際には、弁護土に依頼して①と②を組み合わせて進めることが多いといえるでしょう。
遺産に不動産が含まれている場合には、早い段階で司法書士

にも相談をして、不動産の相続登記をするにあたっての具体的な手続き(誰の押印が必要か)をあらかじめ確認してお〈ことをお勧めします。
(木野綾子)

■■コラム■■
誰とチームを組んで仕事をするかで仕事の質が変わる
相続や終活の仕事は1人で解決できないことが多いものです。ましてや筆者は士業ではない終活・相続コンサルタントなので、相続税の計算はできませんし、揉めごとの介入もNGです。また墓石も保険も不動産も取り扱ってもいません。
では、お客様の相談に乗れないのでしょうか?
そんなことはありません。ちなみに弊社はHPで「相続の問題は『誰に相談したらいいのかわからない』という声も多くなってきました。弊社はそんなお困りごとを、頼りになる相続専門の士業とチームを組み、生前から相続発生までワンストップでトータルにサポートしている、関東で初めての相続診断士事務所『笑顔相続サロン®』を運営しています。全国に現在26カ所ある『笑顔相続サロン®』と共に皆さまの相続のお困りごとを“笑顔相続”に導くお手伝いをさせて頂ければ幸いです。」とうたっています。
つまり、自分が扱えない分野は信頼できる専門家と組めばよいわけです。
要は、この「信頼できる」がポイントですね。
筆者も開業した14年前は異業種交流会で知り合った士業や家の近くの専門家と組んで仕事をしていました。
当然、うまくいかずチームは解散。何度、組む専門家を変えたかわかりません。何がダメだったのか、分析したところ「共通言語がない」「価値観が違う」「ベクトルが同じ方向を向いていない」ということがわかりました。
専門家と組む際はよくよくコミュニケーションをとり、価値観やお客様への向き合い方が同じかどうか、また、仕事の進め

方や「ホウレンソウ」がしっかりできるかどうか、専門家が士業の場合は士業だからという理由だけでコンサルタントを下に見ないか、あるいは儲け主義ではないかなどを見極めてチームを組むことが大事です。
このチーム編成を間違えると誰に迷惑をかけると思いますか?
それはもちろん、我々を信頼して相談してくださった「お客様」です。
誰を向いて仕事をしているのか自分自身の背骨をピンと立て
ることも終活・相談コンサルタントとして大切です。
(一橋香織)

おわりに

本書を読み終えて、皆さんはどんな感想をお持ちでしょうか。
「これなら自分も自信をもって終活・相続コンサルタントとしてやっていけそうだ」
あるいは
「とりあえず、ためしにやってみよう」
そんなふうに感じていただけたなら、本書を執筆した甲斐があります。
第1章「総論」にも書きましたが、相続・終活ビジネスを取り巻
く環境は活発であり、ビジネスチャンスがそこには広がっているといえます。
実際、最新のデータでは令和3年度の死亡者数は143万9,809
人となり戦後最多、その方々が遺される相続財産は1年で約50兆円ともいわれています。
だからこそ、きちんとしたビジネスにおけるモラルや在り方を土台に持ち、ただの金儲けのための終活・相続コンサルタントではない、真にお客様の問題解決に寄り添える、そんな終活・相続コンサルタントになっていただきたいと願っています。
そういう意味でも、本書を執筆するにあたり、実際、終活・相続
コンサルタントとして、あるいは終活・相続コンサルタントと協業している弁護士として、我々が日々実践していることや、ともに協業する中で経験した事例に基づいてなるべくわかりやすく解説したつもりです。
付言事項やエンディングノートの大切さに触れたのもそのためです。
筆者らは常日頃から「知識は礼儀」という考えを大切にし、専門分野の知識習得に努力を怠らないようにしていますし、何がお客様

のためなのかを常に自分自身に問うようにしています。
現場で起こっていることは、お客様の人生そのもので、正解のない世界の正解を探し求めることでもあります。
以下はよくこの仕事を目指している方に話していることです。
「我々の正義を押し付けないこと。お客様の中にある正解を探して寄り添うことこそが大切である」。
時に、私たちは自分が正しいと思う対策(例えば遺言を書くことなど)をお客様に押し付けがちです。
しかし、場合によってはそれがその方にとっては正解でないこと
もあるのです。
真の終活・相続コンサルタントとは、そのご家庭ごとの事情をしつかりと俯緻して、そのご家庭の最適解を探すお手伝いをすることなのではないでしょうか?
日本から争う相続を1件でも減らし家族の絆を深めていく一助と
なるための終活・相続コンサルタントになってください。
我々著者3名は、そういう終活・相続コンサルタントが増えることを願ってこの著書を上梓いたしました。

最後にこの本を執筆するにあたりご協力いただきました方々に深く御礼申し上げます。

著者略歴

一橋香織(ひとつばしかおり)

笑顔相続コンサルティング株式会社代表取締役笑顔相続サロン®本部代表全国相続診断士会会長
一般社団法人全国遺言実務サポート協会代表理事
一般社団法人アクセス相続センター理事一般社団法人終活カウンセラー協会顧問
《資格〉
上級相続診断士・AFP.社会整理士・ファイナンシャル技能士2級·終活カウンセラー1級
《経歴》
外資系金融機関を経て ファイナンノャル・プランナーに転身。
2008年から14年で5,000件以上の相続相談の実績。
自身の家族で争う相続を経験し、相続の大事なゴールは「笑顔相続」と実感。
「争う相続をなくし、笑顔相続の実現」を理念とし、日々お客様と対峙している中で節税優位の相続対策ではなく、笑顔で相続が迎えられる相続の実現のための活動を行っている。
自身の活動のみでは「笑顔相続が当たり前の社会」の実現は不可能と考え、「一
橋香織の笑顔相続道」という私塾を主宰。
現在までに300名を超える相続の専門家を輩出し、正しい理念を持った相続コンサルタントの育成に力を入れている。
相続分野においては、最新の知識をアップデートし続ける必要性を日々感じ、手
軽に学び続ける仕組みの一環として、オンラインサロン「笑顔相続アカデミー」を開講。相続にまつわる様々な分野の専門家の講義を毎週更新。
講演・メディア出演(TBSテレビ「Nスタ」「ビビット」フジテレビ「バイキングMORE」テレビ朝日「たけしのTVタックル」など)多数。
《著書》
「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP研究所)、

「終活・相続の便利帳」(泄出版社)、「マンガでわかる最強の貯蓄術」(杷出版社)定年後 お金の稼ぎ方)(杷出版社)、『マンガでわかる老後までに2000万円貯める方法」(柑出版)、「はじめての遺言執行」(日本法令、木野弁護士と共著)、その他、日本法令で共著6冊。

所属事務所
〒120-0025 東京都足立区千住東2- 1 – 6 プリモ北千住3階笑顔相続コンサルティング株式会社
電話03-6679-6276
e-mail info@egao-souzoku.com
U R L https://egao-souzoku.com/
オンラインサロン https://egao-souzoku.com/academy/

木野綾子(きのあやこ)

弁護士・上級相続診断士・家族信託専門士・終活カウンセラー
平成6年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。平成9年東京地方裁判所に判事補として任官し、以後、土浦、東京、豊橋の順で各地の裁判所に勤務し、平成 22年千葉地方裁判所を最後に退官・弁護士登録(第一東京弁護士会)。平成28年法律事務所キノール東京を開設し、現在に至る。主な得意分野は相続・不動産関係・労働(企業側)・債権回収等。

所属事務所
〒105-0003 東京都港区西新橋1-21-8 弁護士ビル503法律事務所キノール東京
電話03-5510-1518 F A X 03-5510-1519
e-mail kino-ayako@kinorr.tokyo
U R L https://kinorr-souzoku.tokyo/

武藤頼胡(むとうよりこ)

一般社団法人終活カウンセラー協会代表理事リンテアライン株式会社代表取締役社長
終活カウンセラーの生みの親。『終活」という考えを普及するべく、全国でセミナー講師を年間200回以上担い、一人ひとりに「終活」を伝えている。
テレビ、新聞、雑誌などメディアヘの掲載多数。自分自身も終活カウンセラーとして、様々な年代の方からの相談ごとを聴いている。「全てのものとコミュニケーションの起きる場に」をモットーに同じ立場、同じ歩調を大切に日本の高齢者を元気にする活動に励む。
《メディア出演・記事執筆監修・雑誌、WEB掲載〉
NHKごごナマ NHK情報まるごと・テレ東ガイアの夜明け NHKニュースウオッチ9 • NHKニュースNHK NewsWeb • BS朝日・朝日新聞・日本経済新聞・婦人公論.TBS私の何がイケないの?・日テレナイナイアンサー・週刊ダイヤモンド・日経マネー・週刊朝日・山陽新聞・岡山テレビ・保険情報新聞・中日スポーツ新聞・Jキャストニュース・スーモジャーナル・仏教タイムス・フューネラルビジネス・日刊スポーツ新聞・日経マネー・サリュ・サンパウロ・葬祭流儀・天下雑誌・共同通信・浄土新聞・産経新聞・東洋経済・生島ヒロシのおはよう一直線(TBSラジオ)・くにまるジャパン(文化放送).Eテレあしたも晴れ!人生レシピ・読売新聞・琉球新報・沖縄タイムス・北海道新聞・群馬テレビ・ハルメクなど150以上
《講演・研修実績〉
SMBC日興証券・束洋証券・日本生命・昭和シェル・エイブル・神奈川コープ・新所沢公民館・武蔵村山市包括センター・岡山照泰仏堂・全国賃貸住宅フェア・オリックス生命・アクサ生命・證大寺昭和浄苑・津山市包括センター・溝口祭典・遠賀町公民館・富士宮終活フェア・千曲市社会福祉協議会・石橋公民館・日本石材産業協会・Canon・スルガ銀行・三菱UF」信託銀行・りそな銀行・福岡銀行など1,000か所以上(うち行政は100か所以上)
《著書・連載・監修》
「元気なうちから始める!こじらせない死に支度」(執筆)(主婦と生活社)・「身内が亡くなった後の手続き」(監修)(主婦と生活社)・「クロワッサン特別編集

身内に迷惑をかけない生前の手続き」(監修)(マガジンハウス)・日本農業新聞(連載中)。

これが知りたかった!
終活・相続コンサルタントが
活躍するための実践手引書 令和4年9月30日 初版発行

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相続コンサルタントのた晰瘍

相続コンサルタント弁護士
一橋香織・木野綾子/共著
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り 一

はじめに
みなさん、こんにちは。
この本を手に取つたあなたは、「すでに相続の仕事をしているけれど、何か手応えがない」と感じていたり、あるいは「これから相続コンサルタントとして仕事をしていきたいけれど、何をサービスメニューに加えてよいかわからない」と考えていたりしているのではないでしょうか。
私たちは、相続コンサルタントあるいは法律専門家として、すでに数多くの相続案件を経験しているという立場から、これから相続コンサルタントとして、活躍するみなさんには、ぜひ「遺言執行業務」をサービスメニューに加えていただきたいと思っています。
遺言執行業務は相続コンサルタントにとつて重要な業務の一環となり、さまざまな社会問題を解決していく一助となるのではと考えているからです。「遺言執行は士業以外でもできるなんて知らなかった」という人もいるかもしれません。
本書では、相続コンサルタント初心者の皆さんのために、なるべ
く具体的に実際の実務に即して解説をしています。
ではさつそく、なぜ相続コンサルタントにとって遺言執行業務が重要な業務の一環となるのかを見ていきましょう。
争族が増え続けている現状明治政府により施行された旧民法下で定められた相続法では、「家督相続制度」により財産を承継してきました。当時は戸主として全財産を相続する代わりに家族を扶養し、困ることがあれば助けるという、権利と義務が一体化していた状態のた
はじめに 1
め、相続争いはほとんどなかったといえるでしょう。家督を継いだ長男が隠居した両親の介護をし、あるいは他のきょうだいの養育までしてきたということです。
その後、「家督相続制度」は、日本国憲法の平等原則に反するとして、日本国憲法の施行(1947年5月3日)をもって廃止されました。そして、核家族化が進むにつれて家族の絆が弱まり、権利だけを主張することで「争族」が増えてきたのではないでしょうか。
親の介護をしている家族と、介護をせず、遠方に住んでいる家族がいたとしても、現民法下では介護は義務であり、寄与料として認められる金額は些少であるにもかかわらず、相続においては法定相続分となり不公平感を生んでいます。それに対して、親は「自分の子はみな仲がよく揉めるはずがない」という幻想を抱いていることも問題を深刻化させています。
最高裁判所の「司法統計年報遺産分割金額別訴訟割合」(2017年度)によれば、遺産分割事件の75%は、遺産額が5,C100万円以下となっています。 ■遺産分割金額別の訴訟割合
財産の大小が争いの真の原因ではないことが、この表からもわかると思います。相続争いは相続財産の大小を問わず、平等意識から生まれてきたものであることを理解して相談に臨むことが大切です。
少子高齢化が加速した現状での問題点国内における高齢化は急速に進んでいて、2060年には65歳以上の人の割合は全人口の40%近くに達するといわれています。
また、それに伴って認知症の数も年々増加しており、内閣府によると、2012年は認知症高齢者数が462万人で、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)でしたが、2025年には約5人に1人が認知症になると推定されています。
認知症だけではなく、平均余命が伸びるにつれ健康寿命が取りざたされるようになり認知症にならなくても何らかの病気を患うか身体の介護状態になる可能性も決して低くありません。
要介護や認知症となった場合、

財産の管理は誰に任せるのか?


相続人の一人が認知症になった場合の遺産分割はどうするのか ?


相続人がいない場合、誰に自分の財産を相続させるのか ?


高齢化した相続人に遺言の執行ができるのか ?など、少子高齢化がもたらす問題は深刻です。

さらに、次に説明する孤独死・孤立死の問題も少子高齢化と深く関わつています。
孤独死。孤立死が増えている現状孤独死・孤立死という言葉をご存知でしょうか ?これも家族の形態が変わり、核家族化や少子高齢化が進んだこと
で社会問題となっていることの一つです。
はじめに iii
■65歳以上の認知症患者の推定者と推定有病率
(万人) 1,400 長期の縦断的な認知症の有病率調査を行つている福岡県久山町研究データに基づいた。 ”04
1,200 各年齢層の認知症有病率が、20,2年以降一定と仮定した場合各年齢層の2知症有病率が、201簿以降も糖尿病有病率の増 35
jnにより上昇すると仮定した場合
1,000 ※久山町研究からモデルを作成すると、年齢、性別、生活習慣(饉尿病)の有病率が認知症の有病率に影響することが分かつた。本推計では2ⅨЮ年までに■尿病有病率泥0%増加す 30
ると仮定した。
800
20
600

400
200
0平成 24 27 32 37 42 52 62 72(年) (2012) (2015) (2020) (2025) (2030) (2040) (2050) (2060)
匡コ各年齢の認知症有病率が一定の場合(人数) ■国各年齢の認知症有病率が上昇する場合(人数 ‐各年齢の認知症有病率が一定の場合(率)(右目盛り )‐各年齢の認知症有病率が上昇する場合(率)(右)目盛り)
(出典)「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業九州大学二宮教授)より内閣府作成
■健康寿命と平均寿命の推移
0男性0女性9090
85|::I』重宣 85 %69 1
80 80
7 m創
7119
7265… 7…269~7336~~7362~7421
70 70
6昴0 6品7 033 7042一
平成 13 16 19 22 25(年 ) 平成 13 16 19 22 25(年
)
(2001)(2004)(2007)(2010)(2012) (2001)(2004)(2007)(2010)(2012)
(出典)平均寿命:平成13 16 19 25年は、厚生労働省「簡易生命表」、平成22年は「完全生命表」健康寿命:平成13 16 19 22年は、厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」平成25年は厚生労働省が「国民生活基礎調査」を基に算出
:V
未婚率の増加と核家族化の影響を受けて、単独世帯(世帯主が一
人の世帯)も増加しています。2040年には単独世帯の割合は約40%に達すると予測されており、このことが孤独死を増加させているといわれています。また、孤独死と孤立死は、言葉は似ていますが、実は意味が違います。
孤独死というのは、家族や友人など誰にも気づかれることなく一人で死んでいくことです。生涯独身や子どものいない夫婦、子どもがいても遠方に住んでいて配偶者が亡くなっているケースなどが孤独死に陥りやすいとされています。
一方で、孤立死は一人で亡くなったかどうかではなく、社会的に孤立した状態で亡くなり、死後発見されることです。
例えば、引きこもりの家族がいる場合に地域から孤立し、両親と引きこもりの家族がともども孤立死することもあるかもしれません。特に配偶者を亡くした男性や引きこもりやニートの人が両親を亡くすと孤立死に陥りやすいとされています。
2018年の年間の死亡者数は約137万人(厚生労働省「人口動態統計:2018年」)で、国民のおよそ50人に1人が孤独死もしくは孤立死しているというデータもあります。特に男性は発見されにくく、遺体発見までの平均日数は、男性は23日、女性は7日という
ことです。
いずれにしても、死亡してから発見されるまでにある一定の時間が経過することが多く、発見された時には悲惨な状態になっていると想像できます。
こういった背景から、今後は相続対策として公正証書遺言を遺す
だけではなく、誰がその遺言を執行するのか、また認知症や高齢に
なった時の財産管理はどうするのか、相続人がいない場合の死後の
手続きは誰が行うのかなど、問題は多種多様化しています。
はじめに v
50505050332211
■単独世帯と高齢世帯の割合
(%)(万世帯)
45
1,000
40 900 800 700 600 500 400 300 200 100

)
―単独世帯(割合)(左軸)-65歳以上の単独世帯数(右軸)
(出典)2015年まで総務省続計局「国勢調査」、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018(平成30)年推計」(2018年)
相続に携わる仕事をする以上、「遺言を作成したい」「家族が困ら
ないようにしておきたい」「揉めないようにするにはどうしたらよ
いか」など、さまざまな相談を受けることがあると思います。
日本公証人連合会の報告によると、公正証書遺言を作成する人も
年々増え、平成30年度は11万471件となっています。
■遺言公正証書作成件数
96,020104,4901翌loa350 1翌1型

77,87881,98478,754電
平成21年平成22年平成23年平成24年平成25年平成26年平成27年平成28年平成29年平成30年(出典)日本公証人連合会資料
この数字が多いか少ないかは別として、相続対策に対する関心が高まっていることは確かでしょう。遺言を書く理由も、日本財団の調査によると、相続対策を理由に挙げる人がほとんどです。
■遺言書作成の理由(複数回答 )
0 20 40 60 80 100
相税手いを7E17るため Ur特定の財産をあげたい相続人がいるため平等に相続させたいため -26相続財産に差をつけたいため – 22
‐‐■14兄弟に相続させたくないため ‐9異父母の兄弟がいるため 13子供の認知のため ‐71ち‐
独り身のため子供がいたい美婦のためn 相続対策
新聞やニユース等をみて 9
家族から薦められて社会貢献のため遺言セミナーに参加して事業継承のため
5432
その他
15
(調査対象)遺言書を作成している日本全国40歳以上の男女(出典)日本財団「遺言書に関する調査」(2016年12月6日 )
相続コンサルタントと遺言執行業務
このように、「法律や人々の意識の変化によつて争族が増え続けている」「少子高齢化が加速して、親が亡くなる時には子どもも高齢者になつ
ており、問題解決をしてくれる子孫もいない」
「子どもの有無にかかわらず、誰もに『孤独死・孤立死』のリスクがある」という時代がやってくるからこそ、相続や終活に詳しい専門家のニーズは高まる一方だといえます。
そして、相続対策の代表的な手段である遺言書が「亡くなった後
はじめに ui
の財産の分け方の設計図」だとすれば、「遺言者の代わりに確実に
その設計図を形にして実現してくれる遺言執行者」の存在は欠くこ
とができません。
「遺言書だけでは『絵に描いた餅』であり、安心できない」
「遺言書の実現は、家族をあてにするよりも、相続の専門家に頼め
ばよい」
と考える人も多くなってきました。
そう、遺言執行者は、まさに相続コンサルタントにふさわしい役
割なのです。
相続コンサルタント
昨今では相続コンサルタントと名乗る専門家も増え、相続ビジネ
スに参入する人も多くなりました。「オロ続コンサルタント」は、き
ちんとした定義や資格があるわけではないため、顧客からは「何を
してくれる人なのかわかりにくい」という声も聞かれます。
相続・終活系の資格も、一般社団法人相続診断協会の報告による
と、15種類以上にものぼります。
ただ、資格は取得しただけでは意味がありません。「正しい知識」
と「それを活かせる環境」を整備して、実務に役立て、社会に「相
続コンサルタント」を認知してもらう必要があります。
著者の一人である一橋香織は、相続診断士などの資格を持つ相続
コンサルタントであって、士業ではありませんが、年間40件以上
遺言の証人の立会いをし、その7割は遺言執行者の指名を受けてい
ます。
遺言執行者として受任の際は弁護士・司法書士・行政書士と共同
受任することが多く、もう一人の著者である木野綾子弁護士との共
同受任も多数あります。
士業や他業種と共同受任することのメリットは、本文で事例を交
V.
えながら詳しく述べたいと思いますが、いろいろな業種の人が入り交じって活躍する相続・終活業界だからこそ、一方でマナー違反や
コンプライアンス違反の事例も耳に入ってきます。
本書では、遺言執行者として法的にやらなければならないことや、士業ではない相続コンサルタントがやってはいけないことについても触れています。
また、相続コンサルタントとして遺言コンサルティングを含む相続業務に従事する人にとって、本書が単に知識を得るためだけにとどまらず、実務での手引書となるよう、第8章には「ミチオ君」という架空の新米相続コンサルタントを登場させて、業務日誌や対話形式で遺言執行の流れを再現しています。「難しい話はさっぱり頭に入つてこない」という人は、ぜひこの章から読んでみてください。ミチオ君は、一橋香織主宰の私塾「笑顔相続道」の受講生をイメージモデルにしています。
また、本書は「遺言執行」という名の付く類書とは異なり、法的・専門的・学術的な説明を網羅的に書いたものではありません。みなさんが最もよく遭遇すると思われる「遺産は不動産と金融資産だけ」という遺言者を想定して、できるだけシンプルかつスムーズに遺言執行業務を進めるにはどうしたらよいか、という観 ′点に絞って書いています。
そして、類書ではほとんど触れられることのない「受任の方法」や「報酬の取り方」といったデリケートなテーマについても説明しています。初心者の相続コンサルタントにとって、「知識」と「経験」
との間には「いかにして受任するか」という重要な壁が立ちはだかっていますし、ボランティアではなく、相続コンサルタントとして生計を立てて社会の役に立つには「どうやってマネタイズするか」も
はじめに lx
避けては通れません。これらがネックになって「相続コンサルタントとして開業するのに躊躇してしまう」という人も多いのです。
ぜひ、本書をテキストとして実務に役立て、1件でも多くの遺言執行を執り行うことで笑顔相続を広めるお手伝いをしていただければ幸いです。
令和元年11月
相続コンサルタントー橋香織

弁護士木野綾子
目次
はじめに ………………………………………………… i

相続コンサルタントのためのの基礎知識
●遺言執行者とは …………………………………2 0 遺言執行者の存在意義 …………………………2 0 遺言執行者でなければ執行できない事項………4
□遺言によつて廃除やその取消しを行う場合 …………4(1)廃除/4(2)廃除の取消し/4〔COLUMN〕廃除と相続放棄と代襲相続/5
□遺言によつて認知を行う場合 ………………………5

0 その他の執行対象事項 …………………………6 □遺贈……………………………………………6
□遺産分割方法の指定とその委託 …………………… 7(1)遺産分割方法の指定/7(2)遺産分割方法の指定の委託/8 □祭祀承継者の指定 …………………………………・9(COLUMN〕遺骨は遺産分割の対象になる?/9 0 遺言執行が必要のない事項(主なもの)…………10 0 遺言執行者の職務…………………………………10 □遺言執行者の職務 …………………………………・10
□遭言執行者と相続人の関係 …………………………11 0 遺言執行者になる方法 …………………………12
目次痴
□遺言による遺言執行者等の指定 ……………………12(1)遺言執行者が指定されている場合 /12(2)遺言執行者を指定する人が指定されている場合 /13(3)家庭裁判所による遺言執行者の選任/14
□□ □□

00
遺言執行者に資格は必要か………………………17遺言執行者の報酬 …………………………………・21遺言書で定める場合 …………………………………21(1)定額で定める/21(2)割合で定める/21(3)別の規程を引用する/22
□家庭裁判所に「遺言執行報酬付与審判申立て」
を行う場合 ……………………………………………25遺言執行報酬及び実費は誰の負担か………………30
民法改正と遺言執行者 ……………………………30不動産の相続の効力…………………………………30預貯金の仮払い ……………………………………31(1)家庭裁判所に「仮分割の仮処分」を申し立てる場合(要件の緩和 )/31(2)金融機関に直接仮払いを求める場合(制度の創設 )/32(COLUMN〕証人のすすめ /33

時に道言執行者に指定してもらう提案方法
●遺言執行のケースと提案のしかた ………………36ケース1 子が遠方(海外など)にいて、遺産の移転手続きに時間がかかるケース ……………36
X.
前妻(前夫)との間に子がいるケース………38高齢の家族や認知症の家族がいるケース……39 41
0 必ず遺言執行者を付けなければならないケ …
〔COLUMN〕母の想いは実現するのか ?/44=ス
●相続開始を知る …………………………………48〔COLUMN〕見守り契約と遺言執行者/49
0 遺言書の確認 ………………………………………・50 □公正証書遺言 ………………………………………50
□自筆証書遺言 ………………………………………50 0 戸籍の取寄せと法定相続人の確定………………51 □相続人からの聴取 …………………………………・51 □戸籍の取寄せ ………………………………………51〔COLUMN〕戸籍の取寄せの簡易化/52 □法定相続人の確定 …………………………………・53日法定相続人及び受遺者の連絡先住所の確認 …………53

0 就任又は辞退の通知 ………………………………・53(1)就任通知書の例/54(2)辞退通知書の例/54 0 遺言書の開示 ……………………………………・55 0 遺産目録の作成と開示 …………………………56 □遺産目録の作成 ……………………………………56
□遺産目録作成の範囲 …………………………………56
□遺産目録の作成方法…………………………………56
目次ズ

0 遺言に従つた財産の分配実務 …………………57
□預貯金……………………………………………57(1)預貯金の解約・払戻手続き/57(2)民法改正による注意点/59
□有価証券……………………………………………62(1)上場株式等の証券会社で保管している有価証券/62(2)未上場株式/63
□不動産……………………………………………64(1)移転登記手続き/64(2)民法改正による注意点/64〔COLUMN〕いらない不動産を国が引き取る?/65
日自動車……………………………………………66
□その他……………………………………………66(1)ゴルフ会員権/66(2)祭祀承継者指定/67(3)その他/67 0 相続債務の取扱い…………………………………・68
0 遭産の取得を辞退された場合 …………………69 □相続人や受遺者の取得分が割合で決められている場合…69 □特定の物の遺贈 ……………………………………69 □特定の物を相続させる旨の遺言 ……………………70 0 遺言書に書かれていない遺産の帰属先 …………・70 0 遺言執行業務を行うに当たつてのポイント……・71 □中立・公平に執行する……………………………・71 □遺言書に書かれていないことはしない………………・71 □ 1人で全部処理しようとしない …………………72 0 業務終了の通知 …………………………………72 0 報酬請求……………………………………………74
XIV

他業種と相続コンサルタントの
●他業種との連携全般の流れ………………………76 □士業……………………………………………77(1)税理士/77(2)弁護士/78(3)司法書士/81(4)行政書士/82
□士業以外の業者 ……………………………………82(1)生前整理・遺品整理業/82(2)不動産業者/83(COLUMN〕信頼できる不動産業者とは /84(3)FP・ IFA/85〔COLUMN〕ますは証券口座の開設から/86(4)終活カウンセラー/86(COLUMN〕「夫と同じ基に入りたくない」と言われたら /87(5)相続診断士/90 0 エンディングノートの活用 ………………………90

相続コンサルタントが守るべきコンプライアンス
●士業の独占業務との関係(業際問題)……………94 □弁護士……………………………………………94 □税理士 ………………………………………………………95
目次 xv
□司法書士……………………………………………95日行政書士……………………………………………96〔COLUMN〕紹介料はOK?NG?/97
0 弁護士法違反の例…………………………………・97 0 守秘義務………………………………・:・…………。98 0 金品を預かる際の留意点…………………………99 □現金を預かる場合 …………………………………・99 □物や書類を預かる場合 ……………………………100 □善管注意義務と損保カロ入………………………… 100 …………………………………… 101
0 契約書の作成・101
□契約書の重要性 ………………………………… □業務範囲の明確化 …………………………………102 □報酬の取決め …………………………………… 102日その他の取決め …………………………………… 102 □業務途中で変更が生じた場合 …………………… 103 0 「報・連・相」は最強のクレーム予防…………103

巻き込まれがちなトラブル
●遺言書と異なる遺産分割協議 ………………・106 □遺言書の内容に相続入以外の第三者への遺贈が含まれている場合 …………………………………106 □遺言書の内容に相続人以外の第三者への道贈が含まれていない場合 ……………………………・107(1)遺言執行者への就任承諾の前に相続人間で遺産分割協議が成立した場合/107
XVi

□□□日

(2)遺言執行者への就任承諾の後に相続人間で遺産分割協議が成立した場合 /108 □相続人から「遺言書と異なる遺産分割協議(受遺者の遺贈放棄も含め)をしている最中」と言われてから長期間経過しつつある場合 …………… 108遺言執行者の解任と辞任……………………… 109遺言執行者の解任 …………………………………109(1)解任手続きと解任事由 /109(2)遺言執行者解任審判の前の保全処分 /111(3)遺言執行者からの不服申立て/112(4)解任された場合の通知 /112
□遺言執行者の辞任 …………………………………112(1)辞任手続きと辞任事由 /112(2)辞任した場合の通知/113

遺言執行者が争いの当事者になる場合 …………113遺言の執行を求める争い………………………… 113遺言内容の解釈をめぐる争い …………………… 113特定の遺産が遺言者のものかどうかについての争い 114遺言無効の争い …………………………………・115(1)遺言書作成や就任段階での留意点 /115(2)遺言執行者に就任してからの留意点 /115(3)争いの相手方(被告等)になつた場合の対処 /115
□遺言執行者が争いの当事者にならない場合 ……… 116
目次 x宙

死後事務委任契約の活用
●死後事務委任契約とは …………………………・118 0 死後事務の主な業務内容 ……………………… 119 0 死後事務委任契約の手順と報酬 …………………122 □死後事務委任契約の手順 …………………………122 □死後事務委任の報酬………………………………122 □死後事務委任契約が必要な人のチェックリスト…124 0 死後事務委任契約を提案するタイミング……・126 0 死後事務委任契約書ひな形……………………・127(COLUMN〕死亡届が出せない?/132 0 おひとり様にお勧めしたい契約・その他……・133 □見守り契約 ……………………………………… 133 □委任契約公正証書・任意後見契約7At正証書 ……… 133 □公正証書遺言及び遺言執行者指定 …………………144日尊厳死宣言公正証書 ……………………………… 144 □生前整理 ………………………………………… 146ロエンディングノート…………………………………146(COLUMN〕孤独死した人の遺品整理の現場から /147
新人相続コンサルタント
ミチオの道言執行業務日議
~実践・Iまじめての通言執行~
Scenel 遺言書作成 …………………………………151
XV.:
Scene2 遺言者死亡の第一報からお通夜まで …………162 Scene3 遺言執行者としての初動 ……………………166 Scene4 税理士との打合せ …………………………・171 Scene5 遺産目録の送付と不動産登記手続き …………175 Scene6 預貯金の払戻しと」リレフ会員権の名義変更… 180Sceneフ葬儀費用の精算と祭乖E承継 …………………184 Scene8 遺留分侵害額を求める通知書が来た !……… 188 Scene9 遺言執行終了通知 …………………………・194 Scene1 0 報酬請求、そして …………………………198
おわりに ………………………………………………201〔COLUMN〕「たわけ者」の語源 /204
遺言執行に関する改正民法新旧対照条文………………………………………… 211
ヒアリングシートの例………………………………………………… 218
目次ガx

相続| コンサあたタめンのート
‘レ
遺言執行者の基礎知識

■ ● 1111■
「遺言執行者」とは、文字どおり「遺言を執行する者」です。法的には、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められています(民法1012①)。また、遺言執行者が職務としてした行為は、相続人に対して直接効力が生じます(民法1015)。
このように、遺言執行者は、特定の相続人や受遺者の味方をするのではなく、あくまで亡くなった人の遺言の内容(遺言者の真実の意思)を実現することをミッションとしています。
遺言者が妻や子どもなどの相続人のために、せっかく遺言書を書いておいても、それだけではただの紙切れに過ぎません。遺言者が亡くなった後に誰かがその内容を実現する行動を起こさなければ、遺言者の想いは実現されないのです。
遺言執行者はまさにその役割を担っており、一部の相続人の思惑
や遺言書の紛失など何らかの事情によって、「遺言がそのとおりに実現されない」という事態を防ぐために存在しているといってもよいでしょう。
また、相続人にとっても、大切な人の死や葬儀の手配などで心身ともに疲労している時期に、戸籍を揃えたり、金融機関や法務局に
2 ●遺言執行者とは/0遺言執行者の存在意義
行ったり、専門家を探したりするという事務を代行してくれる遺言執行者の存在はありがたいものです。
遺言執行者については、令和元年7月1日施行の民法改正で権限が明確化されたといわれており、遺言執行者への追い風となっています。
遺言執行者カミしをクを ……
・誰にも遺言書が発見されなかった。
・相続人の1人が遺言書を見つけたが、自分に不利な内容だつ
たので誰にも見せなかった。
・相続人が多忙又は海外に住んでいるため、相続手続きのため
に市役所や銀行の窓口に行くことができない。
・遺産のリストアップなど、相続全体の指揮を執る人がいない。
・遺言の内容を実現することを妨害する相続人が現れた。
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 3

■遺言によって廃除やその取消しを行う場合
(1)廃除
廃除とは、遺留分を有する相続人に次のいずれかの事由があったときに、家庭裁判所に申立てをして、その相続人から相続権(遺留分に関する権利を含む)を奪うことを指します。

遺言者を虐待した(暴力、遺棄など)


遺言者に重大な侮辱を加えた(暴言、名誉毀損など)

・その他著しい非行(犯罪行為、多額の借金をして遺言者に肩代わりしてもらった、配偶者である遺言者をかえりみず愛人宅で暮らしていた、など)生前にすることもできますし、遺言によってすることもできます。遺言書に記載する場合の条項は、次のとおりです。廃除事由に当
たる具体的事実を記載する必要があります。
第○条壼言者の長女 ○○は、△△△であるから、壼言者は長女○○を相続人から亮除する。
(2)廃除の取消し
廃除の取消しとは、一度行った廃除をなかったことにするものです。廃除の取消しは、特に理由がなくてもすることができます。遺言書に記載する場合の条項は、次のとおりです。
4 0遺言執行者でなければ執行できない事項
第○条遺言者は、長男 △△に対する〇年○月○日付け推定相続人の亮除(OO家庭裁判所△△支部か和□年(家)第 □□号)を取り消す。

廃除と相続放棄と代襲相続
相続コンサルタントなら、「廃除」財目続放棄」「代襲相続」について、一度は勉強したことがあるでしょう。
では、父親に何度も借金を肩代わりさせたうえ、暴行を加えて廃除された長男・A男と、「うちはお金に困つていないから ……」と父親の死後に相続放棄をした次男・B男がいたとして、それぞれの子どもたちは代襲相続人となるのでしょうか?
答えは「廃除されたA男の子ども達は代襲相続人となるが、相続放棄をしたB男の子ども達は代襲相続人にはならない」です。
―見すると、被相続人に対して悪いことをしたA男の子どもたちが代襲相続できるのに、慎ましく遠慮したB男の子どもたちが代襲相続できないのはおかしいようにも思えますね。
間違えやすいところなので、覚えておきましょう。

日遺言によつて認知を行う場合
ここでいう認知とは、結婚していない男女の間に生まれた子どもを父親が自分の子どもだと認めることを指します(民法781②)。認知の方法としては、①父親が生前に認知届を提出、 ②認知の調停・訴訟、③遺言、という3種類があります。遺言書に記載する場
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 5
合の条項は次のとおりです。
第○条童言着は、□□(〇年○月○日生。木籍 △△)を認知する。

田遺贈
遺贈は、遺言によって遺産を贈与する(無償で譲り渡す)ことを
指します。
遺贈の相手は、相続人であってもなくてもかまいません。もっと
も、相続人に対しては、後記日の遺産分割方法の指定をすることが
多く、一般的には遺贈は相続人以外の人になされるものと考えてよ
いでしょっ。
・包括遺贈
……遺産の全部又は一部の割合を示して遺贈対象とすること。全部が遺贈対象の場合は、遺言執行者が権利承継の手続きを行います。遺産の一部の割合を示して遺贈対象とされた場合は、相続人と包括受遺者との間で遺産分害1協議が行われるまでの財産管理が遺言執行者の職務範囲となります。


特定遺贈・……具体的な財産を示して遺贈対象とすること。遺言執行者が権利承継の手続きを行います。


負担付き遺贈・……受遺者がペットの飼育や障がいのある子どもの扶養などを負担することを条件に遺贈すること。受遺者がその負担を履行しない場合、遺言執行者や相続人は、相当な期間を定め

6 0その他の執行対象事項
て履行するよう催告し、それでも履行しない場合には、家庭裁判所にその負担付き遺贈に関する遺言の取消しを求めることができます。遺言者にとっては心強いのですが、遺言執行者にとっては職務が
長期間にわたつて続くこともあり得ます。遺言書作成段階から、具体的にどのような方法で執行・監督するのかや、その場合の報酬算定の仕方もきちんと打ち合わせておくべきでしょう。
場合によつては、負担付き遺贈ということではなく、負担に当たる部分を付言事項に譲ったほうが、遺言者の気持ちに合っているケースもあると思います。

日遺産分割方法の指定とその委託
(1)遺産分割方法の指定
遺産分割方法の指定は、相続人に対してなされるものです。 ①現物分割
第○条遺言着は、遺言着の有する下記の不動産を重言者の甥人に相続させる。(不動産の記載略 )
②代償分割
第○条壼言者は、重言者の有する全童産を長男人に相続させる。 2 長男人は、前項の童産を取得する代債として、長女 Bに対し、2000万円を支払う。
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 7
③換価分割
第○条遺言者は、童言者の有する下記不動産を売却共分し、その代金から、媒介手数料、メ]量費用、登記費用等の本条項を執行するために叉要な諸費用を控除した残金を、童言者の妻である△△に相続させる。
(不動産の記載略 )
(注)この場合に不動産を売却するのは遺言執行者になります。
④共有分割
第○条童言着は、下記不動産を、重言者の妻である○○と童言着の次女である△△に各2分の1の割合でオロ続させる。
(不動産の記載略 )
(2)遺産分割方法の指定の委託
遺言者は、遺産をどのように分害Jするかということを遺言執行者その他の者に委託することができます。
相続人が若年であるなど、遺言書作成時点では誰にどの遺産をどのくらい相続させるべきか決めがたい場合などに、遺言者が亡くなった時点で最も適切な人物に適切な遺産を渡すことができるよう、信頼できる人物に一任するという方法です。
第○条重言者は、壼言着の有する株式会社○○の株式全部について、その分割方法を定めることを重言執行者に委託する。
8 0その他の執行対象事項

日祭祀承継者の指定
祭祀承継者というのは、祭祀財産(系譜、祭具及び墳墓等)を承継する者を指しています。

系譜……いわゆる先祖代々の家系図のこと。

・祭具
……仏壇、位牌、神棚、十字架等のこと。


墳墓・……墓石、墓碑、墓地(所有権又は使用権)等のこと。

遺言で祭祀承継者の指定がなされた場合、指定された人がこれらの財産を遺言者から引き継ぐことになります。
遺骨は遺産分割の対象になる?
亡くなつた人を偲んで、親族が集まつて法要やお墓参りをするのは当たり前……と思いきや、中には遺骨を親族で奪い合うというケースも。話し合いがつかない場合には、遺産分割調停を申し立てればよいのでしょうか?
でも、遺骨を不動産や預貯金と並べて遺産目録に書くのは違和感がありますよね。
実は、遺骨は遺産分割の対象となる遺産ではなく、祭祀承継者指定調停・審判の対象となる祭祀財産の一種だと考えられています。分骨するなどの解決方法もありますが、亡くなつた人のためにも、できるだけ皆で円満に供養していきたいものです。
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 9
以下の事項は、遺言で定めることはできますが、相続開始と同時に実現されると考えられるため、遺言執行として何らかの行為をする必要はないとされています。 ①相続分の指定 ②特別受益の持戻しの免除 ③遺産分割の禁止

田遺言執行者の職務
前述したとおり、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」(民法1012)と定められています。
詳しくは第10章で述べますが、おおまかに言うと次のようなものがあります。 ①遺言書の確認(公正証書遺言以外の方式の遺言書の場合には、
家庭裁判所での検認を経る必要があります) ②戸籍の取寄せと相続人の確定 ③就任又は辞退の通知 ④遺言内容の通知
10 0遺言執行が必要のない事項(主なもの)/0遺言執行者の職務
⑤遺産目録の作成。交付 ⑥遺言内容に従った遺産の具体的な分配 ⑦職務終了の通知

日遺言執行者と相続人の関係
遺言執行者と相続人の関係は、委任契約における委任者(相続人)と受任者(遺言執行者)の関係と同様となります(民法1012③)。具体的には、次のようなものです。 ①遺言執行者として通常期待される水準の能力を発揮して誠実に職務を行う義務(善良な管理者の注意義務、民法644参照) ②相続人の求めに応じて、いつでの職務の状況を報告する義務(民法645参照) ③職務終了後に遅滞なくその経過及び結果を報告する義務(民法645参照) ④職務遂行に当たって得た金品や債権がある場合には、遺言書の内容に従って相続人に引き渡す義務(民法646参照) ⑤職務遂行に当たって支出した実費がある場合には、相続人に請求することができる(民法650参照)

○よくある質問
遺言執行者に就任したら、職務すべてを1人でやらなければならないのでしようか。
遺言執行者は、専門家や助手などに職務を手伝ってもらう(履行補助者に頼む)ことができます。その費用を遺言執行者への
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 11
本来の報酬の中から出すのか、あるいは別途実費として遺産の中から出すのかについては、23ページで紹介する遺言執行報酬確認書に定めておくことが望ましいといえます。
手伝つてもらうのではなく、遺言執行者の職務すべてを他人にお願いすることはできますか。
日遺言執行者の職務すべてを他人にお願いすること(復委任をする)もできます(民法1016①本文)。ただし、遺言書の中でそのようなことを禁じる条項がある場合にはできません。本来は、遺言者から指名された遺言執行者自身がその職務を行うことが望ましいのですが、例えば遺言者が亡くなった時点で既に遺言執行者も高齢になっているようなケースでは、無理をせず他の人にお願いするほうが相続人や受遺者にとっても良い結果となると考えられます。

■遺言による遺言執行者等の指定
(1)遺言執行者が指定されている場合遺言書を作成する段階で遺言者と遺言執行者候補者とが話し合っ
12 0遺言執行者になる方法
て、遺言書の中に遺言執行者指定条項を記載するという方法があります。以下の例では、相続コンサルタントを遺言執行者に指定しています。
第○条童言着は、本童言の童言執行者として、次の着を指定する。
東京都○○区○○町 1-4-7
相続コンサルタント(会社役員 ) ○○ ○○(昭和〇年○月○日生)
2 上記遺言執行者は、この遺言に基づく不動産に関する
登記手続き並びに預貯金等の金融資産のる義変更、解約、払戻し、払戻金の受領及び貸金庫の開扉・解約その他この壼言の執行に叉要な一切の行為をする権限を有する。なお、叉妥に痣じて第二着にその任務を行わせることができる。
第○条壼言執行者に対する報酬は、童言執行対象財産の○パーセントに○万円をか算した金頼とし、壼言執行に妥した実費の負担については、平成〇年○月○日付け童言執行報酬確認吉によるものとする。
(2)遺言執行者を指定する人が指定されている場合
遺言書を作成する段階で、遺言者が適切な遺言執行者を思い当たらない場合、「遺言執行者を指定する人」を指定することができます。例えば、遺言書に次のような条項を入れることになります。
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 13
第○条遺言着は、本重言の黄言執行者の指定を次の者に委託する。大阪市○○区○○町 2-5-8相続コンサルタント恰社役員) ○○ ○○(昭和〇年○月○日生)
(3)家庭裁判所による遺言執行者の選任
①遺言執行者が指定されていないとき、又は②遺言執行者がなくなったときには、利害関係者(相続人、受遺者等)が家庭裁判所に遺言執行者選任審判を申し立てることができます(民法1010)。
申立人が遺言執行者の候補者を指名することも可能です。
○よくある質問

遺言者が亡くなるより先に遺言執行者が亡くなつてしまつた場合、誰が遺言執行者になるのですか。
EAI その場合には遺言執行者がいない(指定されていない)状態になるので、遺言執行者が必要であれば家庭裁判所に遺言執行者選任審判の申立てをすることができます。
このようなことができるだけ起こらないように、遺言書で遺言執行者を指定する場合は遺言者より少なくとも10歳以上若い世代の人を遺言執行者に指定しておくべきでしょう。
また、予備の遺言執行者を指定しておくこともできます。その場合には、遺言書の中に次のような条項を入れるとよいで
14 0遺言執行者になる方法
しょう。
第〇条遺言者は、本遺言の道言執行者として、次の者を指定する。東京都○○区 O OFr l~4-7
4El続コンサルタント(会社役員) ○○ ○○(昭和〇年○月○日生)
2 前項の者が遺言者より先に死亡している場合には、
本遺言の適言執行者として、次の者を指定する。
東京都 △△区△△町 3-6-9
株式会社スマイルコンサルティング代表取締役 △△ △△

遺言執行者に指定された者が、いざとなつたら就任を拒否するのではないかと心配です。どうしたらよいでしょうか。
日遺言執行者に指定される人には、あらかじめ遺言者が話をして承諾を得ておくことが望ましいのですが、それでも遺言執行者自身の高齢化や海外転勤などで、いざ遺言者が亡くなった時点で就任を辞退することも考えられます。このような場合に備えるには、遺言書の中に次のような条項を入れるとよいでしょう。
第○条遺言着は、本遺言の遺言執行者として、童言着の長女○○を指定する。
2 前項の着が遺言執行着への就任を辞退した場合に
は、本遺言の遺言執行者として、次の着を指定する。
第1章相続コンサルタントのための過言執行者の基礎知識 15
東京都 ○○区○○町 1-4-7
行政吉士 ○○ ○○(昭和〇年○月○日生)

遺言書がない場合にも遺産の名義変更などをしてもらうために遺言執行者をつけることはできますか。
日できません。遺言執行者が必要となるのは、故人が法的に有効な遺言書を残して亡くなった場合のみです。執行すべき遺言書がない場合には、遺言執行者をつけることはできません。

遺言書の中で遺言執行者等が指定されていませんでした。家庭裁判所に遺言執行者選任を申し立てるのは面倒なので、知り合いの司法書士に事実上の遺言執行をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか。
日法的な意味での遺言執行者ではありませんが、遺言書の内容の実現のために相続人や受遺者がそれぞれの判断で専門家に依頼することはできます。例えば、戸籍の取寄せや金融機関での預貯金の解約払戻しの手続きを手伝ってもらったりするなどです。
16 0遺言執行者になる方法
遺言執行者になるには、弁護士や司法書士や行政書士など特別の資格は必要ありません。次の者を除き、誰でもなることができます。
・未成年者(令和4年4月1日以降は18歳未満となることに注意 )・破産者
○よくある質問
遺言者が亡くなつた時点で、遺言執行者が高齢で認知症になつてしまつています。それでも遺言執行者になれますか。成年後見人がついている場合はどうですか。
囚認知症やその他の病気・ケガのために、遺言執行者に十分な意思能力がなく、就任の承諾又は辞退の意思表示すらできないというケースもあり得ます(注:意思能力のない場合は、意思
表示などの法律行為を有効に行うことができません)。その場
合、相続人や受遺者は、遺言書で指定されている遺言執行者に就任するか否かを問う正式な催告をせずに(正式な催告をしてから一定期間内に返答がないと、法的には就任を承諾したものとみなされてしまうため。民法1008)、「遺言執行者がないとき」に該当するとして家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをすることができる(民法1010)と考えられます。
遺言執行者に成年後見人がついている場合、成年後見人は遺言執行者への就任の諾否を本人に代わつてすることはできませ
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 17
ん。成年後見人の職務は本人の財産管理やそれに関する法律行為を代理できるにとどまり、遺言執行者就任の諾否や、会社役員。従業員としての職務、遺言書の作成など、本人に専属する権利義務(一身専属権)を行う権限はないためです。
法人を遺言執行者に指定することができますか。
日できます。株式会社や一般社団法人、弁護士法人なども遺言
執行者に指定することができます。遺言書作成時の担当者がすでに転勤したり退職したりしていても、法人自体が存続している限り、遺言執行者としての業務を行うことになりますので、遺言者としては安心といえます。
複数人で遺言執行者になることはできますか。
日できます。その場合、遺言執行者間で年齢の開きがあると、1人(年長者)が亡くなっても残りの者で遺言執行をすることができます。また、相続コンサルタント(全体の指揮や相続人とのコミュニケーション対応等を担当)と士業(書面作成や登記等を担当)など役割の違いがあると便利です。
遺言執行者が複数いる場合には、何でも連名でやらなければならないのでしょうか。
18 0遺言執行者に資格は必要か
日遺言執行者が複数いる場合には、原則として、その過半数の意見に従って職務が行われることになります(民法1017①本文)。ただし、遺言書の中で遺言者が特別の定めをしておけば、そのようなことはありません。各自が独立して職務を行うことができるようにするには、次のような規定を定めておくとよいでしよう。
第○条各遺言執行者は、単独でその織務を遂行することができる。

遺言者の長男と相続コンサルタントの2名が遺言執行者に指定されています。2人の間で、遺言執行業務について意見が分かれたりして、やりにくい点が出てくるのではないかと心配です。
日 CttDのように各自が単独で執行することができる旨を書いておいたとしても、各自が他の遺言執行者と対立するような行為をすると混乱をもたらします。法的には、遺言執行者が複数
いる場合、遺言書に特に定められていなければ、過半数の者の意見が通ることになりますが、遺言執行者が偶数人の場合には両すくみ状態になってしまいます。遺言執行者間の主従を明確にしたり、あるいは執行対象を分けたりする場合には、それも遺言書に書いておくべきでしょう。
(1)主従を明確にする場合第○条遺言執行に当たっては、OOを代表者とし、他の遺
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 19
言執行者はその意見に従うものとする。
(2)執行対象を分ける場合
第○条遺言者は、遺言執行者らの執行対象職務を次の通り定める。 ①遺言執行者 △△第○条に関する遺言執行 ②遺言執行者□□上記①以外のすべてに関する遺
言執行
第○条迪言者は、遺言執行者らの執行対象職務を次のとおり定める。 ①遺言執行者 △△ IEl続人○○に関する廃除請求の
職務 ②遺言執行者□□上記①以タトのすべてに関する遺言執行
20 0遺言執行者に資格は必要か
遺言執行者の報酬については、遺言書で定めることもできますし、定めがない場合には、家庭裁判所に「遺言執行報酬付与審判申立て」を行うこともできます。
■遺言書で定める場合遺言書で定める場合には、次のような定め方がよく用いられています。(1)定額で定める第○条遺言執行者の報酬を○万円と定める。(2)割合で定める第○条遺言執行者の報酬を重産総頼の○パーセントと定める。
第○条童言執行者の報酬を重言執行対象童産の○パーセントと定める。
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 21
同 ①
別の規程を引用する
別途書面を交わす場合
第○条童言執行者の報酬は、〇年○月○日付け重言執行報酬
確認吉による。
このような条項を定める場合には、引用されている書面(上記の例では「遺言執行報酬確認書」)を必ず作成して遺言者に署名押印をもらい、遺言書と一緒に保管しておくようにしてください。
また、遺言書作成から遺言者が実際に亡くなるまでの間に十数年以上経過することもよくあります。その間に万が一この書面を紛失した場合に備えて、上記(1)、(2)のような報酬の大枠は遺言書に記載し、実費の支払時期や日当発生の有無などの細則のみ別途書面に委ねるほうが確実です。
22 0遺言執行者の報酬
●遺言執行報酬確認書の例
重言執行報酬確認吉
甲と乙らは、7の公工証吉童言において壼言執行者に指定された乙らの董言執行報酬について、次のとおり合意したことを確認する。
1.乙らが木件委任事務の処理について甲より受ける報酬は次のとおりとする。 ①デ|き渡し時の遺産の価額に〇%を乗じた額に○万円をか
算した頼とする(消費税Ell)。上記は乙ら2名分の総頼であり、乙らの間での配分方法について甲は関知しないものとする。
なお、不動産の価額は相続開始年度の日史資産評価頼によることを原貝1とする。 ②乙らが木件委任事務興理のため半ロス上を要する出張を
したときは、日当として半日の場合3万円ス内、1日の場合5万円ス内(いずれも消費税別)を受領することができる。
2.前項第1子の報酬は、財産ヨ|き渡し時に支払いを受けるものとし、前項第2子の報酬は無分の都度支払いを受けるものとする。ただし、乙らは、承継対象財産の中から支払いを史けることができる。
3.乙らは、甲より、木件童言執行着を定めた遺言書作成後、木契約締結と同時に報酬の一部を着手金として受け取ることができる。ただし、その金額は○万円とする。乙らが、第条の報酬の請求をする際に、当該着手金を控除するものとす
第1章相続コンサルタントのための過言執行者の基礎知識 23
る。
4.乙らは、甲に対し、報酬とは万1に、税理士による相続税の
申薔報酬、司法吉士による不動産の名義書換報酬、登録免許税、収入印紙代、郵便切手代、謄写代、交通費、通信費、右泊料、保証金、供託金、その他童言執行に要する実費等の負担を求めることができる。
拳和
壼言着(甲 )東京都杉並区○○
○○ ○O ①
童言執行着(乙 )東京都新右区○○ ○○株式会社代表取締役 ○○ ○ ○ ①東京都新右区○○行政吉士 ○○
所名所名 所名住人住人 住人
24 0遺言執行者の報酬
②遺言執行者が経営する事務所や所属する法人の報酬規程を用いる場合
第○条童言執行者の報酬は、別途定める○○株式会社の童言執行報酬規程による。
このような条項は、複雑な算定式で報酬を定める場合や、財産の金額によつて段階的に割合が変わるなどの場合には、それらすべてを遺言書に文章で記載する必要がないので簡便です。
とはいえ、遺言者が具体的にどのような内容を了解したのかが客観的に明らかではありませんし、後日その報酬規程が一方的に変更されてしまうこともあり得るため、あまり望ましくありません。
できるだけ上記①のような形をとることが望ましいといえます。
日家庭裁判所に「遺言執行報酬付与審判申立てJを行う場合
遺言書で遺言執行者に指定されたものの、遺言書に報酬の定めが
ない場合や、家庭裁判所から遺言執行者に選任された場合に、遺言
執行者は家庭裁判所に「遺言執行報酬付与審判申立て」を行うこと
ができます。
この場合、具体的にどれぐらいの報酬金がもらえるのかが気にな
るところですが、この点に関して公干J物に掲載されている裁判例は
残念ながらあまり多くありません。
m 高松地裁平成25年8月15日判決

遺産……・土地、預貯金、投資信託、和解金債権・相続人・受遺者……3人

・遺言執行者
……自筆証書遺言による指定(弁護士)

第1章相続コンサルタントのための選言執行者の基礎知識 25
・遺言内容・……執行期間約7か月
・執行内容……・土地の移転登記、預貯金及び投資信託の一部の払戻し、現金化しなかったものは現物で相続人に分配、和解金の回収(これには遺言執行者が弁護士として関与し、別途288万円余り
の弁護士報酬を取得した)・報酬額・……42万円
・備考……遺言執行者が当時の香川県弁護士会報酬規程による遺
言執行報酬額である225万円余りと比べて少額に過ぎるという理由で国家賠償を求めたが、判決では社会通念に反するほど低廉に失するとはいえないなどとして請求棄却された。
飩東京高裁平成16年5月7日決定
・報酬額……1,050万円を超える金額(それ以外の事項は不明 )
・備考・……遺言者の生前に遺言執行者(予定者)が1,050万円を
上限とする報酬請求書を出していた。相続開始後、相続人と遺言執行者との間でも1,050万円を上限とする報酬合意ができていたにもかかわらず、一審の審判でそれを超える金額が命じられたということで相続人が即時抗告したが、遺言執行者に対する報酬付与の審判に対しては即時抗告できないという理由で却下された。
興東京高裁平成5年9月14日決定

遺産・……不明・相続人・受遺者・……7人

・遺言執行者
……自筆証書遺言による指定(弁護士)


遺言内容・……相続分の指定と遺産分割方法の指定を遺言執行者に

委ねる趣旨・執行期間……相続開始から訴訟上の和解までで5年
・執行内容……・相続人から遺言無効確認請求訴訟を起こされ、その
26 0遺言執行者の報酬
被告となった。同訴訟が和解となり、別途遺産分割調停で遺産分割をすることになったが、結局遺言執行者の作った案ではまとまらず、調停が取り下げられた。その後、再度遺産分割調停が申し立てられたが、その際には遺言執行者は関与しないまま調停成立となり、相続人によって執行された。
・報酬額 ……500万円
飩大阪高裁昭和55年9月26日決定・報酬額……1,600万円(それ以外の事項は不明 )
・備考……遺言執行者が当時の日弁連報酬規程による遺言執行報
酬額と比べて余りにも少額であるという理由で即時抗告したが、遺言執行者に対する報酬付与の審判に対しては即時抗告できないという理由で却下された。
m 東京家裁昭和49年6月26日審判・遺産……総額1億4,735万円余り(株式・不動産 )0相続人・受遺者 ……7人
・遺言執行者 ……・家裁による選任(職業不明 )・遺言内容……7人の相続人につき、割合的に遺贈することが定め
られている。・執行期間……約2年7か月
・執行内容……・複数の不動産が遠隔地に数多く存在し、しかも賃貸中であったため、価額の鑑定、受遺分額の確定等に苦心しつつ、
具体的分割、移転登記手続きの完了をした。・報酬額………200万円
飩大阪高裁昭和38年2月15日決定0遺産………不動産、有価証券
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 27
・相続人・受遺者・……不明(少なくとも6名以上)
・遺言執行者
……遺言書(方式不明)による指定(職業不明)


遺言内容……特定の不動産を特定の者に遺贈・執行期間・……約1年2か月

・執行内容
……多数の相続人・受遺者の感情的対立に悩まされながら個々人と面接、銀行や法務局に出向いて相続財産に関する調査、賃貸物件の管理行為、遺言無効確認調停に利害関係人として出頭

・報酬額……・70万円
○よくある質問

遺言執行報酬付与審判申立てにおいては、家庭裁判所は何を基準に遺言執行者の報酬額を決定するのでしようか。
日法律では「相続財産の状況その他の事情」によって定めるとされていますが、具体的には執行に関わる遺産の内容、価額、執行行為の内容、難易度、期間、成果などが主に考慮されます。

遺言書に記載された報酬額と実際の業務内容が見合わない場合に、相続人と遺言執行者との間で合意した金額を報酬としてもよいのでしようか。
日はい、かまいません。遺言書作成時と遺言者が亡くなるまでの間のタイムラグが長い場合など、当初の想定と大きく状況が変わることもあり得ますので、実情に合わせて協議することもできます。協議が整わない場合には、原則どおり遺言書に記載された報酬額が適用されます。
28 0遺言執行者の報酬
●遺言執行報酬の申立書記載例
遺言執行者に対する報酬村与ふ判申立書
○○家庭裁判所御十かわ〇年○月○日申立人○○○ O ①
第1 申立ての趣旨壼言着OOの平成〇年○月○口村lす白筆証吉壼言の執行に対する報酬として相当頼を与えるとの忠判を求める。
第2 申立ての理由
ヤ立人は、今和〇年○月○日、童言着○○の平成〇年○月○口付け自筆証吉遺言の遺言執行者に選任された。申立人は、別紙報告書のとおり、上記童言の執行を完了した。よって、申立人は、上記童言の執行に対する報酬として相当額を与えるとの忠判を求める。以上(別紙報告書省略 )
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 29
日遺言執行報酬及び実費は誰の負担か
遺言執行に関する費用(報酬や実費)は、遺産の中から出すとい
うことが民法で定められています(民法1021本文)。遺言執行者は、相続人や受遺者にその旨を説明し、スムーズにこれらの費用を回収できるようにしましょう。
令和元年7月1日施行の民法改正によって、遺言執行者について何かが大きく変わったのか、という質問をよく受けます。
上記改正では、遺言執行者の権利義務や遺言執行者の行為の法的効果が明確化されたといわれていますが、その点は実務に直接の影響はないと考えて結構です。
遺言執行者として気を付けなければならないのは、次の2点です。
■不動産の相続の効カ
相続人が遺言執行の妨害行為をした場合、従前はそのような行為は誰に対しても無効だとされていましたが、今回の改正で、遺言執行の妨害行為であることを知らない第三者(善意の第三者)には無効であることを主張できない(その第三者との関係では有効と扱われる)ということになりました(民法1013②)。
例えば、子どものいない遺言者が、妻に自宅マンションを全部相続させるという遺言書を書いて亡くなった場合、遺言執行によって
30 0民法改正と遺言執行者
マンションの所有権を妻に移転登記する手続きがなされる前に、遺言者の妹が妻への嫌がらせで自分の法定相続分4分の1を不動産業者に売却して移転登記手続きをしてしまった場合などがわかりやすいでしょっ。
この場合、不動産業者が遺言書の存在を知っていたなどの事情がない限り、妻は買主である不動産業者に対して、その売買に係る4分の1の共有持分が自分のものだと主張しても負けてしまうことになります(もっとも、この場合でも妻は遺言者の妹に対して金銭による損害賠償を求めることは可能です)。
このようなことが起こらないようにするためにも、遺言執行者と
しては、迅速な執行が求められます。
日預貯金の仮払い
最高裁平成28年12月19日判決以前は、金融機関は遺産分割前であっても相続人が単独で預貯金の払戻しを求めてきた場合には、その相続人の法定相続分について払戻しをほぼ認めていました。
しかし、上記最高裁判決によって、一定の種類の預金については、上記のような取扱いが否定されたため、以後、金融機関は遺産分割や遺言執行がなされる前に相続人が単独で自分の法定相続分の預貯金の払戻しを求めても、一切応じなくなったのです。
そして、今回の民法改正によって、相続人が遺産分害1や遺言執行の前であっても、法定相続分のうち一部あるいは全部の仮払いを受けることができるように(あるいは、受けやすく)なりました。具
体的には、以下の2つの制度になります。
(1)家庭裁判所に「仮分割の仮処分」を申し立てる場合(要件の緩和)
従来の要件「関係者の急迫の危険を防止するため必要があるとき」
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 31
が緩和され、「相続債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により、預貯金債権行使の必要があるとき」とされました。この場合に仮分割される金額は必要度に応じて認められるので、下限や上限はありません。
(2)金融機関に直接仮払いを求める場合(制度の創設 )
相続人は、一定の金額について、金融機関から無条件で仮払いを受けることができるようになりました。上限額は「相続開始時の預貯金額の3分の1×請求者の法定相続分」となっています。
法務省令により、上限額は金融機関ごとに1人当たり150万円とされており、1人で2行分なら最大300万円、2人で2行分なら最大600万円下ろせることになります。
遺言書でその預金を承継しないことになっている相続人がこれらの行為に出た場合、遺言執行者又は損害を受けた相続人は、仮払いを受けた相続人に不当利得返還訴訟を起こすことになります。金融機関に対しても請求できればよいのですが、金融機関がその遺言を知らなかった場合には、上記■で説明した民法1013条2項により請求できないことになってしまいます。
このような事態を防ぐため、場合によっては、遺言執行者が遺言書を添付した遺言執行者就任通知を遺産に関係のある金融機関にも送っておくことを検討すべきでしよう。
32 0民法改正と遺言執行者
証人のすすめ
公正証書遺言の作成には2人以上の証人が立ち会うことが必要ですが、特に資格が必要なわけではないので、もちろん相続コンサルタントでも証人を務めることができます。
高齢の遺言者(特に女性)にとつて、公証役場の応接室でダークスーツを着込んだ公証人(多くは年配の男性)からあれこれ尋ねられるのはたいへん緊張するものです。
そんなとき、遺言書案を作つてくれた士業の先生のほかに、最初に相談に乗つてくれた顔見知りの相続コンサルタントがそばにいてくれたら、きつと遺言者も安心して話ができるに違いありません。部屋の外で待つているこ家族も安心することでしょう。
遺言コンサルティングなどをきつかけに、公正証書遺言の証人を務めるチャンスがあつたら、ぜひ積極的に実行してみてください。
第1章相続コンサルタントのための遺言執行者の基礎知識 33

選書作成時に遺言執行者に指定してもらう提案方法
遺言執行者とはどういうものか、第1章である程度理解できたと思います。「これなら自分にもやれそう」「相続コンサルタントとして、ぜひやってみたい」と思った人も多いのではないでしょうか。
そこで、この章では遺言執行者が必要なケースと遺言執行者に指定されるための話法をご紹介します。ケースごとに、遺言者がどうして遺言執行者を指定したいと考えるのか、その理由と提案のしかたを見ていきましょう。
中子が遠方(海外など)にいて、遺産の移転手続きに時間がかかるケース
・相談者:母
A


被相続人(遺言者):母A


相続人:長男B、次男 CO長男Bはアメリカ在住の新聞記者で、世界中飛び回つている。

このようなケースの場合、公正証書遺言がなく遺言執行者がいなければ遺産の移転手続きに手間取ります。まず、海外にいる長男 Bが日本で住民登録をしているかどうかも大切なポイントです。
日本での遺産の移転手続きに伴う書類は、実印と印鑑証明書を必要とするものが多く、印鑑登録は日本に住民登録していることが前提です。もしなければ、大使館や領事館などの在外公館で署名証明を取得する必要が出てきます。
また、書類のやり取りをEMSなど国際スピード郵便で行ったと
36 0遺言執行のケースと提案のしかた
しても2ヽ3日かかり、世界中飛び回つていて受取りが遅れればそれだけさ ′)に時間を要します.印鑑登録をしていたとしても、日本にル||卜|して手続きができなけオtば、時間がかかることには変わりありません .
このように「相続人が海外にいるJ「i上方に千1:んでいる」「仕事が多しでなかなか休めないJなどという場合は、本|1続コンサルタント
|`

にす量言執行者となることを依1頂したほうが、手続きがスムーズに進みます

○提案のしかた
相続コンサルタントX:長男BIIIIか1義 ‐|1事をされていますが、お仕事は簡単に休めるんで|す‐か?■■相談者A:いえ、新聞記者で世界各儘左素|む由ってぃるようなので難しいと思います。X:では、万が一Aさんに何かあつた場合は、次男Cさんが頼りですね。
|-
A:Cも仕‐事がItしいので、Bほどではないですが、頼りには|.
遺産分割や相続税の納税申告が|Bさんは日本で住民登録や印鑑 |登録をされていますか?
A:そうなんです。私もそれが心配で。主人が亡くなつたときも大変でした。印鑑登録もしていなくて署名証明を取つてもらつたり、とにかく時間がかラ主人が亡くなつて半年以上た
X:それは大変でしたね。今回ておけば、そのようなわずら
第2章遺言作成時に遺言執行者に指定してもらう提案方法 37
前妻(前夫)との間に子がいるケース ―
_`ヨロ植

相談者:父A


被相続人(遺言者):父 A


相続人:母B、長男C、長女 D前妻Eとの間の長男F

O前妻Fとの間の長男Fとは40年以上前に別れ、連絡を取っていない。
前妻(前夫)との間に子がいる場合は、当然にその子も相続人になります。
万が一、相談者に「もう何十年も前に別れてどこに住んでいるのかさえわからない子」がいる場合は、まず、前妻との間の子を探すところから始め、連絡が取れたとしても遺産分割協議が難航することが想定されますので、遺言書は必須でしょう。
同時に、相続コンサルタントに遺言執行者となることを依頼しておけば、相続人は、前妻との間の子と接触することなく、遺言書のとおりに遺産の移転手続きが可能になります。
○提案のしかた
38 ●遺言執行のケースと提案のしかた
A:しかし、それつきり連絡を取つていないので、今どこに住んでいるかもわからないです。私の財産は今の家族にすべて

きます:・ ‐|
A:その場合、居所■も探していただけるんですか? あと、その子と今の家族が、私が亡くなつた後に接触しなくて済むよ
遺産を遺言書のとおりに移転すること|が可能で|す。
高齢の家族や認知症の家族がいるケース ― ―

――
――

相談者:長女C


被相続人(遺言者):父A


相続人:母B(認知症)、長女 C

O長女Cは独身で両鵞lと一緒に住んでおり、相続争いの心配は
ないが、母Bが認知症であるため、父に万が一のことがあつ
たときの相続手続きが′亡ヽ配.
このケースも、1董::書の作成と遺言執行者を指定しておいたほう
がよいとす占tオDオします.‐
第2章遺言作成時に遺言執行者に指定してもらう提案方法 39
家族間で採める心配がなくても、|チの認知Jiが進んでいる場合は、自分の意思を伝えたり|1分の状況をl ll解して物事を半1断したりでき ない、つまり意思能力が欠女||していると判断され、i量産分害1協議を行うことができません。 この場合、家庭裁判所に中立てをして成年後見人をi±任してもらいますが、時間もかかりますし、またほとんどの場合、法定オ .続分どおりの遺産分害1になります「 仮に、i認矢|]症の妻ではなく子どもに現預金など金融|け,[をづハご〔 相続させたいと考えているのなら、遺言書を作成しましょう . そしてi量::孵t行者を指定しておけば、仮に相続人が高齢で銀行で の「続きや役所に行くことが困難でも、遺産の移転手続きは相続コンサルタントが行ってくれます . ○提案のしかた 相談者C:母が認知症なのですが、まだ後見人はつけていません。もう母‐1よ私のこともよくわかってないみたいで、母の妹 れてぃて大変ですね。確かに、このままお父様に万が一のことがあると遺産分割協議の際、成年後見人を選任してもらう必要があります。お父様はこのことについて何かおっしゃっ | |- ていますか? ■|■ |■‐■ 40 0遺言執行のケースと提案のしかた いかがでしょっか ? 3つのケース、遺言執行者を指定したほうが良い例と、その場合 にどういうアプローチで遺言執行者に指定してもらうかの話法を紹 介しました。その他、以下のケースも遺言書があって遺言執行者が指定されていると、手続きがスムーズに進むと思われます。また、必ず遺言執行者をつけなくてはならないケースもあります。 ①認知症と同じく知的障害など判断能力が欠如している相続人がいる →遺言書がない場合には、遺産分割協議のために認知症の場合と 同じく成年後見人を選任してもらう必要があります。その場合、財産管理ができない相続人に相続財産が遺されるという問題が生じます。 ②相続人の中に行方不明者がいる →行方不明者にも相続人としての権利があるため、不在者財産管理人を選任してもらい遺産分割協議をする必要があります。こ 第2章遺言作成時に遺言執行者に指定してもらう提案方法 41 の場合、行方不明者も法定相続分のとおり遺産を取得することが多いようです。 遺言書がある場合は、法定相続分より遺言書が優先しますので、行方不明者が存在しても相続財産の移転をスムーズに行うことができます。 ③相続人の仲が悪い →相続人の仲が悪い場合は、遺言書がなければ遺産分割協議で揉めて調停等をしなければならないことが想定されます。 また、遺言書があったとしても、相続人の1人が遺言執行者となった場合、他の相続人から誹謗中傷を受けたり、遺言執行を妨害されるかもしれません。相続コンサルタントを遺言執行者に指定することで、相続人どうしの無益な争いを回避することができます。 ④未成年者がいる 0未成年者は遺産分割協議に参加できません。未成年者の法定代理人は親権者ですが、親権者も相続人の1人になっている場合には、未成年者との利益相反になるため、特別代理人を選任して遺産分割協議となります。 この場合も法定オロ続分どおりに遺産分割されるケースが多いため、未成年の子に多額の遺産を渡すことが良いと思えない場合は遺言書を書いたほうがよいでしょう。 特に未成年の孫を養子(孫養子)にしている場合、そのことをあまり好ましく思っていない相続人との車L礫が生じた場合のことを考えて、遺言執行者は相続コンサルタントが望ましいと思われます。 ⑤遺言書で子の認知をする場合 →子を遺言書で認知した場合(民法781②)は必ず遺言執行者を指定する必要があります(戸籍法64)。 42 0必ず遺言執行者を付けなければならないケース この場合の遺言執行者は、弁護士が望ましいでしょう。 ③相続人の廃除又はその取消し →遺言で相続人の廃除をする場合や、その取消しをする場合(民法893、894)にも遺言執行者を指定しておくことが望ましいでしょっ。 この場合、遺言執行者が家庭裁判所に請求することで行うた め、弁護士が遺言執行者になるほうがよいでしょう。 ⑦相続人がいないケースで遺言書により遺贈を行いたい場合0そもそも相続人がいない人の財産は国庫に帰属します。 もし自分の財産について寄付や遺贈をしたい場合は、必ず遺言書を書く必要がありますし、その遺言書の内容を実現してもらうためにも遺言執行者は必須です。 この場合も、相続コンサルタントを遺言執行者に指定するとよいでしょう。 ここまで、いろいろなケースを紹介しました。どういう場合に遺言執行者が必要で、どうすれば遺言執行者に指定されるのか、ご理解いただけたでしょうか。 遺言者の遺言を確実に実現するために、遺言執行者は重要な役割を果たします。ぜひ、相続コンサルタントの皆さんにはそのことを理解して相談者に伝え、遺言執行者に指定してもらえるよう研鑽し ていただきたいと思います。 第2章遺言作成時に遺言執行者に指定してもらう提案方法 43 母の想いは実現するのか ? 相談者Aさん(57歳)には、3歳の時に手放した子がいます。 再婚した夫には離婚歴のことは話していますが、子がいたことは話せていません。もちろん、今の夫との間の子にも知らせていません。それは、Aさんが育児ノイローゼになり子を虐待し、精神病院に入院した間に子を取り上げられ、無理やり離婚に応じた 暗い過去があるためでした。 Aさんは今でもその子に対する贖罪の気持ちが強く、「会うことはできなくても、母として何か最期に遺してやりたい」との想いがあり、自分が病気で余命宣告を受けたことでさらに強くなりました。 もともとAさんは優秀な大学を出ていたため、離婚後に恩師の紹介で大手企業に就職し、今の夫ともその会社で知り合つたそうです。ずつと共働きだつたこともあり、それなりの金融資産もあります。 ある日、日にした新間のセミナーの見出しが目に留まりました。そこには『想いを遺す相続セミナー~笑顔相続と争う相続の分岐点~』と書かれており、とても気になつたそうです。 入退院を繰り返す中、ちょうど退院していた時期だつたので参加してみようと決心したのでした。 セミナーを聴いて、「遺言書を書けば、前夫との間の子にも自分の財産を遺せて、遺言執行者をつければ今の家族に迷惑がかからないのではないか」と考えるようになり、セミナー講師をした相続コンサルタントに相談のアポイントを入れました。 相談前に数回メールでやり取りをした後、相続コンサルタント が弁護士とともにAさん宅を訪ねました。面会した時のAさんは 44 0必ず遺言執行者を付けなければならないケース 痩せてはいましたが、余命宣告を受けた人とは思えないほど、しつかりとした□調で話していました。 Aさんは「今の家族を大事にしていて愛しているけど、別れた子のことも気にかかつていて、このままでは死ぬに死ねない」と涙ながらに話しました。 相続コンサルタントは「今のうちにご家族にそのお子さんのことをお話することはできないのですか?」と質問しましたが、 Aさんは「どうしてもそのことは墓場まで持つて行く」と言つて譲りません。Aさんの体調も考えると、それ以上強く勧めることもよくないと思い、相続コンサルタントは「遺言書を書いて、その中で遺言執行者を指定すれば前夫との間の子にも財産は遺せるし、今のこ家族は相続の件でその子と接触をしなくてもいいんですよ」と説明しました。 ただ、一点だけ気になつたことを伝えました。 「もし、今のこ主人とお子さんが遺言の内容を知らされたら、本当に驚き、『どうして打ち明けてくれなかつたのだろうか ……』と思うのではないでしょうか? それに、3歳の時に別れたままのお子さんも、もしかしたら戸惑うかもしれません。せつかくのAさんの想いがAさんの大切なこ家族にきちんと伝わるように手紙を残しませんか ? 遺言書には「付言」といつて、想いを遺す部分はありますが、それでは不十分な気がします。お手紙もそれぞれのこ家族にしつかり責任をもつてお届けしますよ」 するとAさんは、「ありがとうこざいます。そんなこ提案をいただけるとは ……・。これで、思い残すことなくあの世に旅立てます。どうか、今の家族にも手放した子にも、手紙とともに『私がどれだけみんなのことを愛していたか』を伝えてください。どうぞ、よろしくお願いします。」 切ない母の想いとともに、相続コンサルタントが遺言書の作成 第2章遺言作成時に遺言執行者に指定してもらう提案方法 45 及び証人と遺言執行者を受任した事例です。公正証書遺言は公証人に出張してもらい、Aさんの入院先の病院で作成しましたが、3か月後にAさんは亡くなりました。その後、遺言書のとおり前夫との間の子にAさんの手紙をお届けしました。最初、「別れた母のことは覚えてもいない」といつ て手紙を受け取ることを拒否していましたが、相続コンサルタントが「どうか最後の手紙を読んであげてください」と必死でお願いしたところ、ようやく読んでいただけました。 病気で筆圧が低下し弱々しい筆跡でしたが、便せん10枚近く書かれた母の想いが通じたのか、その方が泣き崩れてしまわれた様子が印象的でした。 Aさんの財産についても最初は「もらうわけにはいかない」と固辞していましたが、相続コンサルタントが「今のこ家族も自分たちに宛てた手紙を読んでAさんの想いを知り、最後の願いなので受け取つてほしいと言われている」と伝えたところ、すべてAさんの想いのとおりになりました。 とても切ない事例ですが、このように遺言執行者は時に遺言書の執行だけではなく亡くなつた人の想いを届ける大切な役目を担つていると思います。 46 0必ず遺言執行者を付けなければならないケース 道雷執行業務の手順 本章で想定しているのは、遺言によって指定された遺言執行者が、預貯金、有価証券、不動産その他の遺産の分配を行うという、最もポピユラーなケースの遺言執行業務の手順です。 遺言は相続開始とともに効力が生じますが、遺言執行者に指定されている相続コンサルタントとしては、まず遺言者が亡くなり相続が開始したことを何らかの方法で知らせてもらわなければ始まりません。 そのためには、遺言書作成段階で、遺言者に以下のような書面を渡し、遺言書と一緒に封筒に入れて保管しておくように頼んでおくなどの工夫をすることが望ましいでしょう。 ○○様のご家族の皆様 この童言書の工木は、私がお預かりしています。 ○○様に万が一のことがあった場合、又は遺言吉の書き換え をお考えの場合には、下記までご連釈ださぃ。 TEL 080-△ △△△― ×××× 相続コンサルタント(壼言執行着 )○○ ○○ エンディングノートに「死亡時に連絡すべき先」として、遺言執行者に指定された者の連絡先を書いてもらっておくことも考えられます。 また、相続コンサルタントのほうから、遺言者又は相続人に自社 48 0相続開始を知る のニュースレターやイベント案内などを定期的に送って関わりを絶やさないようにするなどの工夫も考えられるでしょう。そうすると遺言者が施設や病院に入ったなどの情報も入ってきますし、副次的効果として、当初の遺言書作成時にはニーズのなかったこと、例えば相続人世代の関係者が年齢を重ねるにつれて「次は自分が遺言書を書こうか」という依頼につながることなども少なくありません。 見守り契約と遺言執行者 自宅で一人暮らしの高齢者に定期的に連絡を取つて安否確認をする「見守り契約」をこ存じでしようか。任意後見契約とセットで契約を結ぶ例も多いようです。 高齢者こ本人ではなく、遠方に住む子どもからの依頼というケースもあり、孤独死の防止や異変の早期発見が期待されています。 連絡を取る方法は、顧客の好みや健康状態に応じて、LINE、メール、電話、訪問などを組み合わせることができます。生活相談や片付けや入院の補助など、オブシ∃ンのサービスメニューは相続コンサルタントによつてさまざまです。 遺言執行者に指定されている相続コンサルタントが遺言者と見守り契約を結んでおけば、遺言書作成から相続開始まで継続して関わることができます。 第3章遺言執行業務の手順 49 ■公正証書遺言 遺言執行者に指定された者は、それを承諾して遺言執行者に就任するか否かの判断材料として、まずは遺言書をよく読んで、遺言執行者の職務範囲を把握することが必要です。また、自分が預かって保管している遺言書が最新の遺言書かどうかも、念のため相続人に聞くなどして確認しておくべきでしょう。 日自筆証書遺言 自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所への検認申立てが必要です。もし検認を受けずに遺言執行をした場合には、過料の制裁が定められていますじ(民法1005)、金融機関や法務局でも自筆証書遺言の場合には家庭裁判所作成の検認調書の添付が求められます。 検認申立てをすることができるのは、第一に遺言書の保管者であり、保管者がいない場合(遺言者が管理していた引出しにしまってあった場合など)には、遺言書を発見した相続人になります(民法1004)。遺言執行者に指定された者が自筆証書遺言を預かって保管していた場合には、自ら保管者としての立場で検認申立てをすることになります。 遺言執行者といえども、封をされている自筆証書遺言を勝手に開封することはできず、もし開封した場合には過料の制裁が定められていますので、注意が必要です。 50 0遺言書の確認 ■相続人からの聴取 遺言書作成時にも遺言者の相続関係図を作ってあると思いますが、遺言者が亡くなるまでの間に変化があったかもしれませんので、念のため聴取して確認しておきましょう。 日戸籍の取寄せ 遺言執行者は、相続人の委任状を呈示しなくても、遺言執行者という立場において、単独で必要な戸籍等を取り寄せることができます。 その場合、遺言書と遺言者の死亡がわかる戸籍(除籍)謄本の呈示が必要です。その他の身分証などの必要書類は各市区町村役場のホームページから確認し、明らかでない場合は問合わせしておきましよう。 戸籍(除籍)謄本を取り寄せる手順は、以下のとおりです。 ①相続人から、遺言者の本籍のある市区町村役場で「遺言者の出生から死亡まで(のうち、その役場にあるだけ全部)」の戸籍(除籍)謄本を1通ずつ取つてもらいます(実際には遺言執行以外の用途にも使えるように何通かまとめて取っておいてもらうと便利です)。 ②上記①によつて「遺言者の出生から死亡まで」の戸籍(除籍)謄本がすべて揃えばよいのですが、そうでない場合、そのうち最も古い戸籍(除籍)謄本を見て、1つ前の本籍地がどこかを読み 第3章遺言執行業務の手順 51 取り、その市区町村役場に「出生から転籍まで(のうち、その役場にあるだけ全部)」の戸籍(除籍)謄本を請求し、これを繰り返すことによって、「遺言者の出生から死亡まで」の戸籍(除籍)謄本を一式揃えます。 ③全相続人の現在戸籍と「戸籍の附票」(住民票上の住所が記載されています)を集めます。全相続人の現在戸籍は、遺言者の出生から死亡までの戸籍を読み取つて追う方法もありますが、相続人に直接聞いたり取得を頼んだりすることができる場合には、それが一番よいでしょう。戸籍の附票の代わりに住民票でもかまいません。 戸籍の取寄せの簡易化 令和元年5月に戸籍法が改正され、これにより自分や父母等の戸籍謄本を本籍地以外の市区町村で取得することが可能になります。 これまではそれぞれの本籍地の市区町村役場に個別に申請して取り寄せなければなりませんでしたが、改正によつて最寄りの市区町村役場で一式取り寄せることが可能になるので、手続きが簡単で便利になります。 また、自分や父母等の戸籍について、電子証明書の発行申請も可能となります。ただし、兄妹姉妹については、今のところこのような制度がないため、今後も本籍地ことに戸籍を取り寄せることになります。 昨今は少子化で子どものいない人が増え、兄弟姉妹間の相続が増えていますので、兄妹姉妹の戸籍についても今回のような改正がなされることが期待されます。 52 0戸籍の取寄せと法定相続人の確定 日法定相続人の確定 相続人からの聴取内容と戸籍(除籍)謄本一式をもとに相続関係 を確認して、相続関係図を作成します。 ■法定相続人及び受遺者の連絡先住所の確認 法定相続人については、上記日で取り寄せた戸籍の附票記載の住所が原則として今後の連絡先となります。 法定相続人以外の受遺者がいる場合は、遺言書にその住所等が記載されているはずですので(自筆証書遺言の場合は記載されていない場合もあります)、それを手がかりに住民票を取り寄せるなどして確認します。 遺言執行者に指定された者が就任を承諾する場合には就任通知書を、就任を辞退する場合には辞退通知書を、法定相続人及び受遺者全員に送付します。 通知書の文面や送付方法に特に決まりはありませんが、しばらく誰も連絡を取つていない法定相続人や受遺者に対しては、書留郵便など配達経過を追跡できる送付方法を取るとよいでしょう。 辞退する場合にはあえて辞退通知書を出さずに放置してしまいがちですが、そうすると、相続人等の利害関係者が就任の諾否について催告をし、一定期間内に確答しない場合には就任を承諾したもの 第3章週言執行業務の手順 53 とみなされてしまいますので(民法1008)、そのようなリスクを負わないためにも明確に辞退を通知しておいたほうが望ましいといえます。 (1)就任通知書の例 壼言執行着就任通知吉今わ×年×月△日ま○○○○様重言執行着 □ □ □ □ 載は、枚 ○○○○様俸わ×年×月×日死七)の平成〇年 |ヽ
○月○日付け公工証書遺言(コピーを本書面の別紙として添付 )第○条において、童言執行者に指定されました。つきましては、本書面をもって、壼言執行着への就任を承認し、遺言執行業務に取りかからせていただくことをオヨ続人の皆様に重知いたします。
ス後、ご協力いただかねばならない事項が多々生じることと思いますが、何率よろしくお願い申し上げます。
(2)辞退通知書の例
遺言執行着就任辞退通知書合わ×年×月△日相続コンサルタントロロロロ
月、職は、ま○○○○檬俗わ×年×月×日死七)の平成〇年
○月○日付け公工証吉童言において、遺言執行者に指定されて
54 0就任又は辞退の通知
おりますが、諸事情により童言執行者への就任を辞二させていただきたく、本書面をもって相続人の皆様に通知いたします。何卒ご理解の上、よろしくお取り計らいください。
民法改正によって、「遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない」(民法 1007②)と明確に定められました。
遺言書はすでに遺言執行者の手元にありますので、そのコピーを取つて遺言執行者就任通知書に同封して送付するのが通常です。
これは上記のとおり法律に定められた遺言執行者の義務ですので、たとえ一部の相続人や受遺者から「あの人には遺言書の内容を教えないでください」と頼まれても応じることはできません。また、その相続人が遺留分権者でないからといって通知義務が免除されるわけではないので、注意してください。
一方、相続人でない受遺者については通知先として規定されていませんので、遺言の内容を通知するかどうかや、通知するとしてもどのようなかたちで通知するかは遺言執行者の裁量に委ねられています。
第3章遺言執行業務の手順 55
■遺産目録の作成
遺産目録の作成については、「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない」(民法 101l ①)と定められています。
日遺産目録作成の範囲
遺産目録作成の範囲について、遺言書の内容が遺言者の全遺産に及んでいる場合には全遺産の遺産目録を作成する必要がありますが、特定の遺産の分配方法のみ記載されている場合にはその遺産のみの目録を作成すればよく、そもそも遺産の分配方法について記載がない場合(例えば、廃除や認知のみ記載されている場合)には遺産目録は作成する必要がありません。
日遺産目録の作成方法
相続税申告が必要な場合で、遺言書の内容が遺言者の全遺産に及んでいる場合には、相続税申告を受任した税理士と連絡を取り合い、協力し合って作成するのがよいでしょう。
遺言執行者が作成すべき遺産目録には不動産の評価額を記載しなくてもよいので、税理士がオロ続税申告のために作成する目録よりも作成がスムーズです。
56 0遺産目録の作成と開示
遺言者が成年被後見人であった場合には、後見人から相続開始時
点での財産目録と資料が相続人に送られてきますので、それを遺言
執行者が相続人から入手して確認しながら作成するとよいでしょ
う。
税理士や後見人の協力がない場合には、遺言執行者が自ら調査をしなければなりません。遺言書に記載されている遺産の資料(預貯金については通帳や証書、不動産については固定資産税の納税通知書)を集めて目録を作成することになりますが、不安な時はそうした業務に慣れている税理士等に相談するとよいでしょう。
田預貯金
(1)預貯金の解約。払戻手続き
金融機関によって若干異なりますが、おおむね以下のような手順でなされます。詳しくは、当該金融機関に事前に電話等で問い合わせておくと間違いありません。 ①遺産の通帳や証書を相続人から預かります。インターネット上
で口座開設されている場合には、紙製の書類がまったくないこと
もあるので、遺言者が使用していたパソコン、スマートフォン等
の端末やエンディングノート等をよく確認してもらいます。 ②各支店宛てに遺言執行者名で書面又は電話による連絡をして
「相続届」「オロ続手続依頼書」等の手続書類を送付してもらいます。
第3章遺言執行業務の手順 57
その際、「遺言書に基づく遺言執行」であることを明確に伝えることが重要。金融機関によって書式が千差万別なので「書き方がわからないので、記入例を同封してください」と伝えるとなおよいでしょっ。
③送付された手続書類への記入や必要書類の取得を行います。振込先は、特に不都合がない限り、その口座の預貯金を取得する相続人又は受遺者名義の口座にします。主な必要書類は、以下のとおりです(金融機関により多少異なるので要注意)。
・遺言書(正本)・遺言者の死亡が記載されている戸籍(除籍)謄本・遺言執行者の印鑑証明書・遺言執行者の本人確認書類のコピー
④金融機関の指定宛先へ手続書類と必要書類を送付するか、支店の窓口(その回座のある支店でなければならないとする金融機関と、最寄りの支店でよいとする金融機関があります)に出向いて提出します。遺言書や戸籍の原本については、コピーを取ってから返してもらえるよう、念のためメモを付けるなどしておくとよいでしょう。
⑤金融機関からの資料追加や書類の訂正等の連絡があれば対応し、全部揃っていれば1~2週間で指定回座に解約された預貯金が振り込まれます(ゆうちょ銀行の場合は、払戻証書が遺言執行者のもとに送付されてくるので、それを最寄りの郵便局の窓口に呈示して払戻しを受けることになりますが、その際、払戻金はゆうちょ銀行の口座にしか送金してもらえず、他行の口座に入金したい場合にはいったん現金で受け取り、他行の窓口に行って振り込むことになるため、持ち運びやその後の段取りにつき要注意)。振込の前後に金融機関から遺言執行者のもとに振込日までの利虐、
58 0遺言に従つた財産の分配実務
を付した明細書が送られてきます。 ⑥その回座の預貯金を取得する相続人又は受遺者に入金の確認をしてもらいます。
(2)民法改正による注意点
民法改正によって、以下のとおり相続人が単独で預貯金の払戻し
を受けることができる告J度ができました。
遺言書で取得することになっている相続人以外の相続人がこの制度を使って払戻しを受けることがないよう、遺言執行者としては早期に解約。払戻手続きをする必要があります。早期に手続きをする
ことができない事情がある場合には、とりあえず金融機関に遺言執
行者の受任通知と遺言書を送付しておくとよいでしょう。
●民法改正による預貯金仮払い制度 ①家庭裁判所への「仮分割の仮処分」の申立て従来からこの仮処分制度はあったのですが、従来の要件は「関係者の急迫の危険を防止するため必要があるとき」という厳しいもの
でしたので、あまり使いやすいものではありませんでした。民法改正によって、この要件が緩和され、「本目続債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により、預貯金債権行使の必要があるとき」と変更されました。
仮分割の金額は必要度に応じて認められるので、上限はありません。
②金融機関に直接仮払いを求める場合
相続人は、金融機関に直接仮払いを求めることもできます。この場合には上記①のような理由を説明する必要はなく無条件で支払われますが、金額に上限があり、「相続開始時の預貯金額の3分の 1 ×請求者の法定相続分」と「法務省令により定められた上限額 150
第3章遺言執行業務の手順 59
万円(金融機関ごと。オロ続人ごと)」のいずれか低いほうになります。
○よくある質問
遺言者が亡くなる1か月前に、遺言者名義の預金口座から連日お金が下ろされ、合計200万円になつています。相続人の中から「この200万円は本来は遺産に含まれるべきものなのだから、誰が下ろして何に使つたのかを遺言執行者に調べてもらいたい」との声が上がつています。どうしたらよいで
しようか。
日この200万円については、次の3つの可能性が考えられます。いずれも遺言執行の対象とはなりませんので、遺言執行者が調査する義務はありません。 ①遺言者の明示又は黙示の指示によって誰かが下ろし、遺言
者の医療費等として使われた場合この場合には、この200万円が遺産に反映されることはありません。 ②遺言者が相続人の1人に贈与した場合この場合には、遺留分侵害額請求や遺産分割の場面で「特別受益」として考慮されることになるでしょう。 ③相続人の1人が勝手に引き出して自分のものにしてしまった場合
この場合には、引き出した時点で遺言者が引出者に対して「不当利得返還請求権」を取得したことになり、遺言者が亡くなったことによつて、その権利が相続されたと考えられま
す。
60 0遺言に従つた財産の分配実務
預貯金以外の金銭債権は遺言者が亡くなったことによって当然に法定相続分に従って相続されますから、遺言執行や遺産分割の対象外になり、引出者以外の相続人全員が引出者に
対して法定相続分に応じた不当利得返還請求をするべきこと
になります。

遺言者が亡くなつた直後に、長男が葬儀費用を工面するために遺言者名義の預金口座から連日お金を下ろし、合計 200万円になつています。この預金口座を遺言で取得した相続人から「この200万円は遺産なのだから、遺言執行者のほうで回収してもらいたい」との声が上がつています。どうしたらよいでしょうか。
日この場合には、その預金口座を遺言によつて取得した相続人が長男に対して「不当利得返還請求権」を取得することになります。遺言者が亡くなった後に遺産である預金債権の一部が不当利得返還請求権に転化したと考えられますので、その回収は遺言執行者の業務に含まれません。なお、長男は「葬儀費用に使ったのだから返す必要はない」と言うかもしれませんが、法的には葬儀費用は相続債務ではなく喪主の個人債務に当たりますので、相続人全員の合意がなければ遺産から差し引くことはできません。
ちなみに、遺言書がないケースの場合、民法改正によって、相続開始後に遺産を処分した相続人以外の相続人全員が同意すれば遺産とみなすことができるとされ(民法906の2)、わざわざ不当利得返還請求をしなくても遺産分割の中で精算できるよ
第3章遺言執行業務の手順 61
りました。
遺言者が銀行と契約していた貸金庫を開けて中に入つている遺産を「その他―切の財産」の取得者に渡したいと思つています。気を付けるべきことがあれば教えてください。
日貸金庫の開扉については、その銀行の預金の解約払戻手続きをするのと同時に申し入れると簡便です。その際、相続人から鍵を預かって持参するとよいでしょう。鍵を紛失しており持参できない場合には、鍵交換費用が別途かかります。
開扉する際には、できればその内容物の取得者に同行してもらうことが望ましいですが、それが困難な場合は、カメラやビデオを持参し、開けた瞬間の画像や動画を撮っておくとよいでしょう。また、貸金庫の内容物について目録を作成しておくことを忘れずに。
日有価証券
(1)上場株式等の証券会社で保管している有価証券
証券会社によって若干異なりますが、おおむね以下のとおり預貯
金の払戻手続きと同様の手順でなされます。詳しくは、当該証券会
社に電話等で問い合わせると間違いありません。
①証券会社からの通知書や資料を相続人から預かります。インターネット上で口座開設されている場合には、紙製の書類がまったくないこともありますので、遺言者が使用していたパソコン、
62 0遺言に従つた財産の分配実務
スマートフォン等の端末やエンディングノート等をよく確認してもらいます。
②証券会社に連絡して手続書類を送つてもらい、必要書類を揃えます。取得者がその有価証券を売却するにせよ、保有継続するにせよ、いったん取得者名義の口座に全部移管されることになります。取得者がその証券会社で口座を開設していなければ、新たに口座を開設しなければなりません。新規口座開設は遺言執行者ではできないので、本人にやってもらいます。
③取得者が移管後に売却する場合には、遺言執行者ではできないので、本人にやってもらいます。
(2)未上場株式
未上場株式の場合は、当該株式発行会社に連絡し、遺言執行者が株主名簿の書換請求(会社法133①)を行い、書換え後の株主名簿をチェック又はそれに準じた方法で執行完了を確認することになります。
譲渡制限株式の特定遺贈の場合には、株式譲渡承認請求(会社法 137①)もあわせて行い、譲渡が承認されない場合にはその会社に株式を買い取ってもらうことになります(会社法140)。
譲渡制限株式の包括遺贈の場合には、上記のような承認を得る必要はありません。後に、その会社の人から株式の売渡請求を受ける場合がありますが(会社法174)、その対応は取得者本人にやつてもらうことになります。
第3章遺言執行業務の手順 63
日不動産
(1)移転登記手続き
遺言書に基づく不動産の移転登記は、申請者が直接法務局で手続きをすることもできなくはありませんが、迅速かつ確実な処理のために司法書士に依頼することをお勧めします。
主な必要書類は、以下のとおりです。 ①「相続させる」遺言の場合の主な必要書類
・遺言書
0遺言者の死亡が記載されている戸籍(除籍)謄本
・その不動産を取得する相続人の戸籍謄本と住民票
・固定資産評価証明書
・(司法書士に依頼する場合)登記委任状 ②遺贈の場合の主な必要書類
・遺言書
・遺言者の死亡が記載されている戸籍(除籍)謄本
0遺言執行者の印鑑証明書
・その不動産を取得する受遺者の住民票
・登記識別情報(又は登記済証 )
。固定資産評価証明書。(司法書士に依頼する場合)登記委任状
(2)民法改正による注意点
民法改正により、「オロ続させる」旨の遺言により不動産を相続した場合、法定相続分を超える部分の相続については、登記をしなければ共同相続人以外の第三者に対抗することができないことになり
64 0遺言に従つた財産の分配実務
ました。
どういうことかというと、例えば遺言書で長男が自宅土地建物を相続したにもかかわらず、その相続登記をする前に次男に金を貸している債権者が次男の法定相続分について自宅土地建物を差し押さえてしまったというような場合が想定されます。
従来は、そのような場合でも長男が次男の債権者に勝つことができたのですが、民法改正によって、長男が先に相続登記をしていないと長男が負けてしまうことになったわけです。
遺言執行者としては、このような事態にならないよう、早期に遺言書に基づく移転登記手続きを行う必要があるといえます。
いらない不動産を国が引き取る?
山林や農地や別荘地・リゾートマンシ∃ンなど、相続しても使い道の乏しい不動産は、税金と管理費がかかるばかりでマイナスの財産となることから、負“動産”ともいわれています。そこで、財政制度審議会の第47回国有財産分科会(令和元年 6月14日開催)では、引き取り手のない不動産が生じないようにする取組みが話し合われました(財務省HPより)。・一定の資産価値があり、売却が容易であるとともに、適切な管
理が行われている土地について、寄附を可能とする。・相続人がいないと見込まれる者から、一定の要件の下で死因贈与契約等により国が不動産を譲り受ける仕組みを作る。・譲り受けた不動産のうち、国が保有する必要がないものについ
ては、積極的に情報発信・買い手検索を行うなど、売却促進に
取り組む。よく考えると、要件をクリアして国が引き取つてくれそうな不
第3章遺言執行業務の手順 65
動産は、市場でも売れそうなので、わざわざ国に寄附や贈与をするまでもないように思えますが・…・。
国の施策が具体化するのはこれからですが、「かゆいところに手が届く」仕組みとなれば、不動産の相続がよリスムーズになりますね。
四自動車
自動車は、遺言によって取得する人の居住地を管轄する運輸支局又は検査登録事務所で名義変更手続きを行います。主な必要書類は、以下のとおりです。詳しくは、当該運輸支局又
は検査登録事務所に確認してください。・移転登録申請書・遺言書・車検証・移転先の車庫証明書
固その他
(1)ゴルフ会員権
まずは、ゴルフ会員を取得する相続人又は受遺者に「退会」「名義変更」のいずれかを選択してもらいます。
次に、そのクラブに連絡して手続書類を送付してもらい、資料を揃えていくことになりますが、ゴルフクラブは会貝1によってさまざまで、そもそも相続が予定されていない場合もありますので、注意が必要です。
66 0遺言に従つた財産の分配実務
ゴルフクラブの経済事情の変化によつて、預託保証金が満額返還されない場合もありますが、遺言執行者がそれを取り立てるためにゴルフクラブ側と交渉する必要はありません。会則を取り寄せて読んでみても腑に落ちない点がある場合は、法律専門家に相談してみるとよいでしょう。
(2)祭祀承継者指定
祭祀承継者の指定については、祭祀財産に当たる物(系譜、祭具、墳墓)を、祭祀承継者に指定された相続人に引き渡したり、必要があればお墓の管理者を名義変更したりする手続きが必要になります。お墓の運営者。所有者であるお寺や霊園に直接問い合わせて手続きを進めていくことになります。
指定された人は、遺言執行者の就任の場合と異なり、就任すること自体を拒否できませんが、いったん就任した後に、承継した祭祀財産をどのように処分しようとも自由とされています。
(3)その他
遺言書の内容はさまざまですので、これまでに挙げたもの以外の債権や動産の分配、あるいは遺産の分配以外の遺言条項が含まれている場合も多々あります。債権の場合は、金融機関への問合せと同様で、まず債務者に連絡
を取り、相続が生じたことと自分が遺言執行者であることを告げて、相続手続きに必要な書類を送ってもらうことが基本的な作業となります。
動産の場合は、その物の引渡しが必要になります。遺言執行者と
しては、引き渡したことを後で証明できるように「受領書」又は「領
収書」を用意して、引き渡した相手から署名押印をもらっておくと
よいでしょう。引渡しの方法は、現実の運搬を伴う方法のほか、取
第3章遺言執行業務の手順 67
得者の指定する場所に置いておくという方法もあります。
遺産の分配以外の遺言条項については、どのようにその条項を解釈したらよいかや、どのような方法で執行したらよいか迷う場合も少なくありませんので、そのような場合には法律専門家に相談するとよいでしょっ。
相続債務は、遺言者が亡くなったのと同時に相続人に法定相続分どおりに帰属すると考えられています。したがって、遺言執行や遺産分割の対象とはなりません。
ただ、遺言の中で、例えば「遺言者の全財産をもって、全債務を弁済した残額を長女Aと次女Bに各2分の1の割合で相続させる」などと定められている場合には、遺言執行者が遺産の中から債務を弁済した残額を分配して執行することになります。
また、遺言執行者は、遺産のうちマイナスの財産(相続債務)がプラスの財産を上回って債務超過が生じていることが明らかになった場合には破産申立てをしなければなりません(破産法224②)。そのような場合には、相続コンサルタントが1人で対応するのは困難なので、弁護士に相談するとよいでしょう。
68 0相続債務の取扱い
田相続人や受遺者の取得分が割合で決められている場合
例えば、「遺産の10分の1を友人Aに遺贈する」「遺産の5分の4を長男Bに相続させる」というような場合がこれに当たります。
この場合は、いずれも遺言者が亡くなったことを知った時から 3か月以内に家庭裁判所に「遺贈の放棄」又は「相続放棄」の申述をすることになります(民法915、938)。
3か月以内であっても、遺産の一部を受け取り処分したような場合には単純承認したとみなされて放棄できなくなります(民法921)。
なお、3か月という期間内に決め難い場合には、期間の延長を申請することもできます(民法915①ただし書)。
遺言執行者としては、相続人や受遺者に対して、法的手続きである放棄のアドバイスをする義務はありませんので、このようなケースで辞退された場合には、法律専門家に手続きの相談に行くよう勧めてみるとよいでしょう。
日特定の物の遺贈
例えば、「特定の不動産を友人Aに遺贈する」というような場合がこれに当たります。受遺者である友人Aは、時期の制限なく、遺言者の死亡後であればいつでもその遺贈を放棄することができます(民法986①)。
第3章遇言執行業務の手順 69
この場合の遺贈の放棄は、遺言執行者に対して告げればよいのですが、そのことを明確にするため、遺言執行者としては受遺者に遺贈を放棄する旨を書面に書いてもらい、署名押印(実印)させ、印鑑証明書を受け取っておくべきでしょう。
日特定の物を相続させる旨の遺言
例えば、「特定の不動産を長男Bに相続させる」というような場合がこれに当たります。
この場合、長男Bは、相続放棄をして初めから相続人とならなかったものとすることができます。その場合、「これはいるけど、あれはいらない」といった選り好みはできないことになっているので注意が必要です。
遺言執行を進めていくと、「あれ? 遺言書に書いていない遺産がある」ということに気づく場合があります。
例えば、預貯金と不動産については遺言書の中で取得者が決められているのに、自動車についてはどこにも触れられていないというような場合です。
遺言書によっては「、その他一切の財産を○○に相続させる」など、漏れがないようにする規定が入っているものもありますが、このような規定もない場合、その遺産は「未分割の遺産」になり、相続人が別途遺産分割協議によって分割するべきものになります。
したがって、遺言執行の対象にはなりませんので、相続人全員に
70 0遺産の取得を辞退された場合 /⑩遺言書に書かれていない遺産の帰属先
そのことを説明しておくべきでしょう。
Ⅲ中立・公平に執行する
遺言執行者は、特定の相続人や受遺者の代理人ではなく、すべて
の相続人や受遺者に対して中立・公平に遺言を執行すべき立場にあ
ります。
窓口となる相続人を決めて、主にその人と連絡を取ることは問題
ありませんが、上記の「中立・公平」をいつも頭の中で唱えて、他
の相続人や受遺者の不審を招かないよう心懸けましょう。
日遺言書に書かれていないことはしない
遺言書は遺言執行者に対する業務指示書です。そこに書かれてい
ることは間違いなく執行する必要がありますが、逆に、遺言書に書
かれていないことまでやらないよう注意が必要です。
例えば、以下のようなことです。・「遺言者が生前に言つていたこと(遺言書には書かれていないこ
と)」を実現する。・第三者への貸金など遺産となっている債権の取立てをする。・生命保険金の受領手続きをする(遺言執行者が保険会社の担当者
ならOKですが、それは「遺言執行業務として」の行為ではあり
ません)。
第3章遺言執行業務の手順 71
・税務申告のアドバイスをする(遺言執行者が税理士で相続税申告を依頼されているならOKですが、それは「遺言執行者として」の行為ではありません)。
・遺言書どおりに分配した不動産を売却する(遺言執行者が不動産会社ならOKですが、それは「遺言執行者として」の行為ではありません)。
・遺言書に書かれていない遺産についての遺産分割協議を調整しよ
うとする。・相続人間の遺留分を調整しようとする。・相続人間の困りごとや静いを仲裁しようとする。
日 1人で全部処理しようとしない
遺言執行者の業務は、亡くなった人の財産を複数の人に分配するということが主たる業務ですが、進めていく中で思わぬことがあちこちに潜んでいるものです。損害賠償と隣り合わせといっても過言ではありません。
1人で全部抱え込もうとせず、相続人への報告、関係者への問合せ、補助者の使用、士業などの専門家への相談といった他者とのコミュニケーションが肝要です。
業務が終了したら、相続人に終了通知書を出すことになります。これは、遺言執行者について民法の委任の規定が準用されていることから、相続人に対する報告書という意味合いを持っています。
72 0遺言執行業務を行うに当たつてのポイント/0業務終了の通知
財産の分配については、その都度、取得者に報告しているはずですが、取得者ではない相続人にも遺言書どおり執行を終えたという概要がわかるようにする必要があります。
●遺言執行業務の終了通知書の例
遺言執行業務の終了通知書今わ×年○月○ロ枚○○○○檬童言執行着 □□ □□
月ヽ職は、童言執行着として、ま○○○○様(今わ×年×月×日死七)の平成〇年○月○曰付け公工証書遺言の執行を行い、木日すべての業務を終了いたしましたことを相続人の皆様に通知いたします。
具体的な業務の内容は、①上記重言の第○条に基づく相続人 ○○檬への不動産の移転登記手続き、 ②同第△条に基づく預貯金の解約払戻しと指定相続分に従った相続人の皆様への分配、 ③同第□条に基づく相続人◇◇様への株式会社××の株式の名義変更手続きです。ご不明の点がございましたら ′lヽ載までおr・lい合わせください。
重言執行業務の終了に伴い、上記重言の第×条及び平成〇年
○月○曰村lす遺言執行報酬に関する合意吉に基づく重言執行報酬請求書を木吉面に同封させていただきますので、今月末までにお支払いくださいますようお願い申し上げます。
第3章遺言執行業務の手順 73
遺言書又は遺言報酬確認書等の遺言者との取決めに基づき、遺産を取得した相続人又は受遺者に個別に報酬や立替金の請求をします。
場合によっては、相手の同意を得たうえで、個々の遺産の分配時に遺言執行者の報酬や立替金を精算する方法によってもよいでしょう。
740報酬請求
■他業種と相続コンサルタントの連携
この章では、相続コンサルタントがどのように他業種と連携していけばよいかについて説明します。
相続コンサルタントが士業ではない場合、あるいは士業だとしても専門外の業務の場合は他士業に依頼する必要が出てきます。例えば、不動産登記は司法書士の独占業務ですから、税理士はできないことになります。
被相続人の相続財産の内容により必要な業務を整理・不動産売却の場合は遺品整理業・不動産業と連携
・証券口座がある場合は必要に応じてFPやIFAと連携
遺言を執行するに当たり、士業が必要かを確認・不動産の相続登記があれば司法書士
相続発生後の遺言執行業務の流れについては第3章で説明していますので、そちらを参考にしてください。では、具体的に他業種との連携についてみていきましょう。まずは士業からです。
76 0他業種との連携全般の流れ
Ⅲ士業
(1)税理士
遺言書の作成時点で、相続税がかかるかはある程度予測がつくと思いますが、実際には遺言者が亡くなった時の財産が基準になります。
その時点で相続税がかかることが見込まれれば、税理士と連絡を取り(相続人に相続税申告に詳しい税理士の当てがなければ、紹介することも検討)、財産目録の作成を依頼します。
遺言執行者が以下のような作業を分担することも考えられます。実際には、当該税理士との協議で分担して進めるとよいでしょう。 ①税理士に必要書類一覧を提示してもらう。 ②金融資産が含まれている場合は税理士に何年分の取引明細が必
要か確認し、残高証明書とともに金融機関にて取得 ③税理士から依頼された必要書類を相続人から取得 ④税理士に送付 ⑤書類が揃ったら財産目録の作成依頼 ⑥やり取りは基本メールにて履歴が残るように ⑦その後、相続税の申告については相続人と税理士とでやり取り
をしてもらう(念のため、相続人の了解を得て申告書を見せても
らって執行に漏れがないかどうか確認するとよい)。
税理士とは遺言執行に必要な財産目録の作成を中心に連携するこ
とになります。相続税の申告やその補助は遺言執行者の職務外ですので、留意してください。税理士に迷惑をかけないためにも、遺言執行者が分担することになった作業については、遅延なく遂行しましょう。
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 77
(2)弁護士
相続コンサルタントは、弁護士と共同で遺言執行者として指定されることも多いので、ここでは共同就任する場合と単独就任する場合の2パターンを紹介します。
遺言書作成の相談を受けた時点で、相続人間の紛争が予想される場合は、遺言書作成は他士業ではなく弁護士に頼むことをお勧めします。
なぜなら、実際に生前の遺言者に会って話を聞いて経緯がわかっている弁護士が関わることで、後で紛争になった場合の対応がスムーズになるからです。 ①共同就任する場合
共同で遺言執行者に指定されて共同で就任したほうがよいのは、遺言書作成時には紛争が予想されていたけれども、その後の家族会議等の状況の変化によって、遺言者が亡くなった時点において紛争が起こらないことが明らかとなっているような場合です。
この場合は、戸籍の収集や通知書面の作成は弁護士の担当、銀行など金融機関の手続きは相続コンサルタントの担当というように役割分担をします。
お互いに動きにムダが出ないように、情報交換をしっかりと行いましょう。相続人ヘメールなどで連絡をする場合にも、お互いを必ずCCに入れて進捗を共有することが望ましいでしょう。 ②相続コンサルタントが単独で就任する場合
弁護士は遺言執行者への就任を辞退し、相続コンサルタントが単独で遺言執行者に就任したほうがよいのは、遺言者が亡くなった時点において、相続人間で紛争が起こる可能性がなお高いと見込まれる場合です。この判断は弁護士にしてもらえばよく、相続コンサルタントとしては予定どおり、遺言執行者に就任することになります。
78 0他業種との連携全般の流れ
このような場合に共同llL任してしまうと、その弁護TLは遺言執行者の中立性から、相続人|11の争いに陰|′」‐することができません.遺言書作成の段階でその弁護十との信1頂関係が生まれている相続人にとっては、「こうぃぅ時に味方になってくれると思って弁護上に遺iキil「作成を依頼したのに……」と、不満に思うことでしょう。
他方で、相続コンサルタントの単独就任にしてオ5けば、実1祭に相続人||りで遺留分侵害額請求などの紛争が起こつた際に、就任を辞iLした弁護十が1寺定の相続人の代理人となることが|II能です.
●事例検討遺言無効確認調停の申立て

||-
|| |||1111:‐|||||||||||:||11111111‐.:|‐|
A。
長女
「 |-
院程鷲言ξ[l,1性不本意だと、書寵頃か欝,鍛募認皇言『∵
ました。・・‐・-Cは、Aの入院については疑間を感じ週に1回は見舞いに行つてしヽました。ある時、.長女BIに預けている通帳の残高が毎日50万円ず■が「全財産を次女C■
:][il畢肯f肛営11ξ ti強く言うようになり |||
次女Cに相談さ|れ|た相続コンサルタントは、相続発生後に |相続人間で揉めることを予想し、ビジネスパートナーの弁護士と病院を訪ねました
病院の個室では点滴中で弱々しく横た|わっ―ているAと次女
C脚、川まに写ま帯:li:
てしまう。財産をど讐稔21ておきたい。入院中でも病院で遺言書1=作ii鮮でき ―すか?」と
聞いてきました。 ‐・・-
‘ま
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 79
衰弱してはいましたが、しつかりと自分の意見を言うことが
でき、判断能力が低下しているようには見えなかつたので、弁
護士が「大文未ですo公証役場の人たちに病院まで出張しても-
らうことも苛能です」と回答し、公正証書遺言を作成すること
になりました :|‐-
遺言書作成当日は公証人もAの言動から遺言能力に問題は
ないと判断し、相続コンサルタントと弁護士が証人として同席、
遺言書が作成されました。証人の2人は、遺言執行者としても
指定されています。
その半年後、Aの容態が悪化して亡くなりました。遺言書作
成から亡くなるまでの半年間で長女|,|の球撃性が強まつて
いったこともあり、紛争に発展する可能性が極めて高いため、
弁護士は遺言執行者に就任せず、相続コンサルタント単独で就
任しました。
無事に遺言執行が終了した後、次女Cのもとに裁判所から「遺書無効確認調停」の書類が届きました。予想どおりの展開となつたわけでする弁護士は遺言執行者を降りていましたから、Cの代理人として受任。|そ|め後t「遺言書は有効だが、次女から長女に遺留分を渡す」という内容の調停が成立して一件落着となりました。
もし、弁護士も相続コンサルタントと共同受任していた場合、
Cとしては生前の事情を知らない弁護士を別途探してきて依頼
する必要があります。
もちろん、そういうケースもありますが、|なるべくなら1人
の弁護士に一貫して頼みたいというのが人情|というもの。相続
1し
コンサルタントは常に一歩先を考え|そ―対億たぃものです。
80 ③他業種との連携全般の流れ
(3)司法書士
相続コンサルタントは、司法書士と共同で遺言執行者に就任する場合もありますし、相続財産に不動産が含まれている場合に相続登記を依頼する場合もあります。
弁護士と違って司法書士は紛争に関与する可能性がないので、共同で遺言執行者に指定された場合には、常に共同就任となります。この場合は、上記(2)①と同様ですので説明は割愛します。次に、相続登記について説明します。
相続財産の約40%強を不動産が占めていますから、遺言執行者であるかどうかを問わず、司法書士に相続登記を依頼するケースは少なくありません。
■相続財産に占める財産の種類
30 20 10
0 20 ‘ 21 22 23 24 25 26 27 28 29(年分)
■土地 □家屋 □有価証券 ■現金・預貯金等 ■その他(出典)国税庁資料
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 81
。。。
り098
①必要書類については第3章の64ページ参照。 ②法務局での登記申請手続きは、司法書士が行います。 ③登記済書類の交付。
以上が大まかな流れですが、完了までに2週間くらいかかることが通常ですので、全体の段取りをよく考えて遺言執行を進めるよう注意しましょう。
)行政書士
相“続コンサルタントは、行政書士と共同で遺言執行者に就任する場合もあります。行政書士は紛争に関与する可能性がないので、共同で遺言執行者に指定された場合には、常に共同就任となります。この場合は上記 (2)①と同様ですので、説明は割愛します。「揉める心配がなく、かつ、遺産に不動産が含まれていないか、不動産があっても自宅のみという場合には行政書士と共同就任するようにしている」という相続コンサルタントもいます。
日士業以外の業者
ここからは、士業以外の終活・相続業務に関係の深い業者や資格保持者との連携について説明します。
(1)生前整理・遺品整理業
生前整理や遺品整理の相談を受けることがあります。生前であれば、本人から直接依頼する場合と、本人が介護施設などに入所していて自宅に戻る予定がないため、家族から依頼する場合があります。生前整理の際に、本人が指示できる場合は、信頼できる業者を紹
82 0他業種との連携全般の流れ
介し、できるだけ本人と業者との間で進めてもらいます。家族から
の依頼や遺品整理の場合も同様ですが、こうした業者を選ぶ場合の
ポイントは次のとおりです。・依頼者の気持ちに寄り添うことができる。・売れる物で本人やご家族が売ってもよいと思う物は適正な価格で
売却し、全体の費用を抑えるように配慮してくれる。・家の中から金品が見つかつた場合に誠実に対応してくれる。・遺品の場合は特に取扱いが丁寧で、遺族の感情を害しないような
配慮ができる。
(2)不動産業者
不動産を売却し、その代金を等分して相続させたいという遺言書
の内容である場合には、不動産業者との連携が必須です。
不動産業者と相続は密接な関係があり、遺言執行以外でも、遺留
分侵害があるため不動産を売却して遺留分相当額を支払う必要があ
る場合や、相続税の支払いのために不動産を売却する必要がある場
合など、相続コンサルタントとしては不動産業者との連携が必須で
す。
特に、相続税の支払いが絡んでいるケースでは相続が発生して
10か月以内に売却の必要が出てきます。相続税の支払いが絡んで
いるからといって、時価よりも安い価格で売りたたくような不動産
業者はお勧めできません。
ただ、限られた時間の中で売却を依頼することになるため、どう
しても時価より安くなるケースはあります。
その場合に、なぜこの価格になってしまうのかをしっかりと説明
してくれる、信頼できる業者が望ましいでしょう。
日頃からそういう不動産業者とタッグが組めるようにアンテナを
張って探しておくと、いざという時に慌てなくて済みます。
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 83
信頼できる不動産業者とは
遺産分割協議が終わり、どうしても不動産の売却をして他の相
続人に売却代金の一部を代償金として支払う必要のある後妻の M
さんがいます。亡夫の遺品の整理が進まないため、不動産を売却しようにもできずに他の相続人の代理人である弁護士から督促が来るようになりました。
自宅は3階建ての広い家で、大量の家財と亡夫の趣味の茶道具や書画・骨童品の数々が所狭しと置いてあります。
「引つ越し業者が骨董品の1つを傷つけてしまつた」という理由でキヤンセルしてから作業は一切進まず、箱が山積みになった部屋はどこから手をつけたらよいかわからないような有様でした。
この時、不動産の売却を依頼していた不動産業者が取引のある遺品整理業者を紹介してくれ、さらに遺品の片付けにもアドバイスをしてデリケートな物を片付けるために手伝いの人も出してくれました。
紹介された遺品整理業者は思い出の品を丁寧に箱に片づけていき、時に慰め時に励ましてくれたそうです。しかも書画の間から古い切手が出てきたものをきちんとファイリングして渡してくれたのです。普通の引つ越し業者なら気が付かずに箱詰めしてし
まったでしょうし、そうすればMさんはそのまま廃棄してしまっていたかもしれません。
次第にMさんも重い腰を上げて遺品の整理に取り掛かり、遺言執行者である相続コンサルタントも他の相続人も本当にとても助かりました。不動産業者と一言にいっても、いろいろだと思います。
この業者のように信頼できる遺品整理業者と提携しているうえ
84 0他業種との連携全般の流れ
に、自らも遺品整理を手伝つてくれるところばかりではありません。最近は相続に強い不動産業者も増えてきたとはいえ、ここまでしつかりと対応してくれる業者はなかなか見つからないかもし
れません。頼りになる不動産業者とビジネスパートナーになれると、本当に心強いです。
(3)FPO:FA
この項は、遺言執行そのものとは少し離れた話になります。
超低金利のため、銀行などの金融機関に預けても資産が増えない時代です。相続人が「せつかくまとまったお金を相続したので、何かに投資したい」と考える場合があります。その一方で、株式や債券などが相続財産に含まれていても相続人はまったくそういうことに無頓着で、証券口座すら保有していない場合もあります。
こんな時に頼りになるのがFP(フアイナンシャルプランナー)やIFA(独立系ファイナンシャル・アドバイザー)です。ただ維持しているだけでは、せっかくの相続財産がもったいないという場合には、相続人にIFAを紹介します。
FPの場合は、二次相続対策や非課税枠の利用の時に生命保険を活用することがある場合などに紹介します。もっとも、相続対策における生命保険に詳しいFPでないと、間違った保険商品を提案してしまうこともあります。
できれば、相続診断士などの資格を持ち、相続に詳しいFPと付き合うようにしましょう。
また、自分の手数料稼ぎのために過度な取引をさせるのではなく、顧客の立場に立ち、適切なアドバイスと誠実な対応を心がけている人と連携することをおすすめします。
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 85
まずは証券 □座の開設から
相続財産がドンドンロ減りしていくという最悪の状況に陥つた相続人がいました。相談に乗つたときには、すでに株価が2分の1になつており、このままではさらに減る恐れがありました。
粉飾決算で株価が毎日のようにストップ安という状況なのに、売ることができないのです。それもそのはず、相続人は証券□座を持つていなかつたため、亡父の株の売却ができないのです。
早急に同じ証券会社に証券 □座を開設することをアドバイスし、その後は信頼できるIFAを紹介しました。IFAは書類の取寄せから記入のしかたまで丁寧に教えてくれたと、後日報告がありました。
さらに運用も任せたところ、ほぼ損失分が取り戻せたという報告まで入りました。
いつもこんなにうまくいくとは限りませんが、丁寧に対応した結果、信頼を得て資産運用を任されるということはあると思います。
)終活カウンセラー
「“終活」というと生前にするものというイメージがあり、遺言執行者の業務とは直接関係なさそうですが、遺言書に祭祀承継者指定が含まれている場合などには、アドバイスを求めるとよいでしょう。また、遺言執行者のもとには、お墓や葬儀の仕方についての相談も事実上舞い込みます。もちろん、遺言執行者の職務外だと言ってお断りすることもできますが、終活カウンセラーを紹介することで問題が解決することが
86 0他業種との連携全般の流れ
あります。
最近は「墓じまい」をしておきたいという人や、葬儀の仕方にこだわりがあったり、「おひとり様」の場合では、樹林墓や海洋散骨を希望する人もいます。相続コンサルタント自身が、葬儀社や散骨
業者と取引があるとは限りません。
その際には、一般社団法人終活カウンセラー協会に連絡をして、信頼できる業者を紹介してもらうのもよいかもしれません。
「夫と同じ墓に入りたくない」と言われたら
夫と同じ墓に入りたくないという人が増えていることをご存知
ですか ?
「死後離婚」といって、読んで字のことく配偶者の死後、戸籍
から離縁することをいいますが、役所に『姻族関係終了届』を提
出すれば可能です。死後離婚をすれば、同じ墓に入ることはなく、
残つた人は(元)配偶者の墓を管理したり、高齢の義両親の面倒
を見る必要もなくなります。
この死後離婚、年々増力日しているそうです。そこまでやらない
にしても、夫の墓に入りたくないという女性も増えています。夫
婦仲や姑との関係が悪く、死後まで一緒の墓に入りたくないとい
うことが理由の一つのようです。知らない土地の住んだこともな
いお墓に入りたくないからという理由の人もいるようです。
そういう相談に乗るのは切ないものですが、相談された以上は、
なぜそういう思いに駆られたのかをしっかりとヒアリングし、適
切なアドバイスを行いましょう。
場合によっては、このことが争族の大種になるかもしれません。
事前に子どもとはよく話し合つて理解をしてもらうか、せめて工
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 87
ンデイングノートに配偶者と同じ墓にどうしてtl入りたくない理由を書いておいてもらいましょう。
最近は、寺や霊園も、従来の伝統的な家族観にとらわれずに、本人の生前の遺志を尊重した葬儀や埋葬をしてくれるところが増えているようですので、元気なうちに探して予約・購入しておくのもよいかもしれませんね。
■婚姻関係終了届と復氏届の推移
(件)
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
°
≒d「¬士戸π「尭ても戸可b丁イ∵ ¬ギFTlIT我「=た「 ¬た戸百与「復氏届」と「婚姻関係終了届」の届出数(法務省「戸籍統計統計表」をもとに作成)
■配偶者と同じ墓に入りたいか日入りたい■入りたくない2016年
2015年在2014年
2016年男性 2015年
2014年
(2016年度保険クリニック調べ)
88 ●他業種との連携全般の流れ
受理平成年月日発送平成年月日
姻族関係終了届第号
送付平成年月日埼玉県春日都市長印平成23年12月25届出第号
豪口出日を出入してください薔樹圏周雹戸籍鯛記載議査附票住民票通知埼玉県春日都市長激
はなこ
姻族関係を終了名
花子大正・鳴衝D酌成43年10月10日生させる人の氏名
住所埼玉颯書日市中央 6 ① 2o番号
よみかた世帯主の氏名
一す椰
して〕
“(方書・マンション名)

かすかヘはなこ
■日椰花子
01
埼玉鳳■日椰市全崎 839丁目

本籍筆頭者の氏名書日椰一郎
氏名 0日一郎平成20年11月11日死亡死亡した “ (Dl
本籍埼玉●●日薔市全● 339丁目
配偶者番
芳賢
碁書日3 -椰
その他
層出入署名押印 ●日郵 花子 印
豪鋳 ●するもの印盤豪ホ籍鎗以外に■出する00は0澤付してください。「 ●4-E明 書 (F●●わ 電話o携 04817361XXXX帯・勤務先・呼出

第4章他業種と相続コンサルタントの連携 89
(5)相続診断士
相続診断士という資格取得者が相続コンサルタントになっているケースは多いと思われます。筆者らも、相続診断士の資格を取得しています。
相続診断士の役割は「相続」が「争族」にならないために、笑顔で相続を迎えるお手伝いをすることです。相続診断士の理念からも相続コンサルタントの仕事とは相性が良いですし、遺言執行者を受任するにも親和性があると思われます。
ぜひ、積極的に遺言執行の仕事を受任し、信頼できる士業とビジネスパートナーとなり笑顔相続の普及に尽力してください。
0では、主に士業をはじめとする他業種と相続コンサルタントの連携について説明してきました。連携は何も人に限ったことではありません。相続コンサルタントとして大切なアイテムについてもご説明しましょう。
相続コンサルタントの仕事をしていれば「エンディングノート」について知らないという人はいないと思われます。どういう意図で遺言書を作成したのか、財産の分割の理由は何だったのかなど、付言をさらに膨らませた部分がエンディングノートだと考えています。
それだけではなく、親がどのような想いで今まで生きてきたのか、どのような価値観を持っていたのか、親の歴史を知ることができたり、子への愛情を再確認するためにも有効なツールです。
90 0エンディングノートの活用
親が生きてきた時代と子が生きている時代には、大きな隔たりがあるのが一般的です。法改正や社会の変遷をはじめ、価値観も大きく変わっています。相続コンサルタントの仕事は、そういう時代に生きてきた人を相手にしている仕事でもあるのです。
遺すものは財産だけではないはずです。それに、どのように財産を遺し相続税を減らすことに成功したとしても、遺された家族が争ってしまっては、何のための相続対策だったのかわかりません。
相続コンサルタントの皆さんには、想いや考え方、生き様こそを遺し、家族が揉めないためのツールとしてエンディングノートの活用をお勧めしてほしいと思います。
■各専門家の遺産相続の業務対応表
第4章他業種と相続コンサルタントの連携 91

相続コンサ」レタント
. が守るべ|き
コンプ|ライアンス
各士業にはそれぞれ独占業務があり、資格を持たない者がその領域に踏み込んだサービスをすることは法律で禁じられています。相続コンサルタントとしては、コンプライアンス上、特にこの点に気を付けなければなりません。
Ⅱ弁護士
■弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して
鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
条文中の「鑑定」「代理」「イ中裁」「和解」は、「法律事務」の例示です。
それ以外の「法律事務」については、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避である条件に関するもの」(最高裁平成22年7月20日判決参照)が含まれるとされています。
相続コンサルタントとしては、法的な争いが生じる可能性の高い
94 0士業の独占業務との関係(業際問題 )
事項については取り扱わないことが無難でしよう。
日税理士
■税理士法
(税理士業務の制限 )第52条税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。
(参照)税理士業務の要旨(税理士法2①各号 ) ①税務代理(税務官公署への申告等の代理行為) ②税務書類の作成 ③税務相談
遺言執行者であっても、税理士でない限り、相続税申告や準確定申告等の税務書類の作成や申告はできません。
税務相談については、一般的な税法の解説や仮定の事例に基づいた話はしてもかまわないのですが、個別の顧客の具体的な税額計算はできませんので、注意してください。
日司法書士
■司法書士法
(非司法書士等の取締り )
第73条司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行ってはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
第5章相続コンサルタントが守るべきコンプライアンス 95
(参照)司法書士業務の要旨(司法書士法3①一~五) ①登記又は供託に関する手続きの代理行為 ②法務局に提出する書類やデータの作成 ③登記又は供託に関する審査請求の手続きの代理行為 ④裁判所、検察庁又は筆界特定手続きのために法務局に提出
する書類やデータの作成 ⑤上記各号の事務について相談に応じる行為遺言執行者は不動産登記の当事者として登記手続きをすることが
できますが、そうではなく、一般の相続コンサルタントとして業務
を行う場合には、登記手続きの代理をすることや、その相談に乗る
ことはできません。有償の場合はもちろん、無償の場合にも同様で
すので注意が必要です。
■行政書士
■行政書士法
(業務の制限 )
第19条行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第1条の2に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
(参照)行政書士業務の要旨(行政書士法1の 2①) ①官公署に提出する書類やデータの作成 ②権利義務又は事実証明に関する書類や図面の作成
遺言執行者は、その執行に必要な書類作成をすることができます
96 ●士業の独占業務との関係(業際問題 )
が、そうではなく、一般の相続コンサルタントとして業務を行う場合には、契約書や各種申請書などの作成代行を有償で行うことはで
きません。
紹介料はOK?NG?
弁護士(弁護士法72、弁護士職務基本規程12)と司法書士(司法書士倫理13)は、業務を紹介してもらつた際に、その紹介者へ紹介料(謝礼)を渡すことが禁止されています。
税理士と行政書士にはそのような禁止規定がありませんが、税理士や行政書士でも紹介料の支払いはしないという人が結構いるようです。その何人かに理由を尋ねると「金銭のやり取りではなく、次は自分が紹介者に業務を紹介することによつて信頼や人脈を積み重ねていきたい」「紹介料の代わりに、その顧客に『○○様からのご紹介なので △△をサービスします』と言つて還元するようにしている」などの答えが返つてきました。
相続コンサルタントにも特に禁止規定はありませんので、個々の倫理観によつて対応を決めるべきことになります。
さて、あなたなら、どう考えますか ?
業際問題の中でも、弁護士法違反の行為(「非弁行為」と呼ばれることもあります)には特に注意が必要です。なぜなら、「争いが
第5章相続コンサルタントが守るべきコンプライアンス 97
起こらない」という前提で受任したにもかかわらず、その後、思いがけず争いに発展してしまうケースが多々あるからです。
責任感の強い人ほど、その時点で関与をやめることに気が引けて、つい、そのまま争いを収めようとして関与を続けてしまい、結果的に相手方ばかりでなく顧客からもクレームが生じてしまいます。
よくある具体例としては、行政書士や司法書士が遺産分割協議書の作成を受任し、相続人間の争いに発展しても代理交渉を続けたり仲裁を行ってしまったというケースです。
裁判例では、将来法的紛議が発生することが予測される状況において、行政書士が書類作成、助言指導、交渉をしたことが弁護士法72条違反に当たり委任契約自体が「無効」だと判断されて、受け取った報酬金の返還や損害賠償が命じられたものが散見されます(東京地裁平成27年7月30日判決、東京地裁平成29年11月29日判決〔公刊物未掲載〕等)。
守秘義務とは、一定の職業に関する法律や個別の契約に基づいて、その職業や契約の遂行に伴って知り得た情報を他に漏洩してはならないという義務を指します。
今のところ相続コンサルタントの守秘義務に関する法律はありませんが、個人情報保護法では、個人情報(個人を特定できる事項 )を扱うすべての事業者に、本人の同意や法令の根拠なく個人情報を漏洩することを禁じています。

また、契約上は明確に守秘義務が定められていなくても、プライバシー(個人情報よりも広い概念です)の侵害が不法行為に当たり、
98 0弁護士法違反の例/0守秘義務
損害賠償を求められる可能性もあります。これらの法的根拠を持ち出すまでもなく、守秘義務を守らないと、仕事をするうえでの信用を失ってしまいます。
特に相続問題は、通常なら誰もが他人に知られたくない財産に関する話、戸籍上の情報、家族間の人間関係といった秘密性の高い情報を取り扱いますので、細心の注意が必要です。
情報は「知られてしまったら終わり」で、後から元に戻すことはできません。顧客の大切な情報を、関係者とのやり取りの中でうつかり漏らさないということはもちろん、セミナーや勉強会での事例発表、打合せの場所、メールのCCなどにも守秘義務への配慮が必要です。
相続コンサルタントとして遺言執行などの各種業務を遂行してい
く中で、顧客から現金や高価な品物、重要書類を預かる場面は多い
ものです。
「預けた」「預かっていない」や「説明した」「聞いていない」な
どのトラブルにならないよう、十分な注意が必要です。
■現金を預かる場合
例えば、こんな場合に備えて預り金専用口座を開設しておくとよいでしょう。・業務遂行に必要な実費相当額を、最初に顧客から概算で預かっておく場合
第5章相続コンサルタントが守るべきコンプライアンス 99
。金融機関からの払戻金を相続人に分配するために一時預かる場合
相続業務の場合は金額が大きくなるケースも多いので、窓口に行きやすい最寄りの金融機関が便利です。その口座からは自分(自社)の経費の引落しなどをせずに、現金の流れが常に明瞭になるよう心懸けましょう。ほんの一時的な流用のつもりでも、業務上横領罪(升l
法253、10年以下の懲役刑)に問われることがあり得ます。
日物や書類を預かる場合
「預けた」「預かっていない」というトラブルを避けるために、顧客から物品や書類を預かる場合や、逆に税理士などの士業に預ける場合には、必ずその物品や書類の項目を列挙した「預かり証」を渡したり(自分が預かる場合)、「受領証」をもらったり(他人に預ける場合)して、客観的な資料を作成しておくことが必要です。返却する場合や返却してもらう場合も同様です。
遺産などの物品の保管場所は、紛失や盗難を防ぐために金庫や貸
倉庫が望ましいといえます。そのため、かさばる物はできるだけ早
く相続人や受遺者に分配するようにして預かる期間を短くするよう
にしましょう。
書類は、1通しかない原本、特に自筆証書遺言、有価証券の現物、登記済権利証(登記識別情報)などは慎重な取扱いが必要です。
日善管注意義務と損保カロ入
有償業務の一環として預かる以上、「善良な管理者の注意義務」という、取引上一般的に要求される程度の注意をもって保管しなければならず、誤って紛失したり破損したりした場合には、損害賠償の対象となる場合もあります。
100 0金品を預かる際の留意点
業種ごとに専用の損害保険がありますが、自分が今加入している損害保険が相続業務もカバーできるものかどうか、確認してみるとよいでしょっ。
田契約書の重要性
本書で紹介している遺言執行報酬確認書も契約書の一種ですが、それ以外の相続コンサルティング契約や他業種との業務提携契約など、何か取決めをする場合には必ず契約書を交わしておくべきです。
「相手を信用していないかのような誤解を受けそうだから『契約書を作りましょう』と言い出せない」という話もよく聞きますが、いざ不明点や問題点が出てきた時に解決の指針となるのは、何と言っても契約書です。
特に、相続・終活業務は、取決めをしてから終了するまでに、時には何年も何十年もの長い月日がかかるケースもあり得ます。一度、自分の業務に合わせたひな型を何パターンか作っておき、後はケースバイケースで修正を加えていくとよいでしょう。
また、相続・終活業務の顧客は、高齢であったり、専業主婦であったり、仕事を引退していたりして、普段は契約書など見たことがないような人も多いようです。契約書の署名押印に進む前に、条項を1つずつ示しながら説明し、顧客の反応次第で、例を用いたり噛み砕いて説明し直すといった対応をすることが望ましいといえます。
第5章相続コンサルタントが守るべきコンプライアンス 101
日業務範囲の明確化
契約書の中でも必須なのは、業務範囲を明確に定めることです。
遺言執行と言いながら、遺言書に書いていない雑用をあれこれ頼
まれて手一杯になったりすることのないよう、「それは業務に含ま
れるけれど、これは含まれないから別料金を取る」など、線引きを
明確に定めておきましょう。
日報酬の取決め
報酬は誰が見ても一義的に具体的な金額が導けるよう、契約書に
固定金額や算定式を明確に定めておくべきです。
時々見かける「当社報酬規程による」という表現は、その「当社
報酬規程」のコピーが契約書に添付されていればよいのですが、添
付されていない場合は、いくら「口頭で説明したはずです」と言っ
ても、顧客との間で後々トラブルになる可能性が高いので避けるべ
きです。
■その他の取決め
業務範囲と報酬の取決め以外にも、例えば次のような事項を契約
書に書いておくことが考えられます。・業務遂行に当たり生じた実費は誰が負担し、いつ支払うか。・どのような場合に途中解約できるか。・途中解約した場合に既払金が返還されるか。・他人に再委託することができるか。
なお、契約書に記載されていない事項については民法などの法律
102 0契約書の作成
が適用されることになりますので、気になることがあれば法律専門家に確認してみてください。
日業務途中で変更が生じた場合
いくらしっかりと契約書を作っておいても、途中で追加や変更が出てくることは付きものです。トラブルを防ぐためにも、その都度「覚書」や「確認書」などを取り交わしておくとよいでしょう。
メールやメッセージのやり取りも、追加変更やクレームなど重要
な話題の時には印刷したり、データで保存しておくことをお勧めし
ます。
相続に関するセカンド・オピニオンを求める相談の際によく伺う
話として「今お願いしている先生が、私に報告や連絡をせずに勝手
に進めてしまう」「私の話をあまり聞いてくれない」といつたコミュ
ニケーション上の不満があります。
今さらいうまでもないことですが、顧客の信頼を得て円滑に業務
を進めていくためには、報告・連絡。相談をマメにし、重要な事項
については折に触れて繰り返し確認しておきましょう。そこさえき
ちんと押さえておけば、顧客のクレームなどそうそう起こらないも
のです。
第5章相続コンサルタントが守るべきコンプライアンス 103

遺言執行者が巻き込まれがちなトラブル
ここでは、遺言執行者であるがゆえに巻き込まれがちなトラブルについて見ていきましょう。
「遺言書があっても、相続人全員が遺言書と異なる遺産分割協議をすれば、遺言書どおりに遺産を分けなくてよい」
さて、これは○でしょうか? ×でしょうか?
この点については、以下のようにケースを分けて考える必要があ
ります。
遺言執行者にとっては「執行するか、しないか」という職務の根幹に関わる問題です。就任を承諾したにもかかわらず、「オロ続人が『自分たちで遺産分割協議する』と言っているから、遺言は執行しなくていいだろう」と安易に考えていると、不意に損害賠償を求められてしまう事態にもなりかねませんので、注意が必要です。
■遺言書の内容に相続人以外の第二者への遺贈が含まれている場合
この場合には、相続人全員が遺産分割協議をしても、第三者である受遺者は立場上そこに加わることができないので、受遺者の利益を損なうことが明らかです。したがって、相続人が何と言おうと、遺言執行者としては遺言書どおりに遺言を執行しなければなりません。
もっとも、受遺者が遺贈の放棄をした場合には、次の日の場合と同じように考えることができます。
106 0遺言書と異なる遺産分害」協議
日遺言書の内容に相続人以外の第三者への遺贈が含まれていない場合
この場合には、さらに遺言執行者への就任承諾の前後で分けて考えなくてはなりません。
(1)遺言執行者への就任承諾の前に相続人間で遺産分割協議が成立した場合
①全相続人が遺言書の内容を知つたうえで、これと異なる遺産分
割協議が成立した場合
この場合には、遺言書の内容に利害関係を持つ者すべてが遺言書
を認識したうえでそれと異なる合意をしているのですから、遺産分割協議が優先すると考えられます。
遺言執行者に指定されている者としては、相続人から事情を確認したうえで、念のため、全相続人に対して「遺言執行者への就任を承諾しない」旨の通知を出しておきましょう。 ②遺言書と異なる遺産分割協議が成立したが、相続人の中で遺言
書の内容を知つている者と知らない者がいる場合
この場合には、後になって、遺言書の内容を知らなかった相続人から、この遺産分割協議につき「無効」「取消し」の主張が出る可能性があります。
例えば、「遺言者の全遺産を相続人Aに相続させる」という遺言書があることを知っている相続人Bが、そのことをAに言わずに法定相続分どおりの遺産分割協議をした場合などがこれに当たります。
遺言執行者に指定されている者としては、このような事情が判明した場合には、自分でAやBに助言するのは避け、法律専門家に相談し、関与してもらうのがよいでしょう。
第6章遺言執行者が巻き込まねがちなトラブル 107
③全相続人が遺言書の内容を知らないまま、遺産分割協議が成立した場合このような遺産分割協議について「錯誤により無効」と判断した
裁判例があります(最高裁平成5年12月16日判決)。この場合、遺言執行者に指定されている者としては、全相続人に対して遺言書があることを知らせ、遺言執行者に就任し職務を行うことが望ましいでしょう。
(2)遺言執行者への就任承諾の後に相続人間で遺産分害J協議が成立した場合
この場合、遺言者の遺志を尊重する立場からは、相続人らの遺産分割協議は遺言執行の妨害行為のように見え、遺言執行者が遺言執行を行わないことは職務を怠っているようにも思われます。
しかし、遺言執行者と委任関係にある相続人全員から職務執行を免除されたとも考えられるので、一般的には遺言執行者が責任を問われることはないと考えられています。
「先に遺言執行をしてから、その後で遺産分割協議に従って遺産を分ければよいのでは?」とも考えられますが、その場合には後の遺産分割協議による財産の移動について贈与税がかかってしまう可能性がありますので、安易な助言をしないよう注意が必要です。
なお、遺言執行がすでに終わっている財産(例えば、不動産の移転登記手続きや預貯金の払戻手続きが終わっている)については、新たに遺産分割協議の対象とすることはできません。
日相続人から「遺言書と異なる遺産分割協議(受遺者の遺贈放棄も含め)をしている最中」と言われてから長期間経過しつつある場合
この場合、実際には、一部の(遺産をあまりもらえない)相続人
108 0遺言書と異なる遺産分割協議
が遺産分割協議を主張して、他の人はその気がないのに長引いてい
るだけだったり、あるいは、ほぼ合意できているが相続税の試算(不
動産評価等)に時間がかかつていたりするなど、ケースバイケース
です。
遺言執行者又は遺言執行者に指定されている者としては、定期的
に相続人に連絡して経過や事情を把握し、できれば法律専門家に相
談して、どう進めていくべきか助言を得ることをお勧めします。
いったん就任を承諾した遺言執行者が、遺言執行を完了する前に
その地位を失うには、家庭裁判所に対して遺言執行者解任審判申立
て(相続人や受遺者等の利害関係者が申立人となる)と遺言執行者
辞任許可審判申立て(遺言執行者自身が申立人となる)のいずれか
の手続きを行う必要があります。「遺言執行者と相続人とで話し合った結果、辞めることにした」「相続人が遺言執行者に『解任します』と伝えた」「遺言執行者が相続人に『辞任します』という内容証明郵便を送った」
この3つは、いずれも正式な解任や辞任ではありませんので、注
意が必要です。
■遺言執行者の解任
(1)解任手続きと解任事由遺言執行者の解任については、「遺言執行者がその任務を怠った
第6章遺言執行者が巻き込まれがちなトラブル 109
ときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる」(民法 1019①)と定められています。
「利害関係人」というのは、主に相続人や受遺者のことです。共同遺言執行者も含まれると考えられており、例えば遺言執行者A・B2名のうちAがBについて解任請求をするという事態もあり得ます。
「任務の愕怠」というのは、具体的には遺言執行者としての職務を長期間放置したり、拒否したり、報告をしなかったりということが考えられます。
「その他正当な事由」というのは、任務の解怠以外の理由であって、一般的に見て解任されても仕方のないような事柄を広く含むものです。例えば、次のようなものが考えられるでしょう。
・遺言執行者が病気で入院しており職務を行えない。・遺言執行者への就任後に破産した(欠格事由)。・犯罪を犯すなど、社会的信頼を損なうような行為をした。・一部の相続人や受遺者の利益に加担し、遺言内容を公正に実現し
ようとしない。
遺言執行者の解任が認められた裁判例には、次のようなものがあります。 ①遺言執行者が、遺言者の遺産であるA社の株式について遺産
分割方法の指定を委託されているという地位を利用して、A社の代表取締役である相続人に対し、自分の子を著しく高額の給与で雇用させた(東京高裁平成23年9月8日決定)。
②相続人Bから求めがあったにもかかわらず、遺言執行者が預貯金等の相続財産の管理方法、管理状況を報告しなかったほか、相続人Bが遺留分減殺請求権を行使したことを認識しながら、無断で相続人Cのために預貯金等の払戻し等を行った(東京高
110 0遺言執行者の解任と辞任
裁平成19年10月23日決定)。(注)遺留分減殺請求権は民法改正前のものであり、改正後は遺留分侵害額請求権となり法的性質も変わりましたので、この判例と同じ結
論になるとは限りません。
③遺言執行者が相続人からの相続財産目録の作成・交付及び遺言執行状況等に関する書面による報告の求めに応じず、口頭による具体的報告すら行わなかったほか、相続人に分配すべき金員の原資となる予定の土地を遺言執行者自らが購入しておきながら、その経緯について説明しなかった(大阪高裁平成17年11月9日決定)。
④遺言執行の対象となるべき事項が存在しなくなったのであるから、遺言執行者は任務終了により事実上その地位を失うものというべきであるが、遺言執行者自身がその地位を保有すると主張して訴訟を提起した(東京高裁昭和60年3月15日決定)。
⑤遺言執行者が相続人の一部の者と意を通じ、その者の利益代表者のような振舞いをし、受遺者全員の意思を無視し、かつその意思に反して事実上の利益保護の行為をせず、相続人間の紛争を激化させる言動をした(福岡家庭裁判所大牟田支部昭和45年6月17日審半1)。
⑥遺言執行者が遺産の所有権を主張する訴訟の進行中に、遺言者の意思の実現を拒もうとする相続人等に迎合し、受遺者に不利な内容の示談をしてその訴訟を取り下げた(名古屋高裁昭和32年6月1日決定)。
(2)遺言執行者解任審判の前の保全処分
遺言執行者の解任審判の結論を待っていては遅すぎる(相続人や受遺者の利益を害するおそれがある)というような場合には、申立人が審判前の保全処分として次の手続きを行うことができます。
第6章遺言執行者が巻き込まれがちなトラブル 111
O遺言執行者の職務執行停止の審判・遺言執行者の職務代行者選任の審判
(3)遺言執行者からの不服申立て
遺言執行者は、解任を認める審判や上記(2)の保全処分について、告知を受けた日から2週間以内に管轄の高等裁判所に即時抗告を申し立てることができます。
鱚)解任された場合の通知
解任の審判が確定した遺言執行者は、相続人や受遺者にその旨を通知し、以後は遺言執行者としての責任を負わないことを明確にしておきましょう。
日遺言執行者の辞任
(1)辞任手続きと辞任事由
遺言執行者の辞任については、「遺言執行者は、正当な事由があ
るときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができ
る」(民法1019②)と定められています。
ここでいう「正当な事由」というのはそれほど厳格なものとは捉
えられておらず、次のようなものでもよいと考えられています。・病気になった・本業(仕事)が多忙になった・相続人や受遺者など関係者との信頼関係が壊れた
本当は相続人や受遺者からの解任であっても、遺言執行者の体面
に配慮して、解任手続きというかたちを取らずに辞任手続きを行う
ことにする場合もあり得ると思われます。
112 0遺言執行者の解任と辞任
(2)辞任した場合の通知
辞任の審判が確定した遺言執行者は、相続人や受遺者にその旨を通知し、以後は遺言執行者としての責任を負わないことを明確にしておきましょう。
遺言執行者は、時には思わぬ訴訟の当事者として争いに巻き込まれてしまう場合もあります。
■遺言の執行を求める争い
典型的な例は、遺言執行者がなかなか遺言執行をしてくれないという場合に、受遺者が遺言執行者に対して遺贈の対象である不動産につき移転登記手続訴訟を起こすというものです。
遺言執行者としては、このような訴訟を起こされないように、迅速かつ適切に遺言執行を行うことが求められています。
日遺言内容の解釈をめぐる争い
上記田の争いは、単に遺言執行者が職務遂行を怠っているという場合だけではなく、遺言書の内容の解釈について、相続人や受遺者と遺言執行者との間で見解が対立しているような場合にも起こります。
例えば、遺言執行者が「遺言書のこの条項の文言からすると『○○』
第6章遺言執行者が巻き込まれがちなトラブル 113
という意味だと考えられるから、自宅不動産は相続人Aが取得すると読むべきである」という考えであるのに対し、相続人Bが「いや、この条項は遺言書全体の趣旨からすると遺言者の『△△』という遺志を現したものと考えられるから、自宅不動産は相続人Bが取得すると読むべきである」という考えを持っていた場合などがわかりやすいでしょう。
この場合、遺言執行者としては、相続人Bから意見を述べられたり執行に反対されたりした場合でも、基本的には、そのような執行妨害とも受け取れる行為は無視して遺言執行を進めてかまいません。
ただし、どちらの解釈が正しいか微妙なケースでは、法律専門家
に相談してみたほうがよいでしょう。また、相続人Bが、移転登記手続請求訴訟や遺言執行者解任審判申立てやそれらの保全処分といった法的措置を取つた場合には、法に則った対応をする必要があ
ります。
日特定の遺産が遺言者のものかどうかについての争い
特定の遺産が遺言者のものかどうかについての争いがあるというのは、例えば、「受遺者Cに遺贈する」と遺言書に記載されている国座番号の預金を遺言執行者が調べてみたら、実は遺言者ではなく相続人D名義の預金であったというような場合です。
この場合、遺言執行者は、自らが原告となって相続人Dとその回座のある金融機関を相手に訴訟を起こすことができます。
ただし、受遺者Cを原告とする訴訟も可能と考えられるため、ケースによつては弁護士に相談し、できるだけ実質的な権利者(この例では受遺者C)が原告など主たる当事者となる方向で進めていくことがふさわしいでしょっ。
114 0遺言執行者が争いの当事者になる場合
■遺言無効の争い
遺言執行が完了する前に、相続人や受遺者等が「遺言書が偽造である」「遺言書が方式に反している」「遺言者に遺言能力がなかった」などを主張して遺言無効の調停や訴訟を起こした場合、他の相続人や受遺者と並んで遺言執行者もその相手方(被告等)となります。
(1)遺言書作成や就任段階での留意点
遺言執行者が、遺言書作成段階から証人や相続コンサルタントとして関与している場合には、後に「遺言無効」と言われないよう、士業と連携して万全な遺言書を作成しておくべきといえます。
遺言執行者への就任段階では、特に自筆証書遺言の場合に当てはまりますが、就任を承諾する前に遺言書を点検して、明らかな方式違反や偽造の疑いが濃厚であるなどの場合には就任を拒否することが無難でしょう。
(2)遺言執行者に就任してからの留意点
下記口で述べるように、すでに遺言執行が完了している場合には原則として遺言執行者が遺言無効訴訟の当事者になることはないので、争いに巻き込まれないためにも、遺言執行者としての職務は早急に遂行して完了させましょう。
(3)争いの相手方(被告等)になつた場合の対処
遺言執行者は中立公正な立場ですので、他の相手方(被告等)となった相続人や受遺者と同じ弁護士に相談や委任をするのは避けるべきです。
実質的な訴訟対応は他の相手方(被告等)の主張立証に任せるこ
第6章遺言執行者が巻き込まれがちなトラブル 115
ととして、遺言執行者は弁護士を付けずに簡潔な答弁書を自分で書いて出しておき、後は成り行きを見守るということでもよいかもしれません。
日遺言執行者が争いの当事者にならない場合
遺言執行が完了した事項(例えば、不動産の移転登記手続き等)については、承継した相続人や受遺者のみが争いの相手方(被告等 )になり、遺言執行者は当事者とはなりません。
116 0遺言執行者が争いの当事者になる場合
死後事務委任契約|の1活用~遺書執行業務の範囲外の事項への対応~
「はじめに」に書いたように、少子高齢化などが原因で孤独死・孤立死が年々増えています。いわゆる「おひとり様」の増加が孤独死・孤立死の原因の1つになっているのですが、そのことが「死後事務委任契約」の需要を高めていると思われます。
亡くなった後のいろいろな手続きを「死後事務」といいます。遺言書ではカバーできない葬儀や納骨、行政への届出等につき、生前に何をどこまでやってもらうのかを決めて第三者と契約を結んでおけば、亡くなった後、契約どおりに手続きが実行されます。
■死後事務委任契約
おひとり様だけではなく、配偶者が亡くなり、子が遠方(海外など)に住んでいて、いざという時に駆け付けられない人などにも、今後、ますます需要が広がると考えられます。
死後事務委任契約を結んでおいたほうがよい人のチェックリストを下記0日に掲げておきますので、参考にしてください。遺言執行
118 0死後事務委任契約とは
と同様に受任できるように準備しておくと、相続コンサルタントの業務の幅が広がるでしょつ。
死後事務には、どのような業務内容が含まれるのでしょうか。被相続人が亡くなってからの時系列で順に見ていきましょう。
i輻 ‐♯子纂11轟珀
・亡くなったことを事前に依頼されていた人に通知・葬儀社へ遺体搬送の連絡

滲 :l111‐1′
病院や施設などから死亡届に必要な死亡診断書を取得医療費・入所費などの精算手続き
市区町村に死亡届を提出(132ページのコラ埋葬許可書を申請・受理除籍の申請
・生前の希望に沿って、葬儀及び火葬を行う・場合によっては喪主代行をオプションで務めること
第7章死後事務委任契約の活用 119
0健康保険、公的年金等の資格抹消手続き
・不動産会社に連絡し賃料精算・明渡手続き・売却の場合は不動産会社に売却の依頼
・公共料金他・固定電話・携帯電話・新聞・クレジット等の解約及び利用料の精算等の諸手続き
・死亡年度分の住民税及び固定資産税の納税通知書を市区町村から受領し、納税手続き
・プライベートな情報・データを完全抹消し破棄
以上は、主な基本プランとなります。契約は公正証書で交わし、公正証書での作成費用は基本料金に含まれていますが、公証役場への支払いは実費となります。
以下は、適宜オプションで行います。
・葬儀・火葬に伴って喪主代行を務める・火葬後の遺骨を生前の希望に沿って、墓地・納骨堂へ埋葬手続き・希望が散骨であれば、散骨の手配
120 0死後事務の主な業務内
・勤務先に連絡し、退職手続きや未払い賃金受領、健康保険・厚生年金等の資格抹消手続き
・遺品の完全撤去を業者に依頼
・形見分けや寄付の希望がある場合は対応
・売却、廃車・名義変更・名義抹消手続き
・遺されたペットと生前に決めておいた人へ連絡し、引取りまでの世話
0免許証・パスポートなど、行政機関が発行する資格証明書の返納
基本メニューに入れるか、オプションにするかについては、業務の状況を見ながら設計するとよいでしょう。
第7章死後事務委任契約の活用 121

業務内容を見ていただくとわかるように、死後事務委任は遺言執行と密接に関連するので、同時に契約をすることが望ましいといえます。メニューの中で、現時点では金額がはっきりしないものに関しては、預り金を最初にいただいておくか、遺言書に相続財産から支払っていただくことを明記しておくとよいでしょう。
①書面で契約内容の細かい打合せをし、基本プラン以外にどのオプションを付けるのかを決定する。葬儀プランなどは提携している葬儀社も入れての打合せとなる。
②公証役場にて、死後事務委任契約書を公正証書として作成する。自社のひな型を作る際には、一度法律専門家に見てもらうとよい。 ③死後事務委任契約の預り金を事前に振り込んでもらう(契約内容による)。
日死後事務委任の報酬
あくまで、報酬は目安です。それぞれの相続コンサルタントが自由に決めてよいと思われますが、参考までに筆者が使用している報酬表を掲げます。
122 0死後事務委任契約の手順と報酬
■報酬表の例
死後
基本料金○万円+(オプション報酬表)
この金額は基本的な金額であり、お客様の事案によつて金額が変わる場合がございますので、予めご了承ください。
9〓事一一建●〓驚●一継一0一

サ■ビス 1役所への死亡届の提出健康保険公的年金等の資格抹消手続き病院介護施設の退院退所手続き
葬儀火葬に関する手続き
埋葬散骨に関する手続き
勤務先企業・機関の退職手続き
住居引渡しまでの管理
住居内の遺品整理
公共料金等の解約精算手続き
住民税や固定資産税の納税手続き
叫鵜
11メールアカウント
警一一饉〓
車両の廃車手続きベット引渡手続きPC 携帯電話の情報抹消
手続き
1颯生命保険の手続き関係者への死亡通知
行政機関発行の資格証明書等返納手続き公正証書での契約書作成
*料金はすべて税別
1麟:1■■■|■11■●111■
市区町村役場に死亡届を提出し、埋火葬許可証を申請受理します。また除籍の申請もします。
国民健康保険や介護保険、国民年金や厚生年金等の資格抹消手続きを行います。
病院や施設などから死亡届提出のために必要な死亡診断書を受領します。葬儀社と連絡を取り、ご遺体をお引き取りする手配を整えたのち、医療費入居費の精算などの諸手続きを行います。
生前に伺つたご希望にそって、葬儀及び火葬を行います。言卜報連絡やご要望があれば葬儀の主宰(喪主)を務めます。
火葬後のご遺骨を生前に希望のあつた墓地納骨堂へ埋葬します。ご希望があれば海洋散骨の手配。
勤務先に連絡し、退職手続きや未払い賃金の受領、健康保険や厚生年金などの資格抹消手続きを行います。
不動産会社(又は管理会社)と連絡を取り、賃料精算と明渡し手続きを行います。駐車場の契約の解除は1件20.000円です。
住居内の遺品の完全撤去を行います。提携の遺品管理会社に回収をお願いします。形見分けや寄付等のご希望があれば対応いたします。
電気ガス水道のほか電話や新聞・クレジットカード等の解約及び利用料金の精算などの諸手続きを行います。
死亡年度分の住民税及び固定資産税の納税通知書を市区町村から受領し、納税手続きを行います。
口itter facebookなどのSNS、メールアカウントの削除をします(ご希望によリフォロワーや友連への死亡通知を行います)。
車両の廃車、名義変更、名義抹消手続きを行います。
残されたペットを生前に依頼した方へ連絡して、引き取つていただくまでお世話します。
パソコンや携帯電話などプライベートな情報、データを消去して完全破棄します。
保険会社に生命保険の請求をし、受取人にお渡しします。
ご希望の場合、友人知人ほか、関係者への死亡通知を行います。
免許証バスポート等の行政機関が発行する資格証明書を返納します。
死後事務委任契約を公正証書にて作成します。契約締結にかかる費用のほかに公証役場へ支払う手数料が別途必要となります。
|
:

基本料金に含む
基本料金に含む
基本料金に含む
基本料金に含む葬儀の規模により別途ご請求の場合もあります
実質
50.000円
基本料金に含む
100,000円~
基本料金に含む
基本料金に含む
1アカウント10.000円
30,000円
100.000円
基本料金に含む
1件あたり50,000円
基本料金に含む
1件ごとに10,000円
基本料金に含む
第7章死後事務委任契約の活用 123
日死後事務委任契約が必要な人のチェックリスト
死後事務委任契約が必要なケースであるかどうかを判断し、サービスをお勧めする際の目安としてください。
■チェックリスト
① 子は遠方もしくは海外に住んでいる □
子は仕事(家庭のこと)が忙しく死後、迷惑をかけた
② くない □
子とは仲が悪く、疎遠もしくはどこに住んでいるかも
③ わからない □
④ 子が引きこもり、二一卜、障害を抱えている □
⑤ 子がいない □
⑥ 子も高齢もしくは病がある □
⑦ 配偶者に先立たれ子もいない □
③ 生涯独身 □
⑨ 生涯独身で頼れる親戚がいない □

どれかにノが付いた人には、公正証書遺言に遺言執行者を指定し、死後事務委任契約もお勧めしたほうがよいでしょう。これ以外にも、見守り契約をプラスし、孤独死や孤立死を予防していくことも今後は大切になってくるのではないでしょうか。
124 0死後事務委任契約の手順と報酬
○よくある質問

死後事務委任契約は、職務すべてを1人でやらなければならないのでしょうか。
日遺言執行業務と同じく、専門家や補助者に職務を手伝ってもらうことができます。専門家に依頼しなければならないことがわかっている場合は、報酬や実費をどこから支払うかなど契約書に明記しておくとよいでしょう。

死後事務委任契約は、個人で受任するのと法人で受任するのとどちらがよいですか。
日死後事務委任契約は遺言執行と同じく、受任した相続コンサルタントが高齢になった時や廃業・死亡後に相続が発生する可能性もあります。法人で受任をするか、万が一相続コンサルタント自身が履行できない場合の手立てをしておいたほうがよいでしょう。万が一、執行できない場合は預り金の返還などが生じます。
第7章死後事務委任契約の活用 125
相続コンサルタントは、どのタイミングで死後事務委任契約をお勧めするのがベストでしょうか。
初回のヒアリングで、明らかにおひとり様であることが確認でき、死後事務委任契約をお勧めしたほうがよいと思つても、なかなか切り出せないこともあるでしょう。
せつかく、相続対策としていろいろなアドバイスを行うのであれば、必要性が明確になった時点で必ず相続対策のプランに盛り込みましょう。公正証書遺言・遺言執行まで提案しておいて、死後事務委任契約が漏れていたのでは対策は万全とはいえません。
しばらくたってから再提案しようと先延ばししているうちに、相談者は認知症を発症してしまうかもしれません。死後事務委任契約も法律行為ですから、認知症等を発症して判断能力が低下すると結
■死後事務委任契約を行うタイミング
!
問題が発生する前に行うことが重要です
126 0死後事務委任契約を提案するタイミング
ぶことができません。「おひとり様の○点セット」などとして、必ずご提案しましょう。
契約書の内容に関しては、打合せ時に決めた事項をきちんと盛り込む必要があります。何を行い、何を行わないのか。また、報酬に関しての取決めなどは重要な部分となります。契約書作成に関しては、弁護士。司法書士・行政書士に依頼をし、漏れのないようにしましょう。以下は、実際の死後事務委任契約のひな型です。参考にしてくださνヽ。
●死後事務委任契約/AS正証書
(○○ ○○様)
死後事務委任契約公正証吉
木公証人は、委任着○○(以下「甲」という。)及び受任者笑顔相続株式会社(以下「乙」という。)の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
(契約の趣旨 )第1条委任着甲と史任着乙とは、以下のとおり死後事務委任契約を締結する。
第7章死後事務委任契約の活用 127
(委任者の死亡による木契約の効力)
第2条甲が死せした場合においても、木契約は終了せず、甲の相続人又は受童者は、委託着である甲の木契約上の権411義務をス継するものとする。
2 甲の相続人又は受遺着は、前項の場合において、第10条記載の事台がある場合を除き、本契約を解除することはできない。
(委任事務の範囲)
第3条甲は、乙に対し、甲の死七後における次の事務(以下、「木件死後事務」という。)を委任する。なお、乙は甲の相続人又は史壼着と協議して叉要に痣じ連携しながらこれらをitめるものとする。 ①火葬(直葬)及び散骨(山十)に関する事務 ②行政官庁等への諾届(死七届の提出、除籍、埋火葬許可
証の申請。史理、健康保険・介護保険。公的年金の資格沐
消手続き)に関する事務 ③病院及び介護施設の退院及び運所手続きに関する事務 ④住居の質貸借契約解約に関する事務(ただし、童品整理
及び明波しについては、甲の希望により、木契約に合まな
い。)
⑤公共料金。電話。新聞・クレジットカードの解約精算手
続きに関する事務 ⑥住民税及び固定資産税の納税に関する手続き ⑦パソコン及び通信機器のデータ消去及び荻乗に関する事
務 ③ス上の各事務に関する費用の支払い
128 0死後事務委任契約書ひな形
第4条第3条の「火葬(直葬)及び散骨(.L十)」「童品整理」は、甲が予め指定する施設及び業者あるいはその指定がない場合には乙が任意に依頼する施設及び業者において行う。
(連絡)
第5条甲が死せした場合、乙は、速やかに甲が予め指定する親族等関係着や知人に連絡するものとする。
(預託金の投史 )
第6条甲は、乙に対し、木契約締結時に、本件死後事務を興理するために叉要な費用及び乙の報酬にえてるために、金100万円を預託する。 2 乙は、甲に対し、前項の預託金(以下「預託金」という。)について預かり証を発行する。 3 預託金には、411息をつけない。
(費用の負担)第7粂木件死後事務を興理するために叉要な費用は、甲の負担とする。
2 乙は、預託金又は甲の相続財産からその費用の支払いを受けることができ、支払いを受ける見込みがない場合は木件死後事務を中断することができる。
(報酬)
第8条甲は、乙に対し、木件死後事務の報酬として、金 80万円(消費税Bll)を支払うものとし、本件死後事務終了後、乙は、預託金又は甲の相統財産からその支払いを受けることができる。
第フ章死後事務委任契約の活用 129
(契約の変更 )第9条甲又は乙は、甲の生存十、いつでも木契約の変更を求めることができる。
(契約の解除)
第10条甲又は乙は、甲の生存十、次の事由が生じたときは、本契約を解除することができる。 ①甲と乙の信頼関係が荻綻するような出来事が生じたとき ②乙が経営状態を春し死後事務無理をすることが困難な状態になったとき ③その他、災害や経済情勢の著しい変動など木契約を達成することが困難な状態になったとき
(契約の終了 )
第11条木契約は、次の場合に終了する。 ①乙が解散又は荻産したとき
は託金の返還、精算 )
第12条木契約が第10条(契約の解除)又は第11条(契約の終了)により終了した場合、乙は、預託金を甲に返還する。 2 本件死後事務が終了した場合、乙は、預託金から費用及び報酬を控除し残奈金があれば、これを壼言執行着、相続人又は受童者に工還する。
(報告義務 )
第13条乙は、童言執行着、相続人又は受董者に対し、本件死後事務終了後1か月以内に、木件死後事務に関する次の事
130 0死後事務委任契約書ひな形
項について吉面で報告する。 ①木件死後事務につき行った措置 ②費用の支出及び使用状況 ③報酬の収受
(免責)
第14条乙は木契約の条項に従い、善良な管理者の注意を急らない限り、甲に生じた損害について責任を負わない。
第7章死後事務委任契約の活用 131
死亡届が出せない?
死亡届を出すことは、死後事務委任契約の履行に当たつて非常に重要です。死亡届を出さないと、大葬許可証・埋葬許可証がもらえないからです。
ただ、死亡届は以下の人しか出すことができないため、注意が必要です。
○手続対象者(戸籍法 87)親族・同居人・家主・地主・家屋管理人・土地管理人・後見人・保佐人・補助人・任意後見人 ○提出時期死亡の事実を知った日から7日以内(国外で死亡した場合は、その事実を知つた日から3か月以内)
ここで、気になることがあります。手続対象者のいずれもいない場合はどうなるのでしょうか?
生涯独身で6親等以内の親族もいない、又はどこにいるか不明で自身の名義の自宅で突然死した場合。その人は任意後見契約も結んでいなかつたとしたら?
仲の良い友人だとしても、死後事務委任契約を結んでいる相続コンサルタントだとしても、役所は死亡届を受理してくれません。
この場合、警察による検視が行われ、市区町村の社会福祉課が「死亡記載申出書」を作成。これが戸籍課に届けられることにより死亡届の代わりとされます。では、この煩雑な手続きを回避するにはどうすればよいのでしょう。まず、契約の前に6親等以内の親族が本当に存在しない
132 0死後事務委任契約書ひな形
のかを確認する必要があります。存在した場合は事前に居所を確
認し、いざという時のために死亡届取得の依頼をしておいたほう
がよいかもしれません。
存在しなかつた場合(存在しても依頼することが難しい場合を
含みます)、持ち家に住んでいる人の場合は家主や地主がいない
ので、死後事務委任契約とセットで任意後見契約(受任者は相続
コンサルタントでなく友人や遠縁の親戚や終活専門業者等でも
可)を結んでおくことが望まれます。
この章では死後事務委任契約にフォーカスしていますが、他にもおひとり様が結んでおいたほうがよい契約や、書いておいたほうがよい書類を紹介します。
■見守り契約
任意後見契約が始まるまでの間、月に1回、週に1回など回数を決めてメール・電話・訪間などで安否確認をします。見守り契約を通じて依頼者の健康状態や判断能力などをチェックでき、任意後見契約への移行のタイミングを見極められます。
日委任契約公正証書・任意後見契約公正証書
委任契約と任意後見契約は、セットで契約することが多いといえ
第7革死後事務委任契約の活用 133
ます。委任契約は、まだ判断能力があっても、身体が衰え、自分自身で銀行等に行くことができないなどの場合に活用するもので、これによって信頼している人に財産の管理を任せることができます。
その後、判断能力が低下したら、任意後見契約の活用場面になり、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらったうえで、あらかじめ自分が選んだ任意後見人に生活や療養看護。財産管理など幅広い事項について任せることができます。
契約内容については、下記の例を参照してください。
●委任契約及び任意後見契約公正証書
委任契約及び任意後見契約公工証書
木公証人は,委/1着山田太郎(以下「甲」という。)及び受任着山口花子(以下「乙」という。)の嘱託により、次の法律行為に関する陳述の趣旨を録取して、この証書を作成する。
第1 委任契約
(契約の趣旨)
第1条甲は、乙に対し、今わ元年○月○日、甲の生活、慕養着護及び財産の管理に関する事務(以下「委任事務」という。)を委任し、乙はこれを受任する。
(任意後見契約との関係 )
第2条前条の委任契約(以下「木委任契約」という。)締結後、甲が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になり、乙が第2の任意後見契約による後見事務を行うこと
134 0おひとり様にお勧めしたい契約。その他
を相当と認めたときは、乙は、家庭裁判所に対し、任意後見監督人の選任を請求する。 2 木委任契約は、第2任意後見契約につき任意後見監督人が選任され、同契約が効力を生じた時に終了する。
(委任事務の範囲)
第3条甲は、乙に対し、「別紙代理権日録(委任契約)」記執の委任事務(以下「木件委任事務」という。)を委任し、その事務興理のための代理権を村与する。
(証吉等のデ1渡し等)
第4条甲は、乙に対し、本件委任事務処理のために叉要と認める範囲で、通宜の時期に、次の証吉等及びこれらに準ずるものをデ|き波す。 ①登記済権rll証、②実印・銀行印、③F鑑登録カード・住民基本台帳カード、④マイナンバー通知カード及び個人4号 /- カード、⑤預貯金通帳、⑥各種キャッシュカード、⑦有価証券。その預り証、 ③年金関係書類、 ①土地。建物質貸借契約吉等の重要な契約書類 2 乙は、前項の証吉等のデ1渡しを受けたときは、甲に対し、預かり証を交村してこれを保管し、上記証吉等を木件委任事務処理のために使用することができる。 (費用の負担) 第5条乙が木件委任事務を拠理するために叉要な費用は、甲の負担とし、乙は、その管理する7の財産からこれを支出することができる。 第7章死後事務委任契約の活用 135 (報酬)第6条乙の木件委任事務拠理は、無報酬とする。 (報告)第7条乙は、甲に対し、○か月ごとに、木件委任事務処理の状況につき報告書を提出して報告する。 2 甲は、乙に対し、いつでも、本件委任事務処理状況につき報告を求めることができる。 (契約の変更 )第8条木委任契約に定める代理権の範囲を変更する契約は、公工証吉によってするものとする。 (契約の解除 ) 第9条甲及び乙は,いつでも木委任契約を解除することができる。ただし、解除は公証人の認証を受けた吉面によってしなければならない。 (契約の終了) 第10条木委任契約は、第2条第2項に定める場合のほか、次の場合に終了する。 ①甲又は乙が死七し又は荻産手続開始決定を受けたとき ②乙が後見開始の忠判を受けたとき 第2 任意後見契約 (契約の趣旨 )第1条甲は、乙に対し、今わ元年○月○日、任意後見契約 136 0おひとり様にお勧めしたい契約・その他 に関する法律に基づき、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における甲の生活、燕養着護及び財産の管理に関する事務(以下「後見事務」という。)を委任し、乙はこれを受任する。 (契約の発効) 第2条前条の任意後見契約(以下「木任意後見契約」という。)は、任意後見監督人が選任された時から、その効力を生じる。 2 木任意後見契約締結後、甲が精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況になり、乙が本任意後見契約による後見事務を行うことを相当と認めたときは、乙は、家庭裁判所に対し任意後見監督人の選任の請求をする。 3 木任意後見契約の効力発生後における甲と乙との間の法律関係については、任意後見契約に関する法律及び木契約に史めるもののほか、民法の規定に従う。 (後見事務の範囲) 第3条甲は乙に対し、別紙「代理権曰録(任意後見契約)」記執の後見事務(以下「木件後見事務」という。)を委任し、その事務拠理のための代理権を村与する。 (身上醒慮の義務 ) 第4条乙は、本件後見事務を興理するに当たっては、甲の意思を尊重し、かつ、甲の身上に配慮するものとし、その事務拠理のため、通宜甲と面接し、ヘルパーその他日常生活渡助着から甲の生活状況につき報告を求め、主治医その他医療関係着から甲のた身の状態につき説明を受けることなどにより、甲の生活状況及び健康状態の把握に努めるものとする。 第7章死後事務委任契約の活用 137 (証吉等の保管等) 第5条乙は、甲から木件後見事務無理のために叉要な次の証吉等及びこれらに準ずるもののデ1渡しを受けたときは、甲に対し、その明細及び保管方法を記載した預り証を炎村する。 ①登記済権rll証、②実銀行 ③登録カード・住 F・F、F鑑
/-
民基本台帳カード、④マイナンバー重知カード及び個人4号
カード、⑤預貯金重帳、⑥各種キャッシュカード、⑦有価証券。その預り証、 ③年金関係書類、①土地。建物質貸借契約吉等の重要な契約書類
2 乙は、本任意後見契約の効力発生後、甲以71・の着が前項記載の証吉等を占有所持しているときは、その者からこれらの証吉等のデ1波しを受けて、自らこれを保管することができる。
3 乙は、木件後見事務を処理するために叉要な範囲で上記の証吉等を使用するほか、甲宛の郵便物その他の通信を受領し、木件後見事務に関連すると思われるものを開封することがで
きる。
(費用の負担)
第6条乙が、本件後見事務を興理するために叉要な費用は、甲の負担とし、乙は、その管理する甲の財産からこれを支出することができる。
(報酬)第7条乙の木件後見事務処理は,月頼○万円とする。 2 前項の報酬頼が、次の事由により不相当となったときは、
甲及び乙は、任意後見監督人と協議の上、報酬を定めることができる。 ①甲の生活状況又は健康状態の変化
138 0おひとり様にお勧めしたい契約。その他
②経済情勢の変動
③その他え行報酬頼を不相当とする特段の事情の発生
3 前項の場合において、甲がその意思を表示することができない状況にあるときは、乙lよ、任意後見監督人の書面による同意を得て、報酬頼を変更することができる。
4 第2項の報酬の定めは、公工証吉によってしなければならない。
(報告)
第8条乙は、任意後見監督人に対し、6か月ごとに、本件後見事務に関する次の事項について書面で報告する。 ①乙の管理する甲の財産の管理状況
②甲を代理して取得した財産の内容、取得の時期。理由。
相手方及び甲を代理してえ分した財産の内容、共分の時期・
理由。相手方 ③甲を代理して史領した金銭及び支払った金銭の状況 ④甲の身上監護につき行った措置 ⑤費用の支出及び支出した時期。理由。相手方 ⑥報酬の定めがある場合の報酬の収史
2 乙は、任意後見監督人の請求があるときは、ぃつでも速やかにその求められた事項につき報告する。
(契約の解除 )第9条甲又は乙は、任意後見監督人が選任されるまでの間は、いつでも公証人の認証を受けた吉面によって、木契約を解除することができる。 2 甲又は乙は、任意後見監督人が選任された後は、工当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、木契約を解
第7章死後事務委任契約の活用 139
除することができる。
(契約の終了)
第10条木任意後見契約は、次の場合に終了する。 ①甲又は乙が死せ、又lよ荻産手続開始決定を史lすたとき ②乙が後見開始の忠判を受けたとき ③乙が任意後見人を解任されたとき ④甲が任意後見監督人選任後に法史後見(後見・保佐。補助
)
開始の窓判を受けたとき ⑤木任意後見契約が解除されたとき
2 任意後見監督人が選4■された後に前項各子の事由が生じた場合、甲又は乙は、速やかにその旨を任意後見監督人に通知するものとする。
3 任意後見監督人が選任された後に第1項各子の事由が生じた場合、甲又は乙は、速やかに任意後見契約の終了の登記を申請しなければならない。
(死後の事務無理の委任)第11条甲は、乙に対し、甲死t後の次の事項を委任する。 ①有料老人ホーム等施設411用料の支払いを合む、甲の生前
に発生した本件委任事務に係わる横務の弁済 ②入院保証金、入居一時金その他残債権の受領 ③甲の葬儀、告万1人から納骨に至るまでの一切の事項並び
にこれに係わる祭祀に関する一切の事項 ④永代供養に関する債務の弁済 ⑤その他、上記①ないし④に関連する一切の事項
140 0おひとり様にお勧めしたい契約・その他
別紙代理権目録(委任契約 )
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び興分に関する事項 2 金融機関、郵便局、証券会社とのすべての取デ1に関する事
項 3 保険契約(類似の共済契約等を合む。)に関する事項 4 定期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払い
に関する事項
5 生活費の送金、生活に叉要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取ヨ1(契約の変更、解除を合む。)に関する事項
6 税金の申告、納村並びに不服忠杢申立てに関する事項 7 医療契約、入院契約、介護契約その他の相社サービスfll用契約、お社関係施設入二所契約に関する事項
8 妥介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立て並びに稿社関係の措置続設入所措置を合む。)の申請及び決定に対する異議申立てに関する事項
9 シノレヾ一資金融資lll度、長期生活支援資金lll度等の相祉関
係融資lll度のrll用に関する事項 10 登記済権rll証、F鑑、口鑑登録カード、住民基本台帳カード、預貯金重帳、各種キャッシュカード、有価証券。その預
り証、年金関係書類、土地・建物質貸借契約書等の重要な契約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務拠理に叉要な範囲内の使用に関する事項
11 住民票、戸籍謄抄木その他の行政機関の発行する証明言の請求及び史領に関する事項 12 登記・登録の手続き及び不服家杢申立て並びに供託手続
第7章死後事務委任契約の活用 141
きに関する事項 13 童産分割の協議、董留分減殺請求、相続荻乗、限定承認に関する事項 14 贈与着しくは童贈(負担村の贈与着しくは遺贈を合む。)
の受誌又は拒絶に関する事項 15 裁判外のわ解、示談並びに4■裁契約に関する事項 16 ス上の各事項に関する行茨機関への申請、行政不服申立
て、紛争の無理(弁護士に対する民事許訟法第55条第2項
の特別授権事項の投権を合む訴訟行為の委任、公工証書の作
成嘱託を合む。)に関する事項 17 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項 18 以上の各事項に関連する一切の事項
別紙代理権目録(任意後見契約 )
1 不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び共分に関する事項 2 金融機関、郵便局、証券会社とのすべての取デ|に関する事
項 3 保険契約(類似の共済契約等を合む。)に関する事項 4 史期的な収入の受領、定期的な支出を要する費用の支払い
に関する事項 5 生活費の送金、生活に叉要な財産の取得に関する事項及び物品の購入その他の日常関連取デ1(契約の変更、解除を合む。)
に関する事項 6 税金の申告、納村並びに不服忠杢申立てに関する事項 7 医療契約、入院契約、介護契約その他の相社サービス利用
142 0おひとり様にお勧めしたい契約・その他
契約、お社関係施設入退所契約に関する事項
8 妥介護認定の申請及び認定に関する承認又は異議申立て並びにお社関係の措置(施設入所措置を合む。)の申請及び決定に対する異議申立てに関する事項
9 シルバー資金融資lll皮、長期生活支援資金lll度等のお社関係融資tll度のrll用に関する事項
10 登記済権fll証、F鑑、F鑑登録カード、住民基本台帳カード、預貯金通帳、各種キャッシュカード、有価証券。その預り証、年金関係書類、土地。建物質貸借契約吉等の重要な契
約書類その他重要書類の保管及び各事項の事務興理に叉要な範囲内の使用に関する事項 11 住民票、戸籍膳抄木その他の行政機関の発行する証明吉の請求及び史額に関する事項 12 登記・登録の手続き及び不服忠杢申立て並びに供託手続きに関する事項 13 重産分割の協議、遺留分侵害額請求、相続衣乗、限定承認に関する事項 14 贈与着しくは壼贈(負担村の贈与着しくは遺贈を合む。)の受誌又はIE絶に関する事項
15 裁判外のお解、示談並びに4■裁契約に関する事項
16 以上の各事項に関する行政機関への申請、行政不服申立て、紛争の拠理(弁護士に対する民事訴訟法第55条第2項の特別薇権事項の授権を合む訴訟行為の委任、公工証書の作成嘱託を合む。)に関する事項
17 復代理人の選任、事務代行者の指定に関する事項
18 以上の各事項に関連する一切の事項
第7章死後事務委任契約の活用 143
日公正証書遺言及び遺言執行者指定
この点は第1章で言及しましたので、省略します。
■尊厳死宣言公正証書
医学の発達は目覚ましいものですが、一方で、「延命目的の医療措置は受けずに、人間としての尊厳を保った状態で死を迎えたい」「医療費の高額化で家族に経済的負担をかけたくない」と考える患者がたくさんいるのも事実です。
家族としても、延命措置を続けるか取り止めるかは意見の分かれるところですし、延命措置を断る場合の精神的負担は大きいものです。自分がどうしてほしいかをあらかじめ意思表示しておくことで、このような家族の負担を避けることができます。
●尊厳死宣言公正証書
尊厳死宣言公工証吉
木公証人は、尊厳死宣言着.L口太郎の嘱託によりかわ元年○月○日、その陳述内容が嘱託人の真意に基づくものであることを確認の上、宣言に関する陳述の趣旨を録取し、この証書を作成する。
第1条私慟口太郎は、私が将来病気に羅り、それが不治であり、かつ、死期が迫っている場合に備えて、私の家族・縁着及び私の医療に携わっている方々に以下の要望を宣言しま
144 0おひとり様にお勧めしたい契約。その他
す。
1 私の疾病が児在の医学では不治の状態にllaり、既に死期が迫っていると担当医を合む2名以上の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでくだいヽ。
2 また、私の薔痛をわらげる処置であるとしても、麻薬などで各睡状態に陥るようなことは望みません。
第2条私に前条記載の症状が発生したとき|よ、医師も家族・縁者も私の意思に従い、私が人間として尊厳を保った安らかな死を迎えることができるよう御配慮ください。
第3条私のこの宣言による要望を恙実に果たしてくだきる方々に深く感謝申し上げます。そして、その方々が私の要望に従ってされた行為の一切の責任は、私自身にあります。警察、検察の関係者におかれましては、私の家族。縁着や医師が私の意思に沿った行動を執ったことにより、これらの者を犯罪捜益や訴この対象とすることのないよう特にお願いします。
第4条この宣言は、私の精神が使全な状態にあるときにしたものであります。したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤口しない限り、その効力を持続するものであることを明らかにしておきます。
第7章死後事務委任契約の活用 145
日生前整理
見落としがちな対策として、生前整理があります。おひとり様が亡くなった場合、死後事務のオプションとして遺品整理を行うこともできますが、生前にご自身で取捨選択をしてもらうに越したこと
はありません。
生前に形見分けしたいものや捨ててよい物、売って換金してほしい物などを1人で整理してもよいですし、生前整理の業者に手伝ってもらいながらやってもよいでしょう。
筆者が懇意にしている生前整理の業者は、常に顧客目線で、本人やその家族の気持ちに寄り添いながら作業を進めてくれます。
また、生前整理が進むことによって、自宅内で物につまずいて骨折したり、ホコリで病気になったりすることを防ぐことにもなり、それが自宅での孤独死を予防することに繋がります。
ロエンディングノート
「おひとり様だからエンディングノートは必要ない」と考えている人もいますが、実はそんなことはありません。
おひとり様といっても、 ①家族と疎遠な場合 ②家族が遠方に住んでいる場合 ③家族に先立たれた場合 ④ l人っ子で生涯独身であるなど、早くから相続人が存在しない
ことがわかってぃる場合と、いろいろなケースがあります。もし、「家族はいるが、今は一人暮らし」(上記①、②)というだ
146 0おひとり様にお勧めしたい契約。その他
けなら、家族は親がどう考えていたのかを知りたいと思うかもしれません。天涯孤独だとしても、友人や後輩や教え子が死を悼んでくれるかもしれません。その人が生きてきた証として、エンディングノートの意味があります。
また、今をよりよく生き、自分自身を見つめ直すためのツールでもあります。
エンディングノートを書くことによって、たくさんの気づきが得られ、疎遠となっていた家族とまた仲直りができるケースもあるのです。
これらのさまざまな方策を、相談者の状態や状況に合わせてしっかりとヒアリングし、どう組み合わせるのが最もよいのかを精査してご提案ください。
・遺言作成死後事務の履行・契約締結任意後見契約・エンディング(判断能力低下に
ノート作成て任意後見開始 )
孤独死した人の遺品整理の現場から重度の孤独死の場合は、
① 家族が目撃したら、トラウマになることもある。
② 玄関のドアを開けられず、その場で泣き崩れることが起こる。
③ 大切な物や思い出がある物もゴミになる可能性が高くなる。
④ 相続放棄が待つていることもある。

第7章死後事務委任契約の活用 147
⑤棺桶が開けられない葬儀を行うことになる。
⑥部屋の復旧作業に高額を要することが通常である。
⑦近隣に迷惑をかける。
などが挙げられます。
片付けの場合は、認知症を患つている高齢者でも少しは自分の
気持ちを示すことができます。入院しても判断能力があれば、資
産のこと、想いを遺したいことや遺したい物について聞くことが
できます。しかし、孤独死の場合は、当然それらができなくなり
ます。
まず、普段からかかりつけ医がいなければ、救急車を呼んでも
病院に行くのではなく、警察がやつて来て、家宅捜索がスタート。
その後、検視が始まり、その後にやっと孤独死だつたと判断され
るそうです。
そして、遺品が消える可育旨性もあるそうです。
家族や第三者が家捜しをして、大金や高価な物を盗つてしまう
例もあるようです。
予防策としては、
0生前にきょうだいなど家族がコミュニケーシ∃ンを取ること・専門家を入れて生前整理を行うこと・生前整理と同時進行でエンディングノートを作成すること・資産を持つている場合は、元気なうちに公正証書遺言書を作成
すること
重度の孤独死は、何一つ良い点がないので、現実に目を背けず
に、真剣に取り組まなければなりません。
(参照)一般社団法人社会整理士育成協会 HP
148 0おひとり様にお勧めしたい契約。その他
新人相続コンサ|ルタン,トミチオの道1言執行業務日1誌~実践・はじめて,の道言執行~
では、実際に遺言執行者に就任した場合の具体的な動きをシミュレーションしてみましょう。主人公は、皆さんと同じように初めて遺言執行者となった相続コンサルタントの田中ミチオ君です。
年齢:31歳職業:相続コンサルタント
人材派遣会社を退職後、保険代理店に相続専門のコンサルタントとして10か月前に入社。前職時代からひそかに勉強して相続関係の民間資格をいくつか取得していたことが役に立つているが、まだ実務
経験に乏しいので右往左往することもしばしば。遺言執行者を務めるのは今回が初めて。6か月前に遺言コンサルティングを行つた際に、遺言書の中で遺言執行者に指定されていた。
150
遺言書作成
ちよっと時間をさかのぼって、ミチオ君が遺言書作成に関わつた場面を見てみましょう。
令和元年6月6日先日の相続相談会からのお問い合わせで山之内省吾様と面談。末期がんで入院中のお父様(慶吾様)が遺言書の作成を希望し
ているとのこと。ヒアリングシートを使つて、家族関係、おおよその財産内容、慶吾様の希望している財産の分け方を聴取した。
<家系図 >
(3年前に死亡)
長女次男長男(相談者 )真弓誠吾省吾
<財産内・不動産 容 >東京都杉並区の自宅土地建物

第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 151
埼玉県越谷市のマンシ ∃ン1室(誠吾が居住 )・預貯金 4,100万円・生命保険 1,500万円(受取人は真弓 )<遺産の分け方の希望>・省吾自宅土地建物
預貯金全部 ※先祖の墓守もしてもらいたい。・誠吾マンシ ∃ン1室・真弓なし(8年前に住宅購入資金として1,500万円を贈与したことを考慮 )遺言書の案文作成については士業の先生に依頼する必要があるので、後日その先生と一緒に入院先の慶吾様に会いに行くことを
説明した(知人の行政書士の三ツ輪先生に打診する予定)。慶吾様が書き込んだというエンデイングノートのコピーを取らせてもらつた。付言事項が必要な場合には参考になるかも。
■此 &
一橋先生は相続コンサルタントとしての活動歴が長いですが、
遺言コンサルティングをする場合、相談のきつかけはどのよう
なものが多いですか?
私の場合、11年前に相続コンサルタントをし始めた頃は、エンデイングノートの書き方セミナーの受講生や知友人からの紹介が多かつたですね。現在はほとんどが以前、相続相談を受任したクライアントからの紹介か士業の方からの紹介です。
懸相
152〔Scenel〕遺言書作成
ヒアリングシートは、どのようなものを活用していますか?
相続診断協会が相続診断士用に用意してくれているヒアリング
シート(218頁以下参照)と方眼紙を補足として使用してい
0
―橋ます。方眼紙は色々と自由に書き込めるので重宝しています。本件のような遺言のご相談の場合に、相続コンサルタントとし
て必ず確認しておくことや、相談者にお勧めしていることはありますか?
まずは、財産を誰にどのように分けたいのかと、その理由は必
ずお伺いします。
あと、今までの家族関係やそれぞれの子との関係性(仲が良い
のか、音信不通なのか、どんな性格かなど)もお伺いするよう
にしています。
その他、財産のおおよその金額をお聞きした時点で、相続税の
基礎控除を超えることが明らかな場合には、税理士に相続税の
試算を依頼するようお勧めすることもあります。相続税対策を
するなら、それも考慮したうえで遺言書を作成したほうがよい
からです。
そういう意味では、相続コンサルタントも最低限の税法知識は
必要ですね。法的な知識についても、相続人の範囲や法定相続
分の計算程度は正確にできるようにしておきたいものです。
一橋先生は保険募集人の資格もお持ちですが、遺言相談の中で保険商品をお勧めするタイミングつてありますか?
第8章新人相続コンサルタントミチオの選言執行業務日誌 153
懸相 ●相0勒
橋橋
0相0一0勒0・
154〔Scenel)遺言書作成
そうですね、まず本件では、不動産価格は正確にわかりませんが、遺留分侵害になる可能性があります。先ほどのミチオさんの生命保険がらみの質問で言えば、私は本件で遺留分侵害の可能性がある真弓様を受取人にするのではなく、省吾様を受取人にして遺留分対策資金としたほうがいいと思います。木野先生は、遺言者の希望どおりの遺言内容にすると遺留分侵害が起きそうな場合、どのようなアドバイスをしていますか?
これにはいろいろな考え方があると思いますが、私の場合は、遺留分侵害によつて後になつて相続人間で遺留分侵害額請求が問題となるリスクがあることを説明します。ただ、実際には遺留分権者が遺言書に納得して遺留分侵害額請求をしないケース
も多いので、上記のリスクを理解してもなお遣言者の希望が変わらなければ、そのまま遺言書作成に進むようにしています。
そうそう、不動産価格や有価証券価格は不確定要素ですよね。遺言書を作成する時点では「これなら絶対に遺留分侵害はない」
と断言できないですし、断言しないようにしています。
最近、生前の家族会議が推奨されていますが、遺言書作成に当たつて遺言者が相続人を集めて内容を話し合うということもあるのでしょうか?
相続人同士が集まり内容を話し合うことができる家族はもちろん、家族会議を開いておくといいと思います。家族会議を開いて全員一致で遺言書を作成することを支援している相続コンサルタントもいます。可能であればお勧めしますが、中にはどうしても相続人を集めて話し合うことができないという方も多く
懸相0相0橋一
いらっしゃいます。その場合は無理をせず、付言やエンディングノートを活用するということもできると思います。
士業との連携という点では、ミチオ君は知人の行政書士に遺言
書作成をお願いするようですが、一橋先生はどのようにして士
業のパートナーを見つけたり、使い分けたりしていますか ?
私は大前提として相続診断士である士業と組むようにしていま
す。「笑顔相続」という共通の理念がありますから、お互いに
意思の疎通がしやすいです。
その他のポイントとしては、揉めることが最初から想定できる
ような案件は弁護士と、揉める可能性が少なく不動産が多い案
件は司法書士と、揉める可能性が少なく不動産も少ない場合は
行政書士と、というふうに使い分けています。
遺言書作成は相続コンサルタントがやるわけにはいきません
が、相続コンサリレタントによるエンディングノートセミナーと
いうのは最近よく見聞きします。
はい。私もこの仕事を始めた当初はエンディングノートの書き方セミナーを中心に活動をしていました。遺言書はただ書くだけではかえって揉める場合がありますので、どうしてそのような遺言内容にしたのかを付言事項にする
ことはできると思います。ただ、付言事項だと公正証書遺言の一部となるため、きめ細かく対応できない部分もありますから、それを補完する意味でもエンディングノートは有効だと考えています。それ以外にも家族への連絡帳として葬儀やお墓、形見分けや得意料理のレシピなど色んなことを遺すことができると
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 155
t思

い。
今、一橋先生からお話が出た遺言書での、末尾の付言事項という部分であれば、法的なものではないので相続コンサルタントがお手伝いすることができますよね。
はい。私は自分のことを付言専門家と称しています(笑)。ここはいかに相続人の思いを代弁できるか、相続コンサルタン
ます
一橋
●相0
トとしての腕の見せどころですね。
本件のように、遺言者が高齢や重病で遺言書作成を急ぐ場合、時間との戦いという面がありますよね。公正証書遺言の作成準備をしている間に、自筆遺言をとりあえず作成するのも1つの方法です。本件のように遺言者が入院中の場合は公証人に病院まで出張してもらうことになるので、日程が通常より少し先に
なつてしまうことも考えられます。
ところで、遺言執行者に指定されると、遺言書作成後もいざと
なつたら相続人と連絡がつくようにしておかなければなりませ
ん。相続コンサルタントとして、どのような仕組み・工夫が必
要でしようか。
そうですね。私はすべての相続人の連絡先、例えば連絡のつきやすい携帯番号や会社名などもお伺いするようにしています。中には「相続人がどこに住んでいるのかさえ知らない」とおつしゃる方もいらつしやいますから、事前に一緒に遺言書作成を依頼する士業の方に調べていただくようにしています。
0橋一
156(Scenel〕
遺言書作成
●遺言公正証書の例
童言公正証吉
木公証人は、重言着である山え内慶吾の嘱託により、証人ロ十ミチオ、証人ニツ輪わ人の立会のもとに、童言者の口投した重言の趣旨を次のとおり筆記して、この証書を作成する。
第1条童言者は、童言者の有する次の財産を出え内着吾(長男:昭わ40年11月15日生)に相続させる。(土地)所在杉並区ムタ:13丁目(十略)
(建物) (十略)第2条童言着は、遺言者の有する次の財産を出え内誠吾(次男:昭和41年1月5日生)に相続させる。(敷地権の表示)所在越谷市大山5qO春地
(十略)
(一棟の建物の表示) (十略)
(専有部分の表示) (十略)
第3条遺言着は、重言着が金融機関との間で預託契約等を締結している預貯金、金銭の信託、株式、公社横、投資信託、預け金、金債権その他の預託財産、有価証券及びこれらに関する未払配当金その他の一切の権rll並びに汎金を上記山え内着薔に相続させる。
第4条董言者は、祖先の祭祀を主キすべき者として、上記出え内着手を指定する。第5条重言者は、本遺言の童言執行者として、次の者を指定する。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 157
東京都曰黒区十夕:15-11-2笑顔の保険株式会社相続コンサルタントロ十ミチオ(昭わ63年11月15日生)
2 上記重言執行者は、この童言に基づく不動産に関する登記手続き並びに預貯金等の金融資産の名晟変更、解約、払戻し、払戻金の受領及び公金庫の開扉・解約その他この量言の執行に叉要な一切の行為をする権限を有する。なお、叉要に施じて第二着にその任務を行わせることができる。
第6条遺言執行者に対する報酬lよ、遺言執行対象財産のパーセントとし、遺言執行に要した実費の負担についてlよ、今和元年6月28日付け童言執行報酬確認吉によるものとする。
(十略)
【村言事項】
私はこれまでの人生を振り返って、大きく思い残すことはないが自分の重した重言で君たちが揉めることがないかそれだ|すが気がかりです。
今まで、一生迅命に自分と家族のために働いてきましたがどういう考えを持っていたかも君たちに話したことはあまりなかったね。
父さんの時代、男は寡黙で奈計なことは言わずただひたすら働くことが美穂とされていました。ただ、母さんを先にせくし本当に彼女にとって私はいい夫だったのかと自問自答したものです。そんな私を君たちはハたいと感じたこともあったかも
158〔Scenel)遺言書作成
しれなヽヽね。
自分自身ががんを患い奈令いくばくもないと知ったと
き、母さんへ伝えてやれなかった後悔も合めて君たちに
は父さんの俎いをIIIって欲しいと、この手紙を言いてい
ます。
そんなに多くない財産で君たちが争うことのないよう
にそれが父さんの最後の願いです。
どうか揉あることなく、きょうだい仲良く幸せに暮らしてください。母さんもきっとそう願っているはずです。お前たちは父さんと母さんの宝物でした。
今まで本当にありがとう。
真弓ヘ
お前には今回、何も重してやれないが、住宅購入資金
として1500万円の援助をしているので、それで納得
をして欲しい。
その他に生命保険もお前を受取人として1500万円はあると思う。
自宅不動産と預貯金は今後、長男として基キや親蔵村き合いなど面Fllなことをやってもらう着吾にオロ続させたヽヽと考えてヽヽる。
お前にしてみれば、自分だけ少なく感じるかもしれないが聞き分けてもらえなヽヽだろうか。
最後に生まれてきたのが女の子でお父さんはお前のことは上の二人と違って日の中に入れても痛くないほど可愛かった。お前が生まれた日のことを父さんは今でもはっきりと党えているよ。
だからこそ、使わない不動産よりも滉金のほうが、ヽい
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 159
と思った。お金は今後の生活のために有効活用してくれ
ると嬉しい。
お兄ちゃんたちと仲良く、これからも幸せな人生を
送っていlするよう母さんとあの世からお前のことを見
キっているよ。
誠薔ヘお前は次男だということもあって、なかなか接する時間が取れずに寂しい思いをさせたね。父親として満足な時間を取れなかったことが悔やまれる。今、思えばもっと一緒に酒を飲んだりいろんな話をしておけばよかったと後悔している。本当にすまない。
今回はお前には誠吾が現在、住んでいるマンションを遺そうと思う。若吾に比べて少なく感じるかもしれないが、これから墓キや法事など面Fllなことをしてもらうのと、な吾の奥さんに病院の送り迎えや父さんの身の回りのこと一切を母さんが七くなってからずっとやってもらっていたので、おネしの意味も込めてこのような形にしようと思った。
どうか納得してほしい。母さんもあのせからそれを望んでいると思う。お母さん子だったお前なら理解してくれると信じてい
る。家族仲良くきょうだい仲良く幸せに暮らしてほしい。
若吾ヘお前は長男だからとこれまでも一春厳しく、また面Fll
160〔Scenel)遺言書作成
なことはすべてお前に押し村けてしまったね。
それに対して、文句を言うことなく母さんが七くなった後も家族で支えてくれたことを木当に感謝している。ほかの二人よりは多めに財産を重すが、どうか先祖の
基キを長男としてしっかりやってほしい。いつも長男だからと我・ばかりさせてきたが父さんの
l■
最後のお願いを聞いてもらえると嬉しい。誠吾と真弓のこともよろしく頼む。きょうだい仲良く幸せな人生を送ってくれることをあ
の世から願っている。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 161
遺言者死亡の第一報からお通夜まで
遺言書が作成されてから実際に遺言者が亡くなって相続が開始するまでに、時には十数年経つこともありますが、思いがけず早くにその時がやってくる場合も少なくありません。
遺言者が亡くなった直後の場面を見てみましょう。
令和元年12月3日
省吾様から携帯電話に連絡があり、一昨日の午後に慶吾様が亡くなつたとのこと。お悔やみを申し上げ、お通夜と告別式の日程を伺う。
18時、令和やすらぎホールにてお通夜に参列。省吾様のほか、他のこきょうだいにも挨拶することができた。きょうだい仲が良さそうなので安心した。
省吾様に遺言書正本を送つてもらいたいとお願いするはずだっ
たが、喪主として忙しそうにしていたので控えることにした。
突然の訃報を受けた時にお悔やみの言葉を何と述べたらよい
か、特に若い相続コンサルタントは戸惑うことも多いと思います。
亡くなつた方がどなたかによって違うケースもあるので(仕事
関係者か知人・友人の肉親か自分の親戚か目上の方か後輩かな
(Scene2)週言者死亡の第一報からお通夜まで
●相0で

0シ0・
ど)、今回は一般的な例をご紹介したいと思います。
*
このたびは誠にご愁傷様です。心からお悔やみ申し上げ |

ます。 |

*
このたびは突然のことで、お力をお落としと存じます。|お慰めの言葉もございません。 |

*
○○様のご逝去の報に接し、謹んでお悔やみ申し上げま |す。突然のことでご落胆もいかばかりかと存じますが、|どうぞご自愛くださいますよう。ご冥福をお祈り申し上 |げます。

このたびは○○様のご逝去の報に接し、心からお悔やみ申し上げます。私にできることがあればいつでも連絡してください。心よりご冥福をお祈りいたします。 なるべく短めに忌み言葉(重ね言葉・繰り返す言葉:重ね重ね、ますます。生死にかかわる言葉:死、死去、急死。不吉な言葉:苦しみ、消える。)を使わないようにします。
なるほど。お通夜や告別式がこれからという段階で訃報を受け
た場合、相続コンサルタントの立場で参列したほうがよいので
しょうか。また、遠方であるとか仕事の先約があるなど参列で
きない場合はどうするのがベストでしょうか?
遺言者や相談者との関係にもよると思いますが、私は参列できる限りは参列しています。どうしても予定が付かないなど難し
い場合は献花か供花をお贈りしています。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 163
●樹0橋・
参考までに、お香典の金額はどうしていますか?
遺言執行者に指名されている場合は1万円ですね。もつとも、香典の金額は、大体の目安と故人との関係性により変わります。一般的な香典の相場をご紹介しましょう。 ①両親:5万円~10万円 ②祖父母:2万円~5万円 ③兄弟姉妹:2万円~5万円 ④友人、知人、隣人:5,000円~2万円 ⑤仕事関係者:5,000円~2万円 ⑥顔見知り程度であれば3,000円~5,000円ただし、年代によっても違うため、大まかに表にまとめましたので参考にしてみてください。
5,000円
職場関係5,000円5,000円~10,000円
勤務先の5,000円
社員の家族5,000円5,000円
取引先5,000円5,000円10,000円3,000円
友人・知人~5,000円5,000円5,000円
3,000円
友人の家族~5,000円5,000円5,000円3,000円
隣近所~5,000円5,000円5,000円
10,000円10,000円
祖父母10,000円~30,000円~50,000円
両親50,000円100,000円100,000円
~100,000円兄弟・姉妹30,000円50,000円50,000円10,000円
おじ・おば10,000円10,000円~30,000円
5,000円10,000円
その他の親族~10,000円10,000円~30,000円
164(Scene2)遺言者死亡の第一報からお通夜まで
橋橋
●相0一懸相0一 ●相
葬儀の時に誰がどうだつたという話は、後々まで話題になるものです。お通夜や告別式の席に家族や友人ではなく相続コンサルタントとして参列する際の振る舞い方や注意点はありますか?
私は喪主の方へのご挨拶とお焼香が済みましたら、通夜振舞い等はご遠慮してなるべく早めに引き上げるようにしています。あの人は誰だろうと、余計な詮索を生まないためです。
亡くなつて間もないお通夜や告別式の席で、相続コンサルタン
トの方から遺言書の話を持ち出すのは控えた方がよいと思いますが、いかがでしょうか?
ミチオ君、お通夜の席でいきなり喪主に向かつて「遺言書正本を送つてください」というのは場にそぐわないので、言わなくてよかつたですよ。喪主はそれどころではないはずです。
私は弁護士という職業柄、ご家族の仲が良くないケースヘの関与も多いです。誰が聞いているかわからないので、遺言書や相続などという話題には一切触れず、なるべくひつそりと焼香させていただき、参列者に話しかけられたら「息子さん(本件では省吾様)の仕事関係者です」などと答えています。ちなみに、遺言書正本はすぐに必要になるわけではありません。当面は遺言書のコピーや膳本で十分です。
私は、遺言執行者に単独指定されている場合は自分で遺言書正本を預かつて保管しますが、士業と共同指定されている場合は士業に保管してもらってコピーをお預かりするようにしていま曳
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 165
遺言執行者としての初動
遺言者が亡くなったということは、相続が開始し、遺言執行者としての役割を果たすために動かなければならないということを意味します。
さて、遺言執行者の初動とは ?
令和元年12月11日慶吾様が亡くなつて10日間が経過。省吾様のパートナー(内縁の奥様)の奈美様を通じて、相続人全員の住所地や電話番号を把握できた。
必要な戸籍を取り寄せるため、奈美様に慶吾様の除籍謄本をお持ちかどうか問い合わせたところ、3通持つているとのこと。前もつて改製原戸籍の取寄せもお願いしておけばよかつた……。
戸籍の取寄せが完了したら、遺言執行者に就任する旨の通知書
と遺言書正本のコピーを全相続人に郵送する予定。
○取り寄せるべき戸籍・遺言者の出生から死亡までの戸籍・相続人全員の現在戸籍
○遺言執行者就任通知書
童言により量産を相続される皆様へのご連絡
今わ元年12月 ×日故・山え内慶吾様遺言執行者口十ミチオこのたびは、故・慟え内慶吾様ご逝去の由、ll■んでお悔や

み申し上げます。
166〔Scene3〕遺言執行者としての初動
このようなときに誠に思縮ではございますが、慶吾様作成
のかわ元年6月28日作成の公正証吉童言(木吉面に添付)
第5条におきまして、′|ヽ載が遺言執行者に指定されておりますので、就任のご通知をさせてぃただくとともに、以下のご説明をさせていただきます。
1 童言執行の具体的な進め方について小載のほうで遺産曰録を作成しだい、皆様のご自宅宛てにお送りいたします。
慶吾様の遺産は不動産と預貯金でございますが、不動産に関する童言執行(移転登記手続き)につきましては、本件重言公工証書第5条第2項後段により小職が依頼する司法吉士から、該当する相続人様えてに直接ご連絡させていただきます。
預貯金に関する童言執行につきましては、同量産の取得着である相続人様に′|、載からご連絡させていただき、順次進めてまいります。
2 童言執行にかかる費用のご負担について(1)実費童言執行にかかる実費につきましては、上記童言吉第6条により、かわ元年6月28日付け童言執行報酬確認吉(本書面に添付)に基づく実費を取得した重産頼に施じて各相続人様にご負担いただくことになります。なお、不動産の彩転登記手続きに関する実費につきましては、上記司法吉士から各オロ続人様えてにご請求いたしますので、直接お支払いください。(2)報酬董言執行報酬につきましては、上記遺言書第6条に
第8章新人相続コンサルタントミチオの過言執行業務日誌 167
より童言執行対象財産の1%となります。これにつきましては、各相続人の取得した重産(不動産の場合は固定資産税評価頼)を基準に算定いたします。
(3)以上につきましては、慶吾様もご了解の上で重言公エ証吉及び童言執行報酬確認吉に明記された事柄ですので、ご理解。ご協力いただ:すますようお願い申し上げます。
3 なお、オヨ続税申告につきましては、童言執行者の業務の範囲外になりますので、ご留意ください。オヨ続税に詳しい税理士におた当たりのない場合には、ご紹介することも可能ですので、 ′|ヽ載までお気軽におr・lい合ゎせください。(添村書面着略)
遺言執行業務との関係で省吾様と連絡を取るタイミングについては、気を遣いました。
確かに悩ましいです。遺言執行者としての義務も果たさねばな
りませんが、相続人の繁忙度や、遺言者がどのような最期であつたかにも気を配るべきでしよう。高齢で衰弱していらした方なのか、上ヒ較的若い方が事故や自死でお亡くなりになつたのかで、相続人の気持ちの整理のスピードが異なります。
0私は原則として「初七日の法要後」まで待つてから、ご連絡しています。連絡方法としてもお電話する場合と書面でご連絡す―橋る場合があります。168〔Scene3〕
遺言執行者としての初動
0〕●相
生前に相続人の方々とコンタクトが取れていた場合はお電話
●新0勒0橋・0相
で、面識がまるでない場合は書面で、というふうに使い分けた
りしています。また、諸事情で(気持ちの整理がつかないなど)初七日を過ぎてもご連絡しにくい場合は書面に切り替えます。
遺言コンサルティング時にも作つていると思いますが、相続関係図を早めに準備しておくとよいでしよう。自分の手控え的なメモではなく、金融機関や税理士、司法書士など遺言執行で関わる人に提供するためのものです。
戸籍の取寄せがスムーズにできるかが心配です。
私は、なるべく相続人の方に依頼するようにしています。市区町村役場に死亡届を出してから大体1週間から10日(本籍地に届け出を出す場合は約1週間、本籍地が遠方の場合は約
10日)くらいで被相続人の除籍が記載された戸籍(又は除籍 )謄本を取得することができますが、相続人がそれを取りに行く際に「同じ市区町村にあるお父様の戸籍を全部もらつてきておいてください。あなたやご兄弟の戸籍も同じ市区町村にある場合には、一緒に取つてきておいてください」と伝えておきます。そして、不足する戸籍だけ遺言執行者の方で取り寄せますが、士業と一緒にチームを組んでいるケースでは、士業に依頼するのが一番早いと思います。
令和元年5月に成立した戸籍法改正で、直系ならば1つの市区町村役場で戸籍が取れるようになります。兄弟姉妹や叔父叔母は従来どおりとはいえ、直系だけでも従来と比べるとずいぶ
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 169
●) ●相
ん簡略化されますね。ただし、実際にそのような新システムが動き出すまでにはまだ時間がかかりそうです。現状では、戸籍を順繰りに取り寄せて、転籍先などをたどっていくしかありません。
戸籍の読み方に慣れるまでは、士業にチェックしてもらうとよいでしよう。実際に戸籍を取り寄せてみて、相談者も知らなかつた相続人の存在が発覚する場合もまれにあるんですよ。住所がわからない相続人がいる場合は困りますね。戸籍をまず調べて、次にその戸籍の「附票」を取り寄せると現在の住民票上の住所がわかります。
法定相続情報証明書を取つたほうがよい場合はどんな場合でしようか?
預金の払戻しなど、その後の遺言執行手続きを考えると、法務局によつて審査済みの相続関係図を書いた法定相続情報証明書
1枚で済むなら簡便であるようにも思えます。ただ、戸籍の代わりに法定相続情報証明書を出したからといって、本当に銀行などの手続きのスピードに影響するかどうかは疑間です。法務局で法定相続情報証明書を取る際には、法務局が相続関係を独自に調べてくれるわけではなく、申請者が従来どおりの戸籍一式を提出しなければなりません。実際には法定相続情報証明書はそれほど使われていないようにも思います。
170〔Scene3〕遺言執行者としての初動
税理士との打含せ
遺言執行者の職務として、遺産目録の作成・交付があります。相続税申告が必要な場合には、税理士と連携して、資料集めを事
実上税理士にお願いしてしまってもよいでしょう。
令和2年1月8日省吾様と奈美様が来社。
事前に「相続税申告をお願いする税理士を紹介してほしい」との連絡を受けていたので、提携先の税理士法人丁TPの大原先生に同席してもらった。
大原先生から省吾様と奈美様に、後日送つてもらいたい書類や資料を指示。こちらで持つていた戸籍 ―式と遺言書のコピーを大原先生に預けた。
遺産目録(不動産評価額を除く)ができたら知らせてもらい、
それを整えて全相続人に送ることとする。奈美様から「死亡保険金はもう請求してよいのでしょうか。遺
言執行者のほうで請求手続きを代行してくれないのですか」とのこ質問があつた。
相続税申告のために、税理士の紹介を頼まれた時はどうしていますか?
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 171
懸相
0橋一●相00シ
一橋
私は普段から何人か相続診断士でもある税理士と業務提携していますので、依頼者の性格や住んでいる場所などから相性がよ
さそうな税理士をご紹介するようにしています。
念のためですが、相続税申告は、もちろん遺言執行業務の範囲外です。税理士が遺言執行者に指定されている場合、相続税申告まで自動的に受任できるわけではないので、相続人にきちんと立場を説明したうえで、依頼の有無を確認することが望ましいです。「父の税理士はあまり信頼できない人なので頼みたくなかつたが、遺言執行者の仕事の一環だからと言われて相続税申告を任せた。その税理士は相続税申告に慣れていないようで、
申告後に別の税理士にセカンド・オピニオンを求めたら税金の払い過ぎになつており、大幅な還付が生じた」という話もしば
しば聞きます。
専門性は大事ですね。医者と同じで税理士にも専門分野があり
ますから、相続税に強い税理士をセレクトするのは大切だと思
います。年に2、3回しか相続税の申告をしないという方では
心配ですね。
相続人に交付する遺産目録の作成を遺言執行者が自力でやる場合は大変そうです。
そこをいかに手際よく漏れなく正確にやるかが、遺言執行者の腕の見せどころ。生前から遺言者とコミュニケーションを取つて、1つか2つの回座に預金をまとめていただくようアドバイスするとよいと思います。私は相続が発生するまで顧問契約を結び財産管理なども受任して、財産を正確に把握するように心
172〔Scene4〕
税理士との打合せ

●相0・0勒●樹
がけています。もちろん、すべての方と顧問契約を結ぶわけではないため、日頃からのコミュニケーションは大切ですね。
預貯金は遺言者が亡くなった日の残高を書くことになりますが、不動産や有価証券はその評価額をどうするか悩ましいですね。法的には遺言執行者の作成する遺産目録に評価額の記載までは求められていませんが、もし記載するとすれば、不動産は固定資産税評価額、有価証券は亡くなつた日の評価額(終値)を記載すれば相続人にとっ←応の目安になると思いま魂未上場株式は数量のみ記載して評価額は空欄とするしかないでしょう。
遺産目録を交付された相続人のほうで、さらに詳しく調査をすることも考えられますね。相続人であれば被相続人の預金の取引履歴を10年間遡つて調査することもできます。その中で特別受益や不審な預金引出しが発覚するケースもあります。
死亡保険金の請求手続きについて相談されました。うちの会社で取り扱つたものではないのですが、どこまで関与してよいのでしようか?
死亡保険金は民法的には遺産ではありませんが、税法的には遺産として扱われます。相続人にとつてはそんな細かい違いはわからないので、とりあえず相談できそうな人に聞いてくる傾向があります。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 173
0結
ミチオ君が取扱者でない場合は、手続きを代行することはでき
ません。契約者もしくは受取人から保険会社に連絡し、必要な書類を取り寄せるか、担当者がいる場合は担当者に連絡をして、手続きのサポートをしてもらってください。保険会社名がわかつているのでしたら、ミチオ君のほうで問合せ窓口に連絡し、必要書類などは問い合わせてサポートしてあ
げることはできます。保険会社によつて手続きの仕方や必要書類も違いますので、そのあたりをお手伝いしてあげてはどうで
しよう。
受取人指定がない保険契約は法定相続人が法定相続分に応じて受け取ることになりますね。遺産と間違えそうですが、保険会社のほうでは具体的にどのように全相続人に分配するのでしようか?
それも保険会社ごとに違いますので、各保険会社にその時になつて問い合わせるしかありませんが、法定相続人の代表者を決めて代表者選任届。保険金請求書・死亡届のコピーと被保険者の法定相続人(全員)であることを確認できる「被保険者等の戸籍騰本」を添付して書類を送ると代表相続人の回座に振り込まれます。その後、相続人が話し合つて誰がいくら受け取るかを決めることになりますので、揉める可能性もありますし、手続きも煩雑です。受取人を法定相続人とするのはなるべく避けたほうがいいと思います。
174(Scene4〕税理士との打合せ
遺産目録の送付と不動産登記手続き
いよいよ、遺言内容の具体的な執行に着手していきます。何をどの順番でやっていくべきなのでしょうか。
令和2年1月30日慶吾様の四十九日の法要も終わり、税理士の大原先生から遺産目録(ただし、不動産の評価額は空欄)の送付を受けたので、形式を整えて相続人全員に送付した。
遺言書に従つた不動産登記をすることになつたので、朝イチで提携先の司法書士の水上先生と打合せをした。
手持ちの遺言書正本と戸籍―式の原本を預ける。水上先生から「登記簿謄本か登記情報を持つていますか」と言われたので、大原先生にPDFで送つてもらつていた登記情報を
0勒
渡した。
省吾様と誠吾様の連絡先を教え、あとは直接書類のやり取りをしてもらうこととなった。省吾様にも水上先生から連絡が行く旨を伝え済み。
登記手続きが終わるまで、遺言書正本は返してもらえないとのこと。預金の払戻しを先にしたほうがよかったのだろうか。
税理士の先生でも、遺産目録の作成に結構時間がかかるものですね。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 175

●樹0勒0橋一0勒0・
医療費や施設入所費など、後から精算するべき債権債務の確認もあるのだと思います。関係各所からの通知書が届いて初めてその存在がわかることも多いのです。相続債務の支払いは遺言執行の範囲外なので、遺言執行者が支払う必要はありません。相続人には、「相続債務の支払明細をノートなどにつけておいたほうがいいですよ」とアドバイスしています。亡くなる前後に相続人があわてて引き出した現金については、その使途をめぐつて争いになることも珍しくありません。
司法書士の先生に登記だけをお願いする場合、どういう方を選んだらよいでしようか。
不動産登記だけとは言つても、私ならいつも提携している相続に詳しい司法書士にお願いします。相続に詳しい方だと手続きもスムーズですし、ご遺族(相続人)の感情を逆なでしないよういろいろと細かいところまで配慮できる方を選ぶといいと思います。
司法書士と相続人との面談には相続コンサルタントも同席する
べきでしようか?
―概には何とも言えませんが、まだ遺言執行に慣れてない時期であれば勉強のために同席するのもいいと思います。また、相続人の方に同席を依頼される場合もありますので、その場合はできるだけ同席するようにしています。
176(Scene5〕遺産目録の送付と不動産登記手続き

●勒●樹0勒0一0勒懸相
登記簿謄本と登記情報の使い分けがわかりません。
権利関係の確認や、相続チーム内の情報共有という用途であれば、登記情報で十分だと思います。これに対して、法務局、税務署、金融機関、裁判所などに対して公に権利関係を証明する書類としては、登記官の認証のある登記簿謄本が必要になります。
司法書士に頼まずに、遺言執行者が自力で移転登記できるもの
なのでしようか? できるなら、勉強のために一度やつてみたい気がします。
遺言の内容によつては、遺言執行者を申請者の一人として移転登記できる場合もあるようです。でも、私は何でも全部自分でやろうとせずに、専門家である司法書士に任せるようにしています。そうすればスムーズに手続きできますし、後々のご紹介にも繋がります。
遺言執行を効率的にやるための順番つて、あるんですか?
どの手続きにも、1通しかない公正証書遺言正本を持参又は送付しなくてはならないから、順番は考える必要がありますね。金融機関は、戸籍謄本の原本や公正証書遺言正本など返却してほしいものに「コピー後、原本を返却してください」と付箋を貼つたりしておけば、わりとすぐに返送してくれます。でも、法務局や裁判所などへの提出時には注意が必要です。手続きの内容にもよりますが、原本の返却がそもそも不可という
第8章新人相続コンサルタントミチオの選言執行業務日誌 177
書類もあるし、最初から原本のほかにコピーを同封して、コピーの余白に「原本と相違ありません」と書いて署名押印するとか、返送用封筒の同封などの条件がある場合もありま丸ホームページではそこまで細かい説明が書かれていないこともあるので、送る前に担当部署に電話確認したほうがよいでしょう。書類不備による時間のロスを防ぐために、私はどんな手続き・どんな機関であつても、必ず事前の電話をして、同封書類の内容や結論が出るまでのスケジュールの目安を細かく確認しています。
私もそう思います。役所もそうですが、同じ金融機関でも支店ごとに微妙に扱いが違つたりするんです。それから、手元を離れる書類については念のためコピーを取つて保管しておくことも基本です。
顧客ごとにファイルを作成し、センシティブな情報も多いですから施錠できる場所に保管して管理することも大切ですね。
ミチオ君の質問への答えとしては、一般的には預貯金の払戻しをしてから不動産登記という1贋番がお勧めでしたが、民法改正により、今は不動産登記を優先させるようにしています。
不動産は、相続人が即売りたいという場合もありますね。一橋先生は、そのような場合どうしますか?
橋0
0・0橋・

178〔Scene5〕
この場合も相続に強い不動産会社と連携するようにしています。不動産会社ならどこでもよいわけではなく、例えば駅前にある不動産会社は賃貸契約専門で売買は苦手ということもあります。ここでも、専門性をチェックする必要がありますが、日頃からそういう業者と繋がつておかなくては、いざという時になつて
遺産目録の送付と不動産登記手続き
探し始めても遅いと思います。また、相続税を納付するために売却する場合は納付期限の 10か月以内に売却の必要がありますので、ネットワークをしつか
り持ちフットワークの軽い不動産会社との付合いは必須になり
ます。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 179
預貯金の払戻しとゴルフ会員権の名義変更
預貯金その他の債権についての遺言執行は、相続人にとって最も関心の高い点といえます。なかなか煩雑な手続きですが、これを終えると遺言執行者としての職務は山を越えたといってもよいでしょう。
令和2年3月10日不動産登記が終了し、遺言書正本や戸籍 ―式を返却してもらつたので、今日は預金の払戻しのために3つの金融機関を回つた。
事前に各金融機関に電話連絡を入れて、相続手続用の書類を送つてもらつていたので、それに記入をして持参。それでも窓□での待ち時間は長く、移動時間も含めると1日に3か所が限度であるように思う。明日はあと2か所回る予定。
ゴルフ会員権は、名義変更しようとしたら、省吾様が退会手続きを希望されたので、名義変更の代わりに退会手続きをお手伝いすることにした。
遺言執行者として金融機関で預貯金の払戻手続きをするという
0のは、結構手間ひまがかかります。まずは書類の記入ですが、金融機関によってまつたくと言つていいほど、書類の書式や添一橋付すべき資料が違うんです 1 同じ金融機関でも支店が違つたり、同じ支店でも担当者が途中で替わつたりすると、扱いが微
180(Scene6)預貯金の払戻しとゴルフ会員権の名義変更
妙に異なるということもあります。
●新
そのたびに、本店に確認を入れてもらい、不備が出ないように何度も窓回の方に念を押しますが、それでも後々「不備が出たので書き直してください」という連絡が入り困ることも多々あ
ります。事前に、電話連絡をして必要書類などを確認していてもスムーズにいかないこともありますね。ある金融機関で「遺言執行者が親族ではないケースは経験した
ことがない」といわれて、たらい回しにされ唖然としたことも
あります。
私は補助者に窓口に行つてもらうこともあります。その場合も、遺言執行者から補助者への委任状の要否など細かい手続きが金融機関によつて異なりますので、事前に問い合わせておくべきでしょう。
金融機関の中でもメガバンクは窓回の担当者によつて対応が違つたり、同じ銀行でも支店によつて違う場合もあります。そのため、私はできるだけ最初から支店長などしつかりと対応できる方とお話をするようにしたり、その場で本部の相続担当窓口に確認の電話を入れてもらい不備が出ないようにしています。ゆうちょ銀行は、相続人がゆうちよ銀行に口座を持つていない場合は他金融機関に振込をしてくれないため注意が必要です。現金300万円を手渡されて近くの銀行から相続人の回座に振り込むまでの間、ヒヤヒヤしたことがあります。農協は名称が変わると、まつたく違う金融機関だと思つたほうがいいです。千葉県にある農協でも、例えば「JAちば東葛農協」と「JAとうかつ中央農協」では頭に「JA」が付いているか
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 181
懸相0橋一0〕●相
182(Scene6)預貯金の払戻しとゴルフ会員権の名義変更
らどちらでも近いほうに行けば手続きができると思いがちですが、「JAちば東葛農協」では「JAとうかつ中央農協」の手続きができませんし、その逆も同じです。また、相続手続きを扱う窓回はたいてい空いているのですが、
ブースに案内されて書類を提出した後に待たされる時間もバラ
バラです。担当が慣れていなくて3~4時間待たされたこと
もあります。
郵送提出でもよいか、あるいは、その回座のある支店の窓口に出向かなければならないかも、金融機関によつてまちまちですね。私はそのために東京から三重県の熊野にある某金融機関まで日帰りで行つたことがあります。数年前のことなので今は改
善されているかもしれませんが。
確かに金融機関によつては支店の窓口に出向く必要があるケー
スがありますね。私も昨年の遺言執行で厚木まで行つてきまし
た。広島に行つたケースもあります。
今回は5つの金融機関でしたが、郵送提出OKのところが多かつたので、最初は1か所ずつ順番に郵送しようかと思いました。でも、公正証書遺言正本は1通しかないので、5つの金融機関と順番に郵送で計5往復するのは時間がかかり過ぎると思つて、2日間で集中して窓口を回ることにしたんです。
窓口だと、原本はその場でコピーして返してくれますから、1
日にいくつも回れます。それから、相続手続きの書類はどういうわけか複写式になつていないことが多く、いわゆる「お控え」が手元に残りません。あらかじめ自分でコピーを取つておき、
橋懸
0橋一 ●謝0一相
t窓口で「書類預り書」を取り付けることが必要です。リ
相続コンサルタントとしては、事前準備はもちろん、窓口での
交渉力も重要です。些細な不備で書類を突き返されて後日出直
しということにならないよう、例えば「おたくの銀行のOO支
店では、さつきこの書き方で通りましたよ」とか「その書類な
ら至急後から送りますので、ひとまず今日受け付けて手続きを
進めていただけませんか」とかね。また、窓回の担当者があま
りに頼りない場合は支店長など責任者を呼んでもらつたり、先
ほども説明しましたが、その場で本店に確認の電話を入れても
らうこともあります。
以前、遺言執行者の意味がわからない窓国の方もいましたので、
なるべく責任者など手慣れている方に対応をお願いするように
しています。
本件では遺産に有価証券が含まれていませんでしたが、証券の相続も預貯金と同じような感じでしょうか。
証券の場合は、郵送でのみ受付けという場合が多いです。相続の方法は、62ページを参照してください。相続人が同じ証券会社に回座を持つていないと名義変更も移管も売却もできませんので要注意です。
相続に伴つてゴルフ会員権を換金したことがありますが、ゴルフ場運営会社の担当者は相続手続きに慣れていない場合が多いという印象です。遺言書があるのに、相続人全員の署名押印を求められて一悶着したことがありました。
第8章新人相続コンサルタントミチオの選言執行業務日誌 183
葬儀費用の精算と祭祀承継
遺言執行者になると、相続人から思わぬ相談が入ることもあります。遺言執行の範囲内かどうか、弁護士法などに違反しないかどうか、見極めてから対処することが大切です。
令和2年3月15日奈美様から「葬儀費用と香典と四十九日の法要の収支をまとめた表を作つたので、見てほしいのですが」と連絡があつた。
「まずは税理士の大原先生に資料を送つてください」と答えると、「大原先生には、すでに送つてあります。誠吾や真弓に法定相続分に応じた分担をしてほしいと伝えてほしいのです」とのこと。さて、どうしたものか ……。
そういえば、遺言書の第4条の祭祀承継者の指定については、遺言執行者としては何をやつたらよいのだろう。霊園に問い合わせて管理者の変更手続きを調べてみたほうがよいだろうか ……。
お客様は、相続チーム内の誰にどの情報を知らせるのが適切な
0橋・
184(Scene7)葬儀費用の精算と祭祀承継
のか、全然わかつていないと思つたほうがいいです。相続税関係の質問だつたり、不動産の登記のことだつたりと、とりあえず相続コンサルタントに質問が来ることが多いですね。誰に伝えたらよいかわからないことは、とりあえず相続コンサルタントに相談を持ち掛けてきますので、我々は常に全体の状況を士
業と連携を密にして把握しておく必要があります。
●相0〕0橋・●相
そのうえで、適切なアドバイスや「この場合は税理士に」「この件であれば弁護士に」とお客様にお伝えし、全体の交通整理や司令塔となる必要があります。
葬儀関係は、特にわかりにくいかもしれません。お客様にとっては身内の方が亡くなつて、葬儀をしてその後の法要をするという一連の出来事なのですが、死後に生じた費用は相続債務ではないので遺産分割でも法的には考慮されませんし、もちろん遺言執行の範囲外です。ところが相続税の算定には通夜・告別式の費用までは入つてきますね。納骨して、さてお墓を誰が守つていくかという話になつて、相続人の間で話がまとまらずに弁護士に相談すると「お墓のことは遺産分割とは別の類型なので、祭祀承継者指定の調停をしましよう」ということになります。
相続コンサルタントは、そうしたお客様の相談窓口になつて、交通整理をする役割なんですね。
葬儀費用は法的には遺産ではないので、喪主の負担となるということも、一般の方はまず知りません。
確かに、「法律の常識は世間の非常識」と言われますね。もちろん、自分の肉親が亡くなつたのだから、法的にどうであろうと葬儀費用を皆で負担しましょうということで、相続人同士の話合いで解決することが多いです。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 185
橋橋
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0・0〕0相0・0勒●

相続コンサルタントがその調整をするのは、遺言執行業務の範囲外ですよね。親切心から調整しようとして介入すると、紛争に巻き込まれたり、ある特定の相続人の意見を代弁することになつたりして、弁護士法違反になる可能性もありそうなので、私はいつも中立を心がけ必要以上に感情移入しないよう気を付けています。
中立性を保つというのは、常に意識しておく必要がありますね。
山間や海洋での散骨を希望する人も増えていますが、葬儀の方法については、遺言執行というよりは死後事務委任の範囲ですね。
私は終活の仕事もしているので、葬儀方法のご相談はよく受けます。最近ではこぢんまりと家族で見送りたいとか、葬儀そのものを執り行わず、霊安室から直接火葬する直葬のご相談も増えています。
祭祀承継とお墓のことについても教えてください。
祭祀承継の中には、お墓の管理者の書換えの手続きも入ることが多いですね。遺言執行者としてどこまで介入して取り次ぐかは相続人の皆さん(特に祭祀承継者に指定された方)と協議をして行うのが現実的でしょう。
お寺や霊園によつては遺言執行者名ではなく相続人の署名押印を必要とする場合もあるようです。

 8

(Scene7〕
葬儀費用の精算と祭祀承継

0相0一
祭祀承継者に指定された相続人は、自分の責任で墓じまいをすることもできます。
墓じまいのご相談もよく受けます。人口動態調査によると2019年1月1日時点で日本の人口は1億2,477万6,364人となり過去最大の43万3,239人減少(前年比)ということですが、少子高齢化の影響やおひとり様の増加で、そもそも相続人がいない方、お子さんがいないご夫婦、お子さんが女の子だけや遠方に住んでいるという理由で墓じまいを考えるようです。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 187
遺留分侵害額を求める通知書が来た
!
皆さんは、内容証明郵便を受け取つたことはありますか? 誰で
もドキッとするものですよね。ミチオ君のところにも何やら届いたようです。
令和2年3月22日自分宛てに見慣れない内容証明郵便が届いた。開けてみると真弓様からの遺留分侵害額請求の通知書が入つていた。自分はただの遺言執行者なのに、こんな通知書を受け取つてし
まつてよいのだろうか。
真弓様によると、省吾様が相続した遺言者の自宅土地建物は時価1億円、越谷のマンシ ∃ンは3,900万円だそうだ。預貯金4,100万円を足すと遺産総額1億8,000万円になる。確かに遺留分を侵害しているけれど、真弓様がもらつたはずの生前贈与
のことにはなぜか触れられていないようだ。
午後になつて省吾様から連絡があつた。まつたく同じ文面の内容証明郵便が来たそうだ。
省吾様によれば、「遺留分は内心覚悟していたので、適正な金額であれば払うが、自宅土地建物の時価評価が高すぎておかしいし、真弓のもらった生前贈与も計算に入れるべきだ」とのこと。
懇意にしている弁護士の十和田先生を紹介することにした。相続人間の争いに巻き込まれたくないので、自分は弁護士との打合せに同席するのはやめよう。
!
188(Scene8〕遺留分侵害額を求める通知書が来た
○遺留分侵害額請求通知書
山え内着吾殿
山え内誠吾殿
遺言執行着口十ミチオ殿
ご 通 知 今2年3月21日~

南村真弓代理人弁護士 ◇◇ ◇◇拝啓時下ますますご隆盛のこととお慶び申し上げます。
当職は、ま・山え内慶吾殿いわ元年12月1日死七・最後の住所 ○○○)の量産に関する童留分侵春頼請求について、慶吾殿の相続人である市村真弓(以下「通知人」といいます。)から委任を史|すた弁護士です。
慶吾殿作成に係る今和元年6月28日付け公工証吉童言によりますと、重産総頼がl億8,000万円(東京都杉並区 ○○所在の自宅土地建物の時価I億円、埼玉県越谷市○○所在のマンションの時価3,q00万円、預貯金4,100万円)であるのに対し、山え内着吾殿は1億4,100万円、山え内誡吾殿は3,900万円をそれぞれ取得し、通知人は量産をまったく取得しないという内容になっております。
したがヽヽまして、上記公工証吉重言は通知人の童留分 (6分の1)を侵害することが明らかですので、通知人|よ、木吉面をもって、重留分侵与頼である3,000万円(ムえ内着手殿と慟え内誠吾殿との間で、取得した重産の価額に施じて上記金額を接分)を請求いたします。
もっとも、兄妹間のことですので、通知人としては叉ずしも上記にこだわらず柔軟な解決をしたいと希望しておりま
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 189
0〕0相橋●)●
0・
木件に関しては、今後、通III人本人ではなく当職までご連よろしくお願い申し上|ザます。
とにかく、驚きました。付言であれだけ慶吾さんが揉めないよ
うに真弓さんへの愛情や想いを書いたにもかかわらず、請求し
てくるんだということにもショックを覚えました。
理屈の上では遺言執行者が遺留分侵害額請求を受けることもあるわけですが、実際に書面が送られてくるというのは珍しいほうだと思います。
私は、遺言無効確認調停の申立書を受け取つたことがあります。公正証書遺言の無効申立てですからね、ビックリしました。
民法改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていたのですよね。
そうです。民法改正によつて、令和元年7月1日以降に相続開始(遺言者の死亡)となつたケースでは、遺留分は必ず金銭で支払うということになりました。改正前は、不動産などの共有持分を現物で渡すことが原則だつたのですが、改正後は不良債権や未上場株式なども金銭に換算して遺留分相当額を渡さなくてはならなくなりました。
190(Scene8)遺留分侵害額を求める通知書が来た
!
・橋
00勒0橋・
遺言書作成時に今まで以上にしっかりと遺留分対策を考えないといけませんね。相続財産で払いきれない場合は相続人が自分の個人資産から支払うか、不動産を売却して支払うことになり
かねませんから。
不動産の価格が納得いかないというところが、今ひとつピンと
来ません。
不動産は一物四価と言つて、 ①実勢価格:実際に不動産を売買する際の取引価格における過去の平均的な金額。『時価』といわれるもので、取引事例
や近隣の取引価格を参考にすることが多い。 ②公示価格:国土交通省が毎年1月1日時点の土地を算定した価格。一般の土地取引の指標とされる。
③路線価(相続税評価額):国税庁が算定するもので、毎年1月1日時点の価額で7月に公表され、公示地価の80%を目安に決定されている。
④固定資産税評価額:固定資産税を徴税するために固定資産税の算定の基礎となる土地価格を評価したもの。3年に1度前年1月1日を基準にして公表され、公示地価の70%を目安に決定される。
……という4つの評価方法があります。この中のどれを元に評価額を決めるかで、揉めることが多いですね。
調停や訴訟など司法の場では時価となることが一般的ですが、当事者が合意すれば路線価でも固定資産税評価額でもかまいません。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 191
0勒0橋・0シ ●相
自分が先にもらつた生前贈与の分や生命保険金の1,500万円を棚に上げて、きょうだいに請求するつて、どうなんでしょう。
自分に不利なことは相手から指摘されるまで触れないというの
がむしろ普通だと思いますよ。この件では生命保険の受取人は真弓さんにしないほうがよかつたかもしれませんね。生命保険は受取人固有の財産なので遺産分割の対象外ですし、遺留分も原則対象外ですから。また、真弓さんの名前で書かれた書面でも、実際には司法書士などの法律家が代書している可能性もあります。
内容証明郵便つて、宣戦布告みたいなイメージを受けます。僕も就任通知や終了通知を内容証明郵便で送ればよかつたのかな。
内容証明郵便は、配達証明とあわせて、いつどのような内容の書面が相手に届いたかを明らかにする必要があるケースに使います。今回の遺留分侵害額請求通知書は、消滅時効期間(相続の開始及び遺留分の侵害を知つた時から1年間)内に相手に届いたことを客観的な資料によつて明らかにしておく必要があるので、このケースに当たります。実際には、そのような必要がないケースでも、正式な申入れで
あることを強調するために内容証明郵便が使われることもあります。受け取る人は、ミチオ君のように「宣戦布告された」ようなイメージを抱くことが多いので、遺言執行者の就任通知や終了通知を内容証明郵便で送るのはやめたほうがよいでしよう。書式が厳格なので、遺言書などのコピーを同封することはできません。
192(Scene8〕遺留分侵害額を求める通知書が来た!
0橋一
遺言執行者としては、せいぜい弁護士を紹介するぐらいで、静観するのがよいと思います。ここでは「弁護士とチームを組んで協働する」というよりは、「弁護士に任せて自分は関わらない」
というスタンスが正解。相続人同士の揉め事に首を突つ込むことほど不毛なことはないですし、場合によつては弁護士法に抵触することになりかねません。(Scenel)で説明した家族会議とはまったく意味が違いますね。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 193
遺言執行終了通知
遺言に従った遺産の分配が無事に終わり、終了通知を出せば遺言執行者としての職務は終了となります。
令和2年4月20日今日、ようやく預貯金等の払戻手続きが終了し、報告をまとめて終了通知書に記載した。返還する書類のうち、遺言書正本と戸籍 ―式は相続人代表者として省吾様に返却し保管してもらうこととした。
終わつたと思つたとたん、奈美様から連絡があり、「医療費の払い忘れがあつたみたいだけれど、こちらで払つてしまつてもよいでしょうか」との問合せがあつた。確か、相続債務は遺言執行
者の職務の範囲外だつたはずだけれど ……。
○遺言執行業務終了通知書
遺言執行業務報告書兼同終了通知吉
今和2年4月20日よ。出え内慶吾様遺言執行者口十ミチオ
′|ヽ載は、遺言執行者として、ま・山え内慶吾様の今わ元年6月28日付け公工証吉遺言の執行を行い、本日すべての業務を終了いたしましたことを相続人の皆様に通知いたします。
具体的な業務の内容は、①上記遺言の第1条に基づく相続
194〔Scene9〕遺言執行終了通知
人出え内着吾様への東京都杉並区○○所在の土地建物の移転登記手続き、 ②同第2条に基づく相続人出え内誠吾様への埼玉県越谷市○○所在のマンションの移転登記手続き、 ③同第3条に基づく預貯金の解約払戻しと相続人山え内着吾檬への払戻金の送金、④同第4条に基づくオヨ続人山え内着吾様への△△霊園におけるお墓の承継手続きです。ご不明の点がございましたら月ヽ職までおF・3ぃ合わせください。
遺言執行業務の終了に伴い、上記重言の第6条及び今和元年6月28日付け遺言執行報酬確認書に基づく遺言執行報酬請求書を追ってお送りさせていただきます。
最後になりましたが、遺言執行へのご協力を誠にありがとうございました。
遺言者が亡くなつてから遺言執行終了までに4か月半というのは長いほうでしようか?
ケースバイケースなので一概にはなんとも言えません。資料を集めたり手続きをしたりという作業は、常に相手のあることなので、遺言執行者のほうで早く進めようと思つても、なかなかコントロールできないんですよね。実際、半年かかつたケースもあります。
終了通知書には、遺言執行内容の報告を詳しく書かなくてはならないのですか。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 195
0コ ●)
橋0
●相0一〕●
はい、法的には遺言執行者は委任契約の委任者と同じ義務を負つています。途中で報告を求められたときには対応しなければなりませんし、終了時には特に求められなくても経過や結果を相続人に報告すべきとされています。ただ、終了時までに、各相続人は遺言執行者と連絡を取り合つて預金の払戻しや登記の移転などを確認していますから、終了時の報告はそれほど詳細なものでなくてよいと思います。相続人から個別に問合せが来たら必要に応じて説明すればよいでしょう。
公正証書遺言の正本と戸籍一式は、省吾様に今後も保管しておいてもらうとよいと思いますよ。遺留分や遺言の効力などのトラブルが起こる可能性もありますし、二次相続が10年以内に起こつた場合には一次相続の遺言書が相続税申告で必要になります。同じく、戸籍も保管しておいたほうがよいでしよう。自分や親族の本籍地がパッと思い浮かばない人も多いので、一揃い手元に置いておけば、今後の相続等の場面で何かと役に立つ
と思います。私は一式をファイリングして返却するようにしています。
今さら初歩的な確認ですが……、医療費などの相続債務の支払いは遺言執行者の職務の範囲外と考えて大丈夫ですよね ?
はい。遺言書に誰が債務を負担すべきかを記載しても、債権者に対しては効力がないので、遺言執行者の職務の範囲外です。債務は相続開始と同時に、法定相続人が法定相続分どおりに負担するというふうに考えられています。
196(Scene9〕遺言執行終了通知
0橋・
そのあたりもお客様にとつてはわかりにくいんです。ですから職務の範囲外だからと放つておくのではなく、きちんとご説明することも相続コンサルタントの役目の1つですね。
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 197
報酬請求、そして……
最後に、遺言執行者の報酬請求が待っています。でも、それだけで終わりにしてしまってよいのでしょうか…… ?
令和2年4月23日省吾様と誠吾様に遺言執行報酬請求書を送付した。不動産は固定資産評価証明書記載の評価額を基礎として算定し
た。
登記移転にかかつた実費は、司法書士の水上先生が省吾様や誠吾様に請求済みなので、それ以外に自分が出した実費をまとめて報酬と一緒に請求した。
5か月近くかかったが、これで一件落着だ
!
ところで、省吾様の相続についても対策が必要なのではないか。省吾様と奈美様とは籍が入つていない内縁関係だし、お子さんはいないらしいし……。
報酬請求という段階になつて初めて、遺言者との間で前もって遺言執行報酬確認書を取り交わしておくことの重要性がわかつたのではないでしょうか。相続人から報酬について何か問合せがあつても、遺言執行報酬確認書があればご説明できますからね。
0橋・
198(Scene1 0〕報酬請求、そして……
0コ0相0〕0橋・
そのとおりです。結構、こまごまと実費がかかりましたし、金融機関の窓口巡りも1日半かかりました。慶吾様と交わした契約だからこそ、実費精算や日当を定めておくことで、遺言執行者も相続人も双方が納得できると思います。
遺言執行業務を1件終わるごとに、自分で使つている遺言執行報酬確認書のひな型を見直してみることが望ましいです。遺言書作成と同時に遺言執行確認書を取り交わしてから、実際に遺言者がお亡くなりになるまでには、十数年、あるいはそれ以上の年月が経つこともよくあります。資産の種類を組み替えたり、生前贈与をしたり、ご家族の間の関係も変わるものです。あらゆる事態を想定して、「こういう場合はどうなんだ?」という疑義の起こりにくい遺言執行報酬確認書を作つておくことが望ましいです。
報酬算定の基礎となる不動産の評価額が悩ましかったです。遺言執行報酬確認書に「固定資産税評価額による」とちゃんと書いておけばよかったんですね。小規模宅地特例適用後の路線価を基礎に算定すると言われる可能性もないわけではないですし。
あと、本件では真弓様の取得した保険金や生前贈与は遺産では
ないので報酬基礎額には入らないことに注意すべきです。実際、保険金の分まで請求されて払つてしまつたというお客様を知つています。この件では、不当な報酬を返還してもらうなどの手続きを木野先生にお願いして、全額ではありませんが、一部を取り戻していただきました。最後に、ミチオ君が省吾様へのアドバイスの必要性に気づいたのは素晴らしいです。省吾様は奈美様と内縁関係にあるため、
第8章新人相続コンサルタントミチオの遺言執行業務日誌 199

0シ●樹0橋・0)0・
※本事例はあくまで一例であつて、必ずこのようなやり方で遺言
t省吾様も奈美様も遺言を用意しておく必要がありますね。リ
でも、どうやつて切り出したらよいか、うまい方法はあるでしよ
うか。
省吾様や奈美様とは最後に顔を合わせておいたほうがよいと思
います。公正証書遺言の正本や戸籍一式を返還するという理由
で打合せの機会を設けてみてはどうでしょう。
私なら、「きちんと完了した報告をお父様(遺言者)にもしておきたいのでお線香を供えに行かせてください」とお伝えします。その際に、書類をファイリングして持参すると好印象だと思います。あと、省吾様はもともとミチオ君の会社の相続相談会に足を運んでくれたお客様なのだから、今後も相続セミナー等のイベントの案内を送つてみるとよいと思います。
何だか、今後も省吾様や奈美様からご相談がありそうな気がす
るんですよね。
まさにそれが相続コンサルタントの役目です。慶吾様の遺言執
行業務は終わつても、事実上、これからもあれこれと問合せは
あるでしよう。相続税申告はこれからだし、遺留分の争いも始
まりかねないわけですから。専門外の事項については、距離を
置くべきですが、新たに自分の相続対策をやりたいということ
なら、積極的に関わつていつてよいと思います。
ぜひ、お二人に遺言の作成をお勧めするところから始めてくだ
さい。
執行をやらなければならないというわけではありません。200(Scenel o)報酬請求、そして ‘……
おわりに
理念を持つことの大切さ相続を取り巻く環境は、年々変化してきています。本書が発行された令和元年は、民法が約40年ぶりに改正された
ことに伴い、実務も大きく変化しています。遺言執行についても改正がありました。
第1章でも触れましたが、相続・終活系の資格も年々増えてきています。これらの資格を取得している相続コンサルタントの人も多いのではないでしょうか。
筆者らも取得している「相続診断士」の資格でいえば、取得者の職業は金融・保険業の人が約半数で1位、不動産・建設業の人は2位で3割となっています。
■相続診断士の資格者業種サービス
2%
士業 3%
(出典)相続診断協会資料(2019年3月31日集計 )
おわりに 201
ではなぜ、相続・終活系の資格が増え、取得する人も年々増えているのでしょう。亡くなった人の遺産総額は年間約50兆円ともいわれ、それが2030年までには累計1,000兆円になると推計されています。高齢者への資産偏在が指摘されており、何となく「相続の仕事は儲かりそう」というイメージがあるのかもしれません。
相続が発生すれば大きなお金が動くのですから、ビジネスチャンスととらえることは間違いではないでしょう。ただ、高齢者を対象にしたトラブルも年々増加傾向にあります。
近時話題になった郵便局員による保険の不適切営業問題や銀行窓販での外貨建て一時払い終身保険絡みのトラブル、成年後見人による不正や横領事件……。こうしたニュースに接するたびに、相続・終活に関わる仕事をする人や高齢者を相手に仕事をする人の中には、単なるお金儲けの手段としてしかクライアントを見ていないモラルの低い人がいることに心が痛みます。
どの資格でもどの職業でも同じですが、何の理念もなく、日先のお金儲けにとらわれてしまうと、顧客の利益を害することになってしまいますし、結果としてその事業者自身の信用が失墜し、やがては市場から消えていくことにもなりかねません。
相続診断士の場合は、理念の一つとして「笑顔相続」があります。自分たちの活動によつて、争う相続を1件でも減らして家族が笑顔で相続を迎え、家族としての絆を取り戻して次の世代に引き継ぐお手伝いをすることを使命としているのです。
核家族化によつて失われた家族の絆
争う相続が増えた背景には、家族制度の変化があります。
かつて日本は家督制度でした。その時代には一人の相続人がすべ
ての財産を相続する代わりに親やきょうだい、あるいは親族すべて
を扶養して面倒をみてきました。
202
「兄に大学まで出してもらった」「兄が嫁入り道具一式をそろえて
くれた」という話を高齢の人から聞いたことはありませんか? そ
れは家督制度での家長・戸主といわれていた人がきょうだいの面倒
をみていたことの表れです。
このように、家督制度のもとでは戸主の権利と義務が一体となっ
ていたのです。墓を守リー族を守り、また親の介護をし、きょうだ
いの面倒をみるからこそ、すべての財産を戸主一人に集中させたの
です。
その時代は家族の繋がりが強く、核家族という言葉もなく「サザエさん」の磯野家のように複数の世代が大家族で暮らしていました。現在はどうでしょう。
核家族化が進み、祖父母と離れて育つことは当たり前になってきています。その結果、親子。きょうだい間でコミュニケーションをとることが少なくなりました。
元来、日本人は「察しと思いやり」を大事にしてきましたが、「親子なんだから」「きょうだいなんだから」という理由で「はっきりと言わなくてもわかるだろう」という考えは、大家族で暮らしていた時代には通用しましたが、核家族化した現代では幻想にすぎません。
それでも親は昔の大家族の名残で「うちの子たちに限って、財産のことで揉めるはずはない」と信じており、子どものほうは「うちのきょうだいは絶対に揉める」と考えていたりします。
きようだい間でも、次男が「自分は長年親と同居し、苦労して介護してきているから、兄や姉は私に感謝しているはず。親も自分を跡継ぎと見ているだろう。遺産をたくさんもらって当然だ」と考え
ているのに対し、遠方に住んでいて次男の苦労など知らない兄や姉やその配偶者は、「弟は実家に住まわせてもらって、いつも両親から小遣いや生活費を援助してもらっているのだから、遺産を分ける
おわりに 203
時には弟の分からいくらか差し引くべきだ」と考えており、大きな隔たりがあることも少なくありません。また、少子化により、同じきようだいでも子どもがいるかどうかで生活スタイルや相続への意識は変わつてくるでしょう。
「姉は子どもがいるので親から多額の教育費を援助してもらっているのに、私には子どもがいないので何ももらえない」と妹が引つかかりを感じているのに、姉は「お母さんが孫のために教育費を援助するのは当たり前。いずれ孫養子にしてもらえば節税にもなる」と画策していることもあります。
また、「生涯独身だった兄を介護してあげたのに、死後に見つかつた遺言書には、趣味でやっていたスポーツの団体に全遺産を寄附すると書かれており納得がいかない」というケースもあり得ます。この他、実家が都会にあるか、田畑の多い田舎の村落にあるかによっても、家督制度の名残の比重が異なるでしよう。
「たわけ者」の語源
現代ではほとんど日常会話には出てきませんが、「このたわけ者が!」と言われると、どのようなイメージを持ちますか ?愚か者とか、ダメな奴と言われた気がしますよね。時代劇などでこの言葉を聞いた方もいるのではないでしょうか?語源を調べてみると、漢字では「戯け」「田分け」などの字が出てきます。ここでは「田分け者」とする説の話をしましょう。
明治時代に廃藩置県で地租改正になる前までは、日本は石高で国力を測つていました。石高とは米の生産量を表し、その生産量に応じて動員できる兵力が違い、大名・旗本の収入及び知行や軍役等諸役負担の基準でした。
204
農民に対する年貢も石高を元に徴収されていますから、いかに
米の収穫量が大切かわかると思います。
この時代、農民も含めて一族の富は家長に集中していました。もし、今の民法のようにきょうだいが平等に相続できるからといつて田を分けたらどうなるでしょう。
畦が増えることによつて田の面積はどんどんと小さくなり、米の収穫量もどんどん少なくなります。それでは年貢を納められないし、武士は兵を養うことも兵を集めることもできません。
家も国も衰退していくか、他国に乗つ取られることになります。「田を分ける奴は愚か者だ」ということですね。
それが「たわけ者」の語源を「田分け者」とする説です。この説によれば、今の民法での法定相続分による遺産分割は「たわけ者」のすることとなつてしまいそうです。
子どもの数だけ均
等に分けていつてしまうと、田んぼはどんどん小さくなり、お米が穫れなくなる
相続コンサルタントの役割
このように、核家族化や少子化が進んだことで家族の絆が弱くなり、子どもが親のお金を当てにしたり、コミュニケーションを取らないのでお互いに何を考えているのかわからなくて疑心暗鬼となったり、家督制度のもとで育ってきた親と今の民法下で育ってきた子どもとの考え方にギャップがあったりしてt争う相続が増えていく。一―これが、現状のように思います。
家族の絆を取り戻す、というと大仰に聞こえるかもしれませんが、
おわりに 205
人の感情とお金の勘定の混ざり合った家族間の問題点を洗い出し、対策を考え、時には家族間のコミュニケーションの橋渡しをするこ
とこそが、まさに相続コンサルタントの役害1といえるでしょう。
そのためには、狭い分野の専門的知識があるだけでは足りず、幅広い知識(浅くてもかまいません)とコミュニケーション能力、そして、さまざまな分野の専門家と連携してチーム編成できる人脈が必要です。
コミュニケーシヨン能力の中でも特に大事なのは「聞く力」でしょう。終活や相続の相談の特徴は「○○、のご相談をしたいんですけど」といって最初の連絡をもらった時の相談内容が必ずしも相談者の真に解決すべきことと一致しているとは限らないことです。子どもの頃の家族関係やエピソード、相談に来たきっかけなどを丁寧に聞いていくと、相談者自身も普段意識したことのないような心の奥底の思いがぽつりぽつりと浮かび上がり、そうするうちに予想もしなかったような問題点が現れてくることも珍しくありません。
AIには相続コンサルタントの仕事はできない
遺言書による相続対策を進めるには問題点が浮かび上がり、相続コンサルタントによるサポート体制が整っていても、肝心のご本人がその気にならなければ相続対策は
206
進みません。
日本では平成28年の死亡者約130万人のうち公正証書遺言作成数は約10万5,000件、自筆遺言検認数約1万7,000件で1割の人しか遺言書を書いていません。
■公正証書遺言の作成件数と自筆証書遺言の検認の件数
自筆証書遺言検認件数
20072008200920102011 201220132014201520162017
(年)
(出典)公正証書遺言の作成件数は日本公証人連合会の統計より。
自筆証書遺言の検認件数は司法統計より。
前述のように親世代と子世代の生きてきた時代背景が異なることによる意識のギャップがあるほか、日本人は「死」というものをタブー視し、亡くなった後のことを話すのは縁起が悪いと考えているため、思うように相続対策が進まないのかもしれません。
「遺書」と「遺言書」の違いを勘違いされている人も多くいます。子が親に遺言書の話をしようものなら「そんなに早く死んでほしいのか? 自分はまだまだ死なない(死ぬつもりはない)」といって怒り出す親もいるのです。
おわりに 207
遺言書を書いておけば家族が仲良くなるわけではありませんが、
遺言書があることによつて相続人間の争いは確実に減らせると思い
ます。
また、遺言書の付言事項、あるいはエンディングノートの中で、
どうして自分がこのように財産を分けたいと考えたのか、家族に対
する想いを言葉で遺せば、さらに争いの数は減るでしょう。
「役割相続」という考え方
一般社団法人相続診断協会の小川実代表理事は、遺産を分配する
時の考え方として、「役割相続(相続人が果たした役割に応じて遺
産の分配をすること)」という話をされています。
墓を守つていく役割を担う子ども、親の介護という役割を担って
くれた子どもが、他のきょうだいと同じ相続分害1合であることに納
得がいかなくて争いが起こるのであれば、親が遺言書を書いて、そ
れぞれの子どもの役割に応じた財産の配分を決めておけばよいわけ
です。
本来なら、生前に子どもたちとしっかリコミュニケーシヨンをと
り、そのような考えを話して納得してもらうのが一番よいわけです
が、なかなかそこまではやりきれない人も多いでしょう。
だからこそ、相続コンサルタントとして業務に携わる人には、相
続の相談を受けた際に「家族会議」を支援したり、遺言書の作成を
お勧めしたり、エンディングノートを推奨したりしてほしいと思い
ます。
また、おひとり様が孤独死・孤立死しないようなサポート体制の
お手伝いも重要なことです。
遺言執行の位置づけ他の章でも何度か触れましたが、遺言書の作成とあわせて、相続
208
コンサルタントが「遺言執行者としてしっかり遺言内容を実現します」と約束することは、遺言者にとつて非常に安心感の大きいものです。
しかし、だからといって「事務作業としてこなす」「実入りがいいからやる」ではなく、遺言者がどのような家族関係や価値観のもとで遺言書を書いたのか、何を願っていたのかという想いを理解し
て遺言執行者を進めることも重要です。
相続コンサルタントの育成
相続コンサルタントという職業がまだ社会的に認知されているとはいえない現在、筆者らは、しっかりとした理念を持った相続コンサルタントを育成することに力を入れています。
「相続マーケットは儲かりそうだから」という理由で参入してくる相続コンサルタントではなく、「家族の絆を取り戻し、子を産み育てていくことに希望が持てるような社会を作って、少子高齢化という危機に瀕している日本という国がまた元気な国に生まれ変わる、そんなお手伝いをしたい」という相続コンサルタントを1人でも増やし、活躍していただきたいと思つています。
本書を手にしてくださつた皆様が、家族の笑顔に繋がるような相続を迎えるお手伝いをするためにお役立てくださることを心より願っています。
最後に、本書の執筆に当たり多くに方にご助力を賜りました。一般社団法人相続診断協会代表理事小り|1実様、一般社団法人終活カウンセラー協会代表理事武藤頼胡様、一般社団法人社会整理士育成協会代表理事鈴木健司様、税理士法人HOP税理士高橋大祐様、司法書士事務所エンパシー代表柿沼大輔様、相続診断士事務所ライブリッジ代表り|1口宗治様、山越総合法律事務所代表山越真人
おわりに 209
様、株式会社プリモ代表取締役千原真里様、笑顔相続サロン③京都代表刀ヽ笹美和様、笑顔相続サロン③中野代表清板倫子様、株式会社バリューアドバイザーズ執行役員ガヽ林裕様、株式会社ネオスタンダード常務取締役後藤光様、株式会社FPパートナー新規事業開発部相続事業室の皆様、本当にありがとうございました。この場を借りて深く御礼申し上げます。
210
遺言執行に関する改正民法新旧対照条文
第四節遺言の執行
(遺言書の検認 )
第1004条遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第1005条前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。
(遺言執行者の指定 )
第1006条遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第二者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、第四節遺言の執行
(遺言書の検認 )
第1004条遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人叉はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第1005条前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。
(遺言執行者の指定 )
第1006条遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、
遺言執行に関する改正民法新旧対照条文 211
これを相続人に通知しなければなら
ない。
遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の任務の開始 )
第1007条遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者に対する就職の催告 )
第1008条相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
(遺言執行者の欠格事由 )
第1009条未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
(遺言執行者の選任)
第1010条遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。これを相続人に通知しなければなら
ない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の任務の開始 )
第1007条遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
(新設)
(遺言執行者に対する就職の催告 )
第1008条相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
(遺言執行者の欠格事由 )第1009条未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
(遺言執行者の選任 )
第1010条遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
(相続財産の目録の作成 )
第1011条遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
(遺言執行者の権利義務 )
第1012条遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
1013条遺言執行者がある場合
には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
(相続財産の目録の作成)
第1011条遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
(遺言執行者の権利義務 )
第1012条遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。(新設)
2 第644条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
(新設)
(新設)
遺言執行に関する改正民法新旧対照条文 213
(特定財産に関する遺言の執行)
1014条前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第 1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前2項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺言執行者の行為の効果 )
第1015条遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
(遺言執行者の復任権 )第1016条遺言執行者は、自己の
(特定財産に関する遺言の執行 )
第1014条前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ
適用する。(新設)
(新設)
(新設)
(遺言執行者の行為の効果)第1015条遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
(遺言執行者の復任権 )第1016条遺言執行者は、やむを
責任で第二者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
(遺言執行者が数人ある場合の任務
の執行 )
第1017条遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
(遺言執行者の報酬)
第1018条家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第648条第2項及び第3項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
(遺言執行者の解任及び辞任 )
第1019条遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があ得ない事由がなければ、第二者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第 105条に規定する責任を負う。
(遺言執行者が数人ある場合の任務
の執行 )
第1017条遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
(遺言執行者の報酬 )
第1018条家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第648条第2項及び第3項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
(遺言執行者の解任及び辞任 )
第1019条遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があ
遺言執行に関する改正民法新旧対照条文 215
るときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
(委任の規定の準用 )第1020条第654条及び第655条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
(遺言の執行に関する費用の負担 )
第1021条遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによつて遺留分を減ずることができない。
第五節遺言の撤回及び取消し
(遺言の撤回)
第1022条遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等 )
第1023条前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
るときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
(委任の規定の準用)第1020条第654条及び第655条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
(遺言の執行に関する費用の負担 )
第1021条遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによつて遺留分を減ずることができない。
第五節遺言の撤回及び取消し
(遺言の撤回)
第1022条遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部叉は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等 )
第1023条前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄 )
第1024条遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
(撤回された遺言の効力 )
第1025条前3条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第1026条遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
第1027条負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第1024条遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
(撤回された遺言の効力)
第1025条前3条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第1026条遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
第1027条負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
遺言執行に関する改正民法新旧対照条文 217
■ヒアリングシートの例(相続診断協会提供)こ相談者様に関してこ記入下さい。
機:饉炒鰊一饉 :靭苺蹴
①対象者様に関してこ記入下さい。
擬躙 年 月 日
躙難::lII::::卜鰊輻 はい・いいえはい。いいえ。はいいいえはい。いいえ 氏名 : 氏名 : 氏名 : 氏名 : 氏名 : 民名 : 氏名 : 氏名 : 生年月日 :生年月日 :生年月日 :生年月日 :生年月日 :生年月日 :生年月日 :生年月日 : 鏑子非養□□出子□非嬌出子 □姜子

氏名 : 生年月日 : □非嬌出子□姜子
氏名 : 生年月日:
Iまい。いいえ
氏名 : 生年月日 :
氏名 : 生年月日 :
はい。いいえ 氏名 : 生年月日 :
氏名 : 生年月日 :

218
家系図をこ言己入下さい。
祖父
ヒアリングシートの例 219
②不動産について
土地・借地・家屋 所在地 :
土地・僣地・家屋 所在地 :
土地・借地・家屋 所在地 :
土地・借地・家屋 所在地 :
土地・借地・家屋 所在地 :
土地・借地・家屋 所在地 :
土地・借地・家屋 所在地 :
土地・借地・家屋 所在地 :

③上場株式等
株式・公社債・投信信託先 :株式。公社債・投信信託先
:
:
株式・公社債・投信信託先
:
株式。公社債・投信信託先 株式・公社債・投信信託先 :株式。公社債・投僣信託先 :株式・公社債・投信信託先 :株式。公社債・投信信託先 :
④未上場株式等
議1-1絲
:
法人名 :所在地
:
:
法人名所在地
:
:
法人名所在地
:
法人名 :所在地 法人名 :所在地:法人名所在地 :
:
220


*固定資産税の納税通知書をこ用意ください。はい。いいえ面積雨利用状況
:
:
:
:
面積 .利用状況
:
面積 :耐利用状況
:
:
面積耐利用状況
:
面積耐利用状況 :
:
面積 :面利用状況
:
面積 nf利用状況 :
:
:
面積 .利用状況
*証券会社の残高一覧表などをこ用意ください。糠篠筆書:::饉議競なはい。いいえ
:
銘柄 :数量
:
:
銘柄数量
:
:
銘柄数量
:
:
銘柄数量
:
銘柄 :数量
:
銘柄数量 :
:
銘柄 :数量
:
:
銘柄数量
法人税の申告薔を3期分こ用意ください。 1摯はい。いいえ ・数量:関係数量 =・関係 := : : 関係 :数量 :関係 :数量 : 関係 :数量 : : : 関係数量 ⑤預金口座預金通帳・EE●をこ用意ください。
⑥生命保険*保険会社から送られてくる契約のお知らせなどをこ用意ください。
保険会社 : 契約者 : 受取人 : 保険金額 :
保険会社 : 契約者 : 受取人 : 保険金額 :
保険会社 : 契約者 : 受取人 : 保険金額 :
保険会社 : 契約者 : 受取人 : 保険金額 :
保険会社 : 契約者 : 受取人 : 保険金額 :

: :::
保険会社契約者受取人保険金額
:: ::
保険会社契約者受取人保険金額
⑦その他
:
自動車をお持ちですか ?いいえ・はい車種 :年式
:
ゴルフ会員権をお持ちですか?いいえ・はい銘柄 : 所在地
:
金銭の貸付けはありますか ?いいえ・はい貸付先 : 金額
対象者様こ自身で無体財産権
::
(著作権など)を登録していますか ?いいえ・はい名称内容美術品、骨菫品をお持ちですか ?いいえ・はい内容
:
対魚者様の死亡により支綸が見込まいいえ。はい支給元 : 金額 :
れる退職金はありますか?その他の資産いいえ・はい
ヒアリングシートの例 221
③生前贈与財産*贈与税の申告書をこ用意ください。
*借入金の返済予定表をこ用意ください。いいえ・はい
いいえ・はいいいえ。はい債務者 : 金額
:
⑩特記事項
節税・納税資金・事業継承。生前贈与・財産評価遺言・遺産分割・相続放棄。後見人。年金不動産登記・エンディングノート・その他 (
222
著者略歴
一橋香織(ひとつばし。かおり)
笑顔相続コンサルティング株式会社代表取締役
一般社団法人全国遺言実務サポート協会代表理事株式会社FPパートナー特別顧問相続診断士事務所笑顔相続サロン°本部代表
全国相続診断士会会長
東京相続診断士会会長
上級相続診断士・家族信託コーデイネーター・社会整理士終活カウンセラー上級・生前整理アドバイザー1級これまで3,000件以上の相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。講演・メディア出演(テレビ朝日「たけしのTVタックル」TBSテレビ「Nスタ」
「ビビット」テレビ東京「ソクラテスのため息」など)多数。日本初のシステムノート型システムダイアリーいのFエンデイングノート』監修著書『家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい』(PHP研究所)はアマゾン相続部門1位・丸善本店ビジネス部門で1位を獲得する。近著『終活・相続の便利帳』(杜出版社)その他笑顔相続を普及するための専門家を育成する『笑顔相続道Jを主宰。
所属事務所〒120-0025 東京都足立区千住東2-1-6 プリモ北千住3階笑顔相続コンサルティング株式会社
電話 03-6679-6276 FAX 03-6886-3465 URL https://egao‐souzokuocom/ e‐rna. info@egao‐souzoku.com
223
木野綾子(きの。あやこ)弁護士。上級相続診断士。家族信託専門士
千葉県相続診断士会副会長NPO法人長寿安心会副代表理事一般社団法人全国遺言実務サポート協会理事平成6年、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。平成9年、東京地方裁判所に判事補として任官し、以後、土浦、東京、豊橋の順で各地の裁判所に勤務。平成22年、千葉地方裁判所を最後に退官・弁護士登録(第一東京弁護士会)。平成28年、法律事務所キノール東京を開設し、現在に至る。主な得意分野は相続・不動産関係・労働(企業側)。債権回収等。
所属事務所〒105-0003 東京都港区西新橋 1-21-8 弁護士ビル503法律事務所キノール東京
電話 03-5510-1518 FAX 03-5510-1519
URL https://kinorr‐souzoku・ tokyo/
e‐ma. kino‐ayako@kinorr.tokyo
224
協力者一覧伍十割D
一般社団法人相続診断協会/税理士法人 HOP小川実税理士、上級相続診断士
住所東京都中央区日本橋人形町 2‐13‐9 FORECAST人形町 7F電話 03-5614-8700 URL http://group‐hop.com/
笑顔相続サロン①ここは一と相続サポート事務所小笹美和相続診断士、介護支援相談員、終活・介護・相続相談
住所京都府京都市中京区河原町通御池下ル下丸屋町403F!Sビル電話 075-950-0397 URL https://cocoheart‐offlce.amebaownd.com/
司法書士事務所エンパシー柿沼大輔司法書士
住所東京都中央区京橋 1‐3‐2モリイチビル3階電話 03-6665-0466 URL httpsプ/s‐empathy.com/
ライブリッジ川口宗治相続ビジネス成功プロデューサー
住所富山県富山市下飯野 2-15電話 076-411-6325 URL httpsi//. bridge.biz/
笑顔相続サロン°中野清板倫子相続診断士
住所東京都中野区江古田4‐16‐16電話 090-9104-1678
URL https://egaosouzokusupport.com/
株式会社 NEO―STANDARD後藤光家財整理業(遺品整理・生前整理)
住所東京都墨田区押上3-25-17電話 03-5631-5505
URL https://kazaiseiri.net
証券相続の窓口小林裕証券相続士
住所東京都新宿区高田馬場2丁目14‐2新陽ビル8階電話 0120-980-050 URL https://shoukensouzoku‐no‐madoguchicom/
一般社団法人社会整理士育成協会鈴木健司一般社団法人社会整理士育成協会代表理事
住所京都府京都市中京区河原町通御池下ル下丸屋町403 FISビル電話 075-778-5069 URL http://shakaiseirishi.com/
226
税理士法人 HOP
高橋大祐
税理士
住所東京都中央区日本橋人形町 2‐13‐9 FORECAST人形町 7F電話 03-5614-8700 URL http://www.zeirishihoulin‐hOp.com/
株式会社プリモ
千原真里
不動産業、上級相続診断士
住所東京都足立区千住東2‐1‐6プリモ北千住 3F電話 03-3888-2440 URL httpプ/primo‐egao.com/
一般社団法人終活カウンセラー協会武藤頼胡一般社団法人終活カウンセラー協会代表理事
住所東京都品川区旗の台4-2-5電話 03-6426-8019
U R L https://wvvw.shukatsu‐csl.ip/
山越総合法律事務所山越真人弁護士
住所東京都千代田区平河町1-7-20 平河町辻田ビル6階電話 03-6261-5353URL httpsプ/yamakosh卜law.com
相続コンサルタントのための
はじめての遺言執行令和元年12月10日初版発行
口日本法a著者采雪褒撃
〒 101-0032発行者青木健次東京都千代田区岩本町1丁目2番19号
https://www. horei.co.ipl編集者岩倉春光印刷所神谷印刷製本所国宝社
(営業)TEL 03‐685&6967 Eメール syuppan@horei.cojp(通販) TEL 036858 6966 Eメール book.order@horei.cojp(編集) FAX 03‐685&6957 Eメール tankoubon@horei.cojp
(バーチャルショップ )https://www.horei cojp/iec/(お詫びと訂正)https//www horei.cojp/book/owabishtml
※万一、本書の内容に誤記等が判明した場合には、上記「お詫びと訂正」に最新情報を掲載しております。ホームページに掲載されていない内容につきましては、FAXまたはEメールで編集までお問合せください。

県需需黒∃缶潟題[言魃携;開3轟眠襲じられています。製され翡合は、そのつど事前に、出版者著作権管理機構(電話03-5244-5088、 FAX03-5244-5089、 e‐mail:info@iCOpy.Or.lp)の許諾を得てください。また、本書を代行業者等の第二者に依頼してスキャンやデジタル化することは、たとえ
個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。
◎K.Hitotsubashi,A.Kino 2019.Printed in」APAN
ISBN 978-4-539-72719-5

第1章

【1】相続を取り巻く環境

現在、相続を取り巻く環境はどうなっているのかを見ておきましょう。まず、令和4年度の死亡者数は1,582,033人となり前年より129,744人(8.9%)増えました。

出生者数は799,728人で前年より5.1%減となり、戦後最大の人口減となりました。また、相続税の申告件数は増税となった平成27年1月から増加傾向にあります。相続税の申告状況で見ると改正前の平成26年度は4.4%ですが、平成27年度には8.0%、令和3年には9.3%と毎年増加しています。

次に相続財産の内訳ですが、平成24年度と令和3年度を比べると、現金・預貯金等を相続する割合が年々増えています。(図参照)

逆に不動産が占める割合が年々減っていることが分かります。

それに加えて、65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している高齢者数は、2025年には700万になると予想されています。「認知症施策の動向について」(厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室による令和3年月6日発表)では、判断能力が低下することによる資産凍結問題・相続発生時の遺産分割が難航する問題などが、年々増加し深刻化すると予想されています。以降で、認知症がどう相続に関係するかは詳しく説明しますが、これらは相続を学ぶ上でもきちんと押さえておきたいポイントです。

同時に、人口減が相続に与える影響も見ておきましょう。

人口が減少する原因は色々と考えられますが、その中でも生涯未婚率の増加や出生率の低下があげられます。出生率については先ほど説明した通りです。

2020年度の国勢調査の結果では、生涯未婚率は男性25.7%、女性16.4%となっており、50歳の時点では男性は4人に1人が女性は約6人に1人が未婚です。

合計特殊出生率は2021年1.30となり、6年連続で前の年を下回ったことが厚生労働省の2021年度人口動態統計でわかりました。

未婚率と少子化の影響を受けて、核家族化がますます進むことで、単独世帯も増加しています。単独世帯は2040年には約40%に達するという予測も出ていて、そのことが孤死・孤立死の増加に繋がっています。厚生労働省の人口動態統計によると50人1人が孤独死あるいは孤立死していることになります。

今後は、「おひとり様」の相続対策がいかに大切かわかります。

それに付随する、実家の空き家問題・墓の継承問題などもあり、相続を取り巻く環境は複雑化・深刻化していると言えるでしょう。

【相続という漢字を紐解く】

辞典で調べると

1 家督・地位などを受け継ぐこと。跡目を継ぐこと。「宗家を―する」

2 法律で、人が死亡した場合に、その者と一定の親族関係にある者が財産上の権利・義務を承継すること。現行民法では財産相続だけを認め、共同相続を原則とする。

3 元々の語源は仏教用語で「因果が連続して絶えないこと」

解説すると、すべての現象は諸行無常で、変化して一瞬一瞬生滅すると説かれておりその流れは継続していること。相(すがた)を続ける、つまり非連続の連続、という意味。その仏教語が現代では引き続き起こること、受け継ぐことという意味となって、一般にも用いられるようになった。

【2】相続とは

相続とは、人の死亡により、その人の持っている財産及び権利義務のすべてを承継することです。財産及び権利義務を承継する人を相続人、亡くなった人を被相続人と言います。

財産には不動産や現預金などプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。このときに財産を承継する人のことを相続人と言い、亡くなった人のことを被相続人と言います。

【3】相続の流れ

相続が発生すると、上記の図表のように遺言の有無によって手続きの仕方は違ってきますが、相続人及び相続財産の確定後に、遺言や遺産分割協議書の内容にて相続財産の移転をします。相続財産の移転とは、不動産の名義を取得する相続人の名前に名義の変更や、預貯金や有価証券の名義を同じく取得する相続人に移転することを言います。

相続税が基礎控除を超える場合には、相続税の申告納税も行う必要があります。

また、死後事務と言って、家賃や介護費用・医療費等の精算、各種クレジットカードの解約や健康保険の返却など役所関係の届け出も必要となります。

まずは、大まかな流れだけ把握しておきましょう。

【4】相続対象財産

相続対象財産とは、相続人が引き継ぐことができる財産や権利のことを指します。具体的には、以下のようなものがあります。

■プラスの財産

・不動産

相続対象となる不動産には、土地や建物、マンション、アパートなどが含まれます。

・預貯金

相続対象となる預貯金には、普通預金や定期預金、貯蓄預金、外貨預金などがあります。

・有価証券

相続対象となる有価証券には、株式や債券、投資信託などが含まれます。ただし、証券会社などに預けている場合には、その証券会社によって取り扱いが異なるため、相続人は取引先との契約内容を確認する必要があります。

・車両

相続対象となる車両には、自動車やバイク、船などが含まれます。

・宝石・美術品・骨董品などの家財一式

1つあたりの価値が5万円以下であれば「家財一式」とし、1つあたりの価値が5万円を超える場合は、個別で評価をすることになります。

・ゴルフ会員権

ゴルフ会員権は、主に社団法人制・預託金制・株主会員制と、3つに分類されるため被相続人の財産にゴルフ会員権が見つかった場合には、いずれに該当するか確認しましょう。

・特許権・著作権などの知的財産

知的財産権はその内容により、相続財産の対象となるものと対象外となるものがあります。また、知的財産には一定の存続期間(原則的保護期間)が定められています。

■マイナスの財産

・負債

借金・住宅ローン・買掛金など

・税金関係

未払いの所得税・住民税・固定資産税など未払いの税金

・その他

未払い分の家賃・地代、未払いの医療費など

■相続財産にならないもの

被相続人の権利や義務に属するものは相続財産となりません。

ただし、本来は相続財産ではないものでも経済的効果が認められるもの(生命保険金・死亡退職金など)は、「みなし財産」として相続税が課せられます。

・系譜(家系図)、祭具(仏壇・位牌など)、墳墓(墓地・墓石)など祭祀財産

祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するとされており、相続財産にはなりません。

・生命保険金

契約者(保険料を負担していた者)及び、被保険者が被相続人の場合の死亡保険金は受取人固有の権利となり、相続財産にはなりません。ただし、「みなし財産」として相続税が課せられる場合があります。

・死亡退職金

死亡退職金は原則として、受取人の固有財産となるため受取人が指定されている死亡退職金は相続財産にはなりません。ただし、「みなし財産」として相続税が課せられる場合があります。

・遺族年金

遺族に対して支給される遺族年金(遺族厚生年金、遺族基礎年金)は、原則として所得税も相続税も課税されません。

・香典

一般的には喪主が葬式費用を支払うためのものと考えられるため相続財産になりません。

【5】法定相続人

法定相続人とは、亡くなった人の遺産を相続する資格を持つ人のことを指します。民法で遺産を引き継ぐ人(相続人)の範囲や順番、引き継ぐ割合(相続分)などのルールが決められています。

<法定相続人と相続順位>

配偶者は常に相続人となります。

第1順位:子や孫(直系卑属)

被相続人に子がある場合には、子と配偶者が相続人となります。

ただし、子が被相続人より先に亡くなっている場合は、直系卑属(孫・ひ孫等)が相続人となります。

第2順位:親・祖父母(直系尊属)

被相続人に子、及びその直系卑属がいない場合は、直系尊属(父母・祖父母等)と配偶者が相続人となります。

第3順位:兄弟姉妹・甥姪

被相続人に子およびその直系卑属がなく、直系尊属も死亡している場合は、兄弟姉妹と配偶者が相続人となります。ただし、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合は、その兄弟姉妹の子(甥・姪)が相続人となります。なお、直系卑属の代襲相続は世代の下限はありませんが、第3順位の代襲相続は一代限りとなっています。

<代襲相続のポイント>

・兄弟姉妹の代襲は一代限りとなる。

・直系卑属の代襲は世代の下限はない。

・相続人と被相続人が同時死亡の場合も代襲する。

・相続放棄すると代襲はしない。

相続分については、必ずこの割合で相続しなければいけないわけではなく、法的に有効な遺言がある場合や相続人全員の合意があれば、法定相続割合通りに分ける必要はありません。

【6】遺産分割

人が亡くなり相続が開始すると、亡くなった人の財産は、法定相続人がそれぞれの法定相続分で一度共有することになります。これは、あくまで一時的な状態であり、財産を具体的に配分する手続きが「遺産分割」です。なお、相続人が一人しかいない場合は、全ての財産はその相続人のものとなるため「遺産分割」は不要です。

(1)遺産分割の基準

遺産の分割に関しては民法906条にこのように書かれています。

『遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。』要するに、必ずしも法定相続分で分ける必要はないということです。また、遺産分割の期限は定められていませんが、長引くと預貯金の解約や不動産の売却が難航することもあるため(相続人の一人が判断能力をなくすなどで)なるべく早く、遺産分割はした方がいいでしょう。

(2)遺産分割の方法

遺産分割の方法には3つの手続き、4つの分割方法があります。まずは、3つの手続きから見ていきましょう。

■遺産分割の手続き

(1)遺言による遺産分割

遺言がある場合は原則として遺言の内容に従って遺産を分けます。また、民法第964条に「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。」とあります。つまり、遺言書の内容は法定相続分よりも優先されることになります。遺言が自筆証書遺言の場合は、開封せずに家庭裁判所で検認の手続きをとる必要があります。

(2)遺産分割協議による遺産分割

相続人たちが遺産を分ける方法や割合を話し合い、合意した上で文書化することです。遺産分割は相続人全員で行う必要があります。一部の相続人で行った遺産分割協議は無効となります。話し合いの結果、合意が得られたら、遺産分割協議書にまとめて相続人全員が署名捺印します。

(3)遺産分割調停と遺産分割審判

相続人間の意見が合わずに遺産分割協議で合意に達しなかった場合に、争いを解決するための手続きです。遺産分割調停は、相続人たちが話し合いをする場であり、中立的な第三者である調停委員が仲裁を行います。調停委員は、相続人たちの話し合いを聞き、遺産分割協議が成立するように妥協案を提案する役割を担います。遺産分割調停は、裁判所が行う手続きではなく、相続人たちが自主的に申し立てる手続きです。

一方、遺産分割審判は、裁判所が行う手続きであり、裁判官が争いを解決することになります。遺産分割審判は、相続人たちが合意に達しなかった場合や、遺産分割調停で妥協案が成立しなかった場合に申し立てることができます。遺産分割審判では、相続人たちが主張する証拠を集め、証拠調べや口頭弁論を行い、最終的に裁判官が遺産分割の判断を下しますが、多くの場合、法定相続分となることが多いようです。

■遺産分割の方法

(1)現物分割

不動産や株式・車などの財産をそのまま相続する遺産分割方法です。

現物分割は遺産分割で一般的な方法です。例えば、自宅不動産は配偶者が相続し、

自動車と有価証券は長男が相続するなどを現物分割といいます。

【メリット】

・手続きが簡単

相続人が特定の遺産を引き継ぐだけのため、売却などの手続きが不要で、手続きがシンプルです。不動産や株式、車などを相続しても、相続した人の名義に変更するだけです。

・評価を巡るトラブルを回避できる

現物分割する際は、相続人が不動産をそのまま取得するので、不動産の評価を行う必要がありません。

【デメリット】

・不公平になる可能性がある

現物分割では1人の相続人が土地や建物を相続するため、不動産のような分割が難しい遺産を現物分割する際は、他の遺産との価値に差があると、不公平感が生まれることがあります。

・分筆した場合、不動産の評価が下がることがある

現物分割する際に、土地を分筆することで分筆した土地一つ一つが狭くなり、道路に面しなくなったりすることで、不動産の価値が下がることがあります。また、土地の評価が下がることで、売却が難しくなる可能性もあります。

(2)代償分割

特定の相続人が特定の財産、例えば不動産を取得した代わりに、他の相続人に対して一定の代償財産を交付する分割方法です。例えば、長男に自宅不動産を相続させる代わりに、次男に対して代償金を支払うという方法がよく行われます。

【メリット】

・公平感を生むことができる

不動産などを受け継いだ相続人と、不動産の代わりに代償金などをもらう相続人に不公平が生じないよう分割できるというメリットがあります。

・不動産など分けにくい財産を残せる

不動産を相続する相続人は、土地や自宅などの遺産をそのままの形で取得できます。これは、他の相続人にとっても、分割しにくい不動産などの遺産をスムーズに処理できるというメリットになります。

【デメリット】

・代償金を支払う相続人に資金力が必要

代償金を受け取る相続人は代償金から相続税を払えばいいが、現物財産を相続する人は、自分の資産から代償金や相続税を払うことになるため、資金力が必要となります。

・贈与税などの税金がかかる場合がある

遺産分割協議書に代償分割について記載がないと、代償金の全額が贈与とみなされ、贈与税が発生することがあります。

(3)換価分割

不動産や株式など相続財産の中でも分割しにくいものを売却し、現金化した後に相続人同士で遺産分割を行う方法です。例えば、父が被相続人で、相続人が長男と次男、遺産が3,000万円の自宅不動産の場合、この自宅不動産を3,000万円で売却し、その売却代金を長男と次男が1,500万円ずつ分ける方法です。

【メリット】

・公平に分けやすい

売却金を法定相続分に応じて分配するため、法定相続分に即して公平に遺産を分けやすいです。

・資金不足でも分割しやすい

代償分割を選ぶ際のデメリットで説明した資金力に関しても、換価して現金化するため問題とならないです。

・納税資金の確保がしやすい

換価分割によって不動産や株式などを売却し、まとまった資金を得ることで、相続税を期限内に納税できます。

【デメリット】

・売却時に安価になる可能性

相続税納税のために売却を急ぐ必要が生じる場合、売り急ぎ状態となり相場よりも安い値段での売却となってしまう恐れがある。

・手間と経費がかかる

換価分割を選択した場合は、相続人全員が合意し売却の必要があります。その際は、遺産分割協議をして、不動産を売却することに相続人全員が合意の上売却となる。また、不動産仲介会社へ支払う手数料や印紙代、測量費用・境界確定費用などの諸経費がかかる。

(4)共有分割

不動産などの分割が難しい遺産の全部または一部を複数の相続人で共有する形で相続する方法です。ただし、後々処分しにくくなる問題が生じることがあります。例えば、相続財産が自宅不動産のみの場合、長男と次男がそれぞれ1/2ずつの割合で共有取得する方法です。この共有分割は、相続人間で揉める可能性があるため、実務上はお勧めしないことが多い分割方法です。

【メリット】

・公平感を生むことができる

相続財産が不動産しかなく、かつ代償分割や換価分割といった方法も選択できない場合でも、共有とすることで平等な遺産分割をすることができる。また、売却時の売却益も持分に応じた資金を分配することができる。

・遺産分割協議が速やかに完結する

不動産を一時的に共有状態にすることによって、遺産分割協議を速やかに完結できる。

・手間と費用がかからない

換価分割の際のデメリットにある不動産売却の手間や不動産会社への手数料・印紙代や測量費用・境界確定費用もかからない。

【デメリット】

・権利関係が複雑になる

共有者の一人が亡くなると、その相続人が共有持分を相続することになる。その相続人が亡くなると、さらにその相続人が共有持分を相続することになる。つまり、共有者が増える上に、関係の薄い者同士が共有者になるため、共有者が誰なのか把握が困難になってしまう可能性がある。

・管理が困難になる

共有不動産について管理行為(賃貸借契約の解除や賃料の変更等)をするには、共有者の持分価格の過半数の同意が必要。そのため、建物の経年劣化などで建物を改修したい場合も過半数の同意が得られなければ勝手に改修はできないため、管理が困難になる。

・売却しにくい

共有不動産を売却するには、共有者全員の同意を得なくてはならないため、売却そのものが困難となる可能性が高くなる。

このように、遺産分割の方法はそれぞれにメリットとデメリットがあるため、きちんとそのことを理解してどの方法を選択するかが重要です。相続人たちが適切な選択をするためには、事前に情報収集や話し合いを行い、遺産分割に関する専門家の意見も参考にすることが望ましいでしょう。

(5)相続放棄

相続放棄とは、相続人自らが相続する権利を放棄することを意味します。相続放棄するこ

とにより、相続人は相続財産に関する権利や義務を放棄することができます。

例えば、被相続人が多額の借金を残していた場合などに相続放棄が有効です。

・相続放棄の流れ

相続が発生した日(相続開始日ではない)から原則3ヶ月以内に、財産を放棄する相続人が家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を提出します。

①相続人であることを知る

②被相続人の「相続財産」を調査し、相続放棄をするかを検討

③相続放棄の手続きに必要な書類(戸籍謄本など)を市区町村から取り寄せ、「相続放棄申述書」を作成

④家庭裁判所へ「相続放棄申述書」を郵送または直接提出

⑤家庭裁判所から「照会書」が届いたら、「回答書」に記入して返送

⑥家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届き、相続放棄が完了

・相続放棄が認められないケース

以下の場合は、単純承認とみなされ、相続放棄が認められないことがありますので、注意が必要です。

□相続人が相続財産の全部、または一部を処分した場合

□相続人が相続財産の全部または一部を隠匿、消費した場合

例えば、「入院給付金」「高額療養費」などの受取人は、通常は被相続人のため、これらを受け取った相続人は、相続放棄ができなくなる恐れがあるため注意が必要です。

また、遺産分割協議に参加した場合や被相続人あての請求書を支払った場合も、相続放棄ができなくなることがあります。

・相続放棄しても認められるもの

相続放棄をした相続人であっても、「相続財産でないもの」は受け取ることができます。「相続財産ではないもの」とは未支給年金、遺族年金、遺族基礎年金、死亡退職金、生命保険金などです。

ただし、生命保険金や死亡保険金を受け取った場合、非課税枠はなくなります。

・相続放棄の際の注意点

<不動産の相続放棄>

不動産に課される毎年の固定資産税や土地の維持管理費は払わなくても良くなりますが、次に引き継ぐ人が見つかるまで、管理義務責任は残ります。相続人全員が相続放棄すると、利害関係人(=相続放棄した者)の請求により、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任してくれます。相続財産管理人が選任され、その者が相続財産の管理を開始すれば、相続放棄した者は財産管理から解放されます。

しかし、相続財産管理人が財産の管理を開始するまでは、相続放棄した者が管理し続けなければなりません。また、家庭裁判所に申し立てしなければ、相続財産管理人の選任も行われません。

さらに、相続財産管理人の選任にはある程度の費用がかかります。選任の申し立てを弁護士や司法書士に依頼する場合、士業への報酬がかかります。さらに、弁護士や司法書士が相続財産管理人に選任された場合にも報酬がかかります。

<相続放棄の範囲>

先順位の相続人が相続放棄をした場合、次順位の相続人が相続権を取得します。第三順位の相続人である兄弟姉妹(または甥・姪)が相続放棄すると、法定相続はその時点で相続が実行されないまま終了します。

つまり、相続放棄をする場合は順位が繰り上がるため、第三順位の相続人まで知らせておかないと親族間でトラブルになることがあります。

第2章 相続税計算の仕組み

【1】相続税の計算

相続税は、財産の合計が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えた場合に課税されます。相続税の計算は、次の流れで行います。

■相続税の基礎控除額

相続税の対象となる財産合計額から、相続財産から控除できる債務・葬式費用を引いた残額が、相続税の基礎控除額である「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を超えた場合には、その超えた部分について相続税がかかります。

「法定相続人の数」については、民法における相続人の数をベースとしていますが、以下の点で違いがあります。なお、生命保険金や死亡退職金の非課税枠を計算する際の「法定相続人の数」も同様です。

・養子縁組をして民法上の相続人を増やした場合でも、実子がいるときの養子の数は1人まで、実子がいない場合の養子の数は2人までとなります。

・相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとして計算します。

相続税の対象となる財産の合計額から相続財産から控除できる債務・葬式費用を引いた残額が、相続税の基礎控除額以下である場合には、相続税はかからず、相続税の申告書を提出する必要もありません。

■相続税の計算の仕組み

(1)計算の手順

相続税は、最初に被相続人に対する相続税の総額を計算します。次に、その相続税の総額を、各相続人が引き継いだ財産の割合で分配することによって各相続人に割り振ります。割り振られた相続税額に対して、各相続人の属性や個別の事情を考慮した加算・減算の規定が適用されます。

(2)相続税の総額

相続税の対象となる財産の合計額から相続財産から控除できる債務・葬式費用を引いた残額が、相続税の基礎控除額「3,000万円+600万円×法定相続人数」を超える場合には、その超える部分を一旦、法定相続分で分けたとします。次に分けた後の金額について、それぞれに当てはまる相続税の税率をかけて相続税を計算します。計算された相続税を合計したものが「相続税の総額」です。

(3)各相続人の税額

「相続税の総額」は相続人全員について算出された相続税の合計額です。その合計額を実際に各相続人が引き継いだ財産の割合によって分配します。被相続人の財産を30%引き継いだ場合は、その相続人は相続税の総額の30%を負担します。被相続人の財産を何も引き継がなかった相続人には相続税はかかりません。

(4)各相続人の納付税額

各相続人に割り振られた税額について、例えば、財産を引き継いだ相続人が配偶者の場合は「配偶者控除」という規定により、その相続人に対する税額が減額されます。財産を引き継いだ相続人に障がいのある子がいれば、「障害者控除」という規定により、障がいのある子に対する税額が減額されることになります。

このように各相続人の属性や個別の事情を考慮した税額加算や税額控除が適用され、各相続人の納付税額が決定します。

■相続税の申告要否の判定基準

財産の評価額の合計が基礎控除以下であるかを判定するにあたり、主な相続財産である宅地・建物・預貯金・有価証券・生命保険金の評価額の目安も確認しておきましょう。

■相続税の基礎控除額

相続税の基礎控除額は以下の算式で計算されます。

【相続税の基礎控除額】

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

法定相続人が妻と子2人であれば、法定相続人の数は3人です。この場合、相続税の基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。

【2】財産の評価額

■宅地

宅地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」があります。簡単に説明すると、「路線価方式」は市街地にある宅地の評価方式で、「倍率方式」はそれ以外の地域の宅地の評価方式になります。

【路線価方式】

路線価方式は、「路線価」が定められている地域の宅地の評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面している宅地の1平方メートル当たりの標準的な評価額のことで、毎年7月1日にその年の路線価が国税庁より公表されます。路線価は国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」というサイトで確認できます。宅地の評価額は、路線価をその宅地の形状等に応じた調整率で補正した後、宅地の地積をかけて計算します。簡易的に評価額を算定する場合には補正を考慮せず、単に「路線価×その宅地の地積」で計算すればいいでしょう。

【倍率方式】

倍率方式は路線価が定められていない地域の評価方法です。倍率方式での宅地の評価額は、その宅地の固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算します。固定資産税評価額は市(区)役所または町村役場から送られてくるその年分の「固定資産税納税通知書・課税明細書」(名称は各自治体により若干異なります)に記載があります。また、各自治体の固定資産税課の窓口で「固定資産税評価証明書」(名称は各自治体により若干異なります)を発行してもらうこともできます。固定資産税評価額にかける倍率は、国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」というサイトで確認することができます。

(参照:https://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rtof.htm)

□建物

建物は固定資産税評価額により評価します。

□預貯金

預貯金は原則として亡くなった日の残高で評価します。従って、亡くなった日の残高証明を金融機関で取得するようにします。

□有価証券

有価証券は、原則としてそのときの時価で評価します。証券会社に預けている有価証券については、3ヶ月から4ヶ月ごとに送られてくる取引報告書に所有している有価証券の時価が記載されているのでそれらを参考にするか取引残高証明書を依頼します。

□生命保険金

保険証券を参考に、生命保険金を確認します。なお、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠がありますので、その金額を差し引いた金額が相続税の課税対象となります。

【3】相続税の6つの控除と2つの特例

相続税を計算する際には、主に6つの控除と2つの特例があります。まずは、6つの控除を見ていきましょう。

(1) 基礎控除

全ての相続人に適用される遺産に係る基礎控除で、「3,000万円+600万円×法定相続人数」となります。相続等によって財産を取得した各人の課税価格の合計額がこの基礎控除額以下である場合は、原則として相続税の申告納税は不要です。

(2) 配偶者の税額軽減(配偶者控除)

配偶者だけが利用できる制度で、配偶者の相続財産が1億6,000万円、もしくは法定相続分の範囲内までは相続税が非課税になる制度です。差し引く金額の方が大きい場合は課税されません。配偶者控除を受けることができる配偶者は、相続開始の時点(被相続人が亡くなった時点)で、配偶者が相続を放棄しても適用があります。この配偶者は法律上の婚姻の届出をした者に限られ、いわゆる内縁関係の者には適用されません。配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書において税額軽減の明細を記載する方法で行い、相続税の申告書を提出する際に遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど配偶者が取得した財産がわかる書類を添付する必要があります。

(3) 未成年者の税額控除

相続人が18歳未満の未成年である場合に相続税の額から一定額が控除される制度です。未成年者だとしても相続税は発生しますが、未成年者には教育費や養育費などさまざまなお金がかかるため、こうした事情を考慮し、税額控除の仕組みがあるのです。相続人に未成年者がいる場合、18歳に達するまでの年数に応じて、1年につき10万円が未成年者控除として相続税額から控除されます。

未成年者控除の控除額の算式は次のとおりです。

「(18歳-相続開始時の年齢)×10万円」

(注)相続開始時の年齢は満年齢とし、1年未満の端数は切り捨て。

例えば、10歳の相続人なら、「(18-10)×10万円=80万円」の税額控除となります。

(4) 障害者の税額控除

障害者の税額控除は、相続人が85歳未満の障害者の場合(一定の要件を満たす必要があります)に、相続税額から一定額が控除される制度です。

障害者控除の控除額の算式は次のとおりです。

・一般障害者の場合

「(85歳-相続開始時の年齢)×10万円」

・特別障害者の場合

「(85歳-相続開始時の年齢)×20万円」

(注)相続開始時の年齢は満年齢とし、1年未満の端数は切り捨て。

また、控除額が相続税額よりも大きい場合は、他の相続人でかつ扶養義務者の相続税額から控除できます。

例えば、50歳の障害者である相続人の場合は、「(85-50)×10万円=350万円」、特別障害者の場合は、「(85-50)×20万円=700万円」が相続税額から控除されることになります。

(5) 相次相続控除

相次相続控除とは、最初の相続の発生から10年以内に次の相続が発生した場合に、相続税額から一定額を差し引くことができる制度です。たとえば、2年前に父が亡くなり、今年母が亡くなって相続が開始した場合、前回の相続で母が1,000万円の相続税を納めていた場合、その約8割に当たる約800万円の税額控除が受けられることになります。

控除額の計算式は以下の通りです。

「A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10」

A:今回の被相続人が前回の相続時に課された相続税額

B:今回の被相続人が前回の相続時に取得した純資産額

C:今回の相続で相続人や受遺者の全員が取得した純資産額の合計額

D:控除を受ける相続人が今回の相続で取得する純資産額

E:前回の相続から今回の相続までの期間(端数切捨て)

また、相続を放棄した者および相続人としての権利を失った場合は相続人ではないため、遺贈により取得した財産がある場合でもこの控除は適用されません。

【6】贈与税額控除

相続税と贈与税を二重に払わなくて済むように、相続税から控除できる制度です。

贈与された財産に対し、既に贈与税を納めていた場合、贈与税額控除により既に納めた贈与税を差し引くことができます。贈与税額控除には適用要件があり、すべて満たす必要があります。

【贈与税額控除の要件】

①被相続人から相続財産を引き継いだ

②被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた

③贈与税の申告と納税を行っている

【贈与税額控除の必要書類】

相続税申告書の第4表の2「暦年課税分の贈与税額控除額の計算書」と相続税申告書の第14表「純資産価格に加算される暦年課税分の明細書」が必要

■2つの特例について

(1)小規模宅地等の特例

小規模宅地等の特例とは、被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合には、80%又は50%まで評価額を減額できる特例です。例えば、被相続人の自宅の敷地の相続税評価額が1億円だったとします。この土地に小規模宅地等の特例を適用すると2,000万円の評価となります。土地の評価額は高額となる場合が多く、その場合、当然相続税も高額になります。相続税が支払えず、生活の基盤でもある自宅がなくなってしまわないよう大幅に評価減できる特例措置が設けられています。

【小規模宅地等の特例の対象となる土地の要件】

①特定居住用宅地等(住宅で使っている土地)

特定居住用宅地等とは、亡くなった人または亡くなった人と生計を一にしていた親族が住んでいた土地であること。土地の面積330㎡までの部分について評価額が80%減額される。

②特定事業用宅地等(事業をしていた土地)

特定事業用宅地等とは、被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が事業を行っていた土地のこと。土地の面積400㎡までについて、80%減額される。

③貸付事業用宅地等(貸している土地)

貸付事業用宅地等とは、被相続人や被相続人と生計を一にしていた親族が、貸付業をしていた土地のこと。賃貸マンションやアパート、貸駐車場等が該当する。土地の面積200㎡までについて、50%減額される。

【小規模宅地等の特例の適用を受けるための必要書類一覧】

適用には、原則申告期限までに遺産分割協議が成立していることが必要です。

・マイナンバーカード

マイナンバーカードがない場合は、番号を確認する書類としてマイナンバーが記載された住民票の写し、または通知カード写し、及び身元を確認する書類として、運転免許証・身体障害者手帳・パスポート・在留カード・公的医療保険等の写しのいずれか1つ。

・被相続人のすべての相続人の戸籍謄本(写し可)あるいは法定相続情報の写し

・遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し

・すべての相続人の印鑑証明書(原本)

(2)納税猶予の特例(農地等の納税猶予制度)

農地を相続または贈与した場合は、相続税または贈与税で農地の納税猶予の特例を適用することができる特例です。農業で使われる農地は面積が広大なため、相続税や贈与税が課税されると税額が高く支払いができない可能性があります。また、納税のために農地を処分してしまうと農業後継者がいなくなる問題が出てくるため設けられた特例です。

一定の条件が設けられており、制度を利用できるのは「農家を継ぐ相続人」に限ります。農業をやめると、利子付きで納税しなければなりません。また納税「猶予」とありますが、条件を満たせば納税は実質的に免除となります。条件は以下のとおりです。

【被相続人の要件】以下のいずれかに該当していること

・死亡の日まで農業を営んでいた

・農地等の贈与税の納税猶予を適用した農地等の生前一括贈与をした

・死亡の日まで相続税・贈与税の納税猶予の適用を受けていた者で、障害、疾病などの事由により営農が困難な状態で、賃借権等の貸付けをし、税務署長に届出をしている

・死亡の日まで特定貸付けを行っていた

【相続人の要件】以下のいずれかに該当していること

・相続税の申告期限までに農業を開始し、その後も引き続き農業を行う場合、農業委員会が証明した人(適格者証明書の交付を受けた者)

・農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、障害、疾病などの事由により営農が困難な状態であるため賃借権等の貸付けをし、税務署長に届出をしている

・相続税の申告期限までに特定貸付けを行っている

また、原則として相続を放棄した相続人は適用を受けられません。

次の場合には納税の猶予が取り消され、猶予されていた贈与税と利子税を納めなければならないため注意が必要です。

・農業をやめた場合

・受贈者が贈与者の推定相続人でなくなった場合

・継続届出書を提出しなかった場合

・生産緑地の買取の申出があった場合

・特定生産緑地の指定の解除があった場合

・都市計画の変更等により特例農地等が特定市街化区域農地等に該当した場合

以上のように6つの控除と2つの特例は、適用要件など含めて仕組みが複雑なものが多いため必ず税理士に相談をし、しっかりと確認を行い選択することが大切です。

また、6つの控除と2つの特例とは別に生命保険料や死亡退職金には非課税枠もあります。被相続人が生命保険に加入しており、死亡保険金を相続人が受け取った場合や同じく死亡退職金を受け取った場合について解説します。

(1)死亡保険金

生命保険金はみなし相続財産として、相続税の対象となります。

ただし、生命保険金は契約者・被保険者が被相続人で受取人が相続人の場合、以下の非課税枠があります。

500万円×法定相続人数=非課税

この非課税を超えた部分は相続税の課税対象となります。

例えば、契約者:被相続人、被保険者:被相続人、受取人:配偶者で、死亡保険金が3000万円だった場合、相続人が配偶者と子2名だとすると、500万円×3=1500万円までが非課税となります。また、以下の場合には非課税枠はありません。

次の例のように、死亡保険金は受け取る人によって税金の種類が変わります。

①妻の生命保険料を夫が支払い、妻死亡で保険金受取が夫・・・夫には所得税

②妻の生命保険料を夫が支払い、妻死亡で保険金受取が子・・・子には贈与税

(2)死亡退職金

企業などから受け取る死亡退職金もみなし相続財産として、相続税の対象となります。

死亡退職金とみなされるのは、

・死亡退職で支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの

・生前に退職し、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に確定したもの

生命保険金と同様、500万円×法定相続人数=非課税

となります。

生命保険金の非課税枠と死亡退職金の非課税枠は併用可能です。

第3章 相続対策

よく、相続セミナーなどで参加者の方から「我が家は大した財産がないので、相続対策は必要ない」と聞きます。確かに、基礎控除以内の財産であれば「納税資金対策」や「節税対策」は必要ないということになります。

相続税が実際にかかる人の割合は、2022年12月の国税の「2021年分における相続税の申告事績の概要」の公表によると、相続税の課税割合は、2014年度には4.4%でしたが、2015年度には8.0%、2021年度には9.3%と毎年増加しています。2021年度の相続税の課税対象者の割合は、前年度比で0.5ポイント増加し、9.3%となりました。

実際に課税があった被相続人(死亡者)の数は100人のうち約9人ということになりますので、決して多いとは言えません。ほとんどの方は、「納税資金対策」と「節税対策」が必要ではないということがこのデータからもわかります。では、大した財産がない方の場合、相続対策は必要ないかというと、それは違います。「納税資金対策」と「節税対策」が必要ない場合でも「相続対策」は必要です。

それは、「相続対策」と言われるものには4種類あるからです。また、2020年度の司法統計の遺産分割調停の新受事件件数は全国の総数は1万2760件。裁判所の遺産分割調停・審判の金額別割合を見ると、遺産が5000万円以下の割合は最高裁判所司法統計によると次の通りです。

2016年度 75.5%

2017年度 75.5%

2018年度 76.2%

2019年度 76.7%

2020年度 77.6%

相続財産が多いから揉めているというよりは、むしろ5000万円以下の財産で揉めていることが分かりますし、少しずつではありますが右肩上がりとなっています。このことからも「相続対策」がすべての人に必要であると言えます。

【1】相続対策の検討手順

相続対策を行う上では以下の手順に従って行います。

①現状の把握

現状の把握にはさらに二つあります。

・相続財産の把握

何がどこにいくらくらいあるのかを把握します。

(例:不動産は自宅用と農地があり、さらに先祖から名義を変えていない山林がある。現預金は○○銀行と○○JAに合計1,000万円など)

・思いの整理

誰に何を相続させたいのか、させたくないのか、自分自身の考えを整理します。

②現状分析及び問題点の把握

①を受けて、隣地との境界が未確定のままの不動産が何筆あるか、先祖名義のままの山林は誰と遺産分割する必要があるかなど現状把握し、また、行方不明者が推定相続人にいるのでどうしたらいいか、不動産が多く現金が少ないので納税資金をどう確保するかなどの問題点を把握します。

③問題解決策を考え、それを実行する。

②で把握した問題を解決するために、士業や相続コンサルタントを入れて遺言作成・相続人調査・節税対策などを立て、実際に実行します。

④定期的なメンテナンス

相続人の数の増減(子が先に亡くなる・あるいは孫が増えるなど)、想いが大きく変化した(不仲だった子との仲が回復したなど)、あるいは財産が大きく増減した(不動産の一部を売却してアパートを建てたなど)場合には、一度立てた対策を見直し、適宜、修正や再度対策の立て直しをします。

【2】4つの相続対策

相続税対策には遺産分割対策、節税対策、納税資金対策、認知症対策の4つがあります。

かつては、相続対策は遺産分割対策、節税対策、納税資金対策の3つとされていましたが、

近年、認知症患者数が年々増加していることから、認知症対策が加わり4つとされています。

①遺産分割対策

分割対策における一般的な悩みは、

〇遺産をめぐって残された家族が争わないようにしたい

〇法定相続分と違う分け方をしたい

〇相続人ではない孫などに遺産を遺したい

といったものがあります。

亡くなった後、遺産をめぐって相続争いにならないように、また、自分の財産を誰に承継させるのかを決める分割対策のことです。

遺産分割対策は、遺産をどのように分割するかということです。対策方法として主に、

☑遺言作成

☑生前贈与

が挙げられます。

遺言に関しては次章で、生前贈与に関してはこの章の次の節、節税対策で詳しく説明します。

②節税対策

相続税は累進税率であるため、財産額が大きければ大きいほど税負担が重くなります。そのため、相続税を少しでも減らしたいときに行う対策のことです。相続税を節税するための対策は主に以下の4つがあります。

☑生前贈与

☑養子縁組

☑不動産の活用

☑生命保険の活用

③納税資金対策

納税資金対策とは、相続税が相続発生後10ヵ月以内に現金一括納付が原則となっているため、納税資金が不足した場合に相続人に負担をかけることになってしまうことから、納税資金の確保に役立つ対応方法のことです。

対策としては主に2つあります。

☑相続時の資金を増やす

☑生前に資金を増やす

④認知症対策

相続が発生すると、被相続人の財産が凍結されますが、その際に認知症で判断能力がない人が相続人にいる場合、遺産分割協議が難航する恐れがあります。また、相続発生前においては、相続対策をするべき人(親など)が認知症で判断能力が失われると、相続対策そのものができなくなります。それらに備える対策が、今後認知症発症が増加の一途をたどる現状において重要となってきました。認知症対策は主に3つあります。

☑遺言作成

☑民事(家族)信託

☑委任契約・任意後見契約

【3】生前贈与

この項では、相続対策において遺産分割対策及び節税対策で重要な役割を果たす生前贈与について詳しく解説していきます。

まず、生前贈与とは生きているうちに自分の財産を第三者に譲り渡すことです。この場合、贈与する相手は相続人だけではなく、孫や嫁、あるいは親しい友人やNPO法人などに対しても贈与することができます。

生前贈与を活用することが遺産分割対策となる理由としては、相続時にトラブルのもとになりそうな財産を生前に贈与しておくことで、相続時のトラブルを回避できる可能性があるからです。たとえば、自宅不動産がトラブルのもとになる可能性があるなら、先に贈与することで相続財産ではなくなるため回避されるということになります。

また、節税対策としての生前贈与の効果は、財産を生前に減らすことにより相続財産を結果として減らせるため、相続税も減るということになります。

生前贈与には以下の方法があります。

・相続時精算課税制度

・暦年贈与

・教育資金贈与

・おしどり夫婦贈与

・住宅取得等資金の贈与

・贈与税の配偶者控除

■相続時精算課税制度

この制度は、原則として60歳以上の父母や祖父母などから、18歳以上の子や孫などへの贈与について選択できる制度で、2,500万円までの贈与が非課税で、2,500万円を超えた部分に対しては一律で20%の贈与税がかかります。また、「相続時精算課税」という名称の通り、相続発生時に相続税を計算する際には、制度の適用を受けた贈与すべてを相続財産に戻して、相続税の課税対象となります。その際、既に支払った贈与税については、相続税から控除されます。また、相続時精算課税制度を一度選択すると、その贈与者からの贈与については暦年贈与に戻すこともできません。

ただし、令和5年度税制改正大綱により、相続時精算課税制度も見直されることになりました。具体的には、相続時精算課税を利用しても、2024年からは毎年1月1日から12月31日までの1年間の贈与総額が110万円を超えなければ、贈与税は課税されず、贈与税の申告も不要です。さらに、年間110万円までの贈与には、相続税が課税されることもありません。

この改正後でも基本的な仕組み自体は変わっておらず、「一律20%」や「2,500万円まで非課税」という点も変わりません。しかし、「年110万円控除」枠が新設されることで少額でも手軽な生前贈与が可能となりました。

【相続時精算課税制度を選択した場合の、贈与税の計算式】

贈与税 = (贈与額 – 控除額(最高2,500万)) x 0.2

例えば、贈与額が5,000万円の場合、贈与税は(5,000万円 – 2,500万円) x 0.2 = 500万円となります。

【初回贈与時に必要な手続き】

相続時精算課税制度の適用を受けるには、初回贈与の年の翌年3月15日までに、次の書類を提出する必要があります。

・贈与税の申告書

・相続時精算課税選択届出書

・受贈者の戸籍謄本(抄本)

・受贈者が贈与者の孫の場合は子の戸籍謄本(抄本)

・受贈者の戸籍の附票の写し

・贈与者の住民票の写し

【メリット】

・2,500万円を超える部分についての贈与税額が低く抑えられる。

例えば、

暦年課税制度:(1億円 – 110万円)×55% – 400万円 = 5,039万5,000円

相続時精算課税制度:(1億円 – 2,500万円)×20% = 1,500万円

となり、相続時精算課税制度を活用した方が贈与税を抑えられることになる。

・値上がりが確実な財産がある場合

相続時に組戻し計算される際には、贈与時の価格で計算されるため、将来値上がりすることが確実な財産を事前に生前贈与することで、「相続時の時価 – 贈与時の時価」の差額分だけ相続税を節税できる。

【デメリット】

・暦年課税制度が使えなくなる

相続時精算課税選択届出書を提出すると、暦年課税制度の適用は受けられません。

・贈与を忘れると遺産分割協議と相続税申告をやり直す必要がある

相続時精算課税選択届出書を提出後の贈与は何年前の贈与でも相続税の課税対象となり、対象となる贈与を忘れて相続税の申告をした場合、税務署から指摘され、遺産分割協議や相続税の申告をやり直すことになるため要注意。

・相続人でない孫などは、相続税は2割加算となる

相続人でない孫などが財産をもらうと、後日相続税の申告・納税義務が生じ、「相続税 + 相続税×20%」を納めなくてはならない。ただし、代襲相続で受け取った場合は2割加算とはならない。

■暦年贈与

暦年贈与とは、毎年繰り返して贈与を行うことです。暦年贈与のうち一定額(受贈者1名につき1年で110万円)の範囲内は贈与税が非課税となるため、相続税を節税する際によく活用されます。また、暦年贈与を行う際には、毎年、贈与する人と贈与される人との間で贈与契約を締結し、契約書を残しておくことが望ましいです。この契約書は法的に贈与が成立するための根拠となります。

2023年度の税制改正大綱により、暦年贈与の持ち戻し期間が2024年以降は3年から7年に延長されることになりました。これは、死亡日以前3年間に贈与した財産が、相続の際、相続財産に持ち戻すこととなっている暦年課税制度を使って行う生前贈与の相続財産への加算期間が、3年から7年になります。よって、本テキストでは新制度で解説していきます。死亡日以前、7年間に贈与した財産は、相続の際に相続財産に持ち戻すこととなっています。贈与した金額が年110万円以下の基礎控除の範囲内でも、贈与者の死亡日以前7年間であれば、相続税の対象になります。また、延長した4~7年の4年間の持ち戻しの額は、この期間に贈与した財産額から100万円を控除した額になります。2024年1月1日以降に贈与により取得する財産に係る相続税について適用されるため、2026年12月以前に相続開始の場合、加算期間は3年であり改正の影響を受けませんが、相続開始日が2027年1月以後、加算期間は延長され、令和13年(2031年)以降、加算期間が7年となります。

【メリット】

・相続人でない孫などへの贈与が加算の対象外のため、相続人以外のものへの贈与での節税効果が見込める。

【デメリット】

・持ち戻し期間延長のため、より早く暦年贈与をしなくては節税効果が見込めなくなった。

■教育資金贈与

教育資金の贈与は、正式には「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」という制度で、原則として30歳未満の人が祖父母や親から学校の授業料や塾代(塾代の場合は500万円上限)などの教育資金1500万円を上限に一括で贈与を受ける場合、贈与税が非課税となる優遇措置が2026年3月31日までとなりました。

【教育資金の範囲】

① 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費または入学(園)試験の検定料

② 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴う必要な費用

③ 教育(学習塾など)に関する対価や施設の使用料など

④ スポーツ(サッカー、剣道など)または文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る対価など

⑤ ③または④の指導で使用する物品の購入に要する金銭

⑥ ②に充てるための金銭で、学生等の全部または大部分が支払うべきものと学校等が認めたもの

⑦ 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費

【教育資金贈与の要件】

①直系尊属からの贈与が必須

②金融機関に専用口座の開設が必要(一人一口座)

③現金を引出すには、口座を開設した金融機関に領収書の提出が必要

④30歳になるまでに入れた金額を使い切る

また、孫等が、1500万円以下の額について金融機関等の営業所等を経由して「教育資金非課税申告書」を提出することによって、贈与税が非課税となります。

【メリット】

・1500万円以内の教育資金の贈与には贈与税がかからない

・子や孫、曽孫などの多額な教育資金を確保することができる

・贈与者が高齢の場合には一度に大きな贈与をすることで、贈与の後に、贈与者が亡くなった場合でも、相続税も贈与税もかからずに、継続して教育資金として使うことができる

【デメリット】

・金融機関に口座を設けて贈与資金を預け入れたり、資金を使う場合は領収書を提出したり手間がかかる

・使用用途は教育に限定されている

・受贈者の子や孫などが30歳までに使い切れない場合、贈与税がかかる

■おしどり夫婦贈与

おしどり贈与とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用されます。通常、暦年贈与と呼ばれる贈与を行った場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されます。しかし、おしどり贈与の適用を受ければ、基礎控除とは別に2,000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2,110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができることになります。

【おしどり夫婦贈与の要件】

①夫婦の婚姻期間が20年以上であること

②居住用不動産または居住用不動産の取得資金の贈与であること

③贈与された年の翌年3月15日までに居住用不動産に住んでおり、その後も居住する見込みがあること

④おしどり贈与を適用するには、贈与税の申告が必要。

おしどり贈与を適用して贈与税が0円となる場合でも、贈与税の申告書を作成して提出しなければならないため申告書忘れには要注意。

【メリット】

・相続税対策に活用できる

・生前贈与加算が不要

・相続発生後も配偶者の住居を確保できる

・自宅を売却したときの譲渡所得税を低くできる

【デメリット】

・登録免許税・不動産取得税などのコストがかかる

・配偶者が先に亡くなった場合、配偶者名義の財産は相続税の課税対象になる

【4】不動産の活用

相続対策として、不動産活用が効果的であると言われる理由は、現金を相続した場合、3000万円の相続税評価額は3000万円となりますが、3000万円で購入した不動産は相続税を計算する際には、3000万円より評価額が低くなります。これは、相続税法に基づく「税法上の財産評価額の引き下げ」という仕組みをうまく利用しているからです。それらを踏まえて、具体的にどのような活用法があるか確認していきましょう。

■不動産の評価方法

不動産は一物4価と言って、評価の仕方が複数あります。また、相続税評価額は、土地と建物に分けて計算し、土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額で評価されます。

【不動産の4つの価格】

①実勢価格(時価):不動産を売買する際に、実際に取引が成立した価格のこと。

②公示価格:価格の動向指標として、国土交通省が毎年示す標準的な価格のこと。

③相続税評価額(路線価):相続税の評価をする際に使用する価格のこと。公示価格の8割が目安となる。

④固定資産税評価額:固定資産税を決める際に使用する価格のこと。公示価格の7割が目安となる。

相続税を計算する際は、土地については③を使用し、建物については④を使用します。例えば、②公示価格で3000万円の不動産は、③相続税評価では約2400万円となります。相続税の評価は下がりますが、①の時価も下がって不動産の価値が下がるわけではありません。

■相続対策における不動産の活用方法

①収益物件の購入

賃貸アパートなどの収益物件を購入した場合、売却などにあたり自分の好きに使える状態ではないため、相続税評価額は自宅を建築するよりも下がります。

【建物の固定資産税評価額の計算式】

貸家=建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合(通常30%)×賃貸割合)

借家権割合:国税庁が発表している数値

賃貸割合:その貸家が賃貸されている割合、稼働率

【貸家用の土地の評価額の計算式】

貸家が建てられている土地の評価額

=更地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

【借地にしている場合の優遇措置】

路線価とともに書かれている記号が借地権割合になります。

借地権割合は右図のとおりです。

②小規模宅地等の特例による評価減

小規模宅地等の特例を活用して相続税の評価減となることは第2章の「相続税の仕組み」(3)相続税の6つの控除と2つの特例でも解説したとおりですが、被相続人が住んでいた土地や事業をしていた土地について、一定の要件を満たす場合には、80%または50%まで評価額を減額できます。この特例を活用することにより、不動産を有効活用すれば相続税を大きく圧縮することが可能です。

【5】養子縁組

養子縁組は、相続対策として利用されることがあります。ただ、これにはメリットもあればデメリットもあります。以下でメリットとデメリットをしっかり確認していきましょう。

【メリット】

・基礎控除額が増える

養子縁組によって法定相続人の数が増えることで、その人数分だけ基礎控除額が増え、結果、相続税節税に繋がる。

・生命保険金・死亡保険金の控除額が増える

生命保険・死亡退職金は、「みなし相続財産」として相続税の対象となるが、生命保険金・死亡退職金について、法定相続人の数に応じた非課税枠が設けられている。

(500万円×法定相続人数までは非課税)

そのため、養子縁組で法定相続人が増えることにより節税となる。

・配偶者や子以外にも財産を承継させることが可能

法定相続人以外のものに財産を承継させるには、遺言などによって遺贈を行う必要がありますが、例えば孫などに財産を残したい場合は、養子は法定相続人となるためそれが可能となります。

【デメリット】

・遺産分割が複雑化する恐れ

孫などを養子にすることを他の相続人に伝えていないまま、相続が発生すると、遺産分割協議が難航する恐れがある。

・孫養子の場合は相続税が2割加算となる

また、相続税を計算する場合、養子は実子がいる場合には1名まで、実子がいない場合は2名までしか基礎控除ではカウントされません。ただし、民法上では養子の数に制限はありません。節税を目的とした養子縁組は税務署から指摘を受けることも考えられるため、養子縁組をする際はメリットとデメリットをよく考えて慎重に行う必要があります。

【6】生命保険の活用

第2章の相続税の仕組みのところでも少し触れましたが、生命保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象ですが、500万円×法定相続人数までは非課税など相続対策においては様々な効果があります。

この項では生命保険の相続対策における様々な効果について解説します。

生命保険の相続対策における効果には主に以下の9つがあります。

1.残したい人に確実に現金(保険金)を残せる

2.優れた換金性

3.代償分割での活用

4.生前贈与での活用

5.遺留分対策

6.納税資金としての活用

7.非課税枠を活用しての節税

8.遺産分割原則対象外

9.相続放棄での活用

では、一つずつ見ていきましょう。

(1)残したい人に確実に現金(保険金)を残せる

生命保険金は受取人固有の財産のため、契約者が指定した受取人に確実に保険金を届けることができます。この性質を活用して、例えば身体が弱く安定した収入を得ることが難しい子に多めに財産を残すときに活用できます。また、介護をしてくれた嫁など本来、相続人ではないものを受取人として指定することで、現金を残せます。ただし、保険会社によっては相続人以外を受取人に指定できないこともあるため、事前確認が必要です。

(2)優れた換金性

生命保険は保険会社指定の必要書類が全て揃うと、会社によって差はありますが平均4~5営業日後には受取人の指定した口座に保険金が振り込まれます。保険会社によっては、即日保険金の一部を支払う制度もあります。この優れた換金性を活用して、葬儀費用の支払いに充てることもできますし、口座が凍結されて、現金が引き出せなくなった場合にも当座の生活費に充てることも可能です。

(3)代償分割での活用

不動産などの分けにくい財産が多い場合に遺産分割における代償金の原資として、生命保険が活用できます。この場合、不動産を取得する相続人を受取人として、他の相続人には生命保険を原資として代償金を支払います。遺産分割協議書の書き方などに注意が必要なため士業のアドバイスを受けた方がいいでしょう。

(4)生前贈与での活用

子や孫に現金を贈与し、その現金で子や孫が資産性の高い生命保険に加入することで資産形成に役立てることができます。贈与された現金は基本、何に使ってもいいためがん保険や医療保険の保険料に充てることもできます。

(5)遺留分対策

生命保険が受取人固有の財産であるという特性を生かして、他の相続人の遺留分を減らすことができます。ただし、原則遺留分対象外となるため行き過ぎた対策は特別受益として持ち戻しの対象となることもあるため注意が必要です。

(6)納税資金としての活用

相続税を支払う原資として死亡保険金を活用することができます。生命保険金は支払った保険料よりも死亡保険金が多くなることがあるため、将来かかる相続税を計画的に用意することができます。特に不動産が多く、現金が少ない場合も死亡保険金を相続税支払いに充てることができます。ただし、契約する年齢や保険会社ごとに受け取れる保険金の額が変わるため、事前にしっかりとシミュレーションし税理士にも相談しておくことをお勧めします。

(7)非課税枠を活用しての節税

500万円×法定相続人数までは非課税のためその特性を生かして相続税の節税に使えます。ただし、養子の相続人がいる場合の非課税枠は実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までとなります。

(8)遺産分割原則対象外

生命保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割の原則対象外となります。そのため、生命保険金が含まれる財産の場合、遺産分割の対象とはならず、遺産分割協議書への記載も不要です。ただし、以下の例外的な状況では遺産分割の対象となります。

・生命保険金の受取人が指定されていなかった場合

保険金は法定相続分の割合で分割されます。また、保険金受取人が保険事故の発生前に死亡している場合、受取人の相続人全員が保険金受取人となり、遺産分割協議が必要です。なお、(保険法第46条)。

(9)相続放棄での活用

死亡保険金は死亡した方の相続財産ではなく、受取人の固有の財産であるため、相続放棄をしても生命保険金は受け取ることができます。ただし、相続放棄をして生命保険金を受け取った場合は、生命保険の非課税枠が適用されません。

また、相続放棄をした本人は非課税の適用を受けることはできませんが、非課税金額を計算する際の法定相続人の数には相続放棄をした人も含まれます。

相続税がかかる場合は、相続放棄をしても相続税を支払う必要があります。

このように、相続対策において生命保険には様々な効果があります。生命保険が相続対策に役立つことを十分に理解しましょう。

【7】認知症に備える対策

認知症患者が年々増え続けていることは、第一章相続の基礎知識(1)相続を取り巻く環境で説明した通りです。

では、認知症になると具体的に何が困るのか、そして何に備える必要があるのかを見ていきましょう。

認知症と一言に言っても様々な状態があります。

認知症とは、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下して、日常生活全般に支障が出てくることを指します。

認知症には4つの種類があります。

①アルツハイマー型の認知症

認知症の中では一番多く見られ、脳の神経細胞が徐々に減っていきます。記憶に関係する海馬を中心に脳の萎縮が見られ、もの忘れから始まりゆっくりと進行していきます。

②レビー小体型認知症

レビー小体という物質が脳に溜まることで、脳神経細胞に障害が起き、認知機能や運動機能を低下させ、調子の良い時と悪い時を繰り返しながら進行していきます。

③血管性認知症

脳梗塞、脳出血など、脳血管障害が原因で起こり、脳の障害の部分によって症状が異なります。もの忘れや言語障害などが現れやすく、一方で一部の認知機能は保たれているため、症状がまだらに現れることが特徴です。

④前頭側頭型認知症

前頭葉と側頭葉が萎縮し、前頭側頭型認知症の症状ではもの忘れはほとんど見られず、同じ行動の繰り返しや、性格の変化、感情の抑制が効かなくなるなど、他の認知症にはない症状が現れます。

このように認知症といっても様々な症状があり、認知の状態も様々です。

認知症=判断能力がないというわけではありませんので、相続対策においては認知の状態がどの程度なのかは重要となってきます。

ただ、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されているため、相続対策をする上で認知症対策は重要です。

認知症対策が重要な理由は、認知症になり判断能力が低下すると、財産管理ができなくなることや自分で意思決定ができなくなるため、相続発生後にも遺産分割協議ができないなど様々な支障が出てくるからです。

認知症に備える対策には主に以下のものがあります。

(1)委任契約(財産管理委任契約)・任意後見契約

(2)民事(家族)信託

(3)遺言作成

(4)法定後見制度

一つずつ確認していきましょう。

(1)委任契約(財産管理委任契約)・任意後見契約

■委任契約(財産管理委任契約)とは、

財産管理委任契約は、自身の財産管理や療養看護にかかる生活上の法律行為について他の人(家族や第三者)に委任できる契約のことです。

委任者が受任者に自分の財産の一部もしくは全てについて、管理内容を決めます。例えば、判断能力はしっかりとしていても足腰が弱っていたり、入院・療養中により外出がままならないといった状態の時に契約当事者間の合意により自由に設定することができます。

契約内容に従って、預貯金の引き出しや各種支払い・介護サービスの契約などを受任者に

依頼できます。

【よくある委任内容】

・銀行からの預金引き出し

・諸々の費用の支払いなどの手続き

・要介護認定の申請、介護サービスの契約・契約変更・解除、費用の支払いなど

・介護施設への入所手続き

・役所での住民票や戸籍の取得、税金申告

・賃貸不動産の家賃収入の管理など

【メリット】

・本人の判断能力が衰えていない場合でも利用できる

・信頼できる人に財産管理委任契約を任せることで、身内や他の人が財産を使い込むことを防げる

・委任状を書く手間を省ける

財産管理委任契約を結んでいない場合に、第三者に銀行での手続き等を依頼する際は、その都度、委任状を書く必要があるが、その手間を省くことができる

・財産管理の開始時期や内容などを自由に決めることができる

【デメリット】

・財産管理委任契約書を公正証書にしなければ、社会的信用が十分でない

・不動産の管理はできるが売買の際は、本人確認が必要

・法定後見人のような本人が詐欺や誤った契約をした場合の取消権はない。

■任意後見契約

任意後見契約とは、十分な判断能力がある間に判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておくことです。委任する内容は公正証書によって決めておきます。

先に解説した、委任契約(財産管理委任契約)とセットで作成することが多く、これを移行型と呼びます。任意後見の移行型とは、意思能力が喪失する前を「財産管理委任契約」で、意思能力が喪失した後を「任意後見契約」でカバーする方法のことです。

イメージとしては以下のとおりです。

【任意後見制度の種類】

・移行型

任意後見契約の中で最も使い勝手がいいのが移行型です。任意後見契約の締結と同時に、生活支援、療養看護、財産管理などに関する委任契約の締結をするものです。

・即効型

契約締結後、すぐ家庭裁判所に任意後見監督人の選任申し立てを行い、後見を開始するものです。判断能力が低下気味で、すぐにでも任意後見を始めたいという場合には、これを選びます。

・将来型

任意後見契約が締結されてから開始するまでの間、つなぎとなる別の委任契約がないタイプで任意後見契約のみを締結するというものです。

任意後見は、私文書での契約書では認められていないため、必ず公証人が関与するもとで作成する「任意後見契約公正証書」でなければ、効力が生じません。

では、作成の流れを確認しておきましょう。

①受任者を決める

家族の誰かにするのか、士業や相続コンサルといった専門家に依頼するのかを決める。受任者は複数人でも可能。

②後見事務の範囲を決める

財産の管理・生活に関する契約、支払い・医療、介護に関する契約、費用の支払いなど、何を依頼するのか具体的な内容を決める。契約にないことを後見人はできないため範囲については、しっかりと決めておく必要がある。

③任意後見契約書(案)の作成

契約の当事者が案を作成することもできますが、弁護士・司法書士・行政書士といった専門職に契約書の作成を依頼した方がスムーズに契約書が作成できるでしょう。

④公証役場に任意後見契約書(案)と必要書類を提出

当事者の最寄りの公証役場に連絡後、公証人と打ち合わせをし、内容を擦り合わせて最終的な任意後見契約書ができる。また、公証役場で指示された必要書類を提出する。

主に必要とされる書類は次のとおりです。

〇本人の印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票

〇任意後見受任者の印鑑登録証明書、住民票

⑤公証役場で任意後見契約書を作成

本人と任意後見人となる人が公証役場に出向き、公証人の面前で契約を締結する。公証人が内容を読み上げ、その内容に問題がなければ本人と任意後見人となる人が印鑑を押し完成。

次に、本人の意思能力が低下し任意後見契約を開始させるための手続きについて説明します。

・任意後見監督人選任の申し立て

任意後見監督人の選任により、任意後見契約の効力が生じるため、本人所在地の家庭裁判所に選任の申し立てをする。申し立てができるのは、本人・配偶者・4親等以内の親族・後見人の予定者となります。

任意後見監督人が選任されると、任意後見受任者は「任意後見人」となり、任意後見契約に基づいて業務を開始する。

【任意後見監督人とは】

任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約に従って適切に業務を行っているかを監督する役割を担います。任意後見人から財産目録などの提出を求めることで監督を行います。任意後見監督人には、本人の親族ではなく、弁護士などの専門職の第三者が選ばれることが一般的です。

【メリット】

・任意後見人を自分で選べる

判断能力がある間に、本人が希望する人を後見人として選ぶことができます。

・本人の希望に沿った契約内容を設定できる

任意後見人の権限は、任意後見契約で定められた事項に限定されるため、本人が希望する内容を契約に盛り込むことが可能です。つまり、判断能力が低下した後も、本人の意思を反映した財産管理などが可能となります。

【デメリット】

・取消権が認められていない

法定後見人には取消権が認められていますが、任意後見人にはその権利が存在しないため、任意後見人が本人の行為を取り消して契約を無効にすることはできません。

・死後の財産管理や事務はできない

任意後見人の権限は、本人の死亡によって終了するため、法定後見人は本人が亡くなった後も一定の範囲で財産管理や死後事務を行うことができますが、任意後見人は亡くなった後の事務や財産管理ができません。

■民事(家族)信託

民事信託と家族信託®は、時折区別して語られることがありますが、厳密には同じ制度です。家族信託は一般社団法人家族信託普及協会が商標登録しているため、ここでは民事信託として説明をしていきます。

民事信託とは、特定の者が一定の目的に従って財産の管理または処分など必要な行為を行うことです。「財産管理」と「財産承継」のための制度と言えます。信託銀行が取り扱う信託商品や商事信託と違い、財産の管理や移転・処分を目的に家族間で行うものとされています。民事信託と任意後見は、どちらも契約を締結することで誰かに財産管理を任せるという点で同じですが、民事信託は、認知症になったかどうかに関係なく、開始することができ、任意後見では制限されている財産の運用や売却も行えます。

【民事信託の用語説明】

民事信託には3人の登場人物が必要です。場合によっては4人となることもあります。まずは民事信託に出てくる用語を説明します。

委託者:財産を持っていて、信託財産となる財産を提供する人

受託者:信託財産を受け取り、信託契約に基づいて信託財産を管理・運用する人

受益者:信託財産の利益を受け取る権利を有する人

※信託監督人:受託者を監督する人

【活用事例】

先祖代々の不動産を子のいない長男に相続させたい場合、遺言では遺言者の財産を長男に相続させることはできるが、その後、長男が亡くなった際に、長男の嫁に不動産が行くことを禁じることはできない。

その際に、民事信託を組成し、長男亡き後は、長男の嫁に不動産を承継させず、その後長男の嫁が亡くなれば、次男の子(孫)にその不動産が戻るように指図することができる。

もちろん、嫁に行く前に次男や孫に戻るよう指図することもできる。

次に民事信託作成の流れを確認していきましょう。

①信託の内容を決める

信託する目的や誰を受託者・受益者にするか、またどの財産を信託するかを決める。財産は一部でも全部(ただし、農地など信託できない財産もある)でも指定できるため、例えば収益物件である不動産だけを信託財産とすることも可能。また、信託期間を定めることも可能。信託が終了した際には清算を行い、残余財産の帰属先を決めておく。

②信託の内容が決まったら、それをもとに信託契約書を作成。

この信託契約は法律上、決められた書式はないが公正証書にしておくほうが安全。

③公正証書にする場合は公証役場にて委託者・受託者が内容を確認後、署名押印

④信託財産の登記申請

金融機関にて信託専用口座を開設・自宅の火災保険の名義変更手続き、及び不動産の「信託登記」などを行う。

【メリット】

・生前の財産管理が自由にできる

信託財産は「家族のために活かす」「投資などの資産運用を行う」など、選択も自由に設定が可能。また、認知症になった際にも財産の管理・運用・売却など、受託者を通じて行える。

・遺言ではできない財産の帰属先を決められる

遺言では自分の財産を誰に渡すかを決めることはできるが、財産を貰った相続人が、その財産を次に誰に渡すかまで決めることができない。しかし、民事信託では3代先まで決定することができる。

・企業の経営者が、企業の株式を信託して事業承継に利用できる

会社などの事業継承において自分の持ち株を誰に渡し、経営権は誰に託すのかなど、信託を設定することにより、条件付きの財産承継などを行うことが可能。

【デメリット】

・身上監護権がない

信託の受託者は治療、療養、入院手続きや施設の入居手続き等に関する法律行為ができない。

・不動産登記など費用がかかる・心理的抵抗が起こる

民事信託の内容を決定し公正証書にするために士業への報酬や公正証書作成費用及び不動産がある場合の登記関係費用がかかる。また、不動産の名義が受託者名に変わることへの心理的な抵抗が起こることもある。

・損益通算はできない

信託している不動産と信託していない他の不動産所得との間での損益通算は認められなくなる。また、信託財産となっている不動産の損失を翌年以降に繰り越しすることもできない。

■遺言作成

「自分の財産を法定相続分通りに分けたくない」「誰に何を相続させたいか決まっている」「争う相続を回避するため遺言で意思を示しておきたい」と考えていたとしても認知症などで判断能力がなくなると遺言作成ができなくなるのです。

遺言については次章で詳しく解説しますが、まずは大前提を理解しておきましょう。

遺言が作成できる人の条件を見ていきましょう。

【遺言能力】

・15歳以上であること(民法961条)

・法律行為である遺言は判断能力が必要

・医師の立ち合いがあれば被後見人でも遺言は可能(民法973条)

ただし、あくまで判断能力があることが前提。

このように15歳以上の判断能力のある者が遺言を作成できるということになっているため、認知症対策として早めの遺言作成が好ましいでしょう。

■法定後見制度

法定後見制度とは、家庭裁判所によって選任された後見人など(成年後見人、保佐人、および補助人)が、認知症などによって判断能力が低下した本人に代わり、財産管理や法律行為を行う制度のことです。本人の意思を尊重しながら、本人の利益を最大限に考慮して行われます。また、法定後見制度は、任意後見制度とは異なり、家庭裁判所によって選任された後見人が財産管理や法律行為を行うことができる点が大きく異なります。

【法定後見と任意後見の違い】

法定後見と任意後見の違いはいくつかありますが、後見人を事前に自分で決めておけるか、判断能力がなくなってから家庭裁判所が決めるかが一番大きな違いでしょう。そのほかに関しては表を参考にしてください。

【法定後見の種類】

法定後見制度により、判断能力が低下した人のサポートを行う人として選任されるのが成年後見人、保佐人、補助人です。

・後見人

認知症などで常に判断能力が失われた状態にある人に対して、自身で法律行為ができない場合、家庭裁判所により選任されるのが成年後見人(民法7条)。

・補佐人

本人の判断能力としては後見相当ではないが、判断能力が著しく不十分な状態の人に対して補佐をする人(民法11条)。

・補助人

判断能力が不十分であり、重要な契約を一人でするには不安がある場合は、補助人が選任される(民法15条)。

法定後見を受けるには、家庭裁判所に後見人等の選任の申立てをします。

その申立てにより家庭裁判所の審判が確定し、家庭裁判所が後見人等を選任したら、法定後見が開始します。そして特別なことがない限り、本人が死亡するまで続きます。

【申し立ての流れ】

申し立て人となれるのは、本人・配偶者・四親等以内の親族・市区町村長です。

申し立て人は以下の手順に従って手続きをします。

・医師の診断書を取得する

本人の判断能力がどの程度で、どのような支援が必要なのかを確認するために必要。

・必要書類を集める

主に「申立書類一式」と「住民票などの書類」となるが、家庭裁判所ごとに必要書類が異なることがあるため事前にHPなどで要確認。

・申立書類を作成する

家庭裁判所のホームページからダウンロードして作成。

・面接日を予約する

申立て後に申立人や成年後見人の候補者の面接を行うため予約をする。

・面接

申立書のコピー、申立書に押した印鑑、本人確認のための身分証、その他裁判所に指示された物を持参し、「申立事情説明書」に基づいて、申立てに至る事情、本人の生活状況、判断能力及び財産状況、本人の親族らの意向等について面接を受ける。

また、直接本人に申立の内容等について意見を聞く場が設けられることもある。

・審判

成年後見等の開始の審判をするとともに最も適任と思われる人を成年後見人等に選任(親族が選任されることもある)。その際、複数の成年後見人等が選任されることや、監督人が選任されることもある。

・後見登記

後見等開始の審判の確定後、家庭裁判所が法務局に審判内容を登記してもらうように依頼する。

・職務説明

親族が成年後見人に選任された場合、職務説明の案内がある。

・後見終了

本人が亡くなると、後見等が終了。成年後見人等は裁判所に本人が亡くなったことを連絡するとともに、法務局に「終了の登記」の申請を行い未清算の後見事務費用等を清算して本人の相続財産を確定させた上で、本人の相続人に管理していた財産を引き継ぐことになる。

【8】おひとり様の対策

■相続の基礎知識

相続を取り巻く環境の中でも説明したとおり、おひとり様が年々増え、また孤独死・孤立死の問題も深刻化してきています。平成30年の内閣府の調査によると、60歳以上の男女の約3分の1の人が孤独死を身近な問題として「まあ感じる」「とても感じる」と回答しています。

では、おひとり様というのはどういう人のことを指すのでしょうか。

【おひとり様の定義】

☑生涯未婚で親も兄弟もいない

☑離婚して一人暮らし

☑配偶者が亡くなり一人暮らし

☑家族がいるが遠方に住んでいるあるいは疎遠

家族がいてもすぐに助けを得られない場合はおひとり様と定義することがあります。

実際、単身世帯だけではなく将来、単身世帯になる人を含めると実に約60%の世帯がおひとり様及びお一人さま予備軍という結果が65歳以上の者のいる世帯構造の年次推移からも読み取れます。

では、おひとり様は何が問題なのでしょうか?

【おひとり様の問題点】

<生前>

・入院・手術の際の同意書を誰に書いてもらうか

入院や手術をする際は身元保証や手術の同意書を求められることが多いが、それを誰に依頼するのかが問題となる。

また、入院に際しての準備や入院中に細かいことをお願いする人がいないため不便なことも出てくる。

相続人や親しい親族がいない場合はもちろんのこと、子が海外にいるなどすぐに駆け付けられない場合も同様に困ることになる。

・介護の問題

高齢者施設などに入居する場合も、病院と同じく身元保証人が必要となる。老人ホームなどの施設に入所する場合、本人の理解力が低下しているものが多く、金銭管理が難しくなっていることもあり、それをどうするかが問題となる。

・財産管理の問題

身近に親族がいない場合を含め、判断能力の有無にかかわらず、財産の管理がきちんと行えなくなった場合、誰にそれを依頼するかを決めておかなければ銀行から現金を引き出したり、支払いなどをすることが困難となる。

・孤独死・孤立死の問題

自宅で急に倒れた際に救急車が呼べず手遅れとなり、発見が遅れて死亡に至る可能性が大きい。また長期にわたり発見されず、遺体の損傷が激しくなると自宅が売却できない、あるいは賃貸物件の場合、貸主に対しての損害賠償問題が生じる。

<死後>

・法定相続人がいないおひとり様の財産は国家に帰属する

遺言などで自分の財産の行き先を決めておかなければ、法定相続人がいないおひとり様の財産は国庫に帰属となる。

2021年の1年間に相続人不在で政府の国庫に帰属された遺産は647億円に上る。

・法定相続人のいないおひとり様の死後事務問題

まず、死亡届を誰が提出するかが第一関門となる。

死亡届を出すことができるのは

・故人の配偶者

・故人の6親等内の親戚

・3親等内の姻族関係者

・家主(家屋管理人)・地主(土地管理人)など

・生前に財産管理を任されていた、後見人・保佐人・補助人など

・任意後見受任者及び任意後見人

だが、このいずれもいなければ病院の院長などが該当するが、自宅で持病もなく孤独死をした場合は警察による検視が行われ警察署長が死亡地の市町村長に当該死体について死亡の報告をすることをもって死亡届の代わりとされる。それ以外にも、遺品整理・自宅の処分・ペットがいる場合のペットのことなど死後事務をどうするのかを決めておかなければ自分自身が考える最後とならない可能性は高い。

【解決策と仕組み】

では、おひとり様はどのように備えるべきでしょうか?さまざまな仕組みをうまく活用することで問題点を解決することができますので、それらを確認していきましょう。

■見守り契約

見守りには主に2つの目的があります。

①任意後見を開始するまでの間、定期的に連絡を取り、身体の衰えや判断能力などを確認すること

②単身世帯の場合、自宅で倒れても発見が遅れることが多いため、そのリスクを回避するために定期的な連絡を取ることで孤独死・孤立死を予防すること

実際には、メール・電話などで安否確認をしたり、定期訪問をしたりと、その人の状態に合わせてプランニングします。見守りの頻度を毎日にするのか週一にするのかも状況に合わせて判断します。警備会社などさまざまな会社が提供しているものを利用することもできます。実務では見守り契約という契約書を交わします。

【メリット】

・孤独死・孤立死の予防

・健康状態の悪化・判断能力などの低下にいち早く気づいてもらえる

【デメリット】

・身の回りの世話は頼めない

・銀行や役所に代わりに行けない

・単体での契約では不完全であり、財産管理委任契約や任意後見契約との組み合わせで初めて効力を発揮できる

■財産管理委任契約・任意後見契約(移行型)

前項で説明した通りですが、身体が思うように動かず金融機関に出向いたり、支払いをしたりといった財産管理を判断能力のあるうちから委任し、万が一判断能力がなくなった際には本人が事前に決めておいた人(専門家含む)に後見をお願いできる仕組みを作っておくことが大切です。ただし、任意後見では成年後見とは異なり、身上監護ができないため、おひとり様にとってはこれだけでは不十分です。そのため、次に説明する身元保証サービスの仕組みも取り入れることが大切です。

■身元保証サービス

身元保証人を頼める人が身近な人や親族に全くいないときは、民間の身元保証サービスを利用する方法もあります。入院や介護施設入所時の身元保証、遺体の確認・引き取りといった死後事務なども契約しておけば任せられます。身元保証人だけではなく、死後の手続きまで任せられるのがメリットです。

ただし、民間の身元保証サービスは、事業者によって料金体系やサービス内容が異なります。中にはまとまった費用がかかるところもあるため、事前によく確認する必要があります。

■死後事務委任契約

死後事務とは、亡くなった後のさまざまな手続きのことです。遺言書ではカバーできない葬儀や納骨、行政への届け出など、生前にどの手続きをどこまで依頼するかを決め、第三者と契約しておくことで、亡くなった後に契約通りの手続きが実行されます。この契約のことを死後事務委任契約といいます。

・死後事務委任契約…財産継承以外の事柄に効力を持つ

・遺言書…相続財産の権利関係に法的効力をもたらす

【死後事務の業務内容】

死後事務を依頼できる人は士業でなくてもよく、家族がいないおひとり様の場合、知人や親類に依頼することも可能です。ただし、業務内容が多岐にわたり負担も大きいため、専門家に依頼する方がスムーズに手続きができるでしょう。

基本的な業務内容は以下のとおりです。

〇各種連絡

・事前に依頼されていた人に亡くなったことを連絡

・葬儀社へ遺体搬送の連絡

〇病院・介護施設の支払い、退院・退所手続き

・病院や施設から死亡届に必要な死亡診断書を取得

・医療費・入所費などの清算手続き

・病院・施設などの対応手続き(遺品の引き取りなど)

〇役所への死亡届の提出

・市区町村に死亡届を提出

・埋葬許可書の申請及び受理

・除籍手続き

〇葬儀・火葬の手続き

・生前の希望に沿って、葬儀及び火葬を行う

・喪主代行をオプションで務めることもある

〇行政関係の手続き

・健康保険、公的年金などの資格抹消手続きなど

〇住居引き渡しまでの管理

・賃貸の場合は不動産会社に連絡し賃料清算・明け渡し手続き

・売却の場合は不動産会社に売却の依頼

・遺品整理

〇公共料金等の解約手続き

・公共料金、固定電話、携帯電話、新聞、クレジットカードなどの解約及び利用料の清算などの諸手続き

〇住民税や固定資産税の納税手続き

・死亡年度分の住民税及び固定資産税の納税通知書を市区町村から受領及び納税

〇パソコン・携帯電話の情報抹消手続き

・プライベートな情報やデータを完全に抹消し破棄

その他にもオプションで、自家用車がある場合やペットを飼っていた場合などは車の売却・廃棄の手続きやペットを事前に決めておいた内容に沿って引き渡しまでの世話などをすることもあります。

何をどこまで依頼するかを生前にきちんと依頼者と決めておき、契約は公正証書で交わします。

■尊厳死宣言公正証書

「尊厳死」とは、回復の見込みのない患者に対し、生命維持のための治療を差し控えまたは中止し、人間としての尊厳を保たせて死を迎えさせることをいいます。

「尊厳死宣言公正証書」とは、自らの考えで尊厳死を望み、延命措置を差し控え、中止する等の宣言をし、公正証書にするものです。いざという時に判断をする家族がいないおひとり様は自分自身が望まない治療となることを回避するための選択肢として準備してもいいでしょう。ただし、尊厳死について明確に規定した法律は存在しないため、尊厳死宣言公正証書を用意していても必ず実現されるわけではないのが今の日本の現状です。

■遺言及び遺言執行

相続人がいないおひとり様の財産は国庫に帰属すると説明しましたが、生前に自分自身の財産を遺言で行き先を決めることができます。もし、世話になった知人や相続人には当たらない遠縁に遺贈したい、あるいは寄付をしたいという意思がある場合は公正証書遺言に遺言執行者を任命しておくことで、その意思を実現することができます。

次章で遺言について詳しく解説するため、ここでは遺言+遺言執行者でおひとり様の財産が国庫に帰属されずに済むということだけ理解しておきましょう。

このように、おひとり様の生前対策は様々な仕組みを取り入れて複合的に行うことが大切です。どれか一つ欠けてもおひとり様の終活・相続は本人の望む結果とならないため、なるべく早い段階でしっかりとした仕組み作りを行うことが大切です。

【9】エンディングノートの活用

エンディングノートは、自分の人生の終末に関する希望を記録したノートです。万一のために、介護・医療・葬儀など自分の希望や通帳や印鑑の保管場所、スマートフォンの暗証番号など、自分が亡くなった後に家族が困らないようにしておくためのノートです。ただし、エンディングノート自体には遺言のような法的効力はありません。

エンディングノートは主に以下の構成になっています。

■自分自身のことについて

・生年月日

・本籍地

・血液型

・家族について

・家系図

・学歴、職歴、資格

・マイナンバー

・運転免許証番号、健康保険証番号

・自分史

・趣味・特技

・好きな食べ物、嫌いな食べ物

■財産関係について

取引している金融機関一覧や不動産などの財産について、家族がどこに何があるかわかるようにしておく。また、各種暗証番号や通帳・印鑑の保管場所を書いておく。

・預貯金

・金庫などに保管している現金

・不動産(共有などがあればより詳細情報を書いておく)

・有価証券

・貴金属

・負債(負債がある場合は必ず明記)

■終活についての希望

介護をどうして欲しい、葬儀はどうしたい、墓の希望などを書いておくことで家族がいざという時困らないようにしておく(おひとり様は特にしっかりと書いておくことで第三者に希望が伝わりやすくなる)。ペットがいる場合はペットについても希望を書く。

■思いを残す

家族への感謝の気持ちや自分が今までどのような思いで生きてきたかを書くことができる。

エンディングノートは、自分自身の希望や家族が困らないために有効なツールですが、経産省がまとめた普及啓発の報告書によると、エンディングノートの必要性を認知している人は全体の6割に昇りますが、実際に書いている人はこのうちの2%に過ぎないという結果でした。その主な理由は以下のとおりです。

・今すぐに必要なわけではないから。

・今書いても将来内容を変更することになるかもしれないから。

・書くページ数が多すぎて面倒だ。

確かに市販のエンディングノートには100ページを超えるものもあります。また、自分自身が亡くなることを想定して書くのは気が重いものですが、生前対策としてエンディングノートが果たす役割は大きいことは理解しておきましょう。

第4章 遺言の知識

遺言とは、生前に死後の財産の行き先などを定めるために行われる意思表示です。遺言書は、生前に自分が亡くなった後の財産の行き先などを決めておくための文書です。遺言書を作成することで、相続争いを予防する効果が期待できるほか、自分の望んだ相手に財産を渡すことが可能となります。遺言書は、民法によって方式が定められており、民法の方式によって作成していないものは、「遺言書」ではありません。そのため、遺言書を作成する際には、民法で定められた方式に従わなければなりません。また、遺言書では法定相続分ではない割合で財産を残すことが可能です。

(民法902条 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。)

【1】遺言の種類及び注意事項

遺言書の作成方式は、民法によって3種類、定められています。基本的には、3つのいずれかの方式によって作成しなければ、遺言の有効性が認められません。また、それぞれの方式にはメリット・デメリットが存在するので、遺言作成の目的に応じて適切な方法を選択することが大切です。また、遺言は、大きく分けると普通方式と特別方式があります。普通方式には、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類があります。特別方式には、危急時遺言(「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」)および隔絶地遺言(「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」)があります。それぞれの内容を見ていきましょう。

■普通方式

(1)自筆証書遺言

その名の通り、自分自身で自筆して書く遺言のことです。普通方式の遺言の中でも最も手軽に残せる遺言です。その一方で自筆証書遺言には厳格な要件があります。「要件」とは、法律効果を生じさせるための条件のことです。要件が守られていない場合、無効となることもあります。

民法968条

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

上記を要約すると

①財産目録以外は全て自筆で筆記

②日付・氏名を自書しシャチハタ以外の印を押印

③財産目録に関しては代筆及びワープロ等でも可能

その場合は、目録が両面の場合は両面に署名し、押印

④加除・訂正の場合は、その場所を指示して、変更した旨を記し、署名・押印

【メリット】

・手軽に作成できる

遺言作成時に証人が不要なため、いつでもどこでも作成することができます。また、考えや財産の状況が大きく変化した際にも手軽に書き直すことができます。

・費用がかからない

公正証書遺言と違い、専門家や公証役場・証人への支払いが不要です。

・内容を他人に知られずに作成できる

承認が必要ないため、第三者に内容を知られることがありません。

【デメリット】

・紛失・改ざんの恐れがある

原則として自分自身で保管するため、紛失や第三者による改ざん、隠ぺいの恐れがあります(ただし、*自筆証書遺言の保管制度で防ぐことができます)。

・遺言無効の可能性

自筆証書遺言は専門家のアドバイスのもと作成されないことが多く、要件や方式の間違いなどにより、無効となる可能性があります。

【自筆証書遺言書保管制度】※

2020年7月10日より、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が施行され、法務局で自筆証書遺言を保管できるようになりました。

□注意事項

・用紙は、A4サイズの紙

・文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの

・消えるインク等は使用せず、ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用

・各ページにページ番号を記載

・縦置きまたは横置き、縦書きでも横書きでもかまわない

・片面のみに記載

・複数枚にわたる場合は綴じ合わせない

・複数枚にわたる場合、各ページにページ番号を記載(ページ番号は必ず余白内に書く)

・必ず、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をとる

□申請手続き

遺言書保管制度を利用する際には、事前に法務省のHPからダウンロードした申請書を作成し、必要書類を添えて、申請先の法務局に提出する必要があります。

(法務省HP: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00048.html)

□保管申請先法務局

保管申請先の法務局は以下のいずれかになります。

・遺言者の住所地を管轄する法務局

・遺言者の本籍地を管轄する法務局

・遺言者が所有する不動産を管轄する法務局

□必要書類

①遺言書

②申請書

③本籍の記載のある住民票(遺言者の戸籍謄本・附票)

④本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)

⑤3.900円分の収入印紙(法務局で購入)

□遺言書原本の保管期間

・遺言者の死亡の日から50年間

・遺言者の生死が不明の場合、遺言者の出生から170年間(政令により、遺言者の出生の日から120年経過時が死亡の日とされ、そこから50年間)

なお、保管に際しては方式について外形的な確認(全文、日付、氏名の自署、押印の有無など)が行われますが、遺言の内容が有効なものであるかどうかの確認は行われません。また、この制度を利用した自筆証書遺言は検認を省略できます。

(2)公正証書遺言

公正証書遺言は、原則として公証役場で作成します。2人以上の証人の立ち会いのもと、遺言者は遺言の内容を公証人に口述(話す)し、それをもとに公証人が遺言を作成します。

第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

1 証人二人以上の立会いがあること。

2 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

3 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させること。

4 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

5 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

上記を要約すると

①公正証書遺言の作成には2名以上の証人が必要

ただし、未成年者・推定相続人・受遺者・推定相続人・受遺者の配偶者、親や子どもなどの直系血族・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人は証人になれない

②原案は弁護士などの士業が作成したものを公証人が正式な書式に直して作成することがほとんどだが、公証役場に遺言者が直接出向いて作成することも可能

③内容を遺言者に読み聞かせて、間違いのないことが確認できたら、遺言者・証人・公証人がそれぞれ署名・押印をする

また、遺言者が高齢で筆圧が低下しているなどで署名できない場合は、公証人が代わりに署名します。

【公正証書遺言作成までの流れ】

□必要書類の準備

・発行から3ヶ月以内の印鑑登録証明書または運転免許証・パスポート

・遺言者の戸籍謄本

・遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本

・財産を相続人以外に遺贈する場合は、その人の住民票(法人の場合には資格証明書)

・財産に不動産がある場合は、その登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書

及び現預金・株式の場合は、金融機関名や残高が分かるもの

・証人を知人に依頼する場合は、その人の名前、住所、生年月日、職業のメモ

・遺言執行者を指名する場合は、その人の名前、住所、生年月日、職業のメモ

・公正証書遺言の作成時には、遺言者の実印(印鑑登録していない場合は、認印)及び、証人の認印

□遺言の内容を専門家などに依頼して原案を作成

遺言者自身が誰に何を相続させたいか、あるいは遺贈したいかを専門家のアドバイスを受けて原案を作成します。もしくは、公証人のアドバイスを受けて作成します。

□証人2名以上を用意

自分で用意できない場合には公証人に紹介してもらいます。

□公証役場に遺言作成日の予約をする

遺言者・証人・公証役場全ての予定が合う日程を調整します。

□遺言作成当日

公証役場あるいは公証人に出張してもらい遺言作成します。

□報酬支払

公証役場には所定の費用を支払います。

証人に報酬が必要な場合も報酬を支払う

□公正証書遺言の受取り

原本は公証役場にて保管され、

謄本と正本を受け取る

正本は遺言執行者を指名してい

る場合は遺言執行者に預ける

【メリット】

・有効性が高い

公証人をはじめとした専門家が手がけるため、無効になる可能性が低い

・検認が不要

自筆証書遺言や秘密証書遺言のように遺言執行時における家庭裁判所の検認が不要(民法1004条2項)

・紛失・改ざん・隠ぺいの恐れがない

公証役場で原本を保管するため、万が一、謄本・正本を紛失・隠ぺいされても再発行が可能。また、改ざんされることがない。

【デメリット】

・費用がかかる

士業などの専門家に原案を作成してもらった場合はその報酬や財産額に応じた公証役場での費用及び証人への報酬がかかる

・書き直しに手間がかかる

思いの変化や財産の大きな増減などの場合、遺言を訂正、あるいは書き直す場合にも専門家・公証役場等への報酬が再度かかり、再度書類を用意して公証役場にて作成するため手間がかかる

・遺言の内容を第三者に知られる

公証人・証人には遺言の内容を知られることになる

(3)秘密証書遺言

自筆証書遺言・公正証書遺言に次ぐと実務上あまり使われない遺言ですが、秘密証書遺言は遺言内容を自分自身が死ぬまで秘密にしておきたい場合に使われます。

民法970条

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

1 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。

2 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。

3 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨

並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。

4 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及

び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

【メリット】

・遺言の内容を秘密にすることができる

・遺言書の本文の自筆が不要のため、長文を書くことが難しい遺言者でも、署名が可能で

あれば作成できる

・偽造や改ざんの可能性を防げる

規定の手続きを経ずに開封すると無効になる(民法1004条3項)

【デメリット】

・遺言の内容に公証人が関与しないため、要件や方式の間違いなどにより、無効となる可能

性がある

・家庭裁判所での検認が必要

・紛失する可能性

保管自体は遺言者自身が行うため、紛失の可能性がある

□特別方式

特別方式の遺言には、「危急時遺言」と「隔絶地遺言」の2種類があります。どちらの遺

言も、あくまで特別な状況下にある場合に認められる特殊な遺言のため、遺言者が普通の方

式によって遺言ができるようになった時から6ヶ月間生存する時には、無効化となります。

①危急時遺言

危急時遺言は、病気・ケガ・遭難などの特別な事情によって命の危険が迫っている場合に利用できる遺言です。危急時遺言は、遺言者が置かれた状況によって、さらに「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」の2種類に分けられます。

・一般危急時遺言

病気やケガなどにより命の危機が迫っている状態で作成する遺言です。本人が遺言を作成することができない場合、証人のうち1人に口頭で伝えて遺言を書いてもらい、その他の証人が署名を行うことで遺言として成立します。そのため、遺言書を作成するにあたり証人が3人以上必要となります。証人となる人は利害関係者以外でなければならず、推定相続人が証人にならないよう注意が必要です。一般危急時遺言の場合、20日以内に遺言を書いた人の住所地の家庭裁判所で確認手続きを行います。期限内に手続きをしないと無効となってしまうので注意が必要です。

・難船危急時遺言

船や飛行機に乗っていて、遭難などに遭い、命の危険が迫っている状態で行う遺言の方式です。一般危急時遺言よりもより緊急性が高いことから証人の人数は2名となります。本人が遺言を書くことができない場合には証人に口頭で伝えて書いてもらうことも可能です。証人は遺言の趣旨を筆記して、署名・押印します。一般危急時遺言とは異なり、20日以内という期間制限はありませんが、遅滞なく家庭裁判所の確認手続きを受ける必要があります。

【家庭裁判所での確認手続き方法】

家庭裁判所で行われる確認手続きは、提出された遺言が遺言者の意思によるものだと確認するために行われます。危急時遺言の場合にはこの手続きが必要となります。また、手続きを行う際には以下の書類が必要です。遺言を執行する際には、再度、家庭裁判所で検認を行います。

・遺言確認裁判申立書

・申立人の戸籍謄本

・遺言者の戸籍謄本

・証人の戸籍謄本

・遺言書の写し

・遺言者が生存している場合は医師の診断書

【危急時遺言の効果】

危急時遺言を残した人が亡くなった場合には、家庭裁判所にて検認を行い、遺言を執行します。病気やケガが回復し、普通様式遺言作成が可能となった時点から6カ月以内生存していた場合は危急時遺言の効果はなくなります。

②隔絶地遺言

隔絶地遺言は、伝染病などで隔離されている状態の人や、航海や船で仕事をしている人などが作成する遺言です。危急時遺言とは異なり、生命の危機が迫っている状態とまではいかなくても、陸地から離れているなどにより普通方式の遺言を作成することができない状態にある場合に作成する遺言です。そのため、危急時遺言と異なり、命の危機が迫っている状態ではないことから本人が作成する必要があります。隔絶地遺言には「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」の2種類に分けられます。

・一般隔絶地遺言

一般隔絶地遺言は、伝染病などで遠隔地に隔離され、通常の遺言方式を利用するのが難しい場合に認められています。作成時には、警察官1名と証人1名の立会が必要です。作成した遺言には遺言者、立会人それぞれの署名捺印が必要です。

・船舶隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言は、船の中で遺言書を作成したい場合に利用できる遺言形式です。船長または乗務員1人と証人2人以上の立ち合いのもとで、遺言者本人が遺言書を作成した場合のみ遺言書としての効力が認められます。また、船長または乗務員と証人の署名・押印が必要となります。

【2】遺留分とは

遺言作成時に気を付けなければならないことの一つに「遺留分」というものがあります。これは、一定の相続人(配偶者・子ども・親等)に最低限の相続分が必ず相続できるように保障されている権利のことです。相続人となる人や各相続人の相続分については民法に定められていますが、これは遺言によって変更することができます。また、生前贈与や死因贈与によって相続財産が減少したり、無くなることもあります。たとえば、後妻と後妻との間の子に全ての財産を相続させるという遺言を遺したとしても前妻との間の子には最低限もらえる取り分があるということになります(民法1042条1項)。

【遺留分を請求できるもの】

・配偶者

・子

・子の代襲相続人

・直系尊属

ですが、兄弟姉妹には遺留分はありません。また、仮に相続発生時に、被相続人の子がまだ胎児の状態であった場合も、遺留分が認められます(民法886条1項)。ただし、死産の場合には遺留分はありません(同条2項)。相続欠格事由に該当、または廃除されると遺留分を失います。遺留分権利者であっても、相続欠格事由に該当する行為をした場合や、被相続人から廃除された場合は、相続人ではなくなるため遺留分も失います。

【遺留分割合】

遺留分割合は基本的に法定相続分の1/2です。直系尊属(親や祖父母)しか相続人がいない場合は、遺産総額の1/3が遺留分割合となります。遺留分権利者が複数人いる場合は、総体的遺留分に対して法定相続分を乗じて、個人の遺留分割合を算出します。これを個別的遺留分といいます。

【遺留分侵害額請求権】

遺留分が侵害されていることが分かった場合、被相続人から遺贈・死因贈与・生前贈与等で財産を譲り受けた人に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求、民法1046条)。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

「遺留分侵害額請求」は相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効により消滅します。また、遺留分を侵害する贈与や遺言の存在を知らない場合でも、相続開始を知った日から10年経つと、遺留分侵害額の請求権は時効により消滅します。

■遺留分侵害額請求権の手続き方法

遺留分侵害額請求を行う場合、まず相手方に対して内容証明郵便を送付します。内容証明郵便によって相手方に遺留分侵害額の支払いを催告すると、消滅時効が6か月間猶予されます(民法150条1項)。遺留分に関する話し合いがまとまらない場合は、裁判所に対して遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停では、調停員が、当事者双方の主張を個別にヒアリングし、当事者間での交渉を仲介します。それでも、まとまらなければ遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。

【遺留分放棄とは】

被相続人の生前に相続を放棄することはできませんが、遺留分は放棄することができます。しかし、遺留分放棄をするためには、家庭裁判所へ申し立てを行う必要があります。

■手続きの流れ

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ「遺留分権利者本人」が申し立てます。必要書類は以下の通りです。

・家事審判申立書

・不動産の目録

・現金・預貯金・株式などの財産目録

・被相続人予定者の戸籍謄本

・申立人の戸籍謄本

家庭裁判所に遺留分放棄の申し立てをした後は、以下の流れとなります。

・裁判所から審問期日の通知

・審問期日に家庭裁判所に出頭

・遺留分放棄の許可または不許可の通知

家庭裁判所の審問期日では、裁判官が申立人とで面談を行います。遺留分放棄の申し立てに至った事情や相続財産の状況などについて口頭での説明し、申立書の内容を踏まえて、遺留分放棄の申し立てが申立人の真意によるものであるかどうか、遺留分放棄の要件を満たすかどうかなどを判断します。

【3】遺言執行者とは

遺言執行者とは、「遺言を執行する者」です。民法では、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められています(民法第1012条1項)。また、遺言執行者が職務としてした行為は、相続人に対して直接効力が生じます(民法第1015条)。このように、遺言執行者は、特定の相続人や受遺者の味方をするのではなく、あくまで亡くなった方の遺言の内容を遺言書どおりに実行されるように必要な手続きを行う人のことです。

【遺言執行者になれるものの条件】

遺言執行者になるには特別な要件はなく、未成年者および破産者以外であれば誰でも遺言執行者となることができます(民法1009条)。また、法人も遺言執行者になれます。

【遺言執行者の選任方法】

遺言執行者の選任は、遺言者が遺言書であらかじめ指名する方法と「遺言書で第三者に指定を委ねる方法」「家庭裁判所に選任申立てを行う方法」があります。

【遺言執行者の権限】

遺言執行者の権限は、2019年7月1日施行の民法改正により、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理および遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と明確化されました(民法1012条1項)。

■相続登記

特定財産承継遺言があった場合、遺言執行者が相続登記の申請をすることができます。つまり、遺言執行者は単独で相続登記手続きをすることができます(民法第1014条2項)。また、不動産の相続登記以外にも車の登録や動産の引き渡しなども行えます。ただし、「特定財産承継遺言」である場合にのみ認められているので注意が必要です。「特定財産承継遺言」とは、特定の財産を相続人の一人、または数人に相続させることです。例えば、『Aの土地を長男に相続させる』とした場合、遺言執行者は遺言で指定されたA土地についてのみ、相続登記の申請ができます。

■預貯金債権の払い戻し・解約

特定財産承継遺言に記載されている財産が預貯金の場合、解約や払戻しが法律上できることが民法改正によって明確に規定されました(民法第1014条3項)。ただし、解約権限が遺言執行者に与えられるのは、預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られます。例えば、10,000万円の預金のうち5,000万円を長男に相続させるという遺言の場合には、預貯金債権の全部ではないため5,000万円の払戻し手続きはできますが、預貯金全体の10,000万円の解約をすることはできません。

■遺贈手続き

特定遺贈された場合、相続人が遺贈義務者となりますが、遺言執行者が指定されている場合には、遺言執行者のみが遺贈の手続きを行うことができます(民法第1012条2項)。

■復任権

復任権とは他の人に任せることができる権限のことです。改正前では遺言執行者は遺言によって選任されたり、裁判所によって選任されるもので、第三者に任務を任せることは望ましくないとされていましたが、民法改正により遺言者が遺言書によって復任を禁止していない限り、遺言執行者の責任で第三者に任務を任せることができるようになりました(民法第1016条)。

【必ず遺言執行者が必要なケース】

以下の遺言事項は、遺言執行者にしか執行できません。

①遺言によって子を認知する場合(民法781条、戸籍法64条)

②遺言によって相続人を廃除、または廃除の取り消しをする場合(民法893、894条)

③一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第152条の2項では、遺言により一般財団法人を設立する意思が示されるとされていますが、この場合、一般財団法人の設立には遺言執行者の指定が不可欠です。

①遺贈や遺言による寄付

②遺産分割方法の指定

③祭祀承継者の指定

④相続人間が疎遠・仲が悪い

⑤相続人に海外にいるものがいる

など、関係者間の調整が必要なケースでは法律上必ず遺言執行者が必要ではないものの、遺言執行者が選任されていた方がスムーズに運びます。

【業務の流れ】

①就任承諾

遺言執行者に指名されている場合でも遺言執行者を受任するかどうかは選べます。まずは、就任を承諾するところからが開始となります。

②就任通知書を作成・交付

遺言執行者に指名されており就任を承諾した場合は、就任通知書を作成し相続人全員に送付します。

③遺言の内容を相続人に通知

就任通知と同時に遺言の内容を遅延なく相続人全員に通知する必要があります。実務では就任通知と遺言のコピーを同時に送付します。

④相続人調査・相続財産調査

遺言があっても戸籍を収集し誰が相続人になるのかを調査し、被相続人の財産をすべて調査します。

⑤遺言者の財産目録を作成

財産目録は財産の一覧表のようなもので、被相続人の財産の内容を相続人に知らせる必要があるため、作成した財産目録は相続人に送付します。

⑥遺言内容を実行

遺言に記載されたとおりに遺産の分配、預金の払い戻し、不動産の相続登記などを行います。

⑦任務完了後に文書で報告をする

遺言に記載されていた内容をすべて実行し終えたら、任務完了報告を相続人全員に送付します。報酬がある場合は、報酬に関しての請求書を同封します。

遺言どおりの内容でトラブルなく相続を進めたいと考える場合は、遺言執行者を指名しておくことが良いでしょう。遺言執行者として適切な人がいないという場合には、弁護士などの専門家に依頼することも可能です。

【4】まとめ

遺言に関する知識を解説してきましたが、日本では遺言を作成する人が少ないというデータがあります。2022年3月30日に、日本公証人連合会のHPによると令和3年度の公正証書遺言の作成件数は100,602件、一方、令和2年7月10日から始まった自筆証書遺言の保管の件数は、2021年4月1日~2022年3月31日までで、16,954件です。

法務省の調査によると、55歳以上で自筆証書遺言を作成したことのある人は3.7%、公正証書遺言を作成したことのある人は3.1%となっています。

(参照:生命保険文化センター https://www.jili.or.jp/lifeplan/houseeconomy/816.html)

アメリカの普及率が50%、イギリスでは75歳以上の80%が遺言を作成しているということなので、日本の普及率は低いと言えるでしょうか?

(参照:法務省による各国の相続法制に関する調査業務報告書

https://www.moj.go.jp/content/001128517.pdf)

では、遺言を残しておいた方が良い人はどんな人なのか確認していきましょう。

□離婚をしていて前妻(前夫)との間に子がいる

前妻・前夫との間の子も相続人となるため現在の妻(夫)や子と面識がない場合など揉める可能性がある。

□結婚しているが子はいない

相続人が親や兄弟姉妹と配偶者となり、遺言がない場合は遺産分割協議をする必要がある。また、親や兄弟姉妹がいない場合は特別縁故者か国庫に財産が行くことを防ぐためにも遺言書は必要。

□相続人が海外や遠方に住んでいる

海外や遠方に相続人がいる場合は、遺産分割協議など手続きに時間がかかることが想定される。特に海外に相続人が住んでいるケースでは印鑑証明の代わりにサイン証明などが必要となり、手続きが難航することを避けるためには遺言書に遺言執行者を指名しておくとスムーズ。

□相続人に未成年者がいる

相続人が未成年者の場合、その未成年者の代理人が遺産分割協議に参加することになる。夫(妻)が亡くなり妻(夫)と未成年の子が相続人となるケースでは、妻(夫)が代理人になることは利益相反となるためできない。したがって、このような場合には、家庭裁判所に申立てを行い、未成年者の代理人(「特別代理人」という。)を選任してもらい、その者と遺産分割協議を行う。それを避けるために遺言書があれば遺産分割協議が必要なくなる。

□相続人に認知など判断能力のないものがいる

判断能力がない(または不十分な)相続人のために、家庭裁判所に成年後見の申立てをして、「成年後見人」を選任してもらう必要がある。判断能力がない(または不十分な)相続人の法定代理人として、成年後見人が遺産分割協議に参加し、手続きを進めていくこととなるが、遺言書を作成することで回避できる。

□相続人の仲が悪い

そもそも、相続人の仲が悪い場合は遺産分割協議そのものが難航する恐れがある。それを回避するためにも遺言書を作成しておけば相続手続きは簡単になる。

□不動産(未上場株)など分けにくい財産が多い

分けにくい相続財産も遺産分割協議で難航する恐れがある。遺言書で誰に相続させるかを明記しておけばそのことを回避できる。

□相続人に行方不明者がいる

遺言書がない場合、家庭裁判所に申立てをして、当該音信不通者・行方不明者のための「不在者財産管理人」を選任してもらってから、不在者財産管理人と一緒に遺産分割協議を進めていく必要がある。遺言書があれば、このような手続きを回避でき、相続手続きがスムーズになる。

□事実婚もしくは同性婚である

そもそも、事実婚・同性婚の場合は法定相続人とならないため、遺言書を作成し、遺贈しなければ相続財産を残すことができない。

□財産を相続人以外(孫や他人など)にも残したい

相続人ではない孫や嫁(婿)に財産を残すには遺言で遺贈する必要がある。

□財産を多く相続させたい相続人がいる

法定相続割合とは違う割合で相続させたい場合には、遺言書で割合を指定することで法定相続分より多くの財産を残すことが可能になる。

□財産を相続させたくない相続人がいる

遺言書を作成する際、遺留分を侵さなければ、法定相続分とは違う割合で財産を残すことができるため、財産を相続させたくない相続人の割合を少なくできる。

□財産を寄付したい(生涯独身などで相続人が不在など)

寄付や遺贈をしたい場合には遺言書を作成することで可能。

このように、財産の大小に関わらず遺言書を作成しておくべき人が一定数います。また、これらのケースでは遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容をよりスムーズに実現することができます。

また、遺言書は、遺言者の判断能力がしっかりある状態で作成しなければなりません。認知症などにより判断能力が失われた場合は、有効な遺言書を作成できなくなります。上記に該当する人は特に早めの遺言作成が良いでしょう。遺言書を作成しても、何度でも作成し直すことができます。目安として退職時や還暦などに差しかかったら一度、遺言書を作成しておき、その後事情が変われば作成し直せば良いでしょう。

第5章

【1】相続発生後のタイムスケジュール

相続発生後は、死亡届の提出など一般的な手続きから始まり、電気・ガス・水道といった公共料金や契約の名義変更、年金・一時金の請求、場合によっては故人の確定申告、相続税の申告と納税など、手続きは多岐にわたり煩雑です。手続きには期限が決まっているものも多いため、スケジュールに沿って計画的な対応が必要となります。では、大まかな流れを、順を追ってみていきましょう。

■相続発生後、速やかに行うこと

・被相続人の死亡(相続開始)

死亡届の提出は、死亡診断書等を取得し、故人の死亡地・故人の本籍地・提出する人の住所のいずれかの市区町村に提出後、火葬の許可を申請します。

・関係者への連絡、葬儀の準備

・通夜、葬儀(葬式費用の領収書等の整理・保管)

■相続発生後14日以内に必要な手続き

・健康保険、厚生年金保険資格喪失手続

・国民健康保険、後期高齢者医療制度、国民年金資格喪失手続

・介護保険の資格喪失届

・世帯主変更届

・退職手続き~故人が会社に勤めていた場合は死亡後できるだけ早く勤務先に連絡して退職の手続きをする

・金融機関への連絡~ただし、連絡すると口座は凍結されてしまうため、まだ引き落としが残っている場合は要注意

□期限はないができるだけ速やかに

・遺言の有無の確認

☑遺言ありの場合は、遺言の種類の確認

自筆証書遺言の場合、家庭裁判所にて検認手続きが必要

公正証書遺言の場合、自筆証書遺言の場合いずれも相続人の調査及び対象財産の確認調査を行い、相続人の確定と財産の確定をする。

・遺言なし

相続人の調査及び対象財産の確認調査を行い、相続人の確定と財産の確定をする。

□3ヶ月以内

・香典返し

・四十九日忌法要 この頃までに納骨。

・相続の放棄または限定承認

□4ヶ月以内

・被相続人の確定申告及び納付

確定申告書の提出義務のある方が亡くなった場合、相続人は「所得税の確定申告」を行う。なお、消費税の申告が必要な方は、相続の発生があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に申告を行う。

□10ヶ月以内

・遺言がない場合、遺産分割協議

遺産分割協議には期限はないが、特に相続税がかかる場合は、10ヶ月以内に完了していることが望ましい。

・被相続人の相続税の申告及び納付

相続税申告が必要な場合は、相続の発生を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告と納税を行う必要がある。配偶者の税額の軽減の適用を受ける場合や小規模宅地等の特例を受ける場合にも申告が必要となる。

・遺産分割協議や遺言の内容に従い、財産の移転手続きをする

□1年以内

・一周忌の法要

・遺留分侵害額請求

その他、生命保険契約がある場合は生命保険金の請求や自宅の遺品整理・売却など諸々の手続きが必要です。適宜、専門家の助けを借りるなどして期限があるものに関しては期限内に完了させましょう。

【2】死後事務

死後事務委任契約は生前に結んでおく契約ですが、死後事務サポートは亡くなった後の死後事務や相続の手続きを相続人から委任を受け、各専門家と協力しながら死後のあらゆる手続きをサポートすることです。

死後事務サポートには主に以下の業務があります。

□遺体の引き取り~葬儀の手配

場合によっては納骨まで代行することもある

□各種役所での手続き(前項の手続きを参照)

□戸籍の収集

□不動産の名義変更サポートや売却サポート

□各種金融機関での手続き

残高証明の取得・取引履歴の取得・財産移転手続き、口座解約など

□クレジットカードや各種会員証の解約手続き

□遺品整理

何をどこまでサポートするかは、依頼者である相続人と打ち合わせをしっかりと行い決定します。

死後事務委任契約や遺言執行者とは違い、相続人全員から委任状が必要な業務が多い上にコンプライアンスにも留意して行う必要があります。

【コンプライアンス】

死後事務サポートに関わらず、相続の手続きにはコンプライアンスに留意する必要があります。

手続きによっては士業の助けも必要となるため、それぞれの士業が、何ができ、何ができないのかをしっかりと把握しておきましょう。